編集後記

編集後記

 みなさん、こんにちは。 米国とイスラエルによるイランとの戦闘の激化で、石油タンカーが通るホルムズ海峡封鎖の影響が米国内のガソリン価格にも跳ね返ってきています。トランプ大統領のレビッツ報道官は「値上がりは一時的なもの。最終的には鎮静化する」と記者会見で豪語する様子がテレビで流れていましたが、現実的には、海峡が安全に航行できるようにならない限り、首根っこを掴まれているようなもの。全米のレギュラーガソリン価格は9日時点で1ガロン(約4リットル)当たり3ドル48セントとイラン攻撃直後と比べて16%値上がりしています。

 週刊NY生活を印刷しているニューヨーク市クイーンズ区のロングアイランドシティー界隈にはガソリンスタンドがいくつかあり、10日、レギュラーが3ドル49セントと1週間前の2ドル75セントから69セント高い値段で販売され、スタンドのおじさんの話では、連日10セント幅で値上ってきているそうです。プレミアムは4ドル69セントから78セントの幅で売られ、前週の3ドル98セントから4ドルを突破しています。この勢いだとレギュラーが5ドルを突破するような事態も時間の問題でしょうか。

 給油中のウーバーの男性運転手は「週にガソリン代だけで300ドル使う。今まで60ドルあれば満タンだったのが今は90ドルかかる。ウーバーはガソリン代は自腹なのでとてもきつい。満タンではなく30ドルずつこまめに入れている」とため息をついていました。今週号の1面で報じています。

 原油先物価格は8日に2022年以来4年ぶりに1バレル当たり100ドルの大台を突破しましたが、トランプ大統領が「戦争はほぼ完全に終結した」と発言したとの報道で中東の混乱が早期に収束するとの期待感が広がり、売り注文が優勢となり、8日の売買で一時120ドル台まで迫った価格は81ドルまで40ドル余り下落して今日は90ドル台に。給油所の価格上昇はまだしばらく続くとの警戒感がドライバーに根強いようです。

 ホルムズ海峡で日本の商船三井の船が損傷したとのニュースも今朝のニュースで飛び込んできました。世界の石油需要の20%という少なからぬ要衝を人質に取ったイランと徹底攻撃するという米国の間に入って、46隻の日本船籍の船が未だ海峡で足止めを食っている日本が、通貨タンカー護衛のために自衛隊派遣など否応なしに米国&イスラエルとイランの戦闘に巻き込まれていかないかとても気になります。気にしているだけではだめなのですが、伝えることが仕事なので小さなことでも字にしておきたいと思います。来週はなんて書くのか、自分でも分からないところがこの仕事の醍醐味ですね。直接取材して、まだネットに載っていないことを紙面に印刷することでしかもはやAIには対抗できないような気もします。それでは、みなさんよい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】(2026年3月14日号)

(1)ガソリン価格高騰 NY市ガロンで4ドルに接近

(2)舞台版の呪術廻戦 ジャパンパレードに

(3)伝統前掛け展示販売 27日カトー・サケ・ワークスで

(4)日本の安全保障のために枢軸の名誉を断念する時

(5)ワールドカップまでカウントダウン時計

(6)偽の預言者の登場 視座点描

(7)ユニクロ五番街に ブライアントパーク店

(8)顔は撮らないの? ニューヨークの魔法

(9)歌って踊れるエンターテイナー raTera (ラテラ)さん

(10)伝統という名の暴力と、楽譜という名の盾

ガソリン価格高騰 NY市ガロンで4ドルに接近

戦闘開始1週間で16%近く上昇
「満タンにできない」

 米国とイスラエルによるイランとの戦闘の激化で、石油タンカーが通るホルムズ海峡封鎖の影響が米国内のガソリン価格にも跳ね返ってきている。全米のレギュラーガソリン価格は9日時点で1ガロン(約4リットル)当たり3ドル48セントとイラン攻撃直後と比べて16%値上がりしている。

