問題だらけのアメリカ鉄道事情

 ロングアイランド鉄道では、連日大幅な遅延と駅構内の混乱が続いている。原因は、110億ドルを投じて完成した新線、グランドセントラル・マディソン線が開通したことだ。従来、マンハッタン島におけるLIRRのターミナルは、ペン駅だけであったのを、途中で分岐させ、もう一つの巨大ターミナルであるグランドセントラル駅にも向かうようにしたのである。

 LIRRの設計は、多くの郊外支線が一旦ジャマイカ駅で合流するように作られている。今回の新線開通により、一日の列車本数を625本から900本以上に増やしたため、容量オーバーとなってジャマイカ駅の手前で各線で渋滞が発生した。具体的には、駅の前後に設置された平面交差のポイント(アメリカではスイッチという)がネックになっているようだ。ジャマイカ駅は、JFK空港への窓口であり、また地下鉄との乗り換えターミナルでもあり乗降客は多い。遅延が常態化する中で駅に入りきれない乗客が出るなどラッシュ時には混乱が続いている。

 一方、肝心の新線はガラガラであり、従来のペン駅へ向かう列車は大混雑で積み残しが出る中で、乗客の不満は日に日に大きくなっている。この混乱は新線建設が始まる前から分かっていたという報道も出る中で、NY州のホークル知事の責任を問う声も出てきた。

 ちなみに、日本の鉄道業界としては、この問題については余り大きな顔はできない。ジャマイカの渋滞は、東京メトロが副都心線を開業した際に、小竹向原駅で起こした渋滞の問題と似ているし、新線が閑古鳥というのは京阪本線から分岐させた中之島線が不人気となった問題にソックリだからだ。ちなみに、この2つの「事件」はいずれも2008年に起きている。最終的に小竹向原では東京メトロが巨費を投じて立体交差化するトンネル工事を施工、一方で京阪の場合は多くの優等列車の終点を本線の淀屋橋に戻すことで落着している。

 LIRRの場合は、ジャマイカ駅の大改造を行ってホームを増設するそうだが、解決には数年を要する見込みだ。それ以前の問題として、現在はロングアイランド方面からペン駅へ通勤する人の場合、朝晩それぞれ30分余計に通勤時間の余裕をみなくてはならないそうで、深刻さは小竹向原の比ではない。3月6日からは臨時にダイヤ改正をして乗り切る構えだが、効果はどうであろうか。いずれにしても、どうしてここまで深刻なトラブルになったのかというと、アメリカの鉄道事情が背景にある。

 具体的にはコンサルの存在だ。鉄道事業者が技術ノウハウを持っている日本と異なり、アメリカの場合は線区の設計から施工計画、車両選定など、何もかもをコンサルティング会社が「プレゼンし」その案の中から決定される。このコンサルだが、米国にもあるが、欧州勢の勢いが良いために、アメリカの地域事情を無視した案が出てくることがある。また、そのコンサル自体が玉石混交であり、計画案も千差万別、時には専門知識のない政治家が決定に介入することもあり、結果的に今回のような「間違い」が起きるというわけだ。

 アメリカ全土では貨物列車の脱線事故が頻発して社会問題なっているが、こちらにも同様の事情がある。アメリカの鉄道は開拓の歴史とともに黄金時代を築いたが、1950年代に自動車と航空に代わられて衰退した。だが、鉄道貨物は依然として低コスト・長距離の輸送手段として生き残ったばかりか、21世紀に入ってからは高収益・高株価の優良企業群に生まれ変わっている。

 1990年代までは頻発していた列車同士の衝突事故も、GPSを使った遠隔管制システムでほぼ根絶できた。だが、高収益の期待を背負わされた各社は、人件費のカット、そして保線工事の省略に走っている。その背後にも、悪質なコンサルの存在があると言われている。また組合が過度に組合員の権利保護を行うために、事故原因の隠匿がされるという問題もある。

