編集後記

編集後記


 みなさん、こんにちは。ニューヨーク市議会で、セントラルパーク名物の観光馬車を禁止する法案が成立する公算が強まっています。法案は、6月の馬車事故で死亡したインド人観光客ロマンチ・マハジャンさん(18)にちなみ「ロマンチ法」と呼ばれ、営業許可の新規発行や更新を段階的に停止し、2028年6月1日までに馬車を全面廃止するという内容です。動物愛護団体は、交通量の多いマンハッタンで馬を働かせることは危険で非人道的だと主張しています。


 一方、馬車御者や運輸労組は、主に移民からなる約200人の雇用が失われるとして反対。馬は定期的な検査を受け、適切に飼育されているとし、事故を理由に伝統産業そのものを廃止するのは行き過ぎだと反論しています。馬車は1863年ごろから公園で観光客を乗せ、映画や広告を通じて「ロマンチックなニューヨーク」の象徴とななりましたが、ペット保護団体として知られる米動物虐待防止協会(ASPCA)は、馬への虐待を目撃したヘンリー・バーグが1866年に設立したもので、規制を求める運動も馬車とほぼ同じ歴史を持つ長い争点です。

現在は68台が営業許可を受けていて1年間に4週間の休暇が義務付けられているそうです。法案が成立すれば、約165年続いたニューヨークの風景が幕を閉じることになります。40年以上馬車の御者をしている男性は、3人の子供を大学に行かせ、2人は弁護士になったと誇らしげに語りました。また7月15日の公聴会に参加したという別の御者は、「馬車の営業が停止になれば、御者には再就職の道や補償があるが、馬は、馬術愛好家などに売られることはあっても、その多くは市に引き取られて殺処分となる運命だ。それが動物愛護団体が希望していたことだとは思わない」と話しました。馬も人間と同じなら、働くことに喜びを感じている馬もいるのではないでしょうか。今週号の17面で掲載しています。 それではみなさん良い週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】(2026年7月25日号)

(1)ネタニヤフ首相NYで逮捕か マムダニ市長が検討表明

(2)夏の野外映画上映 ブライアントパーク

(3)テーブル小物で広がるペーパーエンボスの魅力

(4)カナダの山火事で大気汚染

(5)「映画づくりはAIなしで」是枝監督NYで語る

(6)宇宙空間で「糖」検出 生命の起源に必要

(7)AIのトリセツ

(8)花束を抱えた者同士 ニューヨークの魔法

(9)日米野球交流描く 村上雅則さん登壇

(10)写真家の植山さん 8月に大阪で日本発個展

ネタニヤフ首相NYで逮捕か マムダニ市長が検討表明

国連総会来たら

 ニューヨーク市のゾーラン・マムダニ市長は18日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が9月の国連総会に出席するためニューヨークを訪れた場合、国際刑事裁判所(ICC、本部:オランダ・ハーグ)の逮捕状に基づいて拘束できるか、市法務部やニューヨーク市警と協議していることを明らかにした。

 マムダニ氏はニューヨーク・タイムズの18日付「ザ・インタビュー」で、「ネタニヤフ氏は訴追された戦争犯罪人で、ハーグにいるべきだ」と述べ、逮捕の可能性をめぐり市の法務部などと「活発な協議」を続けていると語った。一方、逮捕を可能にするため市の法律を改正する考えはないとし、現行法の範囲内で対応すると強調した。

 マムダニ氏は昨年の市長選挙中から、ネタニヤフ氏がニューヨークを訪問すれば逮捕すると表明していた。今回の発言は、就任後も方針を維持しながら、実際に市長やニューヨーク市警に権限があるかを検討していることを示したものだ。ICCは2024年11月、パレスチナ自治区ガザでの戦争犯罪と人道に対する罪の疑いで、ネタニヤフ氏に逮捕状を出した。ネタニヤフ氏とイスラエル政府は容疑を否定し、ICCには管轄権がないと反発している。米国はICCの設立条約に加盟しておらず、ICCの逮捕状が米国内で直接執行できるかは不透明だ。外国政府首脳の免責や国連総会出席者の扱いも関係するため、元検察官らからは、市長や市警が単独で逮捕することは困難との指摘が出ている。ちなみにトランプ大統領は20日「逮捕されることはないだろう」とコメントしている。

