【今週の紙面の主なニュース】(2024年4月20日号)

(1)沼津の春 久保修ワールド2024 春

(2)コロンビア大生大爆笑 渡辺直美講演会

(3)日本クラブ安陵さん帰国 「リハビリに励む」

(4)ハンター大の川島さん死去 米国で日本語・日本文化教育に貢献

(5)ダラスで乳がんを語る 28日にBCネットワークがシンポ

(6)JFK空港のTWAホテルで食事などいかが?

(7)最悪なダンスのお相手 ニューヨークの魔法

(8)奇跡のピアニスト空音唱 23日カーネギー

(9)春に流れる笛の音のごとく人生を全うした天才

(10)日本で活躍する38人 BREAKTHROUGH

沼津の春

 この時期になると、日本各地を巡っては、桜を愛でる旅をしている。

 どの地の桜を見ても、全く飽きることがない。桜の種類や色が違ったり、周りの風景などによっても変わって見えたりする。

 満開の桜を見ると、自然と笑顔がこぼれてしまう。

 伊豆半島では、今年も早咲きの河津(かわづ)桜(ざくら)が開花。それに続いてソメイヨシノが開花。

 これからいろいろな場所で桜を楽しむことが出来そうだ。

 今回描いたのは、駿河湾の海越しに冠雪した富士山と桜が見られて絶景の場所!!

 天気の良い日は、スケッチしていても笑顔がこぼれてしまう。

(くぼ・しゅう/切り絵画家/東京都在住)

コロンビア大生大爆笑のNY講演会

渡辺直美さん

日米のコメディや体験大いに語る

 ドナルド・キーン日本文化センターは4月12日夕、コロンビア大学ミラー劇場で、日本のお笑いタレント、女優、モデル、そして包括的なファッションデザイナーの渡辺直美さんの講演会を開催した。2023〜24年度第15代目千宗室レクチャーで「NAOMI TAKES COLUMBIA」と題した講演は650人の満席だった。

ドナルド・キーン日本文化センター主催

「私みたいなラフな生き方も」

 講演は同日本文化センター所長でコロンビア大学東アジア言語・文化学部ハルオ・シラネ教授との対談形式で英語で行われ、幼少の頃、台湾語と日本語が混乱してディズニーのシンデレラをアニメで見た時にストーリーがよく理解できずにカボチャがどうして馬車に変わるのかもわからなかったなど、バイリンガル・バイカルチャルの間で育った子供時代を振り返りながら、人間関係とコミュニケーションを十代の時のアルバイト先で身につけたなどと話した。インタビュアーのシラネ教授から「コメディーは、その国の文化背景をよく理解しないと難しいのではないか、アメリカでコメディアンとして活動することの日米の違いは何か」と問われると「日本の漫才は2人で舞台に立つが、アメリカのスタンダップコメディは1人の漫談形式が主流。日本では頭を叩いたり、どついたりすることが多いがアメリカでは相手を叩いたりするのはご法度。自分はファッションやバイラルなパフォーマンスが好きだが、日本では漫才師としての芸を磨くことを求められるところが自由な雰囲気のアメリカと異なる」などと日米のお笑いスタイルの違いを話した。

 自分自身を限定しないアメリカのスタイルが自分にあっているとも述べ、また、アメリカは州によって観客の雰囲気も大きく異なり「まるで別の国に行ったようだ」とも話し、「でも面白いものは世界一緒だと思う」と英語とボディランゲージで答えた。

会場と一体のエンターテイナー

 大学の講堂で大学教授相手に英語でコメディについて1時間半話すというのは渡辺さんにとっても初体験のこと。「会場からどんな反応が来るのか自分でもドキドキしていた」と講演後に語ったが、「わーっと舞台に出て行った時に客席に子供がいたので、あ、今日は下ネタはまずい」と瞬間的に思ったという。会場の日本人留学生から「日本の祭りを大学でやる時に、盛り上げる方法をアドバイスして欲しい。盆踊りをやるにしても伝統的な日本スタイルだけでなくニューヨークらしい表現はないものか」との質問には「スケートボードに乗って盆踊りしたらテレビで放映されて一躍有名にるかも」などと答えた。 