 ニューヨーク市クイーンズ区のロングアイランドシティーのガソリンスタンドでは10日、レギュラーが3ドル49セントと1週間前の2ドル75セントから69セント高い値段で販売され、連日10セント幅で値上ってきている計算だという。プレミアムは4ドル69セントから78セントの幅で売られ、前週の3ドル98セントから4ドルを突破している。

 給油中のウーバーの男性運転手は「週にガソリン代だけで300ドル使う。今まで60ドルあれば満タンだったのが今は90ドルかかる。ウーバーはガソリン代は自腹なのでとてもきつい。満タンではなく30ドルずつこまめに入れている」とため息をつく。

 またあるドライバーは「ニュージャージーに行った時は安いので入れてくる」という。そのニューヨーク近郊では比較的価格が安いとされるニュージャージー州でも10日、エッジウォーターのガソリンスタンドで、戦争前に2ドル76セント前後だった価格が3ドル29セントに値上った。

 原油先物価格は8日に2022年以来4年ぶりに1バレル当たり100ドルの大台を突破したが、トランプ大統領が「戦争はほぼ完全に終結した」と発言したとの報道で中東の混乱が早期に収束するとの期待感が広がり、売り注文が優勢となり、8日の売買で一時120ドル代まで迫った価格は81ドルまで40ドル余り下落した。だが給油所の価格上昇はまだ続くとの警戒感がドライバーに根強い。

(写真)ガソリンを給油する市民(10日クイーンズで)

舞台版の呪術廻戦 ジャパンパレードに

ⒸGA/S,JKS


 5月9日(土)に開催されるジャパンパレードの日本からの特別ゲストとして、 『舞台「呪術廻戦」ー壊玉・玉折ー』のキャストを迎えることが決定した。芥見下々による『呪術廻戦』は、2018〜24 年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載され、コミックスのシリーズ累計発行部数 1 億 5000 万部(電子版含む)を突破した大人気漫画。同作の舞台化シリーズ第 4 弾の本作は昨年に日本初演、アクションや臨場感が大きな話題を呼んだ。ジャパンパレードには、舞台版のキャストから、五条 悟(三浦涼介)、夏油 傑(藤田 玲)、伏黒甚爾(久保田悠来)、3人の呪詛師(森貞文則、南 誉士広、北村 海)を迎える。キャストは日本国外では初お披露目となる。

(写真)ⒸGA/S,JKS

伝統前掛け展示販売 27日カトー・サケ・ワークスで

 「前掛け」専門製造販売会社の有限会社エニシング(本社東京・西村和弘代表)は、3月27日(金)の午後5時から10時まで、ブルックリンの酒蔵「カトー・サケ・ワークス」(379 Troutman St, Brooklyn, NY)のタップルームで、日本の伝統的な酒蔵前掛けの販売・展示イベントを開催する。

 前掛けは、日本の酒蔵や商家で働く人々が腰に巻いてきた仕事着であり、丈夫な生地と伝統的な染めで作られる実用と文化を兼ね備えたアイテム。今回のイベントでは、現在も愛知県豊橋で100年以上前のトヨタやスズキ製のシャトル織機で作っている日本唯一の前掛け専門メーカー「エニシング」の西村代表が来場し、前掛け文化を紹介するレクチャーや、前掛けの販売会・試着体験会を行う。また、英語およびフランス語で書かれた日本の前掛け文化・製法を紹介する書籍「MAEKAKE by Anything」の紹介や、日本で60〜80年前に実際に使われていた酒蔵前掛け(ヴィンテージ)約10枚の特別展示も行うほか、カトー・サケ・ワークスで実際使用している前掛けの限定販売もする予定。

 ニューヨークの酒蔵「カトー・サケ・ワークス」の空間で、日本の酒造文化と密接に関わりのある前掛けの歴史と現在を体感できる貴重な機会となる。なお、「週刊NY生活を見て来た」と伝えるとちょっとしたギフトも用意されているそうだ。

 問い合わせは、有限会社エニシング・西村代表まで [email protected]

