その21:心にいくつも穴があいた2020年

魅惑のアメリカ旧国道「ルート66」 をフォーカス

 ルート66ファンの皆さん、こんにちは!「気が付けば」という枕詞は先月も使いましたが、2020年も遂に12月となりました。今年は何かあっという間に時が過ぎ去った気がします。筆者も現在一時的に日本に居を構えていますが、今年はアメリカに「帰る」ことが出来ない一年でした。タックス・リターン(日本で言う年末調整)は何とか終えることが出来ましたが、実際にルート66に出て友人知人と交流することや、新しい情報を仕入れる作業などが全部棚上げとなった2020年です。コロナウイルス感染対策については世界は日に日に進歩しており、医療従事者の皆さんのおかげで病原の解明や分析、さらには治療法の確立へのスピードは目を見張るものがありますが、まだまだ予断を許さない状況には変わりはなく、どのような2021年になるのだろうと期待と不安が入り混じる気持ちです。

 ルート66ではこちらの毎月のコラムでも紹介していますように、今年は数多くのイベントがキャンセルとなりました。代表例をあげれば毎年8月にミズーリ州スプリングフィールドにてルート66の誕生地として開催される「Birthplace of Route 66 Festival」が中止、来年に延期されました。2011年の初開催から少しずつ規模が大きくなり昨年は6万5000を動員し、今年は8万人越えを予定していただけに非常に残念なことでした。(筆者も何らかの形でブースをだす計画もあったのですが)また、5月にはルート66のシーズン開始を告げるアリゾナ州セリグマンでの「Arizona Fun Run」、10月の文化・学術的な意味の高いカンファレンスであるイリノイ州エドワーズビルでの「Miles of Possibility」、そして同じく10月、世界的にも有名なイベント、ニューメキシコ州アルバカーキでの「International Balloon Fiesta」の中止、延期はルート66関係者に精神的にも経済的にも大きな影響を与えました。アメリカ以外でも、チェコ共和国のズリンで開催される予定であった「International Route 66 Festival」も2021年に持ち越されました。つい先日、オクラホマ州タルサで行われる11月の「Route 66 Marathon」も今年はバーチャルイベントとなったことは記憶に新しい限りです。来年は、今年延期となったイベントが全て新たな形でパワーアップして戻ってくることを期待したいものですね。

 ただそうは言えども、コロナ禍の影響で経営が行き詰まった、廃業に追い込まれた、というルート66沿線の事業主さんからの声をほとんど聞かなかったことは不幸中の幸いではなかったでしょうか。ルート66沿道事業では、そもそもビジネスが上手くいかなかったり、経営者が高齢になって後継ぎがいなかったり、事業を売却したいけど買い手が見つからなかったり、が理由で廃業するモーテル、お土産屋さん、そしてガスステーション等が少なくありません。これはルート66の抱える根本的な問題の一つでもあり、「どのようにしたらビジネスとして経営が長いスパンで成り立ち、ルート66を盛り上げていけるのか」はここ数年特に緊急の解決策が必要な事項となっています。

 また、その経営者さん達に話題を移しますと、今年は(コロナ感染が理由ではないのですが)私たちが「アイコン」と呼ぶ、ルート66の発展に多大な努力と貢献をされた多くの素敵な人々が他界されました。さあ今年もシーズンが始まるぞ!と思い始めた春、ミズーリ州キューバの名物観光地「Bob’s Gasoline Alley」のオーナー、Bob Mullen 氏が病気で亡くなりました。5月にはニューメキシコ州ルート66アソシエーションのボードメンバーでもあり、数多くのネオンサインの修復に貢献してきたJohnny Plath 氏、6月にはイリノイ州ルート66アソシエーションに長年に渡って貢献された Marty Bilecki 氏、夏の8月にはアリゾナ州ルプトンにある、誰もが知るアメリカ先住民のクラフトショップ、Chief Yellowhorse Trading Postのオーナー、Frank Yellowhorse 氏、そして11月に入っては、ミズーリ州カーセイジのこれも著名観光スポットRed Oak II を造りあげた偉大なる芸術家、Lowell Davis 氏が83歳の生涯を閉じました。さらにはこれを執筆している最中にも、今月初頭ミズーリ州ホールタウンにあった雑貨屋さん、Whitehall Mercantile のオーナーJerry White氏が亡くなったというニュースが入ってきました。「〜にあった」と書いたのは、このお店は2016年の秋に、White氏の体調が良くないということですでに閉店となっていたからです。ここでは全ての方々を紹介することはできませんが、彼らのご家族とご友人には心より哀悼の意を表したいと思います。