 「ニューヨークに来て一番大変だったことは何か」との質問には「住宅にネズミやゴキブリが出てびっくりしたこと、日本は清潔。シャワーヘッドが固定されていて動かないのは不便」などと話した。シラネ教授が「ニューヨークのアパートは古いですからね」との常識的で真面目な反応が、渡辺のジョークと絶妙な間を生み出して会場の大爆笑を何度も誘った。「コンビを組んで2人でデビューしては」という声も出たほどの盛り上がりに「コンビ名考えて下さい」と返す場面も。また会場との質疑応答のやりとりで渡辺さんが英語の意味に戸惑う場面では、最前列正面で見ていた森美樹夫NY総領事が客席から何度も助け舟を出していた。

 「ドキドキの体験」

 講演後、渡辺さんは「ドキドキのすごい経験をさせてもらいました。日本のザ・お笑いとは全然違う。大学教授と1時間半話すというのは自分にとっても全く新しい経験でした。真剣にがっつり自分について語るのがどうなるのかなって自分でドキドキでした。私的にはこうやってラフに生きてくれてもいいんだなと思ってくれたらいいなと、それが少しでも伝わればいいなと。コロンビア大学で真剣な話をしながら面白い話ができて楽しかった。いろんな人と喋れてよかった。去年はニューヨークに全然いなくて英語生活から離れていたので英語がしっかり喋れなかった。今日は英語の先生も来ていて事前に何度も練習したんですけど、本番では全部吹っ飛んでしまって、アドリブで全部やってしまいました。もっといろんなところでライブをやってみたいです。お客さんとコミュニケーション取るのが現代のコメディーのニュースタイルじゃないですか、コロンビア大学のゴリゴリのニューヨーカーとバリバリに働いているみなさんの前で話すのはとっても緊張しましたが、緊張した時に教授の顔を見てほっこりリラックスできました」と感想を話していた。

 渡辺さんは、1987年に台湾で日本人の父親と台湾人の母親の間に生まれた。茨城県石岡市立石岡中学校卒業。親の反対を押し切った上で吉本総合芸能学院に入学。愛情を込めて「日本のビヨンセ」として知られる渡辺さんは、バイラルなパフォーマンスと陽気なセレブの物真似で世界中の観客を魅了してきた。日本で最もフォローされているタレントであり、アジアで最も認知されているタレントの1人である渡辺さんは、ソーシャル メディア プラットフォーム全体で1000万人近い世界中のフォロワーを獲得している。ニューヨークへの移住と、新たに開始された全英語のポッドキャスト「Naomi Takes America」、そして最近の7つのポッドキャストから渡辺さんは旋風を巻き起こし、会場では最近2000人以上のファンを楽しませた7都市のシティツアー「Naomi Takes America -The Podcast LIVE-」などについても語った。

 (三浦良一記者、写真も)

日本クラブ安陵さん帰国

「リハビリに励みます」

交通事故から奇跡的な回復

 昨年10月24日の交通事故から入院・治療中の日本クラブ総料理長・安陵秀樹氏が、4月16日の早朝(15日の深夜)の日航機で帰国した。今後は日本でのリハビリテーションに励む。

 安陵さんは事故以降46日間意識が戻らず、非常に厳しい状態から奇跡的とも言える回復を果たした。現在は食事もほぼ問題ない状態になり、車椅子での移動の訓練や、手足、発声のトレーニングを続けている。 今後は治療の環境や費用の点も考慮し、飛行機での移動が可能になったため、日本に拠点を移してリハビリを続ける事になった。事故以来、奥様の小織さんによる1日も休まない献身的な世話もあり、やっと帰国ができる運びとなった。安陵氏と小織さんは「皆様の暖かい応援、ご寄付を頂戴し、本当にありがとうございます。来年の今頃には回復し、再びニューヨークを訪れて、お世話になった皆様にお礼を言う事ができるようにリハビリに励みます。本当にありがとうございます」とコメントを寄せた。