テーブル小物で広がるペーパーエンボスの魅力

◆ニューヨークで親しんだモダンシノワズリ

 皆さま、いかがお過ごしでしょうか。今回は、私がニューヨークで長年親しん

できたモダンシノワズリのエッセンスを取り入れた、夏のおもてなしをご紹介します。

◆モダンシノワズリを彩る

テーブル

 ベースには、私がレッスンやディスプレイでも愛用しているフランス製ジャカード織のテーブルクロスを使用しました。織りが生み出す上品な表情は、ロイヤル コペンハーゲンのブルー&ホワイトや古伊万里とも美しく調和し、モダンシノワズリならではの奥行きを演出します。

 センターピースには竹の二段重をあえて一段ずつに分け、ブルーベリーとブ

ラックベリーの実を添えたグリーンとチンツ柄の浮き玉を飾りました。テーブルにも浮き玉をあしらい、夏らしい涼感を演出。中央には唐獅子の香炉をオブジェとして配し、龍のモチーフを取り入れたナプキンがアクセントになっています。ニューヨークで培った感性を大切にしながら、国やジャンルにとらわれず、それぞれの魅力を調和させ一つの世界観にまとめました。

◆テーブル小物で広がるおもてなし

 近年、日本ではペーパーエンボスを取り入れたカードやテーブル小物づくりが人気を集めています。多くのリクエストをいただいたことをきっかけに、「NY 流のおもてなし」の番外編として、テーブル小物編のレッスンもスタートしました。

 今回は、LUTERU DESIGN 

シノワズリエンボステンプレート(試作品)と SIZZIX JAPAN 正規代理店(株)Chapstablook によるマシンエンボスやダイカットを組み合わせ、「福」や「寿」の吉祥文様を取り入れたメニューカードや箸袋、席札、バースデーカードなどを様々なものを制作しています。紙が生み出す繊細な立体感は、テーブル全体の世界観をより豊かに演出してくれます。

 テーブルコーディネートは、食器だけでなく、小さなテーブル小物までテーマを統一することで、おもてなしの印象がより深まります。季節を感じる食卓づくりのヒントとして、楽しんでいただけたら嬉しく思います。

大石育子(Ikuko Oishi)

 インテリアコーディネーター、食空間プランナー、日本クラブカルチャー講座講師。東京ドームテーブルウェアフェスティバル 2019年入選、2020 年 2 部門で入選&奨励賞受賞。2023 年 2 部門で入選&佳作受賞。atelierdeikukonewyork.themedia.jp

夏の野外映画上映 ブライアントパーク

 ミッドタウンにあるプライアントパークで毎夏恒例の無料映画上映会「ムービーナイト」が、9月14日までの毎週月曜夜に開催されている。公園内の芝生エリアにレジャーシートやブランケットを敷き、寝転んだり持参したフードやドリンクを食べながら映画を観るピクニックスタイルで、ハリウッドの往年の名作から比較的新しいヒット作まで、幅広い年代の映画が楽しめる。芝生開放は午後5時、映画上映は8時から。

 上映作品は、27日『トゥルーマン・ショー(The Truman Show)』 、8月3日『ブリジット・ジョーンズの日記 (Bridget Jones’s Diary)』、10日『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン(Catch Me If You Can)』、17日『シティ・オブ・ゴッド( City of God)』、24日『闇に響く声(King Creole)』 、31日 『ノーカントリー(No Country for Old Men)』、9月7日 『ギャラクシー・クエスト(Galaxy Quest)』、14日『恋におちたシェイクスピア(Shakespeare in Love)』。詳細は公式サイトhttps://bryantpark.org/activities/movie-nightsを参照する。

カナダの山火事で大気汚染

 カナダで発生している大規模な山火事の煙が米国北東部へ広がり、ニューヨーク市では16日、猛暑と重なる形で空がかすむ状況となった。ニューヨーク州当局は市内とロングアイランドを対象に大気質健康注意報を出し、住民に注意を呼びかけている。

