【今週の紙面の主なニュース】(2022年5月21日号)

(1)日本NYで大行進 ジャパン・パレード 

(2)JAA美術展始まる NY作家30人が58作品

(3)黒人狙い銃乱射 バッファローで10人死亡

(4)古本さん表彰 NJ州バーゲン郡から

(5)メッツ球団が大失態 森大使の始球式やらず

(6)出社完全再開8%  マンハッタンの会社員

(7)NY日本食レストラン協会 従業員の訴えに反対陳情

(8)対米進出企業の SDG’s戦略手帳

(9)BOOKS 『武人の本懐』 英語版が完成

(10)異国の母、マンハッタンをゆく 

日本NYで大行進

オールジャパン力合わせて実現

 ニューヨークでは近年初となる「ジャパンパレード」が14日午後1時から3時30分までセントラルパーク・ウエスト81丁目から68丁目まで繰り広げられ、日系団体、グループを中心に90団体、2400人余りが大行進して沿道のニューヨーク市民2万人を楽しませた。

グランドマーシャルのジョージ・タケイさん

 NYPD騎馬隊を先頭に、グランドマーシャルの日系俳優で人権活動家のジョージ・タケイさん、ニューヨーク総領事の森美樹夫大使、パレード・チェアマンの上田淳さんがオープンカーに乗り沿道の市民に手を振った。コロンビア大学の雅楽や鼓舞、お神輿、花笠踊りやあわ踊りなど日本文化紹介に加え、NY日系人会(JAA)、NY日本商工会議所(JCCI)、日本クラブ、NY日系ライオンズクラブ、NY日本人美術家協会などの団体がそれぞれのテーマや衣装でパレードした。伝統的な日本文化だけではなく日本からセーラームーンの5戦士が参加して、71丁目に設置されたレッドカーペットで現代日本を象徴するパフォーマンスを披露すると市民たちから大きな歓声と拍手が起こった。ウクライナ支援やゴスペル、ヤング・ピープルズ・コーラスなど多様性も交えたパレードは終盤雨に見舞われたが、十分に日本の存在感をアピールできたパレードとなった。

(写真)東日本大震災被災地の東北6県と北海道の県人会(ほくほく会)が巨大な日の丸を持ってパレード先頭を歩いた

存在感も前進、日系90団体2400人が参加
伝統と現代のジャパン・パレード

 ジャパン・パレードは、1872年に、岩倉具視使節団が来米してから150年となるのを記念して開催されたものだが、ニューヨークで日本人がこれだけ大規模なパレードをするのは実に162年ぶり。最初は徳川幕府が1860年にワシントンDCに派遣した万延元年遣米使節団で、この時は80人の侍がNYブロードウエーをパレードした。

 今回は、侍パレードはなかったが、剣道の志道館や殺陣波涛流が侍の武士道精神を紹介した。民舞座やジャパン・パフォーミングアーツが華やかで見事な踊りを披露して沿道のニューヨーカーを魅了、ハローキティやセーラームーンが現代日本をPRした。終点近い69丁目では折り紙やチャリティー、蕎麦や伊藤園の茶をふるまうジャパンストリートフェアも開催された。

NY作家30人が58作品

21日まで展示販売中

 ニューヨーク日系人会(JAA、佐藤貢司会長、西45丁目49番地)が主催する第26回JAAニューヨークで活躍する日本人・日系人美術家展覧会(後援・在ニューヨーク日本国総領事館、週刊NY生活、よみタイム)のオープニング・レセプションが12日午後、JAAホールで開催された。

 篠原有司男さん、佐藤正明さんら第1回目からの出展作家をはじめとする総勢30人が58作品を出品した。佐藤会長の挨拶のあと、来賓としてニューヨーク日本総領事館の村上顕樹広報センター長が祝辞を述べた。

 当日は、マスク着用とワクチン証明提示の感染防止策を取りながら3年ぶりの対面式レセプションとなり、ワインや軽食などが出され、パンデミック前の人出に近い参加者となった。

