編集後記

編集後記



 みなさん、こんにちは。ゾーラン・マムダニNY市長は、市の公益事業を支援する非営利団体「市長基金」の諮問委員会を全面的に刷新し、現委員全員を退任させる方針を明らかにしました。委員全員が交代するのは、少なくとも過去3代の市長政権では初めてとされ、市政と経済界との関係に変化をもたらす動きとして注目されています。


 退任する委員には、NYの経済界を代表する企業幹部が名を連ねています。マムダニ市長は今年就任後の4月、市長基金の理事会に元港湾労働者や高校教師を起用するなど、従来の経済界中心の運営体制を大幅に見直しています。今回の諮問委員会刷新も、その流れを引き継ぐ施策とみられています。


 1995年に設立されたこの「市長基金」は、企業や財団、個人から募った資金を、市の公共事業や緊急支援活動を後押しする役割を担ってきました。民間から集めた資金をどの公共事業に振り分けるかの言わば御意見版として君臨してきた企業トップを全員すげ替えた今回の改革の動機がどこにあったのか、発表された内容には、その理由は示されていません。


 お金に絡む癒着や腐敗を妨げるために、制度としての刷新システムの構築はもちろん理にかなっていますが、なんでもそうですが、長年にわたって機能しているシステムにはそれなりの安定した仕組みに支えられているものです。今回の市長の発言やトランプ大統領の「出生地主義の制限」の大統領令もそうですが、アメリカの政治はトップダウンといえば聞こえがいいですが、要するに独断でなんでも決めているだけではないのかとも見えます。


 日本の国会のように、政策の文言一つを巡って与野党の駆け引きが何日も続くような牛歩の国会も、どうかと思いますが、アメリカから学んだ民主主義を実直に行使している日本と、勝手に「自分の頭の中で信じた理想」を押し付ける政治が目立つ今のアメリカと、日米のいいところと悪いところの両方が見えてしまう在米邦人としての視座がゆらゆらと揺れているのを感じた今週号でした。


 そもそも姉妹都市の東京の小池都知事が、NYに1週間も異例の長期滞在をしても、面会することすらしなかったマムダニ市長は、外交を軽視しているのではないか、失礼だという声も聞かれます。今回の諮問委員会委員の全員のいきなりの解任にも経済界から反発の声が出そうです。市長には、一般常識で考える人間としての何かが、一部別の異次元の細胞に置き換わっているような印象を持つのは、私くらいなものかもしれませんが。そういえば昔、新人類という言葉が日本で流行りましたね。死語ですが、なんかNYで今ごろになって思い出してしまいました。それではみなさん良い週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)








【今週の紙面の主なニュース】(2026年8月15日号)

(1)出生地主義を制限へ 大統領令に署名

(2)ダレカ買ッテクダサイ メトロカード自販機競売

(3)第6回ジャパンビレッジ夏祭り 日本の地方都市文化を紹介

(4)相続対策は「節税」だけではない  帰国に関する相談室

(5)広島、長崎、原爆投下から81年  NYで平和の集い

(6)同時多発テロから25年 9.11博物館で特別展

(7)週刊やさしいにほんご生活

(8)矢野顕子が特別公演 JSで上妻宏光らと9月18日

(9)地下鉄で、アケマシテ、オメデトーゴザイマス

(10)42歳で来米して振付師として活躍  戸塚 慎さん

出生地主義を制限へ 大統領令に署名

「出産ツーリズム」も標的に

 トランプ米大統領は8月6日、米国内で生まれた子どもに原則として米国籍を与える「出生地主義」の適用を制限し、外国人女性が子どもの米国籍取得を目的に渡米して出産する「出産ツーリズム」を取り締まる二つの大統領令に署名した。

 米連邦最高裁は6月30日、不法滞在者や一時滞在者の子どもへの出生地主義を否定したトランプ氏の従来の大統領令について、6対3で認めない判断を示していた。トランプ氏は新たな大統領令で、外交官など外国政府職員の子どもや、「外国の敵」とみなされる人物、指定テロ組織の構成員らの子どもなどを出生地主義の対象外とする方針を示した。

 もう一つの大統領令では、出産を主目的として非移民ビザで米国に入国する「出産ツーリズム」の取り締まり強化を国務省と国土安全保障省に指示した。出産目的と判断された外国人へのビザ発給や入国を拒否したり、虚偽申告が判明した場合にビザを取り消したりする措置を想定している。