 米国立気象局(NWS)によると、この週で市内の最高気温は華氏99度(摂氏約37度)まで上昇し、煙の影響により日中にかけて大気の状態が悪化する可能性が高くなった。

 煙はカナダ・オンタリオ州などで続く山火事によるもので、カナダ森林火災情報センターによると、国内では50件以上の山火事が発生しており、西部・中部オンタリオ州を中心に延焼が続いている。ニューヨーク市保健局のアリスター・F・マーティン局長は、「今週のニューヨーカーは、猛暑と山火事の煙という二つの環境上の健康リスクに直面している」と述べ、「できるだけ冷房の効いた屋内で過ごすことが最も安全」と呼びかけた。

 米国立気象局はニューヨーク市を含む広い地域に熱中症警報を発令、全米で約1億人が危険な暑さの影響を受けた。(Milana Pavlova、写真・植山慎太郎)

「映画づくりはAIなしで」是枝監督NYで語る

ジャパン・カッツ最終日

 ジャパン・ソサエティ—が開催した日本映画祭「ジャパン・カッツ」で最終日の19日、是枝裕和監督の最新作「箱の中の羊」が北米プレミア上映され、是枝監督が来米して質疑応答に登壇した。

 同映画は「万引き家族」以来8年ぶりの是枝監督オリジナル脚本。息子を亡くした建築家の夫婦(綾瀬はるか、大悟)が息子の姿をしたヒューマノイド(桒木理夢)を迎え、「家族」をやりなおそうとするが、本当の息子ではないことから様々な感情が露わになっていく。

 是枝監督は、「人とAI、自然と建築など、別のものをどう共存させるか。それは映画づくりにも似ている」と言い、映画の題名を「星の王子様」から得たことについては「母親が夜の読み聞かせをするシーンで、ヒューマノイドと人との違いがわかるお話がいいと考えた。人間なら箱の中に羊がいるとわかる、それは想像力。そこから、これをタイトルにすることにした」と説明した。テクノロジーに関しては「実は今回初めてプロデューサーと相談して生成AIに脚本を読んでもらったら、すごくほめられた。でも、好みの偏りもない。映画によって救われたというような、そこまでの経験もAIにはない。自分の求めている感想はこれじゃない、人生と密接に結びついた感想が嬉しい。だから、映画づくりに関してはAIなしで行こうと思っている」と話し、満席の会場には大拍手が鳴り響いた。同映画祭は今年で19回目、約2週間で30作品以上が上映された。

 同映画は24日(金)、ニューヨーク市AMC数か所で上映予定。詳細はウェブサイトwww.amctheatres.comでSheet in the Boxで検索。(小味かおる、写真も)

宇宙空間で「糖」検出 生命の起源に必要

地球上の生命誕生の手がかりに

 科学者たちは初めて、星間空間(せいかんくうかん)で糖(とう)の一種を検出し、地球上の糖の起源や生命誕生の謎を解く重要な手がかりを得た。この発見は7月13日、科学誌『ネイチャー・アストロノミー(Nature Astronomy)』に掲載され、生命の材料となる化学物質が地球誕生よりはるか以前に宇宙で形成された可能性を示している。7月13日付ニューヨーク・タイムズ紙が報じた。

 発見された分子は「エリスルロース(erythrulose)」と呼ばれる糖の一種で、天の川銀河の中心付近にある巨大なガスとちりの雲「いて座B2(Sagittarius B2)」で確認された。研究チームは、チリ北部にある世界最大級の電波望遠鏡「アタカマ大型ミリ波・サブミリ波干渉計(ALMA)」を使い、分子が発する特徴的な信号を分析した。

 これまでにも宇宙ではアルコールやアミノ酸に関連する有機分子が発見されていたが、天然に存在する4つの炭素原子を持つ糖が星間空間で確認されたのは今回が初めてだ。糖は生命に必要な化学反応に関わる重要な物質であり、今回の発見は生命がどのように始まったのかを探る新たな手が

かりとなる。

 地球上の糖の起源は、長年科学者を悩ませてきた謎の一つだ。生命の誕生には糖が必要であるため、地球の初期から存在していたと考えられているが、初期の地球環境を再現する実験では、これらの分子を作り出すことは難しかった。