 日本からはアーティストの佐々木健二郎さんがオンライン参加して元気な顔を見せた。同展での売り上げの半分がJAAの活動資金として寄付される。21日(土)午後3時まで。

古本さん表彰

NJ州バーゲン郡

 5月は「アジア・環太平洋諸島系米国人とハワイ原住民の文化遺産継承月間」として、アジア人に焦点を当てたイベントが各地で開催されている。その一環で、ニュージャージー州バーゲン郡では、さまざまな分野で功績をあげたアジア・環太平洋系米国人を表彰する式典が10日同郡庁舎ビルで行われ、フォートリーで約50年事業を続けている実業家で、日系米国人の地位向上に向け尽力する人権活動家でもある古本武司さん(77)が表彰された。

 古本さんが受賞したのは「最も人権活動に貢献した人物賞」。古本さんは、日系米国人の人権回復や移民への人種差別に対抗する記念日である「フレッド・コレマツ・デー」をNJ州で認定させるため奔走したり、学校や役所で平和教育を行う講演活動など、さまざまな功績が認められた。式典では、健康方面で貢献した人物や、教育方面で貢献した人ら、ほかのカテゴリーで受賞した5人と共に、ジェームス・テデスコ郡長から賞状が手渡された。また当日は、地元で活動する太鼓グループ「美和鼓(びわんこ)」らが演奏で式典に花を添えた。

(写真)米軍の軍服姿で式典に出席した古本さん(右から2人目)

黒人狙い銃乱射

10人死亡、18歳白人男性を逮捕、NY州バッファロー

 ニューヨーク州北西部のバッファローのスーパーマーケットで14日、男が銃を乱射、13人が撃たれ10人が死亡した。駆けつけた警察が18歳の白人の男を拘束し、同日夜に殺人罪で訴追された。

 事件が起きた場所は黒人が多く住む地域で、撃たれた13人のうち11人が黒人、2人が白人だった。自分はファシストで白人至上主義者だと書いた文章がネット上で見つかっており、憎悪犯罪とみられている。

 逮捕されたのはペイトン・ジェンドロン容疑者(18)で、14日午後2時半ごろ、軍服姿でトップス・フレンドリー・マーケットの前にある駐車場に青いフォードのセダンで現れ、車から出ると銃を乱射し始めた。4人を撃った後、店内に入った。入口で元警官の警備員が銃で応戦し、一発が命中したが、防護服(防弾チョッキ)を身につけていたため大きな負傷はせず、逆に警備員が撃たれ死亡した。その後も乱射を続け、警察が駆け付けると自殺するしぐさを見せたものの、説得に応じて投降した。

 ジェンドロン容疑者は自宅のあるニューヨーク中部の町コンクリンから車で約320キロ移動して犯行に及んだ。前日に下見をしていた。また犯行時、ヘルメットにカメラを装着し、ライブストリーミングのTwitchで動画配信していた。Twitchの運営スタッフが停止するまでの約2分間、乱射の様子は全世界に配信された。

 警察によれば、高校生だったジェンドロン容疑者は新型コロナ禍の最中、インターネットの掲示板で見つけた人種差別者の書き込みに影響を受けたとみられる。人を殺害したいという願望を持っていることが判明したため、昨年6月に州警察が入院させたが、精神鑑定後、1日半で退院したという。

 ネットの掲示板サイト8チャンネルに投稿された容疑者の180ページにもおよぶ文章のなかで、自分はファシスト、白人至上主義者、人種差別主義者、および反ユダヤ主義者であると述べている。2019年にニュージーランドのクライストチャーチのモスクで51人を殺害したブレントン・タラント、2015年にサウスカロナイナ州チャールストンの教会で9人を殺害したディラン・ルーフなどに感化されていた。

 また、事件と酷似した銃撃計画の詳細が記されており、トップスを選んだのは自宅から車で行ける範囲で黒人居住者の割合がもっとも高い地域であるからで、できる限り多くの黒人を殺害することが目的だとしている。その後の調べで、トップスを襲撃した後も移動して別の店で殺害を続ける予定だったことが判明した。