17日伊丹空港に無事到着。

ハンター大の川島さん死去

米国で日本語・日本文化教育に貢献

 ニューヨーク市立大学ハンターカレッジで日本語と日本文化の教師として長年勤務し、同大で米国人学生の日本語と日本文化の習得に尽力した川島敦子さん=写真=が4月10日、マサチューセッツ州 ウォルサム市の介護施設で老衰のため死去した。享年95歳。

 川島さんは1929年長野県長野市生まれ。名古屋米国領事館勤務後結婚し1977年来米。1985年コロンビア大学優等学士号取得、88年同大美術史修士号取得。95年博士課程単位取得。ハンターカレッジで1987年から2018年まで日本語教師として勤務し、同大に米国ニューヨーク市地区では初となる日本語・日本文化専攻の設立に貢献した。

 現在同大学では1300人余りの学生が、日本語や日本文化を学んでいる。日本政府から米国における日本研究の発展と知日派教育への功績が認められ、2013年在外公館長表彰、2018年旭日単光章を叙勲=写真下=。

 主な著書に『A Dictionary of Japanese Particles てにをは辞典』(1999年、講談社インターナショナル)、『Medical Communication in English ラクラク話せるメディカル英会話』(2002年、Dr. John J. Olichney, Sue A. Kawashima 共著、日東書院)、『少女の記録、あの頃1935〜1945・8・15&2001・9・11』 (2006年、講談社)などがある。葬儀は身内だけで行い、後日偲ぶ会を行う。

 同大学日本語・日本文化科ダイレクターのマーヤン・バルカンさんと日本語・日本文化科副科長の古川明代さんが連名で本紙に次のコメントを寄せた。

  「川島の自叙伝『少女の記録、あの頃』の中にセントラルパークの東側にあるハンター大学のことを『この落ち着きのあるエリアもこの仕事も私はこよなく愛している』とある。私たちも毎日その愛の恩恵を受けた。アメリカという異文化の中で家族のように接し、お互いに信頼し合い、このプログラムを大きくしてきた。私たちのプログラムではこの暖かく、深い絆を今後も継承していきたい。戦争も生き抜いたLiving Historyとして学生たちに平和の大切さを教えることを使命としていた」

JFKのTWAホテルで乗り継ぎ時間に待ち合わせの食事などいかが?

 ジョン・F・ケネディ国際空港で、出張客の知り合いが帰国乗り継ぎ便待ちの3時間で、マンハッタンに出るほど時間はないけれど、空港でお茶でもと言われたらどうしますか? 

 そんな時は、空港内ターミナル5に近い、TWAホテルでのお茶や食事をお勧めする。1960年代に建築家エーロ・サーリネンが設計したTWA航空の専用ターミナルは、ミッドセンチュリーデザインの代表的建物で、そのあまりの美しさからTWAなきあとも解体されずに残っていた。ホテルとして2019年に再オープンし、レストラン「パリス・カフェ」もロビーラウンジの2階にある。午前7時から午後10時まで年中無休で営業している。レトロなレシプロエンジンの旅客機も夏にはバーとして機内営業される。

 空港ターミナル内を無料でループ循環しているエアトレインを使ってホテルのロビーで待ち合わせれば、はぐれることもない。全日空はターミナル7、日本航空はターミナル8なので、エアトレインで2、3分。ロビーには1950年代から80年代までの客室乗務員の制服の展示や、ギフトショップでは、レトロなTWAの機内グッズなどが販売されており楽しめる。実際に50年代に機内でサーブされていたハイボールグラスのレプリカ(なんとガラス製)なども売られている。

 マンハッタンからJFK国際空港まで行く一番便利で、コストがかからない方法は、グランドセントラル駅に乗り入れているロングアイランド鉄道に乗って2駅目のジャマイカ駅からエアトレインに乗り換える方法。片道、13ドル50セントでグランドセントラル駅から空港まで約50分で到着する。地下鉄やバスよりも着くまでの時間が予測でき、渋滞の心配もなく簡単だ。


