現代舞踊家、田中いづみ 作家協会の公演で新作披露

 さまざまなジャンルのプロの舞踊家たちで結成された舞踊作家協会(東京)は8日、東京江東区の豊洲シビックセンターホールで246回目となる連続公演を行い、NYで20年間、現代舞踊家として活躍した田中いづみさんが芸術監督を務め、新作も披露した。

 田中さんは同じく芸術監督の日本舞踊の花柳面さんとテーマを「いのちの彩り」と定め、日舞、韓国舞踊、スペイン舞踊、現代舞踊の舞踊家たち12人が、テーマに合わせた12作品を公演した。取りを務めた田中さんは新作「fedelity 〜碧の記憶〜」を発表した。真っ白なワンピースの衣装で登場し、水音や生き物の声のなかを環境を愛でるように進んでいく。その後表情は一変し、葛藤や迷い、恐ろしいものを観てしまった時にやるせなさや哀れさが伝わってくる。昨年「今を生きる」をテーマに舞踊家50周年公演を行った田中さんは「母を一昨年前に亡くした環境で、この先、自分がどのように生きて行くか、不安の中にどう希望を見出すかが自分の『今』でもある」と話していた。田中さんの母、故石川須妹子氏は日本の現代舞踊界の巨匠として知られ、共にダンスアカデミーを運営していたが石川氏は2023年5月に享年97歳で亡くなった。「渦巻く記憶の中で、心に兆すあの日」を表現した今回の作品についても「母との記憶、母への想いを表現した。母が生存中にはここまで母の存在を意識した事はなかったが、母亡き後、やはり踊りの師でもある事から、未だにその想いが募る」と話している。

 田中さんは幼少期にダンスを始め、大学卒業後に文化庁派遣在外研究員として渡米、1987年からはニューヨークを拠点とし作品制作や公演、ニューヨーク大学舞踊教育学科で講師も務めた。2007年に帰国し、現在は石川須妹子・田中いづみダンスアカデミー(練馬区小竹町)で指導する傍ら現代舞踊協会の理事、アーティストとして日本の現代舞踊界の発展に努めている。

(浜崎都、写真・腰山大雅)

ダンサー中川恵美子 世界で見るべき25人に


 ニューヨーク在住のダンサー、中川恵美子が、このほど2026年度のダンスマガジン「”25 to Watch”(世界で見るべき25人)」の一人に選ばれた。同マガジンは米国のダンス専門雑誌で、約100年の歴史がある。毎年1月号に組まれる同特集に選ばれることで、多くの著名人の目に名前がとまる可能性が上がるなど、ダンサーにとって大きな意味を持つ。これまで日本人では、東京オリンピックの開会式でパフォーマンスをした日本を代表するタップダンサー、熊谷和徳さん がいる。25人を選ぶのは、同誌編集部。これまでの実績、評価だけではなく、これから更に上へ行くべき人かどうかという将来性、本人の個性やアーティスト性などから判断する。業界人のキャリアとしてのインパクトパワーも大きい。その選ばれた25人の受賞ステージがさる4月27日、ビクトリア・アポロステージで行われた。中川さんは「私自身も、今回の掲載をきっかけに、実際に出演のオファーも多くいただきました。この賞に恥じぬよう、これからも研鑽を続けていきたいと思います」と喜びを語っていた。東京都出身。

編集後記

編集後記

 みなさん、こんにちは。 セントラルパークウエストで9日開催された第5回ジャパンパレードは、雨天決行での開催でしたが、参加者たちは雨具姿や衣装そのままで踊り、演奏し、笑顔で手を振って沿道の市民を沸かせました。106団体、2700人が参加し、およそ5万人が沿道から歓声を送りました。日本のマンガアーティスト、アッキー・ブライト氏がデザインした公式マスコット「Happi」が初めて登場。パレード名誉会長の片平聡総領事・大使もHappiの衣装でオープンカーに乗り、文字通り体を張って日本の宣伝に全力でした。『舞台「呪術廻戦」-壊玉・玉折-』のキャストや長崎検番の芸妓衆らゲストも精一杯日本をアピール、日頃NYの日系社会を支えている各団体職員、日系企業も社員総出で行進し、NY日系社会が一丸となったオールジャパンのパレードとなりました。ところどころ強い雨にも見舞われたパレードでしたが、雨にも負けずにやり通せた達成感で心は晴れていたと思います。私も撮影で一仕事終えたあとフードテントに並んで、雨の中で食べたお好み焼きの美味しかった味が忘れられない思い出になりました。今週号は紙面では1面から20面にぐるりと回る迫力のレイアウト。うちでは滅多にしませんが、ジャパンパレードの時は特別に。3面ではジャパンビレッジの春祭りで、ジャパンパレードで見れなかった長崎検番の見事な踊りの写真を掲載しています。6面はフォトニュースでお届けしています。丸ごとお楽しみください。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)