 犯行時に使われたのは攻撃用ライフル「AR-15」で、車には別のライフル銃とショットガン(散弾銃)があった。また車には「White Lives Matter(白人の命は大切)」と書かれていた。ジェンドロン容疑者は自宅近くの銃器店でAR-15を購入したと述べている。

 バイデン大統領は、司法省が憎悪犯罪(ヘイトクライム)として捜査していると指摘し、人種差別的な過激思想を強く非難した。

メッツ球団が大失態

森大使の始球式やらず

 ニューヨーク・メッツの球場シティフィールドで13日夕開催が予定されていたニューヨーク総領事、森美樹夫大使による試合前の始球式が、球団側の不手際でマウンドでの投球直前に実施されないという前代未聞のパプニングが起こった。この日は、翌日に控えたマンハッタンで開催されるジャパン・パレードの前宣伝の前夜祭として球場で「ジャパン・ナイト」が開催され、観客入場となった午後5時10分から日の丸の入った特製野球帽がチケット購入者1500人にスタンドで配布されるなど盛り上がりムードは満点。多くの日本人がジャパン・ナイトの式典と始球式を楽しみに球場に詰めかけていた。


 4万人が入った球場で試合前に大型スクリーンでメッツに在籍した新庄日本ハム監督とヤンキースの元選手だった松井秀喜さん、バレンタイン元ロッテ監督がアップで映し出され、それぞれジャパン・パレードを観客にPRする録画の動画メッセージを贈った。グラウンドに並んだ森大使、佐藤貢司ニューヨーク日系人会会長、スキ・ポーツ日系人会理事、パレードマーシャルでジャパンデー・インクプレジデントの上田淳住友信託銀行NY支店長、パレードに参加するセーラームーンや落語家の桂三輝が大型スクリーンに大きく映し出されて紹介された。観客席にはスーザン大沼、ゲリー森脇両元日系人会会長、ジョシュア・ウオーカー・ジャパン・ソサエティー理事長ら日系団体関係者や日本企業関係者ら大勢がスタンドで見守っていた。

試合前のジャパン・ナイト式典で観客に巨大スクリーンで紹介され笑顔だったが・・・

 始球式は、午後7時プレーボールとなる対マリナーズ戦を前に午後6時50分から始まる予定だったが、メッツの選手たちが球場に入ってくるのが遅れた。この間、森大使は投球フォームを時折しながら1塁側で球場職員と待機。そして7時を過ぎて急に雨が降り出した。かなりの強い土砂降りに、塁審がホームベース前に集まり協議を始めた。この間も雨は降り続けたが、メッツの選手たちが一斉にグラウンドに出てきて、ピッチャーが投球練習を始めた。審判が解散して試合がスタートすることになり、球団関係者の合図で森大使はマウンドへ。場内アナウンスで森大使の名前が大きくアナウンスされると森大使も観客席に手を振って声援に応えた。しかしメッツの投手は大使には目もくれずに投球練習を続けた。グラウンドの外からは投手が投球の手本を森大使に示しているように見えなくもなかった。そしていよいよかという時に、球場のスタッフから大声で「グラウンドから出て!」と叫ぶ声が大使に相次いで発せられ、式典参列者たちも、スタッフたちから追い立てられるようにグラウンドから出され始めた。大使も異変に気づき、鳩が豆鉄砲を喰らったようにマウンドから走って降りてきて「一体何が? どうして?」と問う間もなく、有無を言わせずスタンドの階段から球場内部の建物に出された。

 総領事館の担当領事が球団職員に「どうなっているのか」と詰め寄ると「メッツの選手が遅れて、テレビ放映時刻の午後7時10分になったので、選手以外はグラウンドから出なくてはならなかった」と説明した。「選手たちは今日、試合前に始球式があることを知っていたのか」との質問に「選手たちは自分の試合のことで頭がいっぱいで知らない」と答えた。試合前に一瞬スコールのように降った雨が予定外の審判の協議で始球式用の時間に食いこんでしまったのも禍いした。

