米国で夢実現した空中の舞い姫

エアリアル・ダンサー

山田 愛(めぐみ)さん

 エアリアルダンサーというと聞きなれないが、日本語だと空中パフォーマー、エアリアルパフォーマー、空中アクロバットダンサーなどと呼ばれる職業で、ロープなどを操って空中で演技するダンサーのこと。サーカスなどの身体曲芸場面で妙技を披露して活躍する。山田愛さん(39)は、エアリアルダンサーとしてだけでなく、ニューヨークを中心としたエンターテインメントイベントなどを手がけるシルクドゥヌイットでエアリアル・ディレクターとしてオーディションの審査や、カンパニーのメンバーがエアリアルを安全に行うための最新の指導に携わっている。ヨガトレーナーの資格もニューヨーク市から取得している。

 京都市に生まれ、その後東京の大正大学で社会福祉学を専攻した。学生時代からハンディキャップを持つ人の自立支援に携わった。学生の頃から世界の音楽を聴くのが好きで、特に興味を惹かれていたのが中東、トルコなどの音。そしてベリーダンスに出会い、夢中になった。卒業後も千葉県にある無農薬栽培の和綿農家で住み込みバイトをしながら、自宅に戻るとベリーダンスという生活だった。モダンダンスも始めたが数年経つと、何か悶々とした中途半端感を感じるようになり、もうダンス辞めようかと思い始めていた時に出会ったのがエアリアルだった。2011年にエアリアル /空中パフォーマンスを東京のエアリアルアートダンスプロジェクトで始め、13年には香港で開催された国際エアリアルトーナメントでエアリアルシルク・アマチュア部門にて1位に輝く。これを機に14年、活動の拠点をニューヨークに移す。

 アクロバットの経験は皆無、当時既に30歳を迎える目前でのスタートではあったが、4年後の15年には世界のプロ・エアリアリスト達が集う、全米アエリアル・チャンピオンシップでエアリアルシルク部門のファイナリストに選出される。 

 その後も、ニューヨークのサーカストレーニングセンターで自身の研磨を続け、また、指導も行なっている。数々の大規模イベント、仮面舞踏会、野外イベント等にも多数出演。昨年は有名ラッパー50セントのイベントにも参加。今年は上海サーカスのミズーリ州公演へのオファーが入るが、パンデミックにより、ショーはキャンセル。

 大変厳しい状況のニューヨークでも希望を捨てず、今人々が必要なことをを見出す。オンラインでのフッィトネスクラスを3月から現在も継続し、無料でフィットネス教材ビデオを配信するためYoutube channel: Meg Aerial Fitnessを設立、毎週新しいビデオを作り続けている。「バーチャルシアターショーなど、今だからできる形を模索しながら、作品を創り続けることに力を注いで行くとともに、サーカスの可能性を切り開いて行きたい」と話す。(三浦良一記者、写真は本人提供)

求められる帰国生像

コロナ時代の帰国受験 第5回 田畑康 

 海外生・帰国生入試の受験指導者として、「コロナ時代だからこそ求められる帰国生像」について深く考えるようになりました。

 まずは高校の一般入試の話です。今年6月、東京都教育委員会は来春の都立高校の入試について、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中学校の休校が長期化したことを受け、出題範囲から除外する内容を公表しました。除外されるのは、中3の教科書で学習する漢字(国語)、三平方の定理(数学)、関係代名詞(英語)などです。休校の影響に配慮しての措置だということです。その後、国立大学の附属高校(東京学芸大学附属・筑波大学附属・筑波大学附属駒場)や他の多くの道府県立高校が同様の措置をとることにしています。しかし、トップレベルの国公立高校ならば、単元が限定されても出題される問題のレベルが下がるわけではないですし、もともと高校学習単元を出題してきている難関私立高校には出題範囲を限定する動きはほとんど見られません。

 続いて中学の一般入試の話です。9月、男子最難関中学である筑波大学附属駒場中学が、右記の国公立高校と同じように「小6の学習単元」の一部を出題範囲から除外することを発表しました。しかし、難関中学を目指す生徒は小5の段階で小6までの学習単元を終えていますし、学習塾の方も授業内容を軽減したりはしないので合格ラインが下がることは考えられません。また、このように出題範囲を限定する措置をとる難関中学はとても少ないのです。