 最後に少し楽しい話をしましょう。フランスはパリ郊外にある「ディズニーランド・パリ」は現在コロナ禍で閉園中ですが、2021年へ向けて新たな取り組みが行われています。これまたこちらの投稿でも紹介していますディズニーピクサー社の映画「CARS」ですが、「Cars Route 66 Road Trip」と名付けた家族向けの新アトラクションがヨーロッパにも誕生することとなりました。メインエントランスは1950年代から60年代にアメリカを席捲したMid Century Modern風の建築で、自動車のインスピレーションをふんだんに盛り込んだものになっており、ルート66にまつわる地図、ポストカード、そして装飾デザインに満ちた観光ブースを通りながらアトラクションを楽しむように出来ているとのことです。もちろんディズニーピクサー社の創り上げるものです、細部まで徹底的にこだわるであろうルート66のテーマ性には大人でも充分に楽しめるはず。新アトラクションは現在進行中のパーク拡張計画の第一歩とされているようで、今後の展開から目が離せません。筆者も未だパリのディズニーランドには行ったことがありませんが、今後は訪れる「大義名分」が出来たようです。

 それでは皆さん、メリークリスマス!良いお年をお迎えください。「魅惑の旧街道を行く」新シーズン④もお楽しみに!

(後藤敏之/ルート66協会ジャパン・代表)

クイックUSAアメリカの人事部(28)

コロナでホリデイパーティはどうしよう! 

 コロナでも社員みんなが楽しめる機会を作ることは、モチベーションや一体感を作るのにとても大事です。マッキンゼーなどの大企業ではコロナでWFH(Work From Home)になったすぐの時期に、リモートでもチームワークをしっかり育てるために、ゲームやオンラインパーティを実施したそうです。慣れない司会をオンラインでやるのは大変。でも時間ごとに担当を変えるなどして、みんなで作り上げるパーティにするといいと思います。楽しみなクリスマスの時期、オンラインでの楽しいイベントを集めてみました!

■1 アグリーセーターコンテスト

 着るのが恥ずかしいほどサンタやツリーで飾り立てたホリデイセーターで登場!いつもはいかめしい上司が、笑っちゃうセーターで登場すれば大受けすること間違いなしです。

■2 ジンジャーブレッドハウス作りコンテスト

 子供たちと一緒に作ったり、独身男性チームやお父さんチームがクッキーを披露するのはいかがでしょう?

■3 シークレットサンタ アンラッピングパーティ

 あらかじめペアを決めておいてギフトを送っておきます。

■4 クイズコンテスト(トリビア)

 ブリタニカのクイズサイトがあるので参考にしましょう。https://www.britannica.com/quiz/browse

■5 スキャベンジャーハント

 一人一人が家にあるものを持ってきて面白さを競うゲームです。

■6 間違い探しゲーム

 一人が主役になって30秒カメラを隠し、その間に背景や服装を変えます。カメラが戻った時に何が変わったのかを当てるゲームです。

■7 じゃんけん大会

 ライブでのあのエキサイト感は出ないかもしれませんが、それでも十分盛り上がります!

■8 ビンゴ

 オンラインでビンゴするなら、My Free Bingoというサイトがありますよ。

■9 ワインテイスティング

 Wine.comなどが、フリーのワインテイスティングを開催しています。

 コロナが本当に深刻になっている今日この頃。しっかりと社員を守りながら、それでも楽しく盛り上がるホリデイパーティを企画したいものです。Happy Holidays!