 今回オハイオ州東部で起きた可燃性液体輸送車の脱線炎上事故、同じくオハイオ州西部で起きた貨物列車の脱線事故は、いずれも保線工事の手抜きが原因と思われるが、こうした事故を受けて、ようやく2021年のモンタナ州における特急脱線事故の原因が公表されたあたりに問題の根の深さがある。

 バイデン政権は、環境保護政策の一環として鉄道への再評価を進めているが、そのためにはコンサル依存という業界の問題にまずメスを入れる必要があるだろう。

(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)

信楽焼NYデビュー

NYレストランショーで、ジェトロが支援

市内著名店からさっそく受注

 ジェイコブ・ジャビッツ・コンベンションセンターで5日から7日まで開催された世界レストラン・フードサービス展示会に、日本から滋賀県甲賀市信楽町の(有)かね馬が初出展した。

 同社は創業から142年の歴史を持つ最古の陶器卸店として知られており、信楽焼は、日本伝統工芸品として日本に古くからある陶産地の六古窯(ろっこよう)の一つ。

 日本六古窯とは、古来の陶磁器窯のうち、中世から現在まで生産が続く代表的な6つの産地(越前・瀬戸・常滑・信楽・丹波・備前)の総称で、信楽は1250年の伝統を誇る日本最古の産地である。天平14(742)年、聖武天皇が紫香楽宮の造営に着手したときに、布目瓦、汁器の須恵器を焼いたことに始まり、その後、水がめ、種壷、茶壷、茶器、徳利、火鉢、植木鉢など大物から小物に至るまで信楽焼独特の「わび」「さび」を残し今日に至っている。

 昨年からジェトロ(日本貿易振興機構)が、信楽焼の海外進出を支援し、今回NYへの初出展に繋がった。NY市内の著名なレストランにアピールし始めたところ、KORIN(光琳)はじめ、ZUMAレストラン、初花、Sushi of Gari(ガリ寿司)、寿司中澤から注目されて受注も開始している。かね馬の奥田企作社長とPRマーケティングの奥田まひろ広報部長は、展示会で「来客数や信楽焼への注目度はまあまあですね。ニューヨーク日本食レストラン協会に入会させていただきました。今後さらに販路を拡大し、伝統信楽焼の良さをニューヨークの皆様にも知ってもらいたい」と今後の展望を述べた。

( SDGsライター古市裕子、写真も)

(写真)展示会場の奥田社長(右)と奥田広報部長(左)

小室さん晴れて弁護士に

オンラインで宣誓式出席

 秋篠宮ご夫妻の長女、眞子さんの夫である小室圭さんがニューヨーク州の弁護士として正式に登録された。今年1月9日に昨年10月の試験の合格者向けの合同宣誓式があった。小室さんは合同宣誓式には出席せず、希望すれば随時行われる個別の宣誓に先月27日に臨んだ=写真=。また小室さんの勤務先の法律事務所が、3月1日までに小室さんの肩書を所属弁護士を意味する「アソシエイト」に変更し、ウェブサイトに掲載した。これまでは法務助手を意味する「ロークラーク」とされていた。小室さんは3度目の挑戦で昨年10月、ニューヨーク州の司法試験に合格した。

 今後、同法律事務所で何を担当するかは明らかではないが、法務相談や訴訟案件で個人や企業が特定の弁護士を指名することは可能なので、今後、日本人、日系人、日系企業からの小室弁護士にぜひと声をかける依頼主も出てきそうだ。

五輪金メダリスト志土地真優選手五輪

NJで盛り沢山の一日

 一昨年の東京オリンピック女子レスリング53K級の金メダリスト、志土地真優選手(旧姓・向田)と夫の志土地翔大コーチがトレーニングでNJ州に滞在するのに合わせ、2月25日、NJ日本人会が主催する3つのイベントが行われた。

 昼時に実施されたNJ補習授業校での全校イベント(12面に詳報)のあと、午後に一行はホボーケンのレスリングクラブ「エッジ・ホボーケン」に移動。8人の中高生レスラーに実技実践ワークショップを行った。生徒たちの様々な実際の悩みに対して、志土地選手とコーチが手取り足取り的確な指導を行い、参加した生徒らから「世界トップの選手から実践的な指導を直接受けられて貴重な体験ができた」と感謝の声が多く寄せられた。