日本の安全保障のために枢軸の名誉を断念する時

 日本を取り巻く安全保障の環境は厳しさを増している。ここ数年の動きの中でも、まずウクライナへ侵攻したロシアは北朝鮮との軍事同盟を強固にしたし、中国は台湾統一の姿勢を強めている。これに今回のイラン情勢が重なってきた。ベネズエラでの一件も含めて、国際法は事実上これで機能停止となっている。ここ数日のアメリカの姿勢は、紛争の長期化を望むかのようであり、原油価格は高騰を始めた。そんな中で、19日より訪米する高市総理には、自衛隊によるホルムズ海峡におけるタンカー護衛活動などが要請される可能性もある。

 この点に関しては、高騰した原油価格を前提として日本はアメリカ産出のシェール・オイルなどの購入を申し出るとか原発再稼働を進めるという代替案はあるにはある。それでもLNGの需給が逼迫する中では、海峡依存のゼロ化は非現実的、となれば自衛隊の派遣要請を断ることは難しい。

 一方で、高市政権は武器輸出の拡大に積極的である。これは斜陽化した製造業が、世界の消費者を相手としたマーケティングができなくなり、究極の官需である軍需に依存する構図だとも言える。けれども、巨大な事務部門の維持費を捻出しなくてはならない財界としては、避けて通れない道という覚悟が見られる。

 こうした動きの全体は、近隣諸国、特に中国を刺激する。このことについては、日本の世論は理解しているのは間違いない。ただ、ここ数か月の動向を考えると、尖閣や台湾の問題で敵対しているとか、東西両陣営の冷戦の延長としての対立では済まされない状況となっている。

 1つは、法の支配、自由と民主という西側の共通理念が崩れたという問題だ。これによって、中国を批判する根拠となっていた理念が使えなくなっている。日本から見れば、自由のない権威主義的体制が与那国の先まで迫るのだとしたら、これは大変な恐怖である。けれども、これに対する同盟自体が理念的結束を喪失したということの恐ろしさは、より深刻だ。

 2つ目は、台湾侵攻準備を完了するという国家目標が、どうやら2028年のトップ人事に絡んでいるという問題だ。外交官による総理に対する暴言や、様々な交流停止が詭弁に近い形で繰り出されるのには、この問題があると考えられる。習近平氏はポスト習近平の候補かもしれないが、「4期目」に進めるかは権力闘争次第であり、その権力闘争では台湾問題における強硬さが競われるという不幸な状態に陥っていると考えられる。ということは、当面、現在の強硬姿勢が緩和される可能性は少ないであろう。

 この2つの問題が動かせない中では、ある意味で高市政権は台湾海峡における対立エネルギーを、相当な圧力で受け止め続ける必要が出てきた。2月の総選挙ではこれを政治的求心力にすることに成功した高市氏であるが、この緊張状態を続けるのは得策ではない。

 4月にはトランプ大統領が訪中し、習近平氏との首脳会談がある。中国がイラン情勢に関して沈黙を守っているのは、この4月における米中会談を意識しているからだが、そこでは恐らく暫定的な通商合意が成される可能性がある。そうでなくては、厳しい中国の国内経済を安定させることはできないし、米国の物価高も国民の許容範囲を超えてしまう。仮に米中合意が成立するのであれば、日本だけが孤立するのは何としても避けねばならない。

 そこで高市氏には、師として崇める安倍晋三氏のように、日中の首脳外交を復活させていただきたい。その際に支障となるのが、長年の高市氏の言動である。奈良という難しい選挙区で苦労した中で、いわゆる保守票の心情に残る「枢軸日本の名誉」へのこだわりに理解を示してきた氏だが、この点については断念していただきたい。そうでなくては「日本軍国主義は日中人民の共通敵」だという周恩来ドクトリンが崩壊し、福田赳夫の結んだ日中条約の理念も壊れてしまうからだ。そのことは、決して戦没者の名誉を汚すことにはならないことは、昭和の官民が一体となって体現していたはずである。

 西側同盟の優等生として自由と民主という理念を守り、欧州やカナダ、豪州との連携を強化して安全を確保するにも、この問題は避けて通れない。2月の総選挙における大勝には、そうした期待も込められていると信じる。

(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)