(今泉江利子Waterview Consulting Group, Inc. CEO)

www.919usa.com

【今週の紙面の主なニュース】(2020年12月12日号)

(1)ワクチン15日に到着
(2)O・ヘンリー短編の世界
(3)レストラン屋外限定か
(4)新春お一人様紅白歌合戦
(5)NY日系人会ガラを開催
(6)常盤新平ニューヨーカー三昧
(7)焼鳥大将逝く
(8)CA流ストレス危機管理術
(9)モンブランの名店NYに
(10)新俳句グランプリ表彰式動画配信

ワクチン15日に到着

医療従事者ら優先

 クオモNY州知事は2日、米政府からワクチンの緊急使用が承認された場合、15日には17万人分のワクチンを受け取ることができると発表した。米国では現在、製薬会社のファイザーとバイオテクノロジー会社のモデルナが米食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可を申請しており、2社ともに臨床試験では90%以上の予防効果をあげている。9日現在でファイザーの政府承認は10日の予定。

 クオモ知事は会見で、医療従事者や老人ホームの入居者と職員が接種を受ける第一グループになると述べた。今回の第一便で一般市民に提供される予定はない。

 専門家によると、これまで通りの経済状態に戻るためには人口の75〜85%がワクチンを接種する必要があり、その水準に達するまでは来年6月から9月までかかる可能性があると話している。米食品医薬局(FDA)は近く承認の見通しで、製薬会社の米ファイザーと独ビオンテックが開発したワクチンは25万回分が15日に届き次第、17万回分をすぐに接種開始する。22日にはモデルナが開発したワクチン21万1人分が届き、今年中に46万5000人に接種できる予定だ。チョクシ博士によれば、供給や配布方法などの課題もあり一般市民に普及するのは2021年の後半になるかもしれないという。

 公聴会ではワクチンに関する世論調査も発表された。それによるとワクチンを接種する意思のある人は53%で、20%が「いいえ」との回答だった。残りは未回答だった。市ではワクチン接種の普及キャンペーンを行う予定だ。 

 クオモ知事はパンデミックの際に多くの感染者が出た黒人・ヒスパニック系住人や低所得者層の居住地域に対して、今後効果的な予防接種計画を実施するために連邦政府に対して資金提供を求めている。連邦政府が州に個人情報の共有を求めているが「不法移民が接種に消極的になるので非公開が前提」として現状での情報共有に反対している。

O・ヘンリー短編の世界へ

 ワシントン広場に近いウエストビレッジ。病に伏し、自暴自棄になった画家の妻が、窓の外の壁を這う蔦の葉が全部落ちたら自分は死ぬと嘆く。酒浸りでいつかは名画を描いてみせると豪語していた階下の友人老画家がそれを聞きつけ「ばかばかしい」と言いながも内緒で壁に一枚の葉を描く。暴風雨で木が裸になった後も壁に残る一枚の葉を見て妻は生きる力を見出す。しかし雨風に当たって葉を描いた画家は数日後に肺炎で亡くなる。一枚の名画を残して。

 O・ヘンリーの短編小説『最後の一葉』だ。窓ガラスに映る枯葉を見て、ふとそんな光景が目に浮かんだ。

(写真・植山慎太郎)

レストラン営業規制、NY市で屋外限定か

 クオモ州知事は7日「向こう5日間で入院患者数(先月末以降上昇中)が安定しなかった場合、レストラン営業の規制しニューヨーク市内はインドア営業の禁止でアウトドアのみ。州内他のエリアはインドア営業を現行50%から25%に縮小する。早ければ来週の14日(月)から施行される可能性がある。病院ベッド使用率が90% に達した場合、そのエリアは5月時に施行された制限に近い規制を行う。(レットゾーンと同様、エッセンシャルワーク以外のビジネスの閉鎖など)現在の州のデータによると現在ベッド使用率は80%、ICUベッドの使用率は73%。6日現在、市内の入院患者数は1406人、州全体では4602人。米国疾病予防管理センター(CDC)は2日、新型コロナウイルス感染症に関する自主隔離期間の指針について、これまでの14日間から10日間に短縮した。強制力はない。CDCの旅行健康情報の警戒レベル4に指定された日本から米国に入国する渡航者に対する自主隔離期間は(1)米国入国後3〜5日以内にウイルス検査を受け、検査が陰性の場合は入国後の自主隔離は7日間で終了する。(2)米国入国後にウイルス検査を受けない場合、入国後10日間の自主隔離を求める。

キャバレーライブ、新春お一人サマ紅白歌合戦

トシ・カプチーノが2日、ZOOM!