 夜は、エッジウォーターにあるしゃぶしゃぶレストラン「ハドソンポット」で「志土地真優選手とコーチを囲む会」を開催、30人が参加した。「Showing Up」がテーマの講演会では、「プライベートで誹謗中傷を受けたり、試合で相手から反則行為をされても、常に冷静に平常心を保ち、練習の成果が100%出せるように努力してきた。小さい頃からの目標だった五輪の金メダルを東京で達成したが、気持ちが萎えることがなく、次のパリでも金を取りたいと思い、USチームとのトレーニングで更に鍛えることにした」などと語った。参加者全員が本物の金メダルを触ったり、色紙にサインをしてもらったりと、参加者たちは皆、金メダリストとコーチの人柄に触れ、楽しい時間を過ごした。 

(写真・吉田禮治郎)

岸田奈美さん講演会

「家族と愛をものがたるin NY」

4月21日(金)6:30PMから

 日本で活動するエッセイスト・岸田奈美が、4月21日(金)午後6時30分から、家族とともにニューヨークで「家族と愛をものがたる・イン・ニューヨーク 」と題した講演会を開催する。

 車いすの母、ダウン症の弟、認知症の祖母との波乱万丈な自身の人生を「100文字で伝えられることを、2000文字で伝える」ことをテーマに綴った作品が話題になった。3年で500記事を超えるnote(ノート)は100万人以上に読まれたのち4冊に書籍化され、今年5月からNHKのBSプレミアムにて「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」として原作がドラマ化、Forbes30 UNDER30 Japan 2020に選出された。

 講演会では、これから急激な変化を迎え、不安が募っていく時代において、新しい「家族」と「幸せ」の在り方を深めていく。当日は岸田奈美、ひろ実、良太の家族3人がミニ講演をしたのち、ニューヨークで活動する作家・コーディネーターの倉本美香を交えてクロストークを行う。司会はFCIニュースキャスターの久下香織子が務める。英訳されたエッセイを収録した冊子の配布や、書籍の販売もある。

 会場はAll Souls NYC Reidy Friendship Hall(レキシントン街1157番地、80丁目)。時間は午後6時30分から8時30分まで。イベントは日本語で行われる。参加費は一般25ドル、学生15ドル、高校生以下10ドル(学生は要学生証、ワンドリンク付き)。参加希望者はウェブサイトhttps://monogatarufam.com/から申し込む。

■岸田家よりメッセージ

 ニューヨークは、それぞれにつらさを抱えていた家族にとって「幸せに生きる場所は、自分で選べる」と教えてくれた大切な街です。母・ひろ実は大動脈解離の後遺症で歩けなくなってから、車いすで過ごすことが苦しくてたまらない時期がありました。外へ出ると目立つので、いつも知らない人に見られているのを感じ、人の手を借りることを申し訳なく思う日々でした。

 そんなとき2019年にニューヨークへ訪問し、助けてほしいと自分で伝え、目の前の人を信頼するという自由があることに衝撃を受けました。恩人たちの暮らす街ともいえるニューヨークへ行き、皆さんの前でお話できることを本当に嬉しく、楽しみに思います。

(写真右)岸田ファミリー

編集後記 2023年3月4日号

【編集後記】

 みなさん、こんにちは。国土交通省の観光庁が「観光立国推進基本計画」の改定で、2月9日に交通政策審議会で、今後の観光立国推進計画の素案を発表しています。それによると、インバウンド回復戦略では、(1)観光再始動事業(2)消費拡大と地方誘客促進(3)高付加価値なインバウンドの誘致を掲げています。その中で訪日外国人旅行消費額単価と宿泊数、1泊当たりの消費額単価共に向上させています。具体的には消費額は2019年の15万9000円から20万円に25%増。宿泊数は、同1・35泊から1・5泊に10%増としています。