 以上の点から、難関中学と高校の一般入試においては、コロナ禍のせいで合格ラインや「難度」が下がることはないといえるでしょう。国内の早稲田アカデミーでも、一時期はオンライン授業しか提供できなかった時期もありましたが(現在はオンラインと対面授業が選べます)、しっかり努力をした受験生が順当に合格を手にするのです。

 では、帰国生入試はどうでしょうか。帰国生入試の場合も、学科試験がベースの入試であれば、基本的には「合格ラインが下がる」ことはないと考えていいでしょう。むしろ、昨年度までは求められなかったレベルの「新しい学力」が必要になってきているかもしれません。

 一つの例が、ZOOMなどのオンライン面接試験です。面接を重視する中学や高校はコミュニケーション能力を重視しますが、対面式ならばうまく自己表現ができる受験生が、ZOOMだとうまく出来ないケースもあるのです。

 奇しくも、文部科学省が提唱する「新しい学力」の柱の一つである「表現力」が、「オンライン教育」がキーワードになってきたこのコロナ時代に試されようとしているのです。

田畑康(たばたやすし)

早稲田アカデミーニューヨーク校校長。海外生・帰国生指導歴15年。自らも帰国生(オーストラリア、マレーシア)であった経験を生かし、「合格のその先」を見据えた指導を心掛けている。

ハドソン・ストリートのあたり

常盤新平 ニューヨーカー三昧 I LOVE NEW YORKER 5

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 そろいのコーヒーカップがふた組ある。ハドソン・ストリートの瀬戸物屋で買った安物だ。カップのひとつはひびがはいっているが、捨てるにしのびなくて、いまだに朝は女房とそれでコーヒーを飲んでいる。

 ハドソン・ストリートをどうして知ったのかもうおぼえていないが、たぶんヴィレッジから歩いてきたのだろう。五番街や六番街とちがって人通りと車の往来も少なくのんびりとして、さびれているようにも見えた。

 瀬戸物屋があって、店先にセールのものが並んでいた。飲み口のふちに細い線のはいったコーヒーカップがひと組二ドルか三ドルだったので、土産にしようと買った。

 ハドソン・ストリートで見つけたカップでコーヒーを飲むのも悪くないと思ったのだ。コーヒーは自分で淹れる。コーヒーを淹れるのも紙の濾過紙ができて簡単になった。

 洗いものをしているときに、食器を落としてよく割ってしまったが、コーヒーカップだけは無事だった。大事に扱ったわけでなく、カップそのものが丈夫だったのだろう。そのうちにカップのひとつにひびがはいった。でも飲むのに差しつかえなかった。

 コーヒーを好きになったのはアメリカに行ってからだ。東京のコーヒーは濃くて一杯でもうたくさんだったが、ニューヨークのコーヒーは二杯か三杯は飲める。 

 コーヒーショップでもポットを持った中年のウェイトレスがテーブルをまわって、注ぎたしてくれる。ストレートで飲むのが嬉しかった。アメリカのコーヒーが好きになった。

 前後10年ほどニュージャージー州に滞在した妻は私とちがって濃い味のコーヒーを好む。私が淹れたのを「コーヒー水」だと言う。

 再びニューヨークを訪れたとき、同じ瀬戸物屋で線の色のちがうコーヒーカップをひと組買った。これもぶあつい頑丈そうなもので、以前に買ったのと交互に使っている。愛着がある。

 ふた組のコーヒーカップは思い出深い品だ。

 五番街で高価なライターや腕時計を買ったのだが、みな人にやってしまった。執着心がないと言えば聞こえがいいけれども、コレクションの趣味がない。

 コーヒーカップはハドソン・ストリートを思い出させてくれる。あの瀬戸物屋の近くに1850年代創業というホワイト・ホース・タヴァーンがあり、夕方近くこの店でビールを飲みながら、ハンバーガーを食った。ハンバーガーがうまかったのをおぼえている。

 この店にはディラン・トーマスのような詩人や多くの文人や画家がやってきたという。ニューヨークのガイドブックにはかならず載っている店の一軒だ。

 お酒が好きだから、ホワイト・ホース・タヴァーンに行ってみたのだが、この街にある古い店ー酒場ーを見ておきたかったからだ。カウンターがあまりに長いのに驚いた。

 ニューヨークで一番の楽しみは古本屋をひやかすことだった。ヴィレッジには何軒かあったが、それらを訪れるたびに閉店して淋しいかぎりだった。東京でも古本屋と喫茶店は数が減っている。