 トランプ氏は出生地主義を定めた憲法修正14条について、南北戦争後に解放された奴隷の子どもに市民権を保障するためのものだったと主張している。

 一方、最高裁は6月の判決で、米国内で生まれ米国の管轄下にある子どもには原則として市民権が保障されるとの判断を示した。米自由人権協会(ACLU)は、新たな大統領令によって憲法の意味を変更することはできないと批判しており、今回の措置についても今後、法廷で争われる可能性が高い。

ダレカ買ッテクダサイ メトロカード自販機競売

19日まで入札受け付け 

 NYCトランジット・オーソリティは現在、昨年で販売が終了したメトロカードの発券機の競売を行っている。約30年間使われたメトロカード・ベンディング・マシーン(MVM)とメトロカード・エクスプレス・マシーン(MEM)の競売の買受可能価格は1500ドルからで、今月19日まで入札を受け付けている。 

 MVMの初代は1999年1月25日に設置され、高さ80インチ(2・3メートル)、幅42インチ(1・7メートル)、奥行き36インチ(92センチ)、重さ約1050ポンド(476キロ)、小型の非キャッシュのMEMは重さ約210ポンド(95キロ)で支払処理機能は外されている。最高額入札者には、8月末の入札終了後に都市交通局(MTA)からEメールで通知があるが、通知当日に全額を一括で支払い、10日以内に自身で輸送を手配しなければならない。廃止になったプラスチック製のメトロカードは、競売サイトで3500ドルの高値が付いている。入札など同競売の詳細はhttps://www.mta.info/article/mvm-mem-saleを参照する。

第6回ジャパンビレッジ夏祭り 日本の地方都市文化を紹介

青森、山口、盛岡、山形

8月29日(土)午後1時からブルックリンで開催

 ブルックリン区サンセットパークにある日本文化発信のための複合商業施設ジャパンビレッジ(934 3rd Avenue)の中庭で29日(土)午後1時から6時まで、日本の夏の風物詩である夏祭りの文化をニューヨーカーに紹介するイベント「ジャパンビレッジ夏祭り」が開催される。今年で6回目の開催となる。 

 今年は、昨年に続き「日本の地方都市文化の紹介」をテーマに、青森、山口、盛岡、山形の4つの都市をメインに紹介するほか、各地の郷土芸能の披露や観光案内を行い、日本のさまざまな都市の魅力をニューヨークで発信する。  メインとなる4つの都市の紹介内容は次のとおり。  

【青森】 

・地元の名酒「田酒」「八仙」「杉玉」の試飲会 

・県内の伝統芸能である「黒石よされ」などの郷土舞踊を披露 

【山口】 

・昨年に続き、山口市の市民総踊りで知られる伝統芸能「大内の殿様」のダンスコンテストを開催 

・優勝者には山口旅行を進呈 

【盛岡】 

・第4回わんこそば大会の開催 

・優勝者には日本行き航空券を進呈 

【山形】

 ・「花笠踊り」「酒田甚句」など地元の伝統芸能の踊りを披露 

・庄内地方の銘菓「オランダせんべい」の試食と販売  

 さらに、日本舞踊の民舞座、阿波踊りニューヨーク連、よさこいグループ・紅玉、タイコマサラなどが出演しステージパフォーマンスでお祭りを盛り上げる他、フィナーレには「炭坑節」や「東京音頭」などの盆踊りを来場者と一緒にみんなで輪になって踊る。イベント敷地内には、ヨーヨー釣り、おめん販売、おもちゃくじ、綿あめ、かき氷、ラムネ、日本のおかし、焼きトウモロコシなどの屋台が出店し、子供から大人まで日本の夏の祭りを堪能できる体験型・交流型のイベントとなっている。雨天の場合は、ジャパンビレッジ2階のイベントスペースで開催する。ジャパンビレッジ・ウェブサイト www.japanvillage.com

相続対策は「節税」だけではない

 今回から連載を担当する、一般社団法人日米帰国支援センター代表理事、税理士の内藤です。このコラムでは、日米相続を中心に、帰国前後に知っておきたい日本のお金の問題を分かりやすくご案内します。第1回は「日本の相続」です。相続対策というと節税を思い浮かべがちですが、本来は①納税資金対策②分割・承継対策③節税対策の3つで考える必要があります。