 同庁が提案するインバウンド回復戦略として文化・自然・食・スポーツなどの分野で『特別な体験、期間限定の取り組み』の創出。海外におけるイベントも活用してアピールする。アートの国際的な拠点としての地位を確立する。酒蔵ツーリズムを推進する、などをあげています。また、これまで8つの国立公園を中心に進めてきた取り組みを、全34国立公園にも展開するとしています。コロナ前の訪日外国人旅行者数の復活と滞在時間の延長を目指す、などが骨子となっています。

 日本の観光地のホテルの中には、部屋を2つ繋げてスイートルームに改造、値段も一泊8万円近い部屋で販売するところもあるそうですが、ニューヨークのマンハッタンのことを考えると、同じ広さの部屋なら600ドルや700ドルは結構ざらにありそうで、法外な値段とは言えず、要は価値に見合ったサービスには海外の旅行者は納得してお金を払ってくれるということだと思います。日本で物価高が連日ニュースになっていますが、NYの物価高から見ればまだまだ安くて、米国から一時帰国する人にとっては円安の影響もあって割安感が得られる状況で帰国旅行のチャンスかもしれません。円安と観光地のサービスの拡充で、在留邦人にとっても日本国内観光のメリットが得られそうな年になりそうです。今週号の1面と2面で紹介しています。それでは皆さんよい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一

【今週の紙面の主なニュース】(2023年3月5日号)

(1)観光立国日本再び 在米邦人も一時帰国楽しんで

(2)芥川の世界観 八王子車人形NY公演 

(3)日本ふるさと名産食品展 ジャパンビレッジで

(4)海外日本人サポート 国籍法違憲訴訟は1勝1敗

(5)堀江監督の「最後の乗客」 カンヌ世界映画祭で受賞

(6)NCAAアイスホッケー選手 榛澤力さんインタビュー

(7)神業?いえ紙技 三遊亭絵馬がNYで実演

(8)版画8人展 ひゃくだかずこが参加

(9)日本のジェンダー問題 伊藤弁護士がNYで講演へ

(10 ) 石榑雅代リサイタル カーネギーホールで4月6日

 

芥川の世界観

八王子車人形NY公演

ジャパン・ソサエティー

 ジャパン・ソサエティー(JS)は2月23日から25日までの3日間、芥川龍之介の5つの代表作をベースに創られた人形劇「AKUTAGAWA」を上演した。同作品は、日本の短編小説の父と言われるほど傑出した短編を多く残した文豪・芥川による5つの短編『羅生門』『地獄変』『竜』『杜子春』『河童』を紡いだもの。各ストーリーを通して、芥川の作家としての洞察力や不安定な精神世界を描き出す。出演は、八王子車人形・五代目家元西川古柳とアメリカ人パペット・アーティスト、トム・リー。また、ニューヨークで長年活躍するミュージシャン辻幸生のライブサウンドが加わり、躍動感に溢れたステージを披露した。

Photo Richard Termine

© 2023 Richard Termine. PHOTO CREDIT – Richard Termine

芥川の人生観は歯車のようなもので
生きているときは回り、止まると破滅

八王子車人形・五代目家元

西川古柳さん

 ジャパン・ソサエティーで芥川龍之介の5つの代表作をベースに創られた人形劇「AKUTAGAWA」を上演した。同作品は、日本の短編小説の父と言われるほど傑出した短編を多く残した文豪・芥川による5つの短編『羅生門』『地獄変』『竜』『杜子春』『河童』を紡いだものだ。

 八王子車人形・五代目家元西川古柳さんは、八王子に160年以上続く、国選択無形民俗文化財である伝統人形芝居「八王子車人形」の五代目家元。1953年八王子に生まれ、幼少より祖父(三代目)、父(四代目)に指導を受け、23歳で文楽研修生として三人遣いの操作も学んだ。地元八王子での定期公演のほか、日本各地で公演を行い、各地の伝統人形劇団で指導にあたる。95年からは、「受け継がれていく伝統人形芝居」を主催し、日本の伝統人形を守り、広めるための活動を続けている。