 トシ・カプチーノのオンライン・ニューヨークキャバレーライブ「新春お一人サマー紅白歌合戦〜昭和平成令和〜」が来年1月2日(土)午前7時 と午後9時からの2回、開催される。

 ズームによるオンライン配信第3弾となる今回は昭和・平成・令和の3元号にまたがった流行歌をはじめ、レディ・ガガから韓流ドラマの挿入歌までたっぷり30曲を披露する。お年玉としてニューヨークの街並みを中継する新春特別30分拡大スペシャルとなる。

 視聴料は30ドル。チケット予約はQRコードから予約フォームに必要事項を記入し送信する。ペイパルでの支払いも可能(https://forms.gle/x8ZkBJJmC2f6WWm68)。

お弁当プロジェクト、NY日系人会ガラで表彰

河野外相もビデオ祝辞
113年の歴史祝う

 ニューヨーク日系人会(JAA)は4日午後7時から113周年記念ガラをバーチャル方式で実施した。総合司会を務めた佐藤貢司副会長が1907年に設立された同会の歴史をスライドで紹介した。

 冒頭でスーザン大沼会長が今年亡くなった日系人、タッド津布良さん、リリアン木村さん、内山綾子さん、一戸小夜子さん、小栗ななこさん、岩本蘭子さん、佐藤登さん、飯塚国男さんを顔写真を映しながら紹介、米国の日系社会に残した足跡を称えた。

 続いて山野内大使が祝辞を述べ、厳しい社会環境の中で人々を一つに結びつける活動、とりわけ在宅の高齢者に届けた弁当プロジェクトは、さまざまなバックグラウンドの人々が協力したと賞賛した。


 功労賞を受けオンラインで意見交換する左上から時計回りに伊藤園ノースアメリカのロナ・ティソンさん、スーザン・宮城マコーマックさん、好田レストラングループの好田絵里奈さん、司会のジュリー・アズマさん

 これにより本年度のJAA功労賞はプロジェクト弁当に貢献した好田レストラングループ(サンライズマート等を経営)、伊藤園ノースアメリカ、スーザン・宮城・マッコーマックさん(プロジェクト弁当の委員長)に贈られた。

 式典ではスーザン大沼会長が秋の叙勲で旭日小綬章を受けたことが披露され、野田美知代事務局長が必要に応じた日系社会へのサービスを今後も継続して行くと挨拶した。

 当日のサプライズとして河野太郎外相が日本から式典にビデオ出演し、祝辞を述べた。外相は160年前に日本の侍がパレードしてからの日米関係を紐解きながら米国における日系人社会がアメリカ社会の対日理解促進に貢献したこと、日本と在米日系人との関係強化のための団体を作り相互交流を進めていることを述べ、民主主義、人権、経済などの共通の価値観を持つ日米の絆をさらに強化する上でニューヨーク日系人会の存在は極めて重要であると述べた。

 また式典にはクオモ・ニューヨーク州知事がお祝いのメッセージを寄せ、ゲール・ブレワー・マンハッタン区長、日米少年野球交流で貢献した元野球監督のボビー・バレンタインさん、映画スタートレックに出演した日系俳優ジョージ・タケイさんらアメリカ社会からもお祝いのビデオメッセージが寄せられた。

 最後に副会長の小野山弘子さんが「困難な時こそ力を合わせて乗り切ってまいりましょう」と呼びかけ閉会した。ゲストアーティストは、ホセ・アダン・ペレス、バリトン、三枝未歩 (JAA 音楽賞受賞者)、バイオリン。当日のガラはYOUTUBEで公開されており、年内いっぱい視聴が可能。アドレスは

https://youtu.be/hUYJ2TO0j-c

ゲイ・タリーズ描くマフィアに興味

常盤新平 ニューヨーカー三昧 I LOVE NEW YORKER 6

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 2年ぶりにゲイ・タリーズの『作家の生活』を読みかえした。彼が人生を振り返った回想録だ。父親は長靴のようなイタリア半島の最南端の寒村に生まれて、若いころにパリで修業した後、ニューヨークにやってきて仕立屋(テイラー)をはじめた。