ワールドカップまでカウントダウン時計

コロンバスサークル
決勝戦の7月19日まで駆動

 FIFAワールドカップ2026ニューヨーク・ニュージャージー開催都市委員会は開催100日前となった3日、コロンバスサークルのショッピングモール「ザ・ショップス」の1階に、開催までの時間を秒単位で示すデジタル時計を設置した=写真=。

 初戦は6月11日にメキシコシティで行われ、時計はメットライフ・スタジアムで決勝戦が行われる7月19日まで駆動する。FIFAワールドカップ2026は48チームが参戦、試合数は北米16都市で104戦と同ワールドカップ史上最大規模で、米国とカナダ、メキシコの3か国の主催というのも初めてとなる。

 3日にはエンパイアステートビルもホスト国を象徴する色、米国の赤と白、青、カナダの赤と白、メキシコの緑と白、赤に点灯し、100日前を祝す式典「100デイズ・トゥ・ゴー」には同委員会ほか米国サッカー連盟(USSF)、カナダ・サッカー協会、メキシコ・サッカー連盟(FMF)の代表、同大会の公式マスコットのメープルとザユ、クラッチが出席した。同時にFIFAは、ブルックリンを拠点とするコンセプチュアルアーティストのハンク・ウィリス・トーマス氏、カナダ在住のカーソン・ティン氏、メキシコのミネルバGM氏が制作したワールドカップ2026の公式ポスターを公表した。

偽の預言者の登場 視座点描

 「アメリカ・ファースト」という内政重視の公約を転換したかのようにトランプ政権がイスラエルとともにイランへの大規模攻撃を始めました。さてその攻撃は「4、5日で終わる」から「4、5週間」に変わり、さらには「永遠に続けることができる」とも豪語されていますが、いや逆に、今後の見通しや出口戦略に関してホワイトハウスと国務省と戦争省(国防総省)の言い分が互いに齟齬をきたすなど、どうもよくわからない。

 イスラエルと米国による昨年6月のイラン核施設攻撃の時から、イランへの大規模軍事行動は湾岸全域からトルコにまで展開する米軍駐留拠点がイランの報復攻撃の対象になると警告されていました。現在の報復状況にたじろぐふうなトランプ政権に関して、サウジアラビアの元情報長官が「トランプが驚いているということに私の方が驚いている」とPBSに語っています。

 ところで政権の公式の演説や会見では出てきませんが、英紙ガーディアンなどによると30以上の米軍基地の指揮官らが、この対イラン攻撃は「神の計画」であり「ハルマゲドン(最終戦争)」につながるものだとして部隊を鼓舞しているようです。「トランプはキリストによって聖油塗り(選任)され、キリストの再臨を招く狼煙に火をつけた」と、まるで「宗教戦争」であるかのように焚きつけているのです。

 ヨハネの黙示録では、ハルマゲドンで悪が滅ぼされ、サタンの千年幽閉と共に千年王国が始まるのだそうです。トランプ支持の福音派にとってはそのハルマゲドンの契機となるキリスト再臨に「イスラエルの地」が必要なので、「だからそこを攻撃するイランは破壊する」という論理らしい。

 いやいや、今回の開戦はネタニヤフにとってはガザの後でも戦争を継続しないと自分の刑事訴追が待っているし、トランプにしてもエプスティン文書から目を逸らさせなければという両者ともの国内事情も重なったもの。ここ数週間続いていたイランとの核協議も、国務長官のルビオは昨年の空爆以降でイラン側にウラン濃縮の痕跡もないと発言していて、単に見せかけの開戦回避努力のアリバイ作りでした。

 攻撃が既定路線だったことは、年初からのエイブラハム・リンカーン空母打撃群に加え世界最大級のジェラルド・フォード空母打撃群をも追加配備したことからも明らかです。これほどの大規模展開で何もせずに通常任務に帰還させるなんてことはかつてほぼ例がないからです。何せ展開するだけで1日で数十億円もの税金が費やされるのですから。

