「軍事目標はほぼ達成した」「途方もない成功と呼べる」「標的はほとんど壊滅だ」「10点満点で15点」「私が望めばいつでも戦争を終わらせられる」──開戦から2週間以上ずっと大統領が勝利宣言を続けているのに、原油価格は2度目の100ドル越えでガソリンは急騰、株式は急落。確かにイラン空・海軍をほぼ壊滅しミサイル備蓄も破壊し、なんといっても最高指導者ハメネイ師を殺したのに、「戦場では勝っていても戦争に勝つのは別の話」だとワシントン・ポストが論評しています。
「勝って」はいるがホルムズ海峡は機雷の脅しだけでも事実上の封鎖。これで世界中が窒息しそうで、トランプはウクライナ侵攻で課したロシアの石油制裁を一時解除するという支離滅裂。15点の満足度なのに、ホルムズ海峡の通過船舶護衛のために、強くあたるはずの中国にまで支援を求めるという矛盾。しかもこの護衛要請には英仏や日本、韓国などが名指しされています。
米軍は確かに大きな戦果は上げていますが、戦争の行方はイランに握られているようです。しかも広域防空用の地対空迎撃ミサイル「パトリオット」が足りなくなりつつある。
ブルームバーグが指摘していることですが、パトリオットは1発400万ドル(6億4000万円)、対してイランが撃ち込んでくる自爆ドローン「シャヘド」は1機2万ドル(320万円)だそうです。米軍と湾岸同盟国はこれまでにパトリオットを1000以上発射。そのせいで迎撃がうまくいったとしても、200倍の価格差というのはいかにもコスパ最低。
大方の試算では今回の対イラン作戦の米軍の戦費は1日10億〜20億ドルとされ、すでに300億ドル(4兆8000億円)が投じられたとも言われます。「軍事的勝利」を宣言しつつも、このままだと国内経済に跳ね返ってくるのは時間の問題で、これは経済的敗北、ひいてはトランプ党の中間選挙敗北につながります。
ベネズエラでの電撃作戦の成功に調子づいての今回のイラン開戦ですが、ハメネイ師を殺害しても反体制蜂起は起きず、父親よりも強硬派と見られる次男が最高指導者になってしまう藪蛇状態です。トランプ忠臣の連邦通信委員長ブレンダン・カーはこの戦争への批判報道はフェイクニュースだとブチギレて放送免許取り消しまで口にし、戦争長官ヘグセスも戦争のリスクや犠牲を強調する報道を反トランプ、非愛国的と会見で非難する、まるで「大本営発表」体制です。
さて、そんな最中に日米が高市ートランプ会談を組んでしまったという間の悪さ。通常、首脳会談というのは事務方が全てお膳立てして首脳同士は手打ちでチャンチャンという儀式的なものなのですが、今回はそうも行きますまい。トランプが何を要求してくるかまだわかりませんが、①対イラン戦争への明確な支持表明②戦費の負担③日本で配備・製造されているパトリオットなどの武器提供、でしょうか。
で、これに「自衛隊のペルシャ湾派遣」が加わる。「日本のタンカーは自分の国で守れ」とか「そのための機雷除去も自国で行え」と言われる。関係省庁はその想定問答を必死に考えているのでしょうが、実際の派遣には「存立危機事態」「重要影響事態」「海上警備行動」などの名目が必要なのです。ただし今回の状況ではいずれも憲法上不可能あるいは法律上困難。
従来の大統領なら平和憲法を盾に米軍事戦略の受動的な役割で曖昧お茶濁しも受け入れてくれましたが、今の相手はトランプ。これまでのそうした戦後日米同盟体制も「はい、終了」と裏切り者認定されるかもしれません。
トランプの世界秩序の破壊が、日本に波及する第一弾が今週姿を現すかもしれ状況に、高市さん、体調不良で急きょ会談中止ってのが一番無難な道ですが、それもまあ単に問題の先送りにしかなりません。21世紀の日本の新たな道を切り開く、誰か優秀な政治家が現れないものでしょうか。
(武藤芳治/ジャーナリスト)