 ゲイ・タリーズは父親の作った服を着て育っている。ノンフィクション・ライターになってからも父の作るスーツを着用した。

 1960年代の初めごろ、私は「エスクァイア」という男性雑誌を読んでいた。メンズ・マガジンと言ってもヌードは載せなかった。読み物と小説が面白くて、アーノルド・ギングリッチという趣味のよい名編集者の名をおぼえた。

 ニューヨークの名もない人たちのことを書いている新人がいて、私は興味を惹かれて読むようになった。地下鉄で見かける美女や、夜の裏街を徘徊する野良猫などを散文詩風に書いたエッセイだった。それらのエッセイには作者の「私」が登場していた。ゲイ・タリーズという作家だった。

 それはやがて「ニュー・ジャーナリズム」と呼ばれるようになって、多くのジャーナリストがそれにならった。

 この人はいずれ長編を書くのではないかと私は期待した。まもなくニューヨーク・タイムズの内幕を詳細に書いた「王国と権力」が出版されてベストセラーになった。

 私は雑誌を読んで好きな作家を見つけてきた。そのひとりがゲイ・タリーズである。それから数年してマフィアのことを書いた本の一部がやはり「エスクァイア」に連載された。マフィアを内側から描いた実録だった。

 マフィアについてはそれまでたくさんの事が書かれてきたが、いずれも外側からなぞったものにすぎなかった。

 タリーズはニューヨーク・マフィアのボスの息子と親しくなって、その息子を主人公にして「汝の父を敬え」を書いたのである。この本と「王国と権力」とのあいだには似たところが数多くある。

 タリーズはニューヨーク・タイムズ社長のサルッバーガー一族について書いたのと同じように、マフィアのボナンノ家の歴史を描いてみせた。

 ニューヨーク5大ファミリーのひとつにタリーズが興味を持ったのは、マフィアの家族の女たちや子供たちであり、たとえば彼らが日曜日の午後にどんな話をするのか、どんな映画を見にいくのか、テレビはどんな番組を見るのかといったことだった。いわゆる暗黒街の抗争ではなく、マフィアの日常生活を書きたかったのだ。

 「汝の父を敬え」の原作が出たのは1971年である。その2年前にプーゾの小説「ゴッドファーザー」が発売されて、何か月もベストセラーを続けて映画化された。

 そのころ、わたしは出版社に勤務していて、趣味はマフィアの本を読むことだった。しかし、マフィアの本場であるイタリアに行こうなどとは思ってもいなかった。

 1978年にブックフェアでボローニヤに行く機会があり、その帰りにシチリアに寄り道した。まるで夢のようだったのをよくおぼえている。同月のことでシチリアの都のパレルモは春らんまんだった。

 観光バスでパレルモの街を見物したが、私が泊まった、ワグナーがオペラを作曲したというホテルは素晴らしくよかった。そのあと、パリ経由よりニューヨークへ向かったほうが航空運賃が安いとわかって、NYに行き、東44丁目のホテルに泊まった。フロントの女性がブラウスのあいだから胸毛が覗いている因業そうなおばあさんで、ぼられるのではと心配したが、宿泊料は安かった。

 このときは結婚前の妻が同行していた。ホテルがあまりにおんぼろだったのは気の毒だったが、彼女はNYに来られたのをよろこんでいた。

 これも何十年前のことだ。私が「汝の父を敬え」を翻訳してからはや27年になる。そのころの新聞にはNYマフィアの縄張り争いが雑誌にときどき載っていた。近ごろはマフィアの記事をとんと見ない。私の心からもマフィアは遠くなっていった。たぶん若かったから、マフィアなどという遠い遠い異国のものに関心を持ったのだろう。