 さてそこでトランプの国内事情です。「アメリカ・ファースト」派が割れています。「最終戦争」を持ち出した冒頭の指揮官の「訓示」は戦闘に大義を持たせ部隊の士気を高めるいつものスピーチかもしれませんが、これは前回の本欄で触れたピーター・ティールの終末論的加速主義と重なり、MAGA福音派の根本的なトランプ支持心理を大いに刺激するのです。

 彼らには作戦名の「壮大な怒り」も黙示録の「神の怒り」に重なるし、イスラエル軍の「咆哮する獅子」作戦の「獅子」は聖書ではまさに救世主のこと。開戦の生臭い政治的目的も、宗教的文脈を忍ばせれば士気も支持も増すという、これも実にアメリカ的な一面でしょう。もっとも、今のところこの対イラン戦は当初の思惑に外れて不支持が圧倒しているのですが。

 ちなみに黙示録にはキリスト再臨前に「偽の預言者」も登場してきます。彼はキリストを真似るのですが実際はサタンの言葉を語り、嘘と欺瞞に満ちていて、外面はキリスト然としていても中身はサタン、と真逆なのだそうです。

 ま、どうとでも解釈できるのが宗教の言葉──ちなみにそいつは自分の像を作らせ自分の徴(しるし)を刻印させ、天から火を降らせるとか。

 ミサイルやドローンの降り注ぐ地域が中東全域に広がっています。

(武藤芳治/ジャーナリスト)

ユニクロ五番街に ブライアントパーク店

 ユニクロは6日、ニューヨーク市内に3店舗目となるブライアントパーク店をオープンした。ニューヨーク公共図書館との提携を通じて文化プログラムや青少年向けプログラムを支援すしながら地元のアーティストや文化パートナーと協働したローカル要素を取り入れた商品が提供される。

 「ライフウェアの日常着を消費者に届ける」を目的に、街で過ごす毎日をより快適にするためにデザインされたベストセラーアイテム、その品質の高さと最先端の機能性を手に取って品選びができる。

 場所は、五番街の42丁目と43丁目にある元銀行のビル1階と2階を使い、地上に残る大型金庫の扉や内装はそのままに、遠い外からでも見える2階店内の電飾看板が特徴。

 五番街には既に53丁目旗艦店を構えるが、グランドセントラル駅とタイムズスクエアに挟まれたブライアント公園にそのネーミングを採用している。開店当日は、先着500人に記念ギフトや地下鉄マークの入ったトートバッグがプレゼントされた。ユニクロでは3月20日にニューヨーク市内にウイリアムズバーグ店、4月3日にユニオンスクエア店をオープンする。

 営業時間は午前10時から午後8時まで。金、土は午後10時まで。日曜の開店は午前11時。

顔は撮らないの? ニューヨークの魔法

 ある朝、家の玄関の石段に、バスケットが置かれていた。中には、殻がピンクや黄色に染められた卵がいくつかと、ウサギの形のチョコレートなどが入っていた。もう二十年ほど前に、ウィスコンシン州の高校に留学していた時のことだ。

 友人のマリー・ジョーから届いたイースターのお祝いだった。多産なウサギ(バニー)と、命の始まりである卵が、その象徴になっている。

 子どもたちは卵をさまざまな色に染める。鮮やかな色の卵は、もともと春の日の出をイメージしている。また、公園や庭で、エッグハント(卵狩り)を楽しむ。いろいろなところに隠された卵を、探し当てるのだ。

 この日はクリスチャンが最もおしゃれをする日だといわれる。五番街のイースター・パレードでは、華やかな帽子をかぶり、着飾った人たちが練り歩く。奇抜な格好をする人も多く、本物のイグアナを肩に乗せてやってくる日本人もいる。パレードというより、ファッション・ショーといった感じだ。観客の注目を浴びなくなると、引き上げていく。

 They’re in their Sunday best.