 日本の相続税の基礎控除は「3000万円+600万円×法定相続人の数」です。全国でも約10人に1人が課税対象となり、都市部の不動産や株式を保有する方は、想像以上に評価額が高くなることがあります。米国在住でも、日本に住む親に相続が発生すれば、日本の手続きや相続税と無関係ではありません。

 まず重要なのが納税資金です。日本の相続税は、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内に金銭で一括納付します。財産の多くが自宅、不動産、株式の場合、納税資金が不足することがあります。誰が相続人となり、財産はいくらあり、税額はいくらになるのかを整理した「相続の健康診断」が出発点です。

 次に分割対策です。生前贈与の偏りや兄弟間の不仲があると、相続時に争いが起きやすくなります。遺留分にも配慮し、遺言や受取人指定を整えておくことが大切です。特に米国資産は、プロベートに時間がかかる場合があります。また、ジョイント口座やジョイントテナンシーは、日本の遺言と異なる承継結果になることもあります。

 節税対策は最後です。生活費や教育費など、非課税で贈与できる方法もありますが、老後資金を減らし過ぎては本末転倒です。

 納税できること、円満に分けられること、そのうえで税負担を抑えること。この順番を守ることが、日米相続では特に重要です。


内藤克(ないとう・かつみ)

一般社団法人・日米帰国支援センター代表理事・税理士。東京税理士会麹町支部所属。ハワイ相続プロジェクト代表。ホノルル商工会議所会員。著書に『残念な相続』(日経プレミアシリーズ)累計5万部ベストセラー。問い合わせは「週刊NY生活を見た」と記載し、Eメール:[email protected]まで。

広島、長崎、原爆投下から81年  NYで平和の集い

 広島への原爆投下から81年を迎えた8月5日(日本時間6日)、「NYインターフェイス平和の集い」が、マンハッタンの39丁目にある立正佼成会センターで開催された。NY平和ファンデーション(代表・中垣顕実法師)が主催し、宗教や宗派を超えて広島・長崎への原爆投下を追悼し、平和を祈念する毎年恒例のイベントで、今回で33回目を迎えた。

(写真上)マンハッタンの立正佼成会センターで開催された平和の集い

 集いではヒンズー教からグル・ディリープジ氏(ワールド・ヨガ・コミュニティー創設者)、ユダヤ教からピーター・ロジーナ氏(デジタル投影アート「ピース・ライツ」制作者)、仏教からはジェームス・リンチ教会長と飯村匡由氏(立正佼成会ニューヨーク教会)が、平和のためのメッセージと祈りを捧げた。ネットを通じて広島平和記念式典の様子が上映され、原爆投下時刻の午後7時15分(日本時間8時15分)に参加者全員で黙祷を捧げた。

 続いてニューヨーク広島会の古本武司名誉会長とニューヨーク長崎県人会の木下信義会長の講演が行われた。

 古本さんは太平洋戦争中に強制収容所で生まれ、戦後、原爆で焼け野原となった広島で育った。10歳で米国に戻り、1970年にベトナム戦争に従軍。帰還後、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされた経歴を持つ。講演で古本さんは2016年のオバマ米大統領(当時)の広島訪問に触れ、大統領の演説後に多くの人々が笑顔を見せた光景が忘れられないと振り返った。また、小学校で戦争と平和について話した際、子供たちから「友達になることが平和につながる」との答えがあったことを紹介。「戦争は非常に残酷であり、平和がいかに尊いかを知ることが大切だ」と平和教育の必要性を訴え、世界に平和を広げていこうと呼びかけた。

 木下さんは、12歳で長崎原爆を体験した父親の記憶を紹介した。父親は原爆投下直後、学校の窓ガラスが一斉に割れ、近くの校庭に重傷者が並べられる光景を目撃。多くが治療を受けられないまま亡くなり、遺体の臭いを生涯忘れられなかったという。その父親も4年前に89歳で死去。木下さんは、被爆者が減るなか、被爆二世には体験を若い世代へ伝える使命があると強調。核兵器のない世界は待つだけでは実現しないとして、市民一人ひとりが核兵器問題への理解を深め、対話と草の根の行動を通じて核廃絶への社会的合意を広げる必要があると訴えた。 

 集会ではこのほか、核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議の開幕前日の4月26日にマンハッタンで行われた核兵器廃絶を訴える平和行進の様子はじめ、広島出身の若手バイオリニスト安塚かのんさんによる「被爆バイオリン」による演奏、同じく広島出身のミュージシャン原田真二さんのメッセージと歌などがビデオで上映された。