 「でも始球式は一瞬のこと。5秒もあればできること。30分以上グラウンドで待たせている時間があったのになぜ早くやらなかったのか」と疑問の声が報道関係者からも上がった。日系団体関係者からは「始球式をする契約のために、少なからぬお金を払っている。一体どうするつもりか」と憤りの声も出た。現場で総領事館との対応窓口となっていた球団側アジア販売担当のヤング・チョイさんは、球団内でミスコミュニケーションがあったことをその場で認めた。

 翌日、メッツ側から正式にニューヨーク日本総領事館に「私たちは今夜の始球式のタイミングとプロセスを混乱させるいくつかの内部的問題を抱えていました。このような行き違いがあったことをお詫びし、現在、将来の試合で大使がセレモニアルピッチを投げるよう働きかけています」との謝罪の連絡があった。

 関係者からは「ジャパンパレード宣伝のためのジャパン・ナイトだったので、関係ない時に大使が出て行って始球式をしても意味がない。来年か次回のジャパン・ナイトに向けたクレジットとして将来必要な時に使わせてもらうのが得策なのでは」との意見もあった。

 森大使は「硬球を握るのは実は初めてで、練習すればするほど球が外れることが分かった。マウンドで投げて大暴投する心配がなくなって正直ホッとしている。次回といっても、もう練習するのはいいかな」とコメントし「このことがジャパンパレードに影響しないように心がけた」と翌日、パレード会場で語った。

(写真)大使を横に投球練習するメッツの投手 (13日午後7時9分、シティフィールドで、写真・三浦良一)

出社完全再開わずか8%

マンハッタンの会社員

 マンハッタンの企業に勤める従業員のうち、週5日出勤を再開したのは8%で、約62%はいまだ在宅勤務を継続していることが、大手企業の雇用者たちから成る非営利団体パートナーシップ・フォー・NYCが9日に公表した調査結果でわかった。 

 4月末の平日に行われた同調査では、完全に平日出社を再開したと回答したのは12人中1人に過ぎなかった。同団体は、2021年3月と10月末に同様の調査を行い、そのたびに半年以内に会社員のほぼ半数が会社出勤を再開するだろうと推測していた。しかし相次ぐ変異株の拡大で、在宅勤務がさらに日常化した。同団体のキャサリン・ワイルド代表は、リモートワークの普及傾向を「慣性」とし「ひとつのことを長く続ければ続けるほど、生活を変えることがますます難しくなる」と解説している。 

 一方、雇用主側の意見としては約78%が、従業員の在宅と対面のハイブリッド勤務を望んでいる。在宅勤務希望の理由としては「慣性」のほかに都市部の犯罪やハラスメントの懸念があり、雇用主の3分の2は、公衆安全やホームレス問題の改善が出勤回復を促すだろうと答えている。通勤者数の低迷は都市交通局(MTA)の経営にも打撃を与えている。公共交通機関の乗車率は現在、2019年比の40%減で、パンデミック前の状況に戻らなければ、2025年までに赤字は5億ドルに達するだろうと同局は推定している。

従業員の訴えに反対陳情

NY日本食レストラン協会

 現在ニューヨーク州議会に「The Wage Lien Bill S2762 」という法案が上程・審議されている。この法案は「倒産等の不測の事態で想定される未払い給与に対して、従業員がレストラン経営者、事業者のみならず店舗マネージャーの財産差し押さえが可能」とする法案。

 仮に本法案が可決・制定されるとレストランの事業環境が大きく損なわれる為、ニューヨーク日本食レストラン協会(八木秀峰理事長)ではNew York Hospitality Alliance(NYHA)と連携・協力して同法案の阻止に取り組んでいる。できるだけ沢山のレストラン関係者の協力を集め、本法案に反対する陳情をBrad Hoylman上院議員に送付する。同法案反対運動に参加する人は下記リンクの第一項目「(1) Oppose The Wage Lien Bill」をクリック、氏名と住所・メールアドレス等必要事項を入力すると、提携フォーマットのメールが上記上院議員宛に発信される(それ以外のアクションは不要)。

https://oneclickpolitics.global.ssl.fastly.net/messages/edit?promo_id=16758

【人体の血液からマイクロプラスチックを発見。米企業が健康被害ないリサイクルに挑戦】

■22人中17人の成人や赤ちゃんからプラ粒子を発見

 学術誌「Environmental International」によると、人間の血液から初めてプラスチック粒子が見つかった。4年前には人の便や肺から検出された研究結果もある。マイクロプラ粒子が体内の入ると何が起こるのか?最近の研究で「赤血球の外膜に付着し、酸素を運搬する能力を制限する可能性がある」ことが分かった。