 車人形は「ろくろ車」という、前に二個、後ろに一個の車輪がついた箱形の車に腰掛けて、一人の人形遣いが一体の人形を繰る、特殊な一人遣いの人形芝居。江戸時代末期、現在の埼玉県飯能市に生まれた山岸柳吉(初代・西川古柳)が考案し、その後、近郊の神楽師(神事芸能を専業とする人)を中心に分布し、農山村や八王子織物の生産に関わる人の娯楽として親しまれてきた。

 芥川の人形は、自家製で、自分で作った。コピー的なものではなく、ニュアンスが伝わる、ちょっとだけイメージが湧くような作りにしたという。あまりに写真に似過ぎると観客の魂がそちらに引き寄せられ過ぎるからだ。

 5つの短編とはいっても、芥川の作品は文字数が多い。それをどこまで削ることができるか、表現とのせめぎあいではあるが、芥川の「人生は歯車のようなもので、生きている時は歯車が回るが、止まってしまうと人生の破滅」だと。5つの作品をオムニバス形式で繋いだ。「人間がこれから生きていく上で何が重要なのか」を大切に表現しているという。

 こうも言った。「これからも芥川の作品を続けていきたいが、日本の心を押し付けがましいと取られやしないか心配だったが、レセプションで皆さんが喜んでくれているのが分かりほっとした。ビジュアルでストーリーを伝える。それによって改めて芥川の作品を見直してもらえたら嬉しい。古典作品を通して日本古来の生き方に共感してもらえたらなおさらだ。芥川もその一つだ」。

 人形が命を宿し、魂が入るのは、芸や技術ではなく、人形使いの心が宿っているかどうかだ。舞台の西川さんの表情からそれが見てとれた。(三浦良一記者、写真も)

観光立国日本再び

在米邦人も一時帰国で楽しんで

地方観光都市が海外客誘致に本腰

 日本政府観光局(JNTO)が2月15日に発表した訪日外客数(2023年1月推計値)は、149万7300人と、150万人に迫り、2019年同月比55・7%となった。航空便においては、増便・復便の傾向が見られ、新型コロナウイルス感染症拡大以前の水準に近づいているところもあるが、多くの市場では回復途上にあるとしている。日本は、観光立国の復活に向けて、観光地、観光産業について持続可能な形で「稼ぐ力」を高めるとともに、地方誘客や消費拡大を促進しながら、インバウンドのV字回復を図る必要があるとしている。今後、入国手続きなどの実用情報の的確な発信と併せ、持続可能な旅行に関する情報発信などの誘致の取り組みを求めている。

 米国からは、帰国時の行動制限の継続性があるものの、日本の水際対策の軽減の影響もあり、訪日外客数は8万8100人と対2019年同月比で85・4%までに回復している。

 JNTOニューヨーク事務所の山田道昭所長は「海外からの観光客誘致は日本のパスポートを持たない外国人をメインターゲットにしていますが、在留邦人の方が一時帰国した際に、家族旅行などで地方の温泉など海外にまだあまり知られていないところに出かけ、そこの魅力を米国に戻ってからアメリカ人の知り合いなどに知らせてくれるという効果も期待できますし、日本国内を観光をすることは日本の観光産業の活性化にもつながるので、大いに在米邦人の皆さんにも日本観光を楽しんでもらいたいです」と話す。

 国土交通省の観光庁が「観光立国推進基本計画」の改定で、2月9日に交通政策審議会で、今後の観光立国推進計画の素案を発表している。それによると、インバウンド回復戦略では、(1)観光再始動事業(2)消費拡大と地方誘客促進(3)高付加価値なインバウンドの誘致を掲げている。その中で訪日外国人旅行消費額単価と宿泊数、1泊当たりの消費額単価共に向上させた。具体的には消費額は2019年の15万9000円から20万円に25%増。宿泊数は、同 1・35泊から1・5泊に10%増としている。