 長崎の日の平和の集いは、原爆が投下された日本時間9日に合わせ、8日にリモートで行われた。

(武末幸繁/文・写真)

同時多発テロから25年 9.11博物館で特別展

15日から劇画展示も

  2001年9月11日の米同時多発テロから25年を迎える今年、国立9・11記念博物館(National September 11 Memorial & Museum)は、節目の年を記念した特別展示や教育プログラムを年間を通じて開催している。事件を知らない世代にも記憶を継承することを目的に、新たな展示や追悼行事を充実させる。

 今年公開された代表的な展示の一つが、2028年2月まで開催される「Our Flag Was Still There(私たちの旗はそこにあった)」。崩壊したサウスタワーの「ラスト・コラム」に掲げられた星条旗や、ウサマ・ビン・ラディン殺害作戦で使用された旗など、9・11に関わる歴史的資料を紹介している。

 9月12日からは、事件後に広がったボランティア活動や慈善団体の取り組みを紹介する「In TheirHonor: 25 Years of 9/11-Inspired Service(彼らをたたえて—9・11が生んだ25年の奉仕活動)」が始まる。悲しみを地域社会への支援へと変えた人々の歩みを振り返る内容となっている。

 このほか、8月15日開幕の「Responding in Ink」では、漫画やグラフィックノベル(劇画)を通して9・11を描いた作品を展示。8月末まで開催される「The World’s Game: Soccer and 9/11」では、サッカーが復興支援や被災者支援に果たした役割を紹介する。

 9月11日の追悼式典では、01年の同時多発テロと1993年世界貿易センタービル爆破事件の犠牲者2983人の名前が読み上げられるほか、今年から9・11関連疾患で亡くなった人々を追悼する「7回目の黙とう」が新たに加えられる。また、毎年恒例の「トリビュート・イン・ライト」に加え、市内各地のビルやランドマークが青色にライトアップされる特別企画も実施される予定で、追悼の光がマンハッタンだけでなくNY市全体へと広がる。博物館では、NY州在住・在勤・在学者を対象とした毎月第1日曜日午後4時から7時までの無料入館を継続するほか、9月11日には学校向けのオンライン学習プログラムも公開する。25年という節目を機に、事件の記憶を次世代へ伝える取り組みが進められている。

(写真上)黒煙を上げる世界貿易センタービル(2001年9月11日、五番街で三浦良一撮影)

お盆 〜ご先祖様を迎える日本の夏〜 旅は道連れ 世は情け 週刊やさしいにほんご生活

この連載は、日本語を勉強している人を読者対象としたコーナーです。日本文化やマナー、タイムリーな日本に関する話題などを簡単な日本語で毎月第3週号に掲載します。アメリカ人の友人などにご案内ください。また、漢字をまだ習っていないお子様にとっても社会を知り、漢字に接するよい機会になります。

お盆 〜ご先祖様を迎える日本の夏〜

 夏の終わりには、日本各地で「盆踊り」が開かれます。輪になって踊る姿を見て、「なぜ日本人は夏に踊るの?」と思う方もいるでしょう。盆踊りは、お盆にあの世から帰ってくるご先祖様をお迎えし、感謝の気持ちを表すために受け継がれてきた伝統行事です。地域の人々が世代を超えて一つの輪になって踊る姿には、人と人とのつながりや、命を大切にする心が表れています。また、お盆にはきゅうりで作った馬や、なすで作った牛を飾ります。馬には「ご先祖様に早く帰ってきてほしい」という気持ちが、牛には「ゆっくり帰ってほしい」という願いが込められています。日本の夏は、家族や地域の絆を感じる季節でもあるのです。

(長久保美奈、マナー講師)

わくわくことわざ(24)
文とイラスト 平田恵子

旅は道連れ 世は情け


 旅には一緒に行く人がいると心強いように、世の中を生きていくには他者への気配りが大切という意味です。昔の旅は情報も少なく危険が伴ったため、同行者の存在は頼りになるものでした。また、日本人にとっての「情け」とは、相手をいたわる道徳的な思いやりの心です。見知らぬ土地での人のやさしさは、とくに身にしみたことでしょう。ポイントは、単に仲よく接するだけでなく、「困った時や不慣れな環境だからこそ、仲間の存在や人の温かさがありがたく感じられる」と伝えたい時に使います。

《言葉の意味(ことばのいみ)》

・盆踊り(ぼんおどり):Bon Odori (traditional Bon dance)