 オランダの生態毒性学者ベタック教授は、「ペットボトルで育った赤ちゃんは一日に何百万個もマイクロプラスチック粒子を飲み込んでいる。妊婦の胎盤からも発見された。胎児の心臓や臓器にも影響がある」と述べている。

 原因は、大量投棄されたプラスチックが海魚や山菜に蓄積され、人間の食物になるからである。プラスチック製のカップやフェイスマスクの使用も影響する。プラ投棄量は2040年までに倍増すると言われている。

■ 91%はリサイクルされていない現状

「プラスチックはリサイクル」と言われるが、実際には世界の91%のプラスチックはリサイクルされていない(2020年)。そのうち焼却は12%、残り79%は途上国の埋め立て地に送られるか、海に投棄されている。

※途上国での埋め立てから住民の健康被害も多発し環境の負の連鎖を引き起こしている。これを「環境的人権差別経済」ともいう。

■米スタートアップ企業、プラ投棄の建材リサイクルに挑戦

 プラスチックはリサイクルできないという固定観念を打ち破っているのが米ロサンゼルスのスタートアップ企業(ByFusion)だ。スチームと圧縮を組み合わせて健康被害のないBlocker(建材ブロック)に作り変え、フェンスやテラス、道路建材に再利用する。

 この活動は、プラスチックによる環境汚染を防ぎ、人の健康を守るとして注目されている。大量投棄されるプラゴミを再利用する成功事例となれば、持続可能な社会環境の再生への大きな貢献となるだろう。

■古市裕子

SDGs-NYスペシャリスト

(サステナブル経営×日系企業NY進出支援)NY Marketing Business Action, Inc.代表取締役。国連大学SDGs研究員。ジェトロNY17年勤務。著書【SDGsピボット戦略:欧米企業12事例集/SDGs×次世代×企業価値】https://www.amazon.co.jp/dp/B09NVMP2DF

「武人の本懐」の英語版

元海上自衛隊横須賀地方総監・高嶋博視・著
OFFICE BEAD INC.・刊

  2011年の東日本大震災発生当時、迅速な初動で被害者の捜索と救援に向かった海上自衛隊1万6000人を総指揮した元海上自衛隊横須賀地方総監・高嶋博視氏の著書「武人の本懐」(講談社2014年)は、日本で大きな反響を呼んだ。獅子奮迅な救援活動、物資の輸送、米軍との共同作戦、そして福島第一原子力発電所冷却のための「オペレーション・アクア」などを遂行し、896人の人命救助と425柱の遺体収容を実現。二次災害を出さずに多くの任務を果たしたリーダーの鮮烈な記録である。

 高嶋氏は「地球が存在する限り、人類は災害から逃れることはできない。世界史に類を見ない未曾有の大災害の実態や実相、そこから得られる教訓を、日本国内だけでなく、世界で共有してほしい」と訴え続け、2020年秋に英語版制作のプロジェクトが本格始動した。

 「最もてこずったのが軍事用語でした。まず防衛省・自衛隊の組織編成や指揮系統、海上自衛隊や海軍の文化を理解するために、高嶋氏と何度も打ち合わせを重ねました」と翻訳チームは苦労を語る。「日本語には「行間を読む」という言葉があり、拙著にも多分にそのような文面があります。まずは一行の文章の背景にあるもの、私の胸中にあることを理解していただき、それを踏まえて英語で綴ってもらいました。翻訳者は大変なご苦労をされたと思います」と高嶋氏も振り返る。