Paris Café 

TWA Hotel at JFK Airport

Terminal 5

6 Central Terminal Area

Queens, NY 11430

Tel : 212-806-9000

twahotel.com

ダラスで乳がんを語る

28日にBCネットワークがシンポジウム

ハイブリッド開催に向けて
主催団体と参加者に聞く

 乳がんの最新治療情報や早期発見の啓発活動を行う非営利団体のBCネットワークが、4月28日(日)午後1時から3時半まで(東部時間)、ダラス日本人会会議室(4100 Alpha Road, Suite 103, Dallas, TX 75244)でライブ会場とオンラインのハイブリッド形式で、第5回「日本人乳がんシンポジウム@イーストコースト・サウス」を開催する。

 当日は、乳腺外科主任教授・ロズウェルパークがんセンターの高部和明医師が「乳がんの遺伝子検査って何?—最高の治療を求めて」と題した基調講演を、一般婦人科準教授・コロンビア大学病院の常盤真琴医師が「がんの予防に使える 避妊法」というテーマで講演を行う。またBCネットワーク創立者・代表の山本眞基子氏が「38歳で突然乳がんに!治療までの軌跡」と題した経験者トークを行う。司会はFCIーNYの久下香織子キャスター。  

 講演は会場での開催のほかオンラインでも生配信され、人数制限なしでZOOM参加できる。参加希望の場合、B C ネットワークのウエブサイト(http://bcnetwork.org)から事前に申し込む。問い合わせはEメールinfo@bcnetwork.org まで。ライブ会議を前に、BCネットワークの山本代表とダラス日本人会事務局長のキャリントン純子さんにインタビューした。

     ◇

ーダラスの日本人コミュニティーについて説明をお願いします。

キャリントン ダラス・フォートワース近郊の在留邦人数は4400人ですが、実際日本人は、ダラス市内よりも周辺近郊の市に住んでいる人の方が多いようです。

ー今回ダラスでやることになった経緯をお知らせください。

山本 2年ほど前に日本テキサス医学振興会という団体から連絡があり、日本人の産婦人科、乳腺外科の医師がいないので、コロンビア大の常盤先生を紹介してもらえないかということがきっかけです。

ー今回ダラスでこのようなイベントが開催されることをどう受け止めてますか

キャリントン  大変ありがたいです。ダラスで日本語で相談できる先生がいないので、今回のように対面できていただけるとプライベートで直接相談したい方はいると思います。 

ーダラス近郊で、日本人女性はどれくらいいるのでしょうか

キャリントン ダラス日本人会の会員数だけで1000世帯くらいいます。病院に行く際の通訳の問い合わせ、付き添いの問い合わせが、私の周りだけでも十数人いるので、自分であまり意識していない人も将来関心を持つということも含めれば、実は相当数いるのではないかと思われます。

ー今回のダラス講演会で一番伝えたいことはなんですか?

山本 今回のセミナーに参加することで、婦人科検診、乳がんについての関心を高め、今後、ニューヨークや秋にロサンゼルスで開催する講習会にもオンラインで参加してもらいたいですね。

ーみなさんの反響はいかがですか?

キャリントン 皆様抱えている問題はひと様々ですが、こうやって最新の治療法を日本語で聞けること、また今自分が受けている治療が正しいのかを判断する、予防、検診、ネットワークを作るといった意識の高まりを感じます。テキサスは広いので、オンライン、対面、ハイブリッドでやってもらうのは嬉しいです。

ーこれからどんな情報を伝えていくのですか?

山本 アメリカでどんな治療と予防ができるかを日本語で年に2回、米国東西両岸で開催していますが、何よりも最新の治療法を伝えるということですね。日本よりも早くお伝えできると思います。