・ご先祖様(ごせんぞさま):ancestors

・感謝(かんしゃ):gratitude・あの世(あのよ):(afterlife)

・きゅうり:cucumber ・なす:eggplant

・心強い(こころづよい):reassuring、encouraging

・気配り(きくばり): consideration, thoughtfulness

・「旅は道連れ 世は情け」に似た英語:On the road you need a companion, in life you need consideration 

矢野顕子が特別公演 JSで上妻宏光らと9月18日

日米フォークの起源探る

 ピアニストでシンガー・ソングライターの矢野顕子による特別公演が9月18日(金)午後7時30分から、ジャパン・ソサエティー(JS・東47丁目333番地)で開催される。

 ニューヨーク・タイムズ紙から「広範な声域を持つ世界クラスのソングライター」「キャロル・キングの日本における同僚」と絶賛された矢野は今回、自身が拠点とする日本と米国のフォーク音楽(民謡)のルーツを深く掘り下げる。

 ステージには2組の豪華な共演者を迎える。10年以上前に同劇場で民謡プロジェクトを始動させた、津軽三味線の第一人者・上妻宏光との伝説的デュオ「やのとあがつま」が復活。さらに、米フォーク界の異才サム・アミドンと初の共演を果たし、アパラチア民謡などの伝統歌に新たな息吹を吹き込む。終演後には出演アーティストたちと直接交流できるレセプションも予定されている。

 入場料は一般63ドル、障害者割引・コーポレート会員は48ドル。JS会員は通年で各種イベントが20%以上割引となる。チケット・詳細はウェブサイトhttps://boxoffice.japansociety.org/eventsを参照する。

地下鉄で、アケマシテ、オメデトーゴザイマス ニューヨークの魔法

 黒人の女の人が地下鉄に乗り込んでくるなり、床に携帯電話を落とした。私の隣にすわっている白人の男の人が、それに気づくと、突然、その女の人に向かって、まるで攻撃するような口調でまくし立てた。

 そんなものを持ち歩いているから、本当の意味でのコミュニケーションを、みんな忘れてしまっているんだよ。前はちゃんと相手の目を見て会話していた夫婦だって、今じゃ一緒にいても、ふたりとも手には携帯電話を持っているんだ。

 八月の土曜日の昼頃だったので、乗り合わせた人たちは皆、半袖のTシャツかポロシャツだが、彼だけ、よれよれではあるけれど、スーツにネクタイ姿だ。女の人は別に不愉快そうな顔をするでもなく、ときにほほ笑み、私の場合、そういう心配はないわよ、などと返事をしながら、言葉を交わしている。

 用があって、私が携帯電話を取り出した。隣の男の人の視線を感じる。今度は私に説教するのだろう。

 少し緊張していると、案の定、男性が私に向かって話しかけた。

 Big smile! Big smile! アケマシテ、オメデトーゴザイマス。

 お盆の時期に、なぜか日本語でこの挨拶。私は仏頂面づらだったのか。思い切り、作り笑いしてみるが、その人は何も言わない。

 少し間を置いてから、君は東京の出身か、と尋ねてきたので、そうです、と答える。

 イサム・ノグチを知ってるかい。

 イサム・ノグチはアメリカ生まれの著名な彫刻家だ。彼の美術館が、マンハッタンの川向こうのクイーンズ区にある。

 はい、知ってますよ。

 彼は素晴らしい男だよ。

 友だちだったんですか。

 友だちじゃないが、何度か会ったことがある。彼の美術館は行ったかい。素晴らしいよ。彼は重要な男だ。

 あなたも芸術家なんですか。

 そうだよ。絵も描くし、彫刻もやるし、作曲もする。イサム・ノグチについて詩を書いたこともあるんだ。

 彼はイサム・ノグチについて話し終えると、バッグの中からスケッチブックのような厚手のノートとペンを取り出し、車両の向こうをじっと見つめている。

 地下鉄で絵を描くんですか。

 Yes. I’m trying to concentrate. Thank you. Nice to meet you.