 同庁が提案するインバウンド回復戦略(1)として「文化・自然・食・スポーツなどの分野で『特別な体験、期間限定の取り組み』の創出。海外におけるイベントも活用してアピールする」。アートの国際的な拠点としての地位を確立する。酒蔵ツーリズムを推進する、などをあげている。また、これまで8つの国立公園を中心に進めてきた取り組みを、全34国立公園にも展開するとしている。コロナ前の訪日外国人旅行者数の復活と滞在時間の延長を目指す、などが骨子となっている。

 日本の観光地のホテルの中には、部屋を2つ繋げてスイートルームに改造、値段も一泊8万円近い部屋で販売するところもあるが、ニューヨークのマンハッタンの同じ広さの部屋なら妥当な値段とも言え、要は価値に見合ったサービスには海外の旅行者は納得してお金を払ってくれるということだ。日本で物価高が連日ニュースになっているが、NYの物価高から見ればまだまだ安く、米国から訪日する人にとっては円安の影響もあって割安感が得られる状況だ。円安と観光地のサービスの拡充で、在留邦人にとっても帰国観光のメリットが得られそうだ。

日本ふるさと名産食品展

ジャパンビレッジで

自治体国際化協会主催

 一般財団法人自治体国際化協会(クレア)が主催する「2023日本ふるさと名産食品展・イン・ニューヨーク」が2月23日から26日までの4日間、ブルックリンにあるジャパンビレッジのザ・ロフトで開催された。11自治体20事業者による日本各地の名産品を集めた物産展で、地域特産品の実食・販売が行われた。

 出展商品は、岩手県から(株)ミナミ食品の南部ゆば、神奈川県から(株)ナチュレの桜ゼリーや湘南ゴールドゼリー、福井県から(株)ベントフォークのお米のシフォンケーキ、和歌山県からマルヤマ食品株式会社の紀州梅、福岡市から西福製菓株式会社の八女抹茶、1924年創業の浜松のトリイソース、神奈川県バイオコスモ社の「きのバーグ」、宮崎県イートのキャラいもキューブ、鹿児島県海連の焼き芋、愛知県カクキューの八丁味噌など66品が販売された。 

 また食産品だけではなく、クレアと日本政府観光局(JNTO)のブースでは、地方都市の魅力を宣伝する英文パンフレットなどが並べられた。パンフレットを置いた自治体は岩手県、東京都、神奈川県、福井県、愛知県、和歌山県、愛媛県、宮崎県、鹿児島県、浜松市、福岡市。

 日本の地方都市の海外進出や出展紹介機運の高まりについて、クレアの交流支援部経済交流課の黒澤孝幸課長は「これまでパンデミックの時は動けなかったので、モノだけ送ってというところが多かったが、これからは対面でどんどん海外に出す食品展をやっていきたいという業者、自治体がが増えていくだろう。日本は少子高齢化でマーケットがどんどん縮んでいくので、これからは必然的に海外に目を向けて行かざるをえない。また、地方にそういう商品があると認知されれば、海外からのインバウンドにもつながる。日本ブランドはそれなりに確立されているものがあり、悪いイメージというのはまずないので、あとはどうやって現地のマーケットに合う形でいかにバランスを取って提供できるかが鍵だろう。例えば、佃煮を崩して売るという発想は日本ではないが、こちらでは少量を求めるスタイルもある。必ずしも日本そのままが売れるというわけではないので、ハードルのバーを少し下げて親しみ易くしてそこからバーをどんどんあげていくことも大切だ」と話す。

 同食品展は来年度もジャパンビレッジで開催する方向で調整中だという。「我々は自治体を支援するための組織なので、ニューヨークで支援してほしい、または他の土地で支援してほしいという要望があれば支援します。自治体がまず何をしたいのかという希望を組んで今後も取り組んでいきたい」と話している。

国籍法違憲訴訟は1勝1敗

 東京高等裁判所は2月21日国籍法11条1項を合憲とする判決を下しました。しかし、一審で門前払いされた原告2名に門戸が開かれた点は画期的な勝利で1勝1敗といえます。