 現在、有力な説の一つは、数十億年前に小惑星や彗星が衝突した際、宇宙に存在していた糖が地球へ運ばれたというものだ。実際に、グルコースやリボースなどの糖は隕石や小惑星からも発見されており、生命の基本的な材料が宇宙からもたらされた可能性を示している。

 研究者によると、エリスルロースは氷に覆われた宇宙塵の表面で、紫外線や宇宙線による化学反応を通じて形成された可能性がある。こうした分子は、やがて彗星や小惑星に取り込まれ、惑星へ運ばれたと考えられている。

 今回の発見は、生命に必要な条件が地球以外の場所にも存在する可能性を高めるものだ。科学者たちは今後、さらに複雑な有機分子を発見することで、「生命はどのように始まったのか」という宇宙最大の謎の解明に近づくことを期待している。(Milana Pavlova、写真は合成イメージ)

AIのトリセツ

黒川伊保子・著

扶桑社新書・刊

  

たとえば、新聞記者は、現場に駆けつけて見たこと、そこに居合わせた人の話を聞いて、記者自身が知らなかったことをメモする。それはまだ、世の中の誰もが知らない言葉だったり、現象だったりする。つまりその瞬間だけは、AIはまだ知らないのだ。記事が公開された瞬間、それはAIの学習対象となり、社会全体の知識へと組み込まれていく。AI時代とは、人間が新しい経験を生み出し、AIがそれを蓄積していく時代でもある。

 生成AIが仕事や生活のあらゆる場面に浸透する中、「AIとどう付き合えばいいのか」という問いは、誰にとっても身近なものになった。人工知能研究の第一人者であり、感性アナリストとしても知られる黒川伊保子氏の新著『AIのトリセツ』は、AIの使い方を解説する技術書ではなく、人間がAI時代をどう生きるべきかを考えるための一冊である。

 著者は富士通でAI研究に携わった経験を持ち、長年にわたり脳機能論や言葉の持つ感性について研究を続けてきた。その知見をもとに、本書ではAIの長所だけでなく、見落とされがちな弱点にも光を当てる。 

 印象的なのは、「AIは人間の感情を増幅する存在である」という視点だ。AIは膨大な情報をもとにもっともらしい答えを返すが、それが必ずしも正しいとは限らない。ときには極端な意見や誤った情報をもっとも自然な文章として提示することもある。そのため著者は、AIを悩み相談の相手として全面的に信頼することや、最初に提示された答えをそのまま受け入れることに警鐘を鳴らしている。

 さらに本書では、「AIには身体性がない」という独自の考え方が示される。人間は経験や五感、身体感覚を通して物事を理解するが、AIにはその感覚がない。だからこそ、最終的な判断や価値の創造は人間の役割であり続けるという主張には説得力がある。

 子どもとAIの関係についても多くのページが割かれている。前頭前野が発達途上にある13歳未満の子どものAI利用には慎重であるべきとし、現実世界での体験や人との対話を重ねることが、将来AIを使いこなす土台になると説く。AI教育が注目される今だからこそ、保護者や教育関係者にも参考になる内容だ。

 タイトルからはAI活用のハウツー本を想像しがちだが、本書の本質は、人間が持つ感性や身体感覚の価値を改めて見つめ直すことにある。「AIに勝たない、媚びない、平気でいる」という著者の言葉は、AIを過度に恐れることも、過信することもなく、冷静に付き合う姿勢を象徴している。

 AIが日常の道具となった今、必要なのは新しい技術を知ることだけではなく、人間にしかできないことを見つめ直すことなのかもしれない。本書は、そのヒントを与えてくれる一冊として、多くの読者の関心を集めそうだ。AIを便利な道具として使う一方で、人間にしかない経験や身体感覚の大切さを改めて考えさせられた。

 AIは過去を学ぶことはできる。しかし未来を最初に見つけるのは、いつの時代も現場に立つ人間である。AIは現場には行かない。本書は、その当たり前の事実を改めて思い出させてくれる。(三浦)

