米国の変貌と日本の戦略
ジャパン・ソサエティー理事長・プレジデント
ジョシュア・W・ウォーカー氏に聞く
ジャパン・ソサエティー理事長のジョシュア・W・ウォーカー氏が執筆した『同盟の転機』、「アメリカの変貌と日本の戦略」と題した新著が、日本経済新聞出版から2月2日に出版される。出版の動機と意図を聞いた。 (聞き手・本紙・三浦良一、写真も。書評19面に)
ウォーカー氏の発言内容は次の通り。
この本の出版時期がタイミング的に良かったかどうか予断はできないが、本書に書かれたことについてはその予断は確信と自信がある。大統領一期だけで予測することはできないが、私は最初の彼の第一期で過去80年間の戦後の枠組みが大きく変わったことを感じた。そして日本人はそれに大きな関心を払わなかったことにも気がついた。日本は米国を信用し過ぎたのだ。本のタイトル『同盟の転機』は、何かが変わったことを示唆している。2026年を予測したものではないが、ベネズエラ、グリーンランド、日本の解散衆議院選挙をレッスンとして日本は今学ぶべきことがある。私が言いたいのは日本が自ら日米同盟を変えろということではなく、日米同盟そのものがいまターニングポイント、転換点に差し掛かっているという現実を認識しなくてはならないということだ。
日本はこれまでのように米国に依存しっぱなしではいけない。なぜなら、日米同盟を築いた時のアメリカと今のアメリカとでは明らかに違うからだ。私たちが生きている世界は常に強い力(ハードパワー)によって形成されている。アメリカがベネズエラの大統領を拘束した時、アメリカでは誰も問題視しなかった。トランプ大統領がグリーンランドの割譲を口にした時、ヨーロッパは一斉に反発して欧米は分断された。日本はその中間にいる。転換期を迎えている世界の中で日本には今、役割がある。
日本は変化を望まない。現状維持が居心地がいいからだ。アメリカが中国を監視する警察官であると日本がまだ見ているならそれは現実的ではない。日本育ちのアメリカ人の私の目から見て、今の日米同盟に欠如しているのは「社会と人間」だ。今年は大きく変貌する1年になるだろう。新年を迎えてまだ21日しか経っていない今日、昨日や明日の変化を誰が昨年末に予想できただろうか。高市首相は3月に来米する前にこの本を読むべきだ。私のような日米マフィアは、日本に心地のよい耳障りのよいうまいことを普段言うが、建前でなく本音をここに書いている。日本語で書いたのには意味がある。私が見たものをそのまま書いているから英語で読めば怒り心頭に発するアメリカ人が多くいるし、おそらくトランプ大統領は賛同はしてくれないだろう。だが、私はこの本で政治論を展開しているのでなく、アメリカに生きる愛すべき人間を書いている。日米関係はもっと大きく拡大すべきで、そうでなければ私や私の子供の世代は、第二次世界大戦で日本と戦った祖父たちの世代が戦後築いた80年の日米関係を理解することが難しくなるからだ。本書執筆の動機はまさにここにある。
私は1歳から18歳まで日本で育ったが、日本に居たときは、常に自分がアメリカ人であることを意識していた。だが今、ジャパン・ソサエティーの理事長として自分の中に日本人的なるものを感じることがあるだけでなく、このアメリカの地で日本人が尊敬され、日本文化と伝統に対する憧憬と畏敬の念を多くのアメリカ人が抱いていることを痛切に感じている。
日本人は他の人の気持ちを考えて発言する「おもてなしの心」があるが、アメリカ人は全く相手のことは考えないでストレートに主張して説得して要求する。昔の日米関係は、中曽根とレーガンのロンヤス関係や、安倍晋三首相のシンゾウアベがうまくできたのも相手とのバランスをうまく取れたからだが、もし、安倍首相が生きていても今のドナルド・トランプを止めることはできない。日本がアメリカとうまくやるためには、アメリカ人と一緒に何かやらないとだめだ。トランプの考え方はNYリアルエステートエージェント(不動産業者)だから、どうやってアメリカとうまく与(くみ)するかは、安全保障だけでなく、経済、文化、食などのソフトパワーでアメリカの悪夢と立ち向かわなくてはならない。
私は合気道を長い期間習っている。相手の力を利用して反撃することができる技だ。日本がアメリカにパンチを喰らわしてもアメリカを怒らせるだけなので、日本は米国との戦いを極力回避し、静かにそして熟考してアメリカ人が納得する方法でサポートすることを考える方が得策だ。
そこでアメリカとの関係で日本の立ち振る舞い方が大切だ。今の日米関係をアメリカが兄で日本が弟の兄弟に例えると、兄の言動をハラハラと見守っている弟の状況に近い。それでも自分は兄弟だからたとえ兄が周りから責められても兄のことをちゃんと守ってやらなくてはならない。お兄ちゃんの言動を真正面から攻撃したり非難するのではなく「柔よく剛を制する」合気道のような柔軟なしなやかさが必要だ。