 これは個人の力ではやっていけなくなったからだ。経営者も年をとって、あとを継ぐ人がいない。神田神保町だって様変わりしつつある。老舗は健在だが、ひと月前にあった古書店がスポーツ用品店に変わっていたりする。

 最後にハドソン・ストリートを歩いたのはもう10年も昔のことだ。コーヒーカップを買った瀬戸物屋はなくなっていた。現在のハドソン・ストリートについてはまったく知らない。

 知人がこの界隈に住んでいたが、消息を聞かない。写真家で、優雅に暮らしていたが、あるいは帰国したのかもしれない。十年前、二十年前に帰りたいと思うが、それはかなわぬことだ。そのころに私が愛読した作家たちやジャーナリストたちはみんな老いてしまって、その後どうしているか知る由もない。(2008年7月12日号掲載)

(写真)昼下がりのホワイト・ホース・タヴァーンで微睡む客たち(加藤麻美撮影)


常盤新平(ときわしんぺい、1931年〜2013年)=作家、翻訳家。岩手県水沢市(現・奥州市)生まれ。早稲田大学文学部英文科卒。同大学院修了。早川書房に入社し、『ハヤカワ・ミステリ・マガジン』の編集長を経てフリーの文筆生活に入る。アメリカの現代文学やニュージャーナリズムの作品を翻訳して日本に紹介する翻訳家であるとともに、エッセイスト、作家としても知られた。86年に初の自伝的小説『遠いアメリカ』で第96回直木賞受賞。本紙「週刊NY生活」に2007年から2010年まで約3年余りコラム「ニューヨーカー三昧」に24作品を書き下ろし連載。13年『私の「ニューヨーカー」グラフィティ』(幻戯書房)に収録。本紙ではその中から12作品を復刻連載します。

編集後記 11月28日号

【編集後記】
 みなさん、こんにちは。今日は感謝祭です。HAPPY THANKS GIVING!
例年ですと明日のブラックフライデーからホリデーシーズン、歳末商戦の火蓋が切られるということになり、クリスマスまでの1か月余りで米国の小売り業は年間売り上げの3分の1を稼ぎ出すと言われています。今年はコロナのパンデミックとなり、店頭販売での売り上げは壊滅的打撃を受けていますが、一方でネット販売の売り上げがどこも好調な伸びを示しているそうでです。例えば、目覚まし時計一つ欲しいと思って、今、時計屋さんに行く人はいません。市内のワンダラーストアで8ドルも出せばとりあえずの機能のついたものは買えます。しかしamazonで検索するとありとあらゆる目覚まし時計が出てきていて、2日以内に配達してくれます。今年はコロナで食品の買い出しやレストランへの外食、必要備品の購入などどれもデリバリーに頼る年でした。ロジスティックス革命元年とでも言えるほど、物流のあり方が激変した年でした。リアルは小さくても肌身に感じる現実感と豊かさ、オンラインは共有する喜びと安全を確保するというそれぞれの特徴があります。どちらかに偏るのでではなく両足を交互に軸足にしてバランスをとって転ばないように走って行きたいものです。それでは、みなさんよい週末を。(「週刊NY生活」発行人兼CEO三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】(2020年11月28日号)

(1)在外選挙ネット投票の現状
(2)4次元空間立体で表現
(3)マイナーな作家が好きだった。
(4)NYで楽しむ贅沢な日本
(5)視座点描
(6)ディンキンズ元NY市長死去
(7)デュオ夢乃が大使公邸から
(8)生き生きEATS
(9)NY生活ウーマン
(10)国際交流基金が日本映画祭

在外選挙ネット投票

大統領選混乱でムード後退

 2022年次期参院選において在外投票はネット投票が行われるのではという情報があった。つくば市でシステムの実証実験が成功したので期待されたためだ。今回、海外有権者ネットワーク・日本代表の若尾龍彦氏が、議連の西村智奈美事務局長に連絡して現状を聞いたところ「結果は、前向きだがまだまだクリアすべき諸問題があり、実現には時間がかかりそう」との返事を得た。コロナで一時「人が集まる投票所はやはり危険。ネット投票の早期導入を」という声がネット上でかなりあったが、ここに来て米大統領選での不正投票騒ぎで「やはりネット投票は危ない」という声も多くなっている。在外選挙のインターネット投票はさらに後退したのか。議事録を抜粋しながら、関係者の声を聞いた。