 これは、スイス在住の野川等さん他が外国籍を取得しても日本国籍を自動的に失わずに「保持するかどうか当人が選択できる」よう改正を求める訴訟です。判決は、憲法22条2項は国籍離脱の自由は定めるが、離脱しない自由を積極的に保障してはいないと述べ、複数国籍を防止、解消する規定の目的は合理的だとして、一審に続いて合憲としました。

 他方、一審では、まだ外国籍を取得していないことを理由に原告としては不適格とされた2名を「門前払いはできない、原告として適格である」とした点で前進でした。これは居住国の国籍を取得する要件を満たす人であれば訴訟を起こせるとするものです。訴訟の門戸が各国の多くの日本人に開かれます。

 判決後の報告会には、里帰りしていた日本で、このまま出国すると日本に帰国できなくなる制度に承服できず、国籍法第11条違憲訴訟を進めている米国在住の近藤ユリ弁護士や、「英国在住の孫が日本国民としての権利保障がされない、母国から排除される法律だ」と指摘した山浦善樹元最高裁判事他も参加しました。

 こうした「当事者」が激増しています。海外の日本人「永住者」が過去最高の約55万人であるのに加え、コロナ禍で、日本国籍を奪われた日本人は「外国人」として帰国するためビザ取得が遅れて親の死に目に会えなかったなどの実害が増大しているからです。結婚や就職などのために居住する国の国籍が必要な日本人の権利や社会保障、アイデンティティを強制的に奪ってしまう国籍法を放置することはできません。

 原告側は最高裁に上告する意向です。高裁が外国籍取得によって日本国籍を失うという物事の重要性を認めたことや、合憲とすることの理論的整合性の難しさがさらに浮き彫りになったことが、最高裁へのとっかかりになります。

 しかし、これだけ海外日本人の「実害」が増大している今、裁判と並行して、海外日本人の権利や社会保障、アイデンティティを守るための法改正や、支援策を国会や行政府が検討すべき時です。国際結婚をした人々や移住した日本人にとっての複数国籍問題と捉えた国内の日本人も少なくないと思いますが、今やこの問題は他人事ではない問題となっています。内外の日本人の連携による支援を進めていきたいと思います。

3月13日 と18日に国籍はく奪条項違憲訴訟福岡の報告集会が開催されます。ご希望の方は以下からお申込み下さい。http://yumejitsu.net/

 ふじた・ゆきひさ=慶大卒。世界的な道徳平和活動MRAや難民を助ける会で活動した初の国際NGO出身政治家。衆議院・参議院議員各二期。財務副大臣、民主党国際局長、民進党ネクスト外務大臣、横浜国立大講師等歴任。アメリカ元捕虜(POW)の訪日事業を主導。現在国際IC(旧MRA)日本協会会長。岐阜女子大特別客員教授。

堀江監督の「最後の乗客」、カンヌ世界映画祭で受賞

 ニューヨーク在住の堀江貴監督の映画「最後の乗客」がカンヌ世界映画祭(カンヌ国際映画祭とは別団体)で受賞した。6月16日に今年のセレモニーアワードとグランプリを競う式典がカンヌで開催され、そこでこの映画も上映される。

 堀江監督は「あの有名なカンヌとは違う映画祭とはいえ、この無名の映画をカンヌの人々に見て貰える機会を頂けることは大変光栄です。しかも、審査員にはロード・オブ・ザ・リングのシリーズを手掛けたロケット・サイエンス・モーション・キャプチャー・スタジオのCEO、ステファン・キャスター氏やスパイダーマン・シリーズのビジュアルエフェクトを手掛けアカデミー賞を何個も受賞したジム・ライジェル氏などハリウッドの第一線で活躍するクリエーターが集まり、

その方々にこの映画を認めて貰えたことは本当に嬉しく思います。そして、宮城の被災地を舞台に震災をテーマにした映画が、こうして海外で上映され、いろんな国の人たちに見てもらえた、ということが、少しでも被災地の人たちの夢や希望に繋げられたら嬉しいです」と受賞の喜びを語っている。

 同映画は、東日本大震災から10年たったある東北の町を舞台に、震災で引き裂かれた父と娘の絆を描いたドラマ。