【今週の紙面の主なニュース】(2026年5月16日号)

(1)ジャパンパレード 雨は降っても心は晴れ 

(2) アイヌ音楽の騎手OKI バンド公演 ジャパン・ソサエティーで6月4日

(3)やさしいにほんご

(4)日本の伝統芸能 ジャパンビレッジで春祭り

(5)日本の相続の現状を紹介  

(6)エッセイ入賞者を表彰 ストーニーブルック日本センター主催

(7)ふたりぼっち ニューヨークの魔法

(8)鼻下長紳士回顧録 今秋オフブロードウエー公開決定

(9)NY日系人主催 第30回美術展が開幕

(10)オーディションに夢託す 鵜飼優波さん

ジャパンパレード 雨は降っても心は晴れ

日本文化を踊りで華やかに披露するNY民舞座の皆さん  

 今年で5回目となる「ジャパンパレード」が9日、セントラルパークウエストで開催され、106団体、2700人が参加し、およそ5万人が沿道から歓声を送った。日本のマンガアーティスト、アッキー・ブライト氏がデザインした公式マスコット「Happi」が初めて登場。最後に『舞台「呪術廻戦」-壊玉・玉折-』のキャストがレッドカーペットでパフォーマンスしてニューヨーカーを魅了した。 

(写真上)レッドカーペットでパフォーマンスを披露した『舞台「呪術廻戦」-壊玉・玉折-』のキャスト

祭りだい!神輿だい!

NYに長崎検番

強い雨が降り出したが、最後まで正装で傘をさして沿道のニューヨーカーに手を振る長崎検番の芸妓3人と長崎検番の梅喜久会長(右端)

 FIFA侍ブルーのTシャツの上に法被を羽織ってサッカーボールのサングラス、新マスコット「Happi」の姿で登場したニューヨーク総領事の片平聡大使は「この祭りは日系人とか日本人だけのためではなくて、すべてのニューヨーカーにとっての祭りだと思っている。これからも発展していったらいいなと思う」 と話した。

 パレードでは、ニューヨーク・タイムズ紙の2026年に行くべき旅行先に選ばれた長崎市から「長崎検番」の芸妓衆が初めてニューヨークで披露されたほか、NY茨城県人会と神輿会のお神輿や京都倶楽部の着物姿の女性たちのパレードが行進した。 

 当日は数日前からの雨の予報通りあいにくの天候だったが、パレード中盤まではなんとか天候がもち、民舞座の踊りなども華やかに行進して市民を楽しませた。後半、時折強い雨足の中も、元気に阿波踊りを披露する姿にニューヨーカーたちも拍手を送った。また同時開催されたストリートフェアではお好み焼きやラーメン、カレーライスなどが売られ、雨の中で市民は美味しそうに楽しんだ。

NYで第5回 ジャパンパレード

日系米退役軍人を代表して行進する古本武さん

 セントラルパークウエストで9日開催された第5回ジャパンパレードは、予定通り雨天決行での開催だったが、参加者たちは雨具姿や衣装そのままで踊り、演奏し、笑顔で手を振って沿道の市民を沸かせた。『舞台「呪術廻戦」-壊玉・玉折-』のキャストや長崎検番の芸妓衆らゲストも精一杯日本をアピール、日頃NYの日系社会を支えている各団体職員、日系企業も社員総出で行進し、NY日系社会が一丸となったオールジャパンのパレードだった。