課題なお山積

 海を渡って外から日本を見ると違って見える。

 海外在留邦人は何度もそういう経験をしたでしょう。私達が憲法で保証された国政選挙に参加したいと始まった在外投票実現運動も26年、2007年の最高裁勝訴で実現したが投票率は4%ほど、支援してくれた皆さんもがっかりしました。

 しかし、海外有権者が悪いのではない。現在の投票システムが海外の実情に合わないのです。

 引き続き改善を求めてきた結果、有識者会議も必要性を認めインターネット投票の実証実験が成功しました。

 しかし、サイバーアタック、システム上のトラブル対策のほか、投票結果は政治家にとって最も重要なこと、それらのコンセンサスを得るなど課題はまだまだあります。

 しかし、改善をあきらめてはいけない。インターネット投票が実現し投票率が上がればメディアの注目も上がり、選挙のたびに海外からの視点が国会に届けられます。

 皆さんの応援をよろしくお願いします。(海外有権者ネットワーク・日本代表の若尾龍彦)

相当先に延びた海外で実験導入を

 2020年参議院選からの在外選挙のネット投票導入に関しては、安倍政権後半から少しトーンダウンしてました。今回の参議院総務委員会における答弁もほぼ同じトーンです。高市総務大臣は以前、在外選挙の改正案をまとめたこともあり、同制度改善には比較的積極的ですので期待してます。ただ心配なのは日本の世論のほう。コロナで一時「人が集まる投票所はやはり危険。ネット投票の早期導入を」という声がネット上でかなりあったのですが、ここに来て米大統領選での不正投票騒ぎで「やはりネット投票は危ない」という声が多くなってます。日本国内でのネット投票導入は相当先に延びた印象です。「だからこそ先に在外ネット投票の実験導入を」という流れに持っていきたいです。(竹永浩之/海外有権者ネットワークNY共同代表)

若手専門家登用を
デジタル時代に対応

 今年の米国大統領選挙は投票の正当性が大きな話題になりました。今回の日本政府のインターネット投票に関する見解は妥当だと思われます。日本でも近年IT及びデジタルトランスフォーメーションへの関心が高まっているようですが、まだまだ、それに関わる政治判断は遅いように思われます。

 1980年代後半から急速に民主化を進めている台湾のIT担当大臣は今年で39歳でIT及びデジタルトランスフォーメーションに非常に明るい方だと聞いています。今までなかった全く新しい技術を使っていくには、それに精通した人材をその担当に採用することが重要に思われます。

 新しいことを始める際には必ずリスクがつきものですが、ここは是非前向きに若手の専門家を登用していただきたいと思います。(竹田勝男/海外有権者ネットワークNY共同代表)


在外選挙を日本で審議
ネット投票の現状報告

国会議事録より総務省の答弁

焦点 第201回国会参・総務委員会令和2年5月14日(議事録より抜粋)=1面に関連記事=。

○政府参考人 総務省答弁(原文まま)

  お答えを申し上げます。御指摘のように、現在、私ども総務省の方では、在外投票においてのインターネットの導入ということで、いろいろな課題を整理をしているところでございます。在外インターネット投票の導入に当たりましては、確実な本人確認でございますとか二重投票の防止、あるいは投票の秘密の確保などをシステム上で確実に行うことに加えまして、システムのセキュリティー対策、あるいは新たに必要となる事務フローの検討など多くの課題をクリアする必要があるわけでございます。御指摘のように、私ども、令和元年度、昨年度に、市町村の選挙管理委員会の御協力もいただきながら、投開票システムのプロトタイプを構築をいたしまして実証実験を行ったところでございます。

 実証実験を通じまして、本人確認でありますとか投票データの暗号化などのいわゆる投開票システムの基本的な機能につきましては誤りなく稼働をしたわけでございますけれども、参加をしていただきました実務を担当していただく市町村の選挙管理委員会の方々からは、インターネット投票をする者のシステムへの事前登録、これをどういうふうに円滑に行っていけばいいのか、あるいは、インターネット投票を導入した場合におきましても投票用紙による投票というのが残るわけでございまして、この場合、二重投票というのをどうやって防止をしていくのか、また、ない方が望ましいわけでございますが、仮にトラブルが発生した場合におきましてのサポート体制をどういうふうに考えたらいいのかなどなどについて、運用フロー面での課題について御指摘をいただいておるところでございます。