 人々は晴れ着姿だ。

 昔から、教会には晴れ着で出かけたのである。日曜日にはハーレムでも着飾って礼拝に集う黒人家族を見かけるが、イースターは特別だ。最高のおしゃれをして、教会に出かけていく。

 ある年のイースターに、ハーレムをぶらぶらしていると、白い帽子に黄色のバラの花とレースで飾られた見事な帽子をかぶっている黒人女性を見かけた。

 この時も私は、出版される本のために写真を撮り歩いていた。イメージ写真がほしかった。

 とてもすてきな帽子ですね。写真を撮らせてもらえますか。

 そう尋ねると、その女性は少し恥ずかしそうだったが、もちろん、どうぞ、と言ってくれた。バラの花が見えるように、横を向いて立ってもらった。

 シャッターを切り続け、十分ほど経っただろうか。

 あの、とその人がこちらを向いた。 私の顔は、写真に写らなくていいのかしら。

 このエッセイは、シリーズ第1弾『ニューヨークのとけない魔法』に収録されています。

歌って踊れるエンターテイナー raTera (ラテラ)さん

新しいタブでプレビュー

NYで歌手デビューしたダンサー

 ニューヨークの名門ライブハウス「アーリーンズ・グローサリー」で2月12日夜無​​料ライブ公演が開催された。JポップアーティストのKAZUMAが来米したステージで共演したraTera(ラテラ)は竹内まりやのプラスチック・ラブを澄んだ歌声で披露したあと、宿命 、ケセラセラ 、 SUNの4曲30分、その透明感ある歌声としなやかな身体表現の絶妙のバランスで、会場の聴衆を引き込み、詰めかけた大勢のファンを魅了した。

 本名、望月美佐。ニューヨークを拠点に活動を始めたシンガーで、クラシックバレエおよびコンテンポラリーダンサーとして日米の舞台に立ってきたアーティストだ。ラテラは、新たに立ち上げた自身の音楽プロジェクトの名前で芸名だ。

 兵庫県出身。幼少期よりバレエを学び、身体を通して表現を探求してきた。高校時代に8週間ニューヨークのジョフリー・バレエスクールに短期留学、その後、大阪外国語大学外国語学科イタリア語専攻で進学、入学後に合併した大阪大学を卒業したが、一貫して学業とは別にバレエ一筋の青春時代を過ごした。だが、自分の将来を考えたとき、バレエカンパニーで活躍するには、身長制限で合格基準に足りなかったこともあり、地元のバレエスクールで指導者としての道に進むかどうか迷っていた時、「このままいても何も変わらないよ、また、もう一度NYに行ってみたら」とのバレエ仲間の友人に背中を押された。親にも勤務先にも内緒で動画の履歴書をNYに送った。高校時代に過ごしたジョフリー・バレエスクールから合格通知がきて再びNYの地を踏んだ。現在もダンサーとして忙しい毎日だ。4月11日には所属するインターナショナルアメリカンバレエのプリンシパルとしてダンス祭で2曲踊る。そんなダンサーとしての望月が「いろんな道を通ってきて、いろんな仮面をつけて30年以上生きてきて、自分のままで見てもらうのがゴールだと思うようになった」と話す。

  その歩みの中で、「声」というもう一つの表現手段と向き合うようになり、 raTeraという名前が生まれた。現在ファーストシングルが完成して、レコーディングを近日行う予定だ。長い時間をかけてやっと歌詞が完成しても、なかなか話が前に進む作曲家に出会うことが出来なかった。それがライブの翌日に縁に恵まれた。紹介されたその作曲家の青年は、ギターを持っていきなり弾き始め、軽い感じで曲を作り始め、曲作りもスムーズに運んだ。

 「自分の中で、ずっとスタックしていたのに、流れる時はこうやって流れるんだな」と実感した。歌のミューズ(女神)が微笑んだ瞬間に思えた。歌って踊れる日本人のエンターテイナーがまた一人、ニューヨークで生まれた。

 (三浦良一記者、写真も)