 高嶋氏の想いは多くの支持者たちの協力を得て、2022年3月11日に英語版『THE HEART OF A SAILOR』が完成した。トップとして決断していくその裏には、たくさんの苦悩や葛藤があったことが推しはかられるが、それらが英語の文章のなかに見事に溶け込んでいる翻訳の技量は秀逸である。

 「歴史に学ぶ」を信条とし「歴史を通じて平和の在り方を模索する」という高嶋氏は、現在「危機に強い人材の育成」のために各地で講演活動を続けている。

「在米・在留邦人の中にも、ご親族やご友人が東日本大震災で被災された方がおられると思います。2011年は日本で起きましたが、明日は世界中のどこで大災害が発生するか分かりません。拙著英語版が、皆様の今後の備えに資することができれば本望です」と高嶋氏は世界にメッセージを発進し続けている。(倉本)

【高嶋博視氏プロフィール】

1952年香川県生まれ。防衛大学校卒業。半生を日本の海上防衛に捧げ、その間、テロ対策特別措置法に基づくインド洋派遣や、東日本大震災における災害派遣活動を指揮。退官後は日本無線株式会社(顧問)を経て、現職「博海堂株式会社」代表。2022年4月、瑞宝中綬章受賞。

高嶋博視オフィシャルウェブサイト:

http://www.umihiro.jp/

異国の母、マンハッタンをゆく

ニューヨークの魔法 28
岡田光世

 母の日おめでとう、と先生の祖国の言葉で今日は花束を手渡したくて、朝から何度も練習していたのに、会う頃にはすっかり忘れてしまった。先生との待ち合わせはいつも、 メイシーズ前の小さな広場。すぐそばが韓国人街なので、通りすがりの韓国人に聞こうと思っていたら、先生が突然、目の前に現れてしまった。 

 仕方なく、英語でHappy Mother’s Day. と言って花束を差し出した。先生はまず驚き、そして笑顔で花束を受け取った。

 と思ったら、険しい顔になった。どうして、花なんか買うの。お金、使って…。 

 雨で手がふさがって、転びでもしたら危ないので、私が花束を持とうと思ったけれど、 先生はしっかり胸に抱いて離さない。 

 先生の歩く速さは、まったく変わっていない。でも、転ばないようにと、つい腕を持って支えようとすると、先生はきっぱりと言い放つ。 

 私の安全は、私が決めます! 

  会うときはいつも、私がいくら拒んでも、先生が食事代を払う。今日は母の日だから、 韓国料理を先生にご馳走させてください、と何度も言ったけれど、いけません! 私は今も先生です。今も働いているんです! とゆずろうとしない。これ以上、拒めば、怒り出しそうだ。

 私も働いています、と言うと、私の顔をまじまじと見て、不機嫌そうな顔ねぇ、と茶目っ気たっぷりに笑う。 

 結局、母の日なのに、韓国の母にご馳走してもらった。

 私が美味しそうに食べる様子を見ながら、美味しい? よかった。あなたが美味しいって食べているのがうれしい、と何度も日本語で繰り返す。 

 そのあと、カフェに移動した。店の入口に段差があった。転んだら、大変。

 私は思わず先生の腕をつかむ。先生、気をつけてくださいね。

 先生は一瞬、間を置き、真顔で日本語で答える。 

 はい。お母さんの言いつけをよく聞くようにします。 

 結局、四時間も一緒にいた。 話しながら先生は、満面の笑みをたたえ、小さな子どもにするように、私の鼻のてっぺんを何度もつまんでは、かわいいねぇと言う。そして、自分も子どもに戻ったようにうれしそうに笑う。 

 私は夫と待ち合わせしていたので、荷物をまとめて立ち上がる。 

 早く行きなさい。待たせてはだめよ。全部持った? 忘れものはない? コートは着てこなかった? コートなしじゃ、寒いでしょう? あなた、御不浄に行かなくていい? 