 在外選挙インターネットの導入に向けましては、こうした課題に対応するほか、選挙争訟が提起された場合どういうふうに対応していくのか、あるいはサイバー攻撃を始めといたしましたシステムのセキュリティー対策など、今回の実証実験の対象とはしていない重要な課題も含めまして引き続き検討を進めていることが必要であるというふうに考えてございます。また、新たな投票方法を導入するということでございますので、選挙制度の根幹に関わることでございますので、各党各会派における御議論も頂戴しないといけないと考えておるところでございます。いずれにいたしましても、在外選挙人の投票環境向上を図ることは大変重要なことでございますので、総務省といたしましては、引き続き着実に検討を進めてまいりたいと考えておるところでございます。

4次元空間立体で表現

アーティスト 野村康生

 ニューヨーク在住のアーティスト、野村康生が、4次元を3次元空間で表現したアート「ディメンショニズム」をソーホーのギャラリー「NowHere」(ウースター通り40番地、電話917・675・6944)で開催中だ。「Pion」と題された作品は、巨大な立方体の中に正四面体をスポッと入れ、色彩学で光の3原色であるRGB(レッド、グリーン、ブルー)と色の三原色であるCMY(シアン、マジェンタ、イエロー)の重ね合わせの相関関係によって生み出されるまざまな色彩の異変現象を体現的なアート構造物で具現化した。中に入って手をかざすと視覚できない光で遮断されて色が変わる。

 野村は武蔵野美術大学で油彩を専攻して2004年に卒業、アート表現を模索する中で、人類が宇宙空間に飛び出した20世紀こそ重力からの解放と陰と陽、白と黒、裏と表、天と地という方向性と時間からの解放を21世紀の人類に向けたメッセージ「ディメンショニズム」として定義付けた。来米後に1936年の仏パリでマルセル・デュシャンらが既に「ディメンショニズム」という概念を使ったアート表現活動をしていたことを知り、時間を超越した運命的交差を体験する。

 キュレーターの戸塚憲太郎さんは、野村の作品を「重力や次元という今までは逃れることができなかった要素からの解放で、絵画表現そのものを現代、次世代に向け完全にアップデートできることを示すのが趣旨」という。12月27日(日)まで。

マイナーな作家が好きだった。

常盤新平 ニューヨーカー三昧 I LOVE NEW YORKER 3

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 作家は死ねば、たいてい忘れられてしまう。二流三流の作家のものなど古本屋でも見かけない。私は日本語版のミステリー雑誌に短編を翻訳していたころ、ある作家の短編を好んで翻訳させてもらった。

 作家の名はヒュー・ペンティコーストという。「エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン(EQMM)の寄稿家だったが、その経歴はよくわからない。「EQMM」にその経歴が紹介されたのかもしれないが、まったく記憶がない。

 ペンティコーストは「EQMM」に短編を年に何編か書いていたから、レギュラー・ライターと呼んでもいいだろう。ニューヨーク州北部の町を舞台にしたものが多かったようだ。

 当時の私は翻訳小説専門の出版社に編集者として務めながら、帰宅するとアルバイトに翻訳していた。洋書を注文するお金が欲しかったのだ。

 私はアメリカの1920年代のニューヨークに惹かれて、その方面の資料を探していた。謎の組織といわれたマフィアにも興味を持っていた。

 ペンティコーストは20年代にもマフィアに無縁の、マイナーな作家だった。だいたいがニューヨーク州北部の町で起こった殺人事件を老探偵が解決するというストーリーで、その素朴な作風がよかった。