『舞台「呪術廻戦」-壊玉・玉折-』のキャスト
NY日系ライオンズクラブの皆さん

アイヌ音楽の騎手OKI バンド公演 ジャパン・ソサエティーで6月4日

 アイヌ音楽の旗手、 OKI(加納沖)率いる「OKI DUB AINU BAND」のコンサートが6月4日(木)午後7時30分から、ジャパン・ソサエティー (JS:東47丁目333番地)で開催される。OKIは自らのルーツをたどり、アイヌ独特の楽器トンコリの奏法を掘り起こし可能性を追求しつつ、レゲエ、ダブ、 R&B、ジャズ、ワールドミュージックなど世界のルーツ音楽を織り交ぜた新しい音楽表現に挑戦し続けている。 2022年に実施したJS 公演「OKI:アイヌの音楽」の完売コンサートに続き、今度は自身の音楽 グループ「 OKI DUB AINU BAND」を引き連れた凱旋公演となる。

 また、コンサート翌日の5日(金)午後6時30分からは、トークイベント 「Talk Story: Sharing Ainu Culture with OKI 」を開催し、OKIがアイヌの生活やその独特の楽器トンコリ など について語る。同イベントの一環として、 OKIが監督を務めたドキュメンタリー映画『普段着のアイヌ』の上映も行われる。

 入場料は、コンサートが一般43ドル、JS 会員32ドル。トークイベントが一般28ドル、会員20ドル。チケット・詳細はウェブサイトhttps://japansociety.org/performing-arts/を参照する。

ポケットの中の日本文化 目から鱗が落ちる 週刊やさしいにほんご生活

この連載は、日本語を勉強している人を読者対象としたコーナーです。日本文化やマナー、タイムリーな日本に関する話題などを簡単な日本語で毎月第3週号に掲載します。アメリカ人の友人などにご案内ください。また、漢字をまだ習っていないお子様にとっても社会を知り、漢字に接するよい機会になります。


ポケットの中の日本文化

 日本に来ると、ハンカチを持ち歩く人が多いことに気づくかもしれません。日本では、手をふいたり、汗をふいたりするために、毎日アイロンをかけた清潔なハンカチを持つ人が多くいます。学校でも身だしなみとして「ハンカチを持ちましょう」と教えられ、大切にされています。

もともとはヨーロッパから伝わった文化ですが、日本では「身だしなみを整える」という考え方とともに広まりました。無地やチェック、季節の花や和風のデザインも人気です。おみやげやプレゼントとして選ばれることもあります。小さなハンカチにも、日本の文化が見えてくるのです。

(長久保美奈、マナー講師)

わくわくことわざ(21)
文とイラスト 平田恵子

目から鱗が落ちる


 何かがきっかけとなって、それまで分からなかったことが理解できるようになるという意味。もとは新約聖書にある言葉で、これが日本語に訳されて定着しました。驚くというよりハッとして物事の真相がはっきりした時に使います。例えば、「食事前の『いただきます』の意味を知ったときは、目から鱗が落ちる思いだったな。植物や動物の命をいただいて自分の命をつないでいくことへのありがたさと、食事に関わった全ての人々への敬意の気持ちが背景にあったとはね!」などのシーンで使えます。



《言葉の意味(ことばのいみ)》

・ハンカチ:handkerchief ・持ち歩く:carry

・アイロンをかけた清潔(せいけつ)な:A clean, ironed 

・身だしなみ :personal grooming

・和風(わふう):Japanese style ・きっかけ:Trigger

・新約聖書(しんやくせいしょ):New Testament

・定着した(ていちゃく):established

・物事の真相(ものごと=の=しんそう):The truth of the matter

・「目から鱗が落ちる」の出典 (め=から=うろこ=がおちる):The scales fall from one’s eyes.

日本の伝統芸能 ジャパンビレッジで春祭り

長崎検番や阿波踊り披露

 ブルックリンにある日本文化発信の複合商業施設のジャパンビレッジで10 日、春祭りが開催された。このイベントでは、鹿児島県の奄美地方や沖縄の民謡、高知県のよさこい踊り、長崎県から「長崎検番」など各地の伝統芸能を披露した。 

(写真上・植山慎太郎)

(写真・西村純)

 阿波踊りニューヨーク連のメンバーら総勢40人がステージに登場し、迫力ある華やかな踊りを展開した。今回は日本から「阿波おどり振興協会」も参加し本場の阿波踊りを披露。ワークショップも行い、ニューヨーカーと一緒にステージ上や観客席で来場者と一緒に踊り大いに盛り上がった。 