日米野球交流描く 村上雅則さん登壇

ジャパン・カッツで上映

日本人初の大リーガー

 ジャパン・ソサエティー(JS)は15日夕、北米最大の日本映画祭、第19回「ジャパン・カッツ」にて、日米の150年以上にわたる野球交流を描いた長編ドキュメンタリー映画『Diamond Diplomacy(ダイヤモンド・ディプロマシー)』を上映した。日系米国人のユリコ・ガモウ・ロマー監督が手掛け、ロバート・フィッツ氏の著書を原作とした本作は、球場の内野を意味する「ダイヤモンド」と「外交」を掛け合わせたタイトル。

(写真上)左から司会のスモール氏、村上氏、ロマー監督、原作のフィッツ氏

 今や当たり前となった日本人大リーガーの扉を開いたのは、昭和39(1964)年に日本人初の大リーガーとなった村上雅則氏(82歳)だ。作中ではベーブ・ルース、ジョー・ディマジオ、野茂英雄、イチロー、大谷翔平ら新旧レジェンドが登場。明治維新後の野球を受け入れた背景や戦前の米球界の人種差別、第二次世界大戦中の日本人強制収容所での野球事情など、歴史の知られざる真実を浮き彫りにする。

 上映後の質疑応答には村上氏、ロマー監督、フィッツ氏が登壇。監督は資金繰りの苦労やスポーツの国際交流の重要性を力強く語り、村上氏はヤンキースタジアムでイチロー氏に会った際のエピソードを披露して会場の笑いを誘った。終盤にはクイーンズ在住のマイケル・キーニー氏が登壇するサプライズもあった。18歳の時にシェイスタジアムで村上投手が放ったファウルボールをキャッチし、長年保管していた現物を本人へ手渡すと、場内は大きな拍手と声援に包まれた。

 本作は今後、米国内での配給をはじめ、日本での劇場公開やオンライン配信が予定されている。(菊楽めぐみ、写真も)

花束を抱えた者同士 ニューヨークの魔法

 真紅のバラの花束を抱えて、友人のアパートメントのエレベーターに乗る。中には男の人が三人いて、ひとりがリボンの付いた色とりどりの花束を抱えて立っていた。 

 まあ、偶然ね。なんてきれいな花、と私が声をかけると、私の花に手を向け、君のもね、とその人がほほ笑んだ。 

 これはフラワー・ディストリクトで買ったんだよ。あそこはすばらしいんだ。

 フラワー・ディストリクトは、マンハッタンの六番街と七番街の間の二十八丁目を中心とする一帯だ。観葉植物、鉢植え、切り花、ドライフラワー、造花、資材など、花に関連するものなら何でも扱う店が、軒を並べている。 

 ジャングルのように造花だけで埋めつくされた店もあれば、店そのものが冷蔵庫になっている、切り花の専門店もある。 

 結婚式のとき、私たちもあそこで大量に花を買ってきたわ。もうずいぶん前のことだけど、と私が思い出話を語る。 

 ウエディングドレスの色に合わせて、オフホワイトや淡いピンクのバラをたくさん買い込んだ。フラワーアレンジメントを習っていた友人が、私が持つブーケや夫の胸に刺すブートニアなどを作ってくれた。   

 教会の結婚式では、証人が男女三人ずつ、前に立った。彼らのブートニアやブーケも用意しなければならない。 

 式の日まで花が新鮮であるようにと、友人はアパートメントで冷房をかけ続け、彼女の夫は風邪を引いてしまった。ニューヨークの緯度は青森と同じで、五月上旬でもまだ肌寒い日がある。

 それは大変だったね、と男の人が笑った。

で、と彼が続ける。 

 Are you still married to the same man? 

 今も同じ男と結婚してるのかい?

 みんなが笑った。二組に一組が離婚する、アメリカ人らしい質問だ。 

 そうよ。 

 Then it was worth it, right? 

 じゃあ、友だちもその甲斐があった、ってことだろ?

 君たち夫婦が今も一緒なら、友だちの夫も風邪を引いた甲斐があったね、ということだろう。 

 彼はそう言うと、エレベーターを降りていった。 

 自分の思い出ばかり話して、彼の花束について聞くのを忘れてしまった。 

 ユーモアたっぷりの紳士から、あの花束を贈られる人は、想像するしかない。 

 このエッセイは、「ニューヨークの魔法」シリーズ第8弾『ニューヨークの魔法のかかり方』に収録されています。 https://www.amazon.co.jp/dp/4167717220