ーありがとうございました。

最悪なダンスのお相手     ニューヨークの魔法

私の場合

 近くの人とペアになってください、というインストラクターの呼びかけで、ラテン系の青年が私の手を取った。

 マンハッタンではときどき、誰でも参加できる無料のダンス教室が開かれる。

 昨年のある夏の夜、四十四丁目辺りのハドソン川の埠頭で行われたタンゴのレッスンに、マリーパットとモンティに誘われ、出かけていった。

 ニューヨークに来たばかりのとき、数回だけソーシャルダンスを習ったことがある。動きがまったく読めず、いつも相手の足を踏んでは、謝ってばかりいた。

 川の埠頭のダンス教室には、百人ほど集まっただろうか。ダンス用のドレスを着ている人もいるが、ふだん着が目立つ。

 まずは、前に立つインストラクターを見ながら、同じようにやってみる。見よう見まねで、何とかなる。盆踊りと同じだ。が、向き合って相手の動きに合わせるとなると、話は別だ。何年も前の記憶がよみがえる。相手の動きが、やはり読めない。踊りというより、足だけでツイスターゲームをしているような感じだ。

 青年は動きが軽快で、私とはレベルが違う。誰かと待ち合わせでもしているのか、時折、遠くをながめながらも、私に気をつかい、目が合うと不自然にほほ笑む。

 やがてラテン系の美女が目の前に現れ、ふたりはしかと抱き合うと、私を残して笑顔で立ち去っていった。

 かわいそうだと思ったのだろう。すかさずモンティが現れ、私の手を取る。そして、彼は踊り、私は踊るというより動き始める。その動きも、モンティのそれとはちぐはぐで、それでも彼は、辛抱強くステップを教える。

 あまりにもモンティが気の毒になり、せっかくの夕べだからマリーパットとふたりで楽しんで、と私はそっとその場を離れた。

 川べりにひとりたたずみ、色とりどりのライトの下で踊る人たちをぼんやりながめていた。湿度が低く、カラッと晴れたさわやかな日だった。

 やがて夕日で空が桃色に染まり、辺りはロマンチックな雰囲気に包まれた。

 と、突然、六十代くらいの見知らぬ男が、私の手を取った。丈の長い色鮮やかな花柄シャツにサングラス、鳥打帽、太いシルバーのネックレスと、ヒッピーの生き残りのような風貌だ。

 男は私の体に手を回し、陽気に踊り始める。マリーパットがモンティと踊りながら、私に気づき、眉間にしわを寄せ、なんでそんなオトコと踊ってんのよ、という顔をして見せる。私も同じような表情を、彼女に返す。男は楽しそうに、踊り続けている。

 私、踊りはうまくないので。

 踊りはうまくない? じゃ、何がうまいんだい? セックスかい?

 今にも逃れたかったが、男がアメリカの大統領についてとうとうと話し始め、機を逸してしまう。

 ジョージ・ワシントン大統領、知ってるだろ? お札になってるあの男だよ。

 なるべく彼から体を離そうと必死で、ワシントンについて彼が何を話したか、聞きそびれた。そして、話はいつしか、リンカーンになった。

 子どもの頃、学校の授業でリンカーンについて習ったとき、そいつはひどいやつだと先生に言ったら、授業の邪魔をするな、としかられた。でも、映画で描かれているような男とは、まったく違うのさ。ねえ、君。ダンスと歴史の授業を一緒に受けられるなんて、思いもしなかっただろ? あのさ、いったい、なんでそんなにクソ真面目な顔してんだい?

 Life is full of pain, so you’ve got to smile.

 人生は苦悩に満ちているんだからさ。笑わなきゃ。

 あなたが相手じゃ、笑顔にもなれないわよ。

 そう思いながら、私はさっき習ったステップをマスターすることだけに、専念しようと、精神統一をはかっていた。

 ねえ、あなたのステップ、さっき習ったのと、全然違うんだけど、と私。

 ステップなんて、どうでもいいのさ。大事なのは、楽しく踊ることだろ。ほら、夕焼けがきれいだ。もっと川に近づこうじゃないか。君、僕と踊るの、楽しんでる?

 そう言いながら、男が水辺へ移動しようとする。

 このまま、川に突き落とされでもしたら、お陀仏かもしれない。

 ありがとう。そろそろ帰るわ。

 引き止めようとする男を振りきり、マリーパットとモンティのもとへ飛んでいく。

 と、さっきの男は、もう別の女性の腰に手を当て、陽気に踊りを楽しんでいる。

 人生は苦悩に満ちている?

 Not for him.