 そして、後半にはこの日のメインイベントである「長崎検番」が登場。イベント途中で小雨が降り出しいったん進行が中断するというアクシデントが発生したが、その後、天候が回復し続行。待ち侘びた大勢の観客を前に満を辞して長崎検番が登壇した。長崎は今年1月に発表されたニューヨーク・タイムズ紙の「2026年に行くべき52か所」に選出され話題を呼んでおり、長崎県は現地ニューヨークで長崎観光の魅力を発信することを目的にこの日のイベントに特別出演した。芸妓衆6人が「長崎音頭」「長崎ぶらぶら節」などの演目で芸者踊りを生演奏で披露した。 

 出演した長崎検番の会長で芸妓の立方、梅喜久(うめぎく)さんは「雨で心配しましたが、無事ニューヨーカーに踊りを紹介できて安心しました。ニューヨークの皆さんは賑やかでノリがよくてとても良かったです。実際に長崎を訪れ本場のお座敷で芸妓の伝統文化をゆっくり体験してほしい」と語った。 

日本の相続の現状を紹介

山口里美さん

 ニューヨーク日系人会(JAA)が主催する第18回春のサクラヘルスフェアで、NY日系ライオンズクラブが企画する「ライオンズ大学大人の教養シリーズ」のインターネット配信の単独講座を行った。

 講師は、ファーストブランド(本社大阪市、河本扶美子社長)が運営するマイベストプロ登録メンバーの山口里美さん(グランサクシードグループ代表、一般社団法人日本リレーションサポート協会代表理事)。

 テーマは「ニューヨークからでもできる日本の相続と生前準備〜帰国前に知っておきたい基礎知識〜」。講演要旨は次のとおり。

 日本に帰るかまだ決めていない、でも年齢は70代、日本に不動産がある、日本に親、兄弟、子供がいる、なんとなく気になっているがまだ動いていないーもし、あなたがこんな状態であれば次の準備が役立つ。

 迷っている状態が一番リスクが高い。もしNYで自分が倒れたら誰が日本の財産を守るか? そして自身の「最期」は日米どちらで迎える予定か? 帰国を決めていない人ほど何もしていないことが多い。

 一例として、帰国未定で日本に実家がある米国永住者のAさん(74)の場合を紹介した。母親が入院したとの連絡を受けて3日後に帰国したが母親が長期入院して認知症で判断能力を失った。銀行は本人の意思確認ができないとして定期預金の解約を拒否、不動産会社も同様、売却も賃貸も大修繕もできないという反応だった。つまり財産を持っていても活用することができなかった。財産の問題だけではなく、家族が動けず、揉める原因となり後悔する「家族の問題」となった例を紹介した。

 ニューヨークからでもできる対策として(1)遺言書を書く。遺言書は遺書ではなく、誰に何をプレゼントするかを決められる権利と理解する。家族を迷わせず、海外在住でも可能な公正証書がおすすめ。(2)任意後見・財産管理契約をする。認知症対策であり、家族が動ける状態を作ることができる。(3)相続登記ができているかを確認する。2024年から義務化し、罰則がある。(4)日本の財産のリストアップをしておく。不動産、預貯金、有価証券など。特にネットバンキングなどはパソコンのパスワードなどを共有しておく。スマホすら開けられないこともある。

 ニューヨーク在住者が知っておくべきことは(1)手続きは日本にいなくても始められる(2)相続、不動産、身元保証、死後事務まで日本の窓口を一本化する(3)誰に頼むかを決める。帰国するかどうかは今決めなくてもいいが、日本の準備は帰国前にしかできないことを知っておくことだ。
オンライン動画https://www.youtube.com/watch?v=P0LDRwYRKTI