 先生がまくし立てる。戦前の韓国だから、先生はトイレを御不浄と習ったのだろう。 

 はい、お母さんの言いつけをよく聞くようにします。 

 先生のまねをしてまじめな顔で言うと、まったく、という顔で、また私の鼻をつまむ。 

 先生とハグし合う。 

 ほおずりして別れてから、先生の写真を撮り忘れたことに気づく。 

 先生はもう、数十メートル先をすたすたと歩いている。 

 追いかけていって、先生の前にくるりと現れ、カメラを向ける。

 モデルの写真を、撮りにやってまいりました!

 そう言うと、先生はちょっとあきれた顔して、笑った。 

 一瞬立ち止まり、花束を抱えてポーズする。 

 撮った写真の先生の顔をズームして見せ、かわいいねぇ、と私が言う。先生の口癖だ。 

 画面に大写しの自分の写真を一瞬見て、照れたように笑った。 

 ほら、早く行きなさい、というように私の背中を押す。そしてまた、先生の大好きなマンハッタンの道を、まっすぐに歩き始める。 

 迷いもせず、わが道をまっしぐらに突き進んできた先生らしく。背筋を伸ばして、脇目もふらず、カツカツと、堂々と。 

 Thank you for being a mother to me. 

 私の母でいてくれて、ありがとう。 

*このエッセイは、文春文庫「ニューヨークの魔法」シリーズ第9弾『ニューヨークの魔法は終わらない』に収録されています。

https://books.bunshun.jp/list/search-g?q=岡田光世

編集後記

【編集後記】
 みなさん、こんにちは。NHK放送技術研究所の技術を応用して、日本の医師が世界で初めて開発した8K内視鏡。微細な神経や血管を大画面に映し出し、高度な外科手術をこれまで以上に安全に行えるようになりました。これまで前例のない解像度は、医療現場をどう変えるのか、今週号で、開発者の千葉敏雄順天堂大学医学部教授、一般社団法人メディカル・イノベーション・コンソーシアム理事長にお話を聞きました。きっかけは2006年、国立成育医療研究センターの医師として勤務していた時、NHKで放送されたハイジャック犯逮捕のドキュメンタリーに釘付けに。深夜、真っ暗な中で撮影されたカメラ映像にもかかわらず、関係者の顔がはっきりと映っていたからだ。「この映像技術を内視鏡手術に役立てたい」。事前のアポイントもとらずに、職場の向かいにあったNHK技研にすぐさま話を聞きに行ったところ、運良く、当時の谷岡健吉所長とばったり会う。その場で、ナイトビジョン技術「HARP」と超高精細技術「8K」を硬性内視鏡に搭載するための開発を開始することを決定したそうです。8K硬性内視鏡を用いた世界初の臨床手術で、胆嚢摘出手術に加わった千葉さんは、モニター画面に映し出される高精細な映像に驚きます。8K映像は、現在広く使われている内視鏡の2K映像に比べ、16倍の画素数を誇る。これは10メートル先の新聞が読めるほどの画素数で、肉眼では見えない細い血管や縫合糸まで鮮明に映し出すとのこと。「まるで患者さんのお腹の中で手術をしているようで、映画の『ミクロの決死圏(1966年の米国のSF映画)』を見ているようでした」と話します。しかし当初は難点も。重さだ。2024年に臨床導入された8K内視鏡のカメラ部分は、2・5キロの重さ。2時間あまりの手術でも機器を手に持ったままの手術はかなりの負担だったという。身体の内部構造を詳細に観察できるこの技術は、より安全で正確な手術を可能にするだけでなく、従来は極めて困難だった手術にも対応できるようになる。熟練した外科医の手術映像を教育用に利用したり、専門医によるオンライン診療や遠隔手術をより手軽に行うことができるようにもなる。海外の医療機関ではまだ使われてないこの日本の映像技術は、医療の未来を変えるほどのインパクトを持っているとして日本政府内閣府が強く後押ししていいます。そのうち、アメリカでも登場して、世界の医学界を驚愕させることでしょう。2020年にアルベルト・シュバイツァー国際賞の医学賞・最高賞を受賞しています。奥様は、本紙連載お馴染みの料理研究家、千葉真知子さんです。それでは、みなさん、よい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)