 違うでしょう、あの人に限っては。

 このエッセイは、「ニューヨークの魔法」シリーズ第8弾『ニューヨークの魔法のかかり方』に収録されています。https://www.amazon.co.jp/dp/4167717220

奇跡のピアニスト空音 唱

カーネギーホールで23日コンサート

 作曲家でピアニストの空音 唱(くおん・しょう)が23日(火)午後8時からカーネギーホールのワイルリサイタルホールでコンサートを開く。津田裕子、JCH TOMOほか、ニューヨーク在住の演奏家が多数出演する。主催はアートクエスト・ニューヨーク・インク。空音は鹿児島市生まれ。九州大学理学部生物学科卒。11歳のとき、両肩を大型犬に噛まれ、その後遺症を克服するため、独学で独自の奏法を体得。豊かな独特の響きは「奇跡のピアニスト」と評される。入場料は23ドル。購入はウエブサイトhttps://www.carnegiehall.org/

春に流れる笛の音のごとく

人生を全うした天才

 大変お世話になった方が亡くなった。そして、そのメモリアルイベントの為、数日間だけ日本に帰国した。少し遅れて開花した桜と、私の帰国のタイミングはバッチリ重なり、繊細に咲き誇る満開の桜を眺めつつ、日本のクラシック音楽界に多大な影響を与えた彼の業績と、その濃い72年の彼の生涯に思いを馳せた。彼の持論は、分母を増やせばピラミッドの頂点が高くなると言う事。クラシック音楽をあまりよく知らない一般層に、その面白さを伝えファンを増やし、ひいては日本のクラシック音楽界の経済をも底上げする、と言うものだった。その甲斐あってか昨今の日本は、世界有数のクラシック音楽マーケットだと言われている。それは少なからず彼の影響があったと思っている。

 その彼は、あなたは日本で一番上手な歌手だと心から思っていると言い続けてくれた人で、その後にはもっと痩せろだとか、化粧をもっと勉強しろだとか色々と続いたが、その言葉はいつも励みになっていた。日本で一番上手かなど、全く考えた事すらないものの、そう強く信じている人が家族や恋人以外にいるという事が嬉しかった。そしてここ数年は、早く日本に帰ってこいと折に触れ言われていた。彼はストラテジーを考える天才だったので、きっと彼の頭の中では、私が帰国したらああしようこうしようと言うのが、あったのだろう。お別れの前にそれを聞きたかった。

 春にまつわる歌は、本当に多い。例えば日本の唱歌をサッと思い浮かべただけでも、花、早春賦、蝶々、春よ来いなど直ぐに出てくるし、オーケストラや器楽曲まで含めると、もう世界に無数に存在する。暗く厳しい冬の後に、待ち焦がれた暖かな陽の春。作曲家達が書かずにいられなかったのはよく分かる。多くの曲が、春の喜び、憧れや希望を歌ったワクワクするものであるが、今私の思い出す春の歌は、ノルウェーの作曲家グリークのものだ。「これまで何度も迎えてきた春が、また巡って来た。しかしこれが最後の春になるだろう」と言うものでこの詩の最後には、「私は自分で作った笛を吹き、その音は泣いているようだ」と終わる。でも音楽は決して暗くも重くも無い、とても自然だ。達観はしていても言葉に出来ない色々な思いで涙は出るのだろう。ノルウェー人の友人によると、自分の笛を作る(彫る)と言うのは、人生を生きるという比喩らしい。良い表現だなと思う。亡くなった彼は、間違いなく多大な功績を残した。クラシックファンを増やし、文化庁長官表彰も受けた。最愛の奥様と幸せな家庭を築き、沢山の仲間や同僚に囲まれ、次々と革命的なアイディアを思いつき、やりたい事を全てやっていた。彼は自分の作った笛を吹いた時、きっとその音が泣いていると言わなかった気がする。人の人生は色々だし、笛の音は泣いていても明るい音でも何でもいい、どんな音だって自身の音だ。人は皆自分の笛を彫りながら、最後にその笛を吹くのである。