 そうだよ。今、集中しようとしているところなんだ。ありがとう。会えてうれしいよ。

 つまり、私はこれから絵を描くから、邪魔しないでくれ、というわけだ。

 絵のモデルを見つけたようで、スケッチブックにペンを滑らせ始めた。私は気づかれないように、そっと横目でのぞいてみる。

 少し太めの女の人の絵を、さらさらと描いている。見かけによらず、漫画チックなかわいらしい絵だ。彼の視線の先に、それらしきヒスパニック系の体格のいい中年女性がすわっている。

 モデル選びのポイントは、何なのだろう。聞いてみたかったが、邪魔するなと言われているので、黙っている。

 と、突然、手を止め、私たちの前にすわっている若い黒人の女性グループに声をかける。

 違うよ、次の駅はロックフェラーセンターじゃない。五番街だ。で、その次がロックフェラーセンターだよ。

 スケッチに集中しているのかと思ったら、他人の話に耳をそばだてていたのだ。

 彼が話していた“本当の意味でのコミュニケーション”を、実践しているというわけか。

 おかげで、私も乗り過ごさずに済みそうだ。

 五番街の駅に地下鉄が到着する。

 It was nice meeting you.

 お会いできて、うれしかったです。

 文字どおりの気持ちを込めて、そう絵描きに声をかける。

 彼はスケッチブックから一瞬だけ顔を上げ、笑顔で同じ言葉を私に返した。

 このエッセイは、「ニューヨークの魔法」シリーズ第7弾『ニューヨークの魔法の約束』に収録されています。

https://www.amazon.co.jp/dp/4167717220

42歳で来米して振付師として活躍  戸塚 慎さん

ダンサー、振付師

 戸塚慎さん(44)は、日本を代表するストリートダンス界のトップパフォーマーとして広く知られ、これまで、ダンサー、振付師、ダンスインストラクター、シンガー、ソングライターとして幅広く活躍しきた。日本国内のみならず韓国のトップアーティストの音楽制作や振付も手がけている。また、台湾でダンスワークショップを開催するなど、アジア各国へ活動の場を広げている。

 ダンス歴は長く、26年に及び、数多くの国内外のアーティストをサポートしてきた。BTSのワールドツアー日本公演への参加をはじめ、マドンナの来日時の「Smap×Smap」のテレビ出演、さらにNHK「紅白歌合戦」、日本レコード大賞、MTV Video Music Awards Japan(VMAJ)で日本のトップアーティストのバックダンサーを務めている。

 また、日本で上演された「ロミオ&ジュリエット」、ブロードウエーミュージカル「イン・ザ・ハイツ」、「ロッキー・ホラー・ショー」、「黒執事」など、数々のミュージカルにも出演し、さらに映画「モテキ」、きゃりーぱみゅぱみゅの「つけまつける」、「インベーダーインベーダー」のMVに出演し、世界6か国を回ったワールドツアーにも出演した。

 2024年6月末にO1Bビザを取得し来米、現在、カリフォルニア州アーバイン在住。「40歳になって、世界に挑戦せずに自分の人生を終わらせるのは絶対に悔いが残ると思った」。日本にいれば仕事はあった。でも、日本にいたからこそ通用した自分なのではないか、そんな思いが常にあった。

 アメリカではコーチとして担当したダンスチームが世界的に有名なダンスコンテスト「World of Dance」に出場。先日行われた「World of Dance Summit 2026」でトップ10入りを果たす。そのほか「Showstopper」にも出場してOverallの優勝やトップ3へ導く。

 今後の目標としては、ダンスエージェンシーに所属してダンサーとしてのキャリアを積み、ゆくゆくは振付師として活動の場を広げていき、何かしらの賞を獲れたらと思っている。

 今後の課題を聞くと「単純な事かもしれませんが、根本的な所で言うともっと自分自身をアピールする事。アメリカに戻ってきて感じたのは、自分自身に「日本人らしい謙虚さ」がある事。うしろの方でひっそり誰かが見つけてくれる事を期待する事ではなく、自分自身で自分をアピールする気持ちが大事だなと。ダンスの部分で言えば、頂いた振付を元の振付を崩さずいかに自分のテイストを加えてアウトプットするか。それがオリジナリティとなり、プラスアルファで評価される。料理で言えば、同じ素材の食材でも味付けが違えばまったく違う料理になるじゃないですか? その調味料を選ぶのも自分、量を調整するのも自分。調整料がセンスだとしたら、そのセンスを磨く事も課題と捉えています」。

 アメリカでこれから活躍することを目指す、若手にアドバイスを聞くと「まずビザ的な事で言えば、日本でまずキャリアを積む事。人それぞれいろんなやり方があると思いますが、自分の場合は日本でのキャリアがかなりビザの助けになりました。頑張って欲しいです」と話す。東京都出身。

 (三浦良一記者、写真も)