エッセイ入賞者を表彰 ストーニーブルック日本センター主催

体験重視、感動的な作品

キヤノンUSA後援

 第21回ストーニー・ブルック日本センター主催、キヤノンUSA後援のエッセイ・コンペティションの表彰式が3日、ストーニー・ブルック大学校内のチャールス・ワン・センターで行われた。表彰式開催にあたり尾島巌ストーニー・ブルック日本センター理事長が同センターの今までの歩みと活動紹介を、そしてデイヴィット・ローベル:ストーニー・ブルック大学学部長、ジャミ・シュルツ:キヤノンUSA副社長、相真紀子ニューヨーク日本総領事館ジャパン・インフォーメーション・センター所長が受賞者への祝辞を贈った。続いて賞状、賞金、副賞のキヤノンのカメラ等が各受賞者に授与され、入賞者は各自の作品を朗読した。近年AIの普及に伴い審査の方向も個人の体験重視の傾向

になり、より感動的な作品が入賞する結果となった。レセプションでは入賞者を囲んで家族、友人等の参加者達が軽食を取りながら歓談し、ラッフルを楽しんだ。

 賞金は高校の部第1位最優秀賞賞金3000ドル並びに日本国総領事特別賞、第2位賞金2000ドル、第3位賞金1000ドル、内田メモリアル賞賞金1000ドル、特別賞3人には各賞金500ドルと入賞者全員に副賞のキヤノン製品が手渡された。

高校の部第1位チェルシー・アラタさん
大学の部最優秀賞テレサ・リーさん

 高校の部は、第1位日本総領事賞(賞金3000ドルとキヤノン・カメラ)チェルシー・アラタ(ローカスト・バレー高校)、2位(賞金2000ドルとキヤノン・カメラ及び多機能フォトプリンター)ヴィーナス・ホアン(スタテン・アイランド高校)、3位(賞金1000ドルとキヤノン・カメラ)メイ・ハチヤ(ハンター・カレッジ高校)。

 大学の部は、最優秀賞テレサ・リー(ストーニー・ブルック大学)、内田賞(賞金1000ドルとキヤノン・カメラ)アナベラ・ガルシア(ストーニー・ブルック大学)。特別賞(賞金500ドルとコンパクト・フォト・プリンター)は、バリー・ジアン(スタテン・アイランド高校)、クロエ・ワン(スタイヴァサント高校)、クロエ・ウォン(スタテン・アイランド大学高校国際学科)。入賞作品は https://www.stonybrook.edu/commcms/japan/programs/essay-comp.php に掲載されている。

(写真上)上段左から(敬称略)尾島巌(ストーニーブルック日本センター理事長)、佐藤恵里子(同執行理事)、デイヴィット・ローベル(ストーニー・ブルック大学学部長)、ジャミ・シュルツ(キヤノンUSA副社長)、相真紀子(ニューヨーク日本総領事館ジャパン・インフォーメンション・センター長)、新木敬子(キヤノンUSAシニアスペシャリスト)ー下段左から(敬称略)チェルシー・アラタ(高校の部第1位、日本総領事賞)、ヴィーナス・ホアン(高校の部第2位)、メイ・ハチヤ(高校の部第3位)、テレサ・リー(大学の部最優秀賞)、アナベラ・ガルシア(内田賞)、バリー・ジアン(特別賞)、クロエ・ワン(特別賞)、クロエ・ウォン(特別賞)。

ふたりぼっち ニューヨークの魔法

 What brought you to New York?

 どうしてニューヨークに来たのですか。

 どこの出身ですか、と同じくらい、ニューヨークではよく聞かれる質問だ。

 あのときも、それが話のきっかけだった。

 九十六丁目の角を曲がったところで、地下鉄の轟音が聞こえたので、駆け足で階段を下り、改札を通り抜けたが、すでにホームに電車の姿はなかった。

 仕方なく向かったホームのベンチには、女の人がひとり、背中を丸め、空を見つめてすわっていた。中南米のスペイン語圏からの移民、ヒスパニック系のようだった。

 今、来た電車はCトレインでしたか、と尋ねると、いいえ。Bよ。私もCを待っているのよ、とその人が答えた。

 週末は地下鉄のルートがよく変わるから、何が何だかわからなくて、と私がぼやく。

 この辺に住んでいるの?  とその人が私に聞いた。

 いいえ。あなたは?

 もっと北のブロンクスよ。

 話していると、Cトレインがホームに入ってきた。私たちは隣にすわった。

 その人はプエルトリコ出身だった。

 What brought you to New York?

 どうしてニューヨークにやってきたの?