 そのうちに彼は素人の老探偵とその甥を主人公にした連作シリーズを本国版「EQMM」にときどき発表するようになった。 

 そのひとつは「ぼくのホームズおじさん」というタイトルだった。どんなストーリーであったか、遠い昔のことなので忘れてしまったが、甥の口を通して語られた短編である。

 甥はおじさんが事件を見事に解決するのを見て、シャーロック・ホームズだと思う。たしか原題は「マイ・アンクル・シャーロック」だった。

 ペンティコーストのこのシリーズはみな小味なほほえましい作品で、「EQMM」にふさわしい魅力があった。もっとも、彼の短編をいくつ翻訳したのかももう憶えていない。

 もともと私は翻訳で食ってゆきたかったのだが、できれば好きな作品を手がけてみたかった。ペンティコーストは私の好みにもぴったりだったので、楽しく翻訳したし、ペンティコーストという作家に親近感を持った。

 彼は原稿を書き上げると、それを持ってニューヨークに出てきて、雑誌社に届けていたのだろうか。それとも郵送していたのか。まだファクシミリは登場してこなかったのどかな時代だ。

 出版社を退職した私はミステリーからしだいにはなれていって、主にノンフィクションを翻訳するようになった。それも犯罪がからんだノンフィクションである。だが、ニューヨークにはたえず関心をはらってきた。もっぱらニューヨーク市の地図とニューヨークを舞台にした映画を観るにすぎなかったが、ニューヨークに行こうとは考えてもいなかった。

 もっと好奇心が旺盛で向学心があったら、ニューヨークに行かなければと思ったにちがいないが、そこまでの意欲に欠けていて、活字を読むだけで満足していた。  

 いまはいろんなことから興味がなくなって、競馬場へ馬券を買いに出かけることもめったにない。あんなに好きだったのに、長いあいだには興味の的が変わるものだ。

 残ったのはニューヨークと週刊誌の「ニューヨーカー」だけである。2月には「ニューヨーカー」の創刊83年記念(25日)号を出したが、そのことをうたった絵も言葉もなく、ふだんと変わりがない。ページ数だって少ない。やはり奥床しい雑誌なのである。

 けれども内容が充実している。ある作家のことを書いた「イースト・サイド・ストーリー」という読物は長いけれども面白かった。ただ、いまでもこの週刊誌を読むのに時間がかかる。まだ英語の仕事をしているみたいな気がする。私の英語はちっとも進歩していない。高校英語のままだ。(2008年3月15日号掲載)

(写真)パーク街47丁目にたつ彫刻作品「TAXI」By J.Seward Johnson, Jr. 1983・三浦良一


常盤新平(ときわしんぺい、1931年〜2013年)=作家、翻訳家。岩手県水沢市(現・奥州市)生まれ。早稲田大学文学部英文科卒。同大学院修了。早川書房に入社し、『ハヤカワ・ミステリ・マガジン』の編集長を経てフリーの文筆生活に入る。アメリカの現代文学やニュージャーナリズムの作品を翻訳して日本に紹介する翻訳家であるとともに、エッセイスト、作家としても知られた。86年に初の自伝的小説『遠いアメリカ』で第96回直木賞受賞。本紙「週刊NY生活」に2007年から2010年まで約3年余りコラム「ニューヨーカー三昧」に24作品を書き下ろし連載。13年『私の「ニューヨーカー」グラフィティ』(幻戯書房)に収録。本紙ではその中から12作品を復刻連載します。

NYで楽しむ贅沢な日本

ザ・キタノホテルNY
24時間宿泊プラン

アムネットNYが企画販売

 現在日本への帰国や海外旅行をはじめアメリカ国内でさえ州をまたぐ旅行が難しい状況だが、ニューヨークにいながら少しでも旅行気分や日本を味わってもらおうと、日系旅行代理店のアムネットNYは、ザ・キタノホテル ニューヨークと寿司レストラン対馬とコラボレーション協力し、ニューヨーク地区に住んでいる人向けに新商品の取り扱いを開始した。

 ホテル内17階にあるニューヨーク市内ホテル唯一の本格的畳スイートルームで、24時間滞在可能な宿泊プランを提供するもので、この日本間は、茶室も備えた本格的な数寄屋造り。風呂場はゆったり肩までつかれる深いバスタブと流し場がある日本式の造りになっている。純和風の空間から眺めるマンハッタンの景色が見え、和洋折衷の旅心を盛り上げてくれる。畳部屋での食事や布団を敷いての就寝ができる。希望者には畳部屋でのツインベッド宿泊も可能だ。