田村麻子=ニューヨークタイムズからも「輝くソプラノ」として高い評価を受ける声楽家。NYを拠点にカーネギーホール、リンカーンセンター、ロイヤルアルバートホールなど世界一流のオペラ舞台で主役を歌う。W杯決勝戦前夜コンサートにて3大テノールと共演、ヤンキース試合前に国歌斉唱など活躍は多岐に渡る。2021年に公共放送網(PBS)にて全米放映デビュー。東京藝大、マネス音楽院卒業。京都城陽大使。

日本で活躍する38人グループ展

5月8日からトライベッカで

BREAKTHROUGH

 トライベッカ地区にあるワン・アート・スペース・ギャラリー(ワレン通り23番地)で、5月8日から2会期に分けて期間限定のグループ展「ブレイクスルー」が開催される。

 「始めなければ、始まらない。」をテーマに、日本で活躍する計38人の新進気鋭のアーティストたちの作品が集結。青のペンのみを使用して緻密に幻想的な作品を描き上げるAoi Hanane氏、日本のカルチャーを象徴するような遊び心がありつつも調和のとれたミクストメディア作品を生み出すEMI・KIBAYASHI氏、アートを通して身体的なコンプレックスの昇華を目指すAkie Abe氏など、独自のアプロ—チを開拓していく現代日本作家たちの作品が展示される。

 第1会期は5月8日(水) から12日(日)まで。レセプションパーティーは9日(木)午後6時から8時。ライブペイントイベント(書道・ドローイング)は11日(土)午後6時から。第2会期は5月15日(水) から19日(日)。レセプションは16日(木)午後6時から8時。ライブペイントイベント(書道・足跡ペイント)は18日(土)午後6時から。入場無料。開廊時間は正午から午後6時。詳細はhttps://www.eventbrite.com/e/breakthrough-new-and-rising-japanese-artists–tickets-782085056457

編集後記

【編集後記】

 みなさん、こんにちは。アメリカで日本語を学んでいる学生が多いようです。ハンター・カレッジの日本語・日本文化の専攻(マーヤン・バルカン・ダイレクター)は2023年に設立されました。同大の日本語教育プログラムは1986年に設立。現在1300人あまりの学生が日本語と日本文化を学んでいるそうです。日本語の読み書き、翻訳、会話などの語学コースに加え、日本の歴史、文学、演劇、伝統文化、現代文化、茶道などの文化コースも提供し、拡大を続けているというから驚きです。たまたま今週の月曜に、その専攻クラスで学生の皆さんとも少し話す機会があった中で、学生から「将来は新聞でどんなことをしたいですか」と聞かれたので「せっかくアメリカで日本語の新聞を出しているのだから、日本人だけでなく、日本人がアメリカで何を考え、思い、行動して活動しているかをアメリカ人にも知ってもらうために、以前あった英語版『THE JAPAN VOICE』をまた復活させたい」と答えたら、学生から「週刊NY生活は日本語の新聞だから、日本語を読む人しか読まないので、英語版より、日本語を勉強している外国人に読み易いページを作ってもらえたら嬉しい」と言われました。なんだか目から鱗が落ちたような気分になりハッとしました。日本に関心のないアメリカ人に日本のことを知ってもらうことも大切ですが、それは馬を川に引っ張って行って馬に水を飲ませること同じくらい多分難しいので、それより、確かに、日本語に関心の高い、日本語を勉強しているアメリカ人の学生や社会人が読める平易な日本語で書かれた記事のページがあってもいいのかな、と思いました。本紙には「SUTUDENT LIFE」とか「NY生活ウーマン」といったページがあるのだから、そういう人たち向けに例えば「週刊にほんご生活」なんていう簡単で、漢字にふり仮名がふってあるようなページが、月に1度でもあったら読まれるかなあ、などと思ったりして。まあ、スポンサー次第ですね。なんだか学生たちから、私も大きなヒントをもらったような1日でした。同大学訪問の記事は今週号STUDENT LIFE面14面に小さな記事ですが掲載しています。なんだか、もう少し、新聞で何か新しいことができるような、そんな気がして、まるで暗闇から皆既日食のダイヤモンドリングの眩しい輝きを一瞬見たような気分でした。それでは、みなさんよい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)