伝統という名の暴力と、楽譜という名の盾

 最近、クラシック音楽界を揺るがす象徴的な出来事があった。世界的なピアニスト、ユジャ・ワンに対してある米男性評論家が、メールの返信がないと公の場で非難。

 それに対して、ユジャも彼からのメールを公開し、これは女性差別的なイジメであると応酬。これを受けて、BBC Radio3は彼を解雇したり、高名な米女性評論家も参戦しユジャの側に立つなど、単なるSNS炎上ではなく、クラシック界が抱える古い価値観や権力構造への議論に発展した。女性やアジア人であるという事に対する差別めいたものは、ここ20年ほどで随分改善されて来た様に感じていたが、彼女のようなスターにでもまだ起こるという失望や驚きの他に、胸に去来するある種の感情が甦って来た。かつてヨーロッパの歌劇場で歌っていた際に出遭った暴力的な偏見に対してのものである。イタリアでドニゼッティの傑作《ランメルモールのルチア》のタイトルロールを任された時のこと。あるリハーサル中、チュニジア系演出家が私の足元を見て、ニヤニヤしながら言い放った。「その醜い靴は、どうせアメリカで買ったのだろう? あそこには文化がないからな」。さらに言葉の刃は止まらない。「なぜオペラを学ぶのにアメリカなんて行ったんだ?だから、君にはイタリア文化の真髄が理解できてないんだ。美術館へ行ってラファエロやカラヴァッジョでも拝んでこい」。私から言わせれば、そういう彼こそイタリア文化のみならず、知性のかけらもない演出家で、私とダブルキャストだった大ソプラノや、彼の蔑むアメリカの男性歌手には一切ものが言えない憶病者だった。又ある公演では、「そんな事も出来ないなら、田んぼの国へ帰れ」という言葉が浴びせられた事もある。それを言ったのは高名なイタリア人演出家だったが、側にいた大勢のイタリア人やドイツ人のキャスト達が思わず顔をしかめ、慰めてくれた。若くてイタリア語がまだ不自由だった事もあり、悔しさと屈辱に、毎日楽屋で号泣する日々が続いた。が、いつも沈黙を守り続けたわけでもなかった。ルチアの解釈を巡り「君にはイタリアの心がない」と断じられた際には、「マエストロ、この物語の舞台はスコットランドです」。また、歌唱のスタイルを頭ごなしに否定された時は、静かに、しかし毅然と楽譜を開いて見せた。「ドニゼッティは、ここにピアニッシモと記しています」。その瞬間、空気が変わった。作曲家が残した楽譜というバイブルは、いかなる権威的な演出家の主観よりも強い説得力を持つ。私が楽譜を克明に読み込み、音楽に対して誠実である事を理解していた指揮者も、私の側に立ってくれた。そんな事もあって、次第に彼は、私に対して敬意を持って接するようになった。伝統という盾の裏側に隠れた偏見を打ち破ったのは、他ならぬ音楽そのものの力だった。クラシック音楽は、長い歳月をかけて磨き上げられた至高の芸術である。だが、その伝統の陰には、自分達こそ文化の正統な所有者だという排他的な優越感、歪んだ権力構造、が今だに横たわっている。特にヨーロッパにおいて、オペラは自国文化であり、アジアから来た異邦人は、常に厳しい審判の目に晒される。

 ユジャ・ワンを巡る議論がこれほどまでの熱を帯びたのは、音楽界がようやく、その内側に潜む無意識の偏見や旧態然とした価値観を直視し始めたからだろうか。芸術とは本来、人を規定の枠組みから解き放ち、世界を拡げる為のものである筈だ。多様な背景を持つ才能が、出自や性別というフィルターを通されることなく、一人の音楽家として等しく尊重される場所へ。私の経験したあの日の涙が、次世代のアーティストたちの糧となり、より開かれた音楽界の未来へと繋がることを切に願っている。

田村麻子=NYタイムズ紙に「輝くソプラノ」と絶賛されリンカーンセンターデビュー。欧米歌劇場で『椿姫』『ルチア』『蝶々夫人』他、数々の主役に抜擢。W杯前夜祭3大テナー公演で故パヴァロッティらと共演。MET管、BBC交響楽団などと共演。MLB公式戦にて外国人初の米国国歌斉唱の栄誉を担う。ディステファノ国際コンクール(伊)1位。米マネス音楽院首席修了。世界を舞台に活躍する国際的プリマドンナ。