対馬の夕食のお弁当

 夕食は、ミッドタウンの寿司レストラン「対馬」から日本の雰囲気を存分に味わえる寿司と惣菜の弁当を部屋で楽しめる。魚料理以外の希望にも対応できる。朝食もついている。今回のプランは、コラボ限定の特別料金となっており、普段キタノホテルを利用しない人でも通常よりも気軽に申し込みできる価格設定となっている。実施は、11月16日から既にスタートしており、12月31日(木)チェックイン分まで予約を受け付けている。チェックインは午後2時、チエックアウトは翌日午後2時。1日1組限定販売。2人1室の料金は990ドル(税別。通常は部屋代だけで税別1200ドル)。1部屋で最大4人まで利用可能。その場合の料金は3人で1125ドル(税別)、4人で1260ドル(同)。申し込みはEメールで newyork@amnet-usa.com

(写真)数寄屋造りの本格和室

陰謀論世界

 いわゆる「陰謀論」にハマる人たちが一様に口にしたのは「自分でリサーチしてわかった」「インヴェスティゲートしたらこうだった」という半ば決まり文句でした。でもそれは、さらに聞いてみると「YouTubeで見つけた新事実」だったり「ネットでたどり着いた真実」だったり││。

 そういう人たちにタイムズスクエアで、酒場で、集会で何度か出会いました。しかも揃って同じような話し方なのです。台詞を思い出すように時に目をつぶり、時に言い間違えを直したり。受け売りの言葉を誦んじようと努力する話し方です。矛盾にツッコミ入れるのも遠慮されるようなたどたどしさで。

 一方で、これらの言説を堂々と大声でまくし立てる人も多い。彼らは成長形です。陰謀論へのハマり具合が嵩じて、あちこちの集会で同じことを言っている間にすっかりと立て板に水の講釈者=デマゴーグに成長した。そんな彼らは今度はテフロン加工の演説マシンになります。「自説」をまくし立てるだけで反論は何も聞こえていない。

 思い起こせば、4年前の大統領選挙でトランプが何よりも強調していたのは中央の主流メディアへの不信でした。NYタイムズやCNNを始めとするマスメディアを「ガーベージ」「トラッシュ」とゴミ呼ばわりし、「フェイク」と断じる。日本でもちょうど「マスゴミ」なる言葉が流行り始めていました。主流メディアの報じることを信じさせないで、では何を信じさせるのか?

 そこで用意されていたのが新興メディアです。折しも21世紀に入って新聞やラジオなどの地方メディアはネットに食われてどんどん潰れていました。そこに入り込んだのが、オバマをイスラム教徒のように印象付ける放送を流したことで批判されたシンクレア・ブロードキャスト・グループなどの保守系メディアでした。地方ラジオは聴取率と広告を得るためにどんどん過激なトークを加速させました。さらにフェイスブックなどには出てこない「特別な情報(陰謀論)」を提供する「パーラー」などの新たなSNSプラットフォームもできています。

 冒頭で紹介したような人たちはそれが情報源。しかもそこを掘っていくと、アルゴリズムを利用した関連情報が次々と自動的に現れてくることになる。そうなったらもう宝(陰謀論)の山です。

 一般の人が知らない情報(陰謀論)を手に入れることで、自分が一家言を持ったかのような優越感に自己陶酔するのは、ひとえにメディア・リテラシーが養われていなかったせいですが、そんなことはもう関係ありません。トランプはそれをスポーツの試合のように利用して、政治をスポーツ観戦のように敵・味方の二元論で進めていきました。そう、プロレスと同じです。難しくて面倒臭い話じゃなく、何より単純で面白い。そこで勝つことの爽快感、敵のほえ面を見ることの快感と言ったら! バイデンの勝利が信じられないのは、自分がほえ面をかくのが耐えられないからです。

 今回、トランプに投票した人の半分ほどがこの陰謀論を何らかの形で信じているといいます。そんなことが可能なのか、と疑いますが、アメリカは一九五〇年代にあのマッカーシズムという大いなる陰謀論に国家ごとはまり込んでいました。人間は、舞台さえ仕込めば何でも信じてしまうのかもしれません。

 政府の一般調達局が正式にバイデン政権への移行を認め、今週、やっと作業が始まりました。不正選挙を訴えて時間稼ぎをし、州議会で選挙人を決めさせるという奥の手ももう手詰まりです。トランプ陣営は次に何を仕込むつもりでしょう? (武藤芳治/ジャーナリスト)