アメリカ人として私はアメリカファーストが日本人の関心を呼ぶとは思わない。どの国も自国のことを第一と思うのは当たり前のことだからだ。「アメリカ・ファースト」は「アメリカ・アローン」だ。米国の大統領は日本の犠牲に感謝はしないだろう。米国が国際機関から脱退している中で、もし米国が国際秩序を大きく壊したら、その時は日本は真剣に考えなくてはならない。日本は中国のようなスーパーパワーの国ではない。日本は国際的な安定秩序のシステムの上に成り立っている国だからだ。もし米国が力まかせで国際秩序を破壊したら日本は大きな不利益と逆境に陥ることになる。多くのアメリカ人はトランプ大統領を支持していない。残りの3年は、大統領のエゴとファミリーのために使われるかもしれないが、日本はなんとしても生き延びなくてはならない。新しい日本の首相はうまくマネージしてサバイブしなくてはならない。外務省ではなく、官邸ではなく、首相本人だ。石破前首相は安倍晋三のように対峙せずに失敗した。インパーソンのワン・オン・ワンが大切だ。転機を迎えた日米同盟のキーワードは人だ。トランプ大統領にいかに日本が米国に多大なる投資をしているか、していくかを力説すること、日本と米国は親友であることを訴えることだ。日本は国際社会でリーダーシップをとることに消極的すぎる。日本企業のプライベートセクターがアメリカ社会で活躍して成功しているのを見習って、もっと積極的に世界の表舞台で発言し、アピールして顔の見える日本になってプレゼンス、存在感を高めてほしい。それがこの本を書いた最大の動機であり、愛する日本への私からの「お願い」でもある。
(写真左)2月2日に日本で発売になる『同盟の転機』
(写真右)出版の動機を語るウォーカー氏(1月22日)
日本の立ち位置を示唆
ジョシュア・W・ウォーカー・著
日本経済新聞出版・刊
トランプ再選から1年。アメリカ・ファーストを推し進める大国のもと、第二次世界大戦後から長らく続く日米関係はいま新たなフェーズに入っている。
日本とアメリカの関係を再構築し、国際社会でのプレゼンスを高めるためにはどうすればいいのか。新時代のリーダーに向けて、知日派の著者が提言する。
著者でジャパン・ソサエティー理事長・プレジデントのジョシュア・W・ウォーカーさん(44)は、1歳の時に宣教師の親と共に訪日し、18歳まで北海道の札幌市で育った自称「道産子」だ。米国で世界的に知られる政治分析会社ユーラシア・グループにおいてイアン・ブレマー社長直属の戦略イニシアティブ担当として日本での事業を担当し、民間に移る前には米国務省、国防総省といった米連邦政府のさまざまな部署で勤務、2019年に100年以上の歴史を持つジャパン・ソサエティーの理事長に歴代最年少で就任した。
「日本が今日の分裂と不確実性に満ちた世界において、より大きな役割を担うためにも、私は日本のソフトパワーや強固な経済力、そして明確な目的意識が、これまで以上に重要になると感じている。本書を通じて、日本の幅広い読者が、これまで自分たちがアメリカや日本に対して抱いていたイメージを考え直し、日米のパートナーシップについて、より大胆な発想で考えるきっかけとなればと願っている」と語る。
さらに本書を執筆したのは、「日米同盟が重大な岐路に立っていると確信したからだ。当初は英語で世界に向けて日本の強み、教訓、豊かさを説明するために書き始めたが、すぐに自分の中に別の本が生まれたことに気づいた。それは、家族の歴史が直近80年の日米関係と直接結びつく私自身の体験と視点に基づき、歴史の転換点に立つ故郷・日本への想いを綴り、日本の友人たちのために特別に執筆したものだ」と執筆の動機を同書で綴っている。
「周囲の地政学や政治情勢にもかかわらず、私はこの分岐点を明確な視座と、日本および日米関係に対する真摯な楽観をもって迎えている。本書は愛を込めて執筆した労作であり、翻訳者である石垣友明氏の尽力により、言語的にも確実に伝わるものになったと確信している」と話している。
序章でトランプ大統領の昨年秋の訪日で、高市首相が最大のおもてなしの心で接遇したソフトパワーこそ、日米関係の黄金時代をこの不確実な世界情勢の中で築くことができ得た源泉であると著者は説く。
年が明けてわずか1か月、トランプ第二期政権発足から1年でこれほどまでに世界が不確実性の様相を色濃く呈するとは誰もが思っていなかった中でも、日本にとって、確固たる日米同盟の枠組みは日本の現在そして未来にとっての必須項目であることに変わりはないだろう。
では「転機」とは、その中身について今、日本は自分たちが持っているソフトパワーを自覚し、それに自信を持てと日本育ちの米国人である著者が日本人の目と心で「愛の外圧」をかけているとも読める。
(三浦、インタビュー記事本紙1面に)