 軽い気持ちで、私が尋ねた。

 It’s a long story.

 話せば長いのよ。

 そう言って笑うと、女の人は自分の物語を話し始めた。

 私が生まれる前に、父は母を置いて、家を出ていったの。そして私が八歳のとき、今度は母が私を置いて、家を出ていってしまった。私は母方の祖母に育てられたの。母はひとりでニューヨークに行ったと、あとで知った。十八歳になったとき、母を追い求めて、私もひとりでこの街にやってきたの。

 で、お母さんには会えたの?

 その人は首を横に振った。

 会えるわけがないわよ。この大都会のどこに母がいるか、何の手がかりもなかったんだから。でも、母に会いたい一心で、飛び出してきちゃった。あれからもう二十年もたってしまった。

 そう言うと、みるみるうちに、その人の目から涙があふれ出した。

 ごめんなさい。聞かなければ、よかったわね。

 いいえ。聞いてくれて、うれしかった。

 降りるとき、私が声をかけた。

 You never know. You might run into your mother tomorrow. This is New York. Anything can happen.

 わからないわよ。明日、お母さんにばったり会うかもしれない。ここはニューヨーク。何だって起こり得るんだから。

 その人が笑った。

 Thank you for listening.

 話を聞いてくれてありがとう。

 地下鉄でそばにすわっていた人たちは、その人と私がたった今、出会ったとは、想像もしないだろう。

 でも、それがニューヨークという街でもある。

 そっとしておいてほしければ、群衆のなかでひとりぼっちでいることもできる。でも、誰かと話したければ、ひとりぼっちではなく、ふたりぼっちになれる。それも、地球の反対側からやってきた、見ず知らずの人とでも。

 いつか私がふたりぼっちになりたいときも、きっと耳を傾けてくれる人がいるだろう。

 ニューヨークはなぜか、そんなふうに思える街なのだ。

 このエッセイは、「ニューヨークの魔法」シリーズ第6弾『ニューヨークの魔法をさがして』に収録されています。

https://www.amazon.co.jp/dp/4167717220

鼻下長紳士回顧録 今秋オフブロードウエー公開決定

安野モヨコの漫画を英語ミュージカル化

  安野モヨコのマンガが原作となった英語ミュージカル『鼻下長紳士回顧録』の長期オフブロードウエー公演が今秋開幕することが決まった。同作品のミュージカル化プロジェクトは、2023年春に台本読み合わせを実施し、25年初頭のワークショップを経ての劇場公開となる。

 場所は、「スリープ・ノー・モア」が14年間ロングラン上演を行ってきたニューヨーク・チェルシー地区の劇場が改装され、「鼻下長紳士回顧録」の専用劇場として生まれ変わる。

 演出・振付はトニー賞受賞演出家・振付家のロブ・アシュフォード、作詞・作曲は「春のめざめ」でトニー賞を受賞したダンカン・シーク、脚本は新進気鋭の劇作家リア・ナナコ・ウィンクラーが担当。

 同作品は、20世紀初頭のパリの、変態紳士たちが集う娼館「メゾン・クローズ」を舞台とした作品。2013年から2018年にかけてフィール・ヤング(祥伝社)で連載された。単行本は上下巻が発売されている。第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で優秀賞を受賞した。

 安野モヨココメント

「鼻下長紳士回顧録」は、人間の欲望や孤独、そして、自分らしく生きることの美しさを描きたいと思って描いた作品です。人の欲望には、その人だけの痛みや願いが宿っている。私はずっと、そういう「簡単には言葉にできないもの」に惹かれ、描いてきました。そんな、とても個人的な衝動から始まった、この作品。描いていた当時は、まさか海を渡り、ニューヨークでミュージカルになるなんて、想像もしていませんでした。自分の中から生まれたとても個人的なものが、たくさんの方々の力によって、国や言葉、表現の形を越えて広がっていくことを、とても不思議で幸せに感じていますし、国も文化も違っても、「自分らしく生きたい」と願う気持ちは変わらないのかもしれません。素晴らしいクリエイターのみなさんによって、『鼻下長紳士回顧録』の世界がどのように立ち上がり、新しい観客のみなさんに届いていくのか、私自身とても楽しみにしています。チケット情報などは後日発表となる予定だ。