「ヌチグスイ」体に良くて美味しい沖縄料理をご家庭で

プロに聞く、生き生きEATS(イーツ)

元気と美味しいを求めて料理の達人が腕を振るう (8)

 イーストビレッジの居酒屋「うみのいえ」が今年3月、本格的な沖縄料理の店「UMINOIE」として生まれ変わりました。今号では、その「UMINOIE」で腕をふるう鈴木理恵さんに家庭で作る沖縄料理を紹介して頂きます。

 沖縄は「医食同源」「薬食同源」の思想で築かれた世界的にも有名な健康長寿の地域。山、海、自然の恵みを受けたミネラルやビタミンなど栄養豊富でバランスの良い食習慣で、「命薬〜ヌチグスイ」という言葉に代表されるように、食事こそが私たちの生命を支え、健康を守る最も大事な薬であるという「医食同源」「薬食同源」の思想が根付いています。健康長寿の沖縄で伝統的に食べられてきた、免疫力を高める手軽な沖縄家庭料理を2品ご紹介します。

【うみのいえ】

 NYで唯一の沖縄料理店。沖縄のヘルシーで栄養価の高い食材を使用した沖縄料理「命薬~ぬちぐすい」を提供。沖縄県産のハーブティ「神様のおくりもの」「沖縄のおくりもの」や天然抗菌作用の月桃スプレー「Peach moon」、ミネラル豊富な天然塩「神様の塩」等の沖縄特設コーナーも併設。泡盛と40銘柄以上の日本各地の焼酎を揃える。屋内・屋外・テイクアウト営業中。営業時間:午後5時から
(無休) 電話:646-654-1122
83 E. 3rd St. New York, NY 10003
www.facebook.com/Uminoie-155573207813232/

【鈴木理恵プロフィール】

2020年2月からニューヨーク在住。うみのいえで沖縄料理調理を提供している。


【人参シリシリー】

 人参シリシリーの「シリシリ」とは、沖縄の言葉で「千切り」の意味。沖縄では専用スライサー「人参シリシリ器」がスーパーやおみやげ屋さんで販売されています。人参に含まれるベータカロテンは、抗酸化作用・免疫力を高める作用があると言われており、油と一緒に摂取することで吸収されやすくなります。調理に油を使用する人参シリシリーは、ベータカロテンを効率よく吸収できる沖縄料理のひとつ。美味しくて栄養価の高いにんじんしりしりーは、色も鮮やかで食卓を彩る1品です。

<材料>
人参1本、卵1〜2個、ツナ 1/2缶
塩胡椒、ほんだし

<作り方>
①人参の皮を剥き、約5センチの千切りにする。
②フライパンに油を入れ、強火で千切りの人参を炒める。
③全体に油が回ったら、ツナを入れ弱火で炒める。
④溶き卵を全体に加えて、更に炒める。
⑤卵に火が通り、人参がしんなりして来たら、塩胡椒・ほんだしを加えて味を整えできあがり。
*人参を炒める際、甘みを引き出すため、弱火でじっくりを火を通す。


【ゴーヤの天ぷら】

 沖縄料理といえば「ゴーヤ」。ゴーヤには疲労回復・免疫力を高めるビタミンCが豊富に含まれ、加熱してもビタミンCが壊れにくいと言われています。他にもカルシウム、カリウム、鉄分、食物繊維が豊富でお肌にも良いスーパーフードで、まさに「命薬〜ヌチグスイ」。ゴーヤの天ぷらは、油との相性から苦味がまろやかになる料理として人気の沖縄料理です。

<材料>
ゴーヤ1本、卵1個
小麦粉、冷水、揚げ油
ウスターソース、七味唐辛子、塩

<作り方>
①ゴーヤを7〜8ミリ幅で輪切りにし、中のわたを取り除く。
②ボールに小麦粉、卵、冷水を混ぜ合わせ衣を作る。
③小麦粉をまぶしたゴーヤを衣にくぐらせる。
④中温から高温で揚げ、薄いきつね色になったら鍋からあげる。
⑤小鉢にウスターソースを入れ、七味唐辛子をかけたものか、お好みで沖縄産天然ミネラル豊富な神様の塩を付けてお召し上がりください。
*ウスターソースに七味唐辛子をかけて食べるのが沖縄の天ぷら