 その後NYを訪れたとき、「汝の父を敬え」に出てくるNYの下町通りを歩いてみた。現在マフィアがどうなっているのかということに興味がうすれている。ただ、そのボナンノ一家、あの若きボスのビルはどうしているかと思う。彼はもう80に近いはずだ。いまはマフィアより大きな事件がいくらでもある。(2008年9月6日掲載)

(写真)『エスクァイア』誌1954年2月号の表紙


常盤新平(ときわしんぺい、1931年〜2013年)=作家、翻訳家。岩手県水沢市(現・奥州市)生まれ。早稲田大学文学部英文科卒。同大学院修了。早川書房に入社し、『ハヤカワ・ミステリ・マガジン』の編集長を経てフリーの文筆生活に入る。86年に初の自伝的小説『遠いアメリカ』で第96回直木賞受賞。本紙「週刊NY生活」に2007年から2010年まで約3年余りコラム「ニューヨーカー三昧」に24作品を書き下ろし連載。13年『私の「ニューヨーカー」グラフィティ』(幻戯書房)に収録。本紙ではその中から12作品を復刻連載します。

焼き鳥大将逝く

イーストビレッジ溝上さん

 長年イーストビレッジで焼き鳥店「焼鳥大将」を経営してきた社長の溝上健治さんが3日、入院先の市内病院で亡くなった。享年66歳。共同経営者の宇宮裕三子さんによると、10月31日に息が苦しいので救急車を呼んで欲しいと電話で連絡があり、緊急搬送され、心臓の血管が3本詰まっていることが分かりそのまま入院、翌週に心臓バイパス手術を受けた。

 一時回復したが最期は多臓器不全で眠るように永眠したという。告別式は9日にコロナ禍での安全性を考慮し、近親者のみの家族葬を行なった。コロナが落ち着いた頃に「偲ぶ会」を催す。

 溝上さんは熊本県出身。1984年に焼き鳥イーストのオープニングスタッフとして来米、96年に独立して現在のイーストビレッジに焼き鳥専門店「焼き鳥大将」を開店。良心的な値段と豊富なメニューで米国における焼き鳥ブームに火を付け、イーストビレッジの日本食街の看板店としてニューヨーカーに愛される店に育てた。コロナでレストランの部分再開後も入院する直前まで週に3日、カウンターに立った。宇宮さんは「一番厳しい時ですが、彼の遺志を継いでお店を守って続けていきたい」とコメントしている。

 NY日本食レストラン協会ボン八木秀峰会長の話「焼鳥大将、ケンちゃんは、私の竹馬の友、若山和夫氏がイーストレストラン1号店をアッパーイーストサイドにオープンする為に博多の焼き鳥専門店「番屋」の経営者、伊丹さん(若山社長の大学時代の親友)から譲り受けた優秀な焼き鳥職人だった。何人か同時に日本から来たスタッフがいたが、彼は特にいつもみんなを笑わせてくれる朗らかな気持ちの優しい熊本の純粋な青年だった。彼の焼いた焼き鳥は食べたら幸せを呼ぶ一品だった。焼鳥大将なしでは今のニューヨークの焼き鳥ブームはあり得なかった。66年の太く短い人生だったが、どれだけの人々を幸せにしたかが大事。(焼鳥大将) 健ちゃんご苦労様でした」。

CA流ストレス危機管理術

桜井 妙・著
Amazon Kindle・刊

 この本は、日航機墜落事故で上司、同僚、親友を失い、現地で社員として遺族のサポートをした時の経験から日本航空の元国際線客室乗務員(CA)の桜井妙さんが、ストレスの危機管理方法を書いたものだ。自身が35年間苦しみ続けてきたJAL社員の責任、罪悪感、自己嫌悪というネガティブスパイラルにどう向かい合ってきたか、心理学的アプローチから分析して書いている。11月末でアマゾンの哲学・思想事辞典の新着ランキング1位に、認識論の新着ランキングで2位になった。切り口は本のタイトルにあるように「言い訳」の功罪から入っているが、内容はストレスマネジメントとその認知の本だ。

 失敗した時に絶対言い訳はしない。謝罪して、そのあと弁解がましいことも一切言わないのが最善の解決方法だと社会人になったばかりの著者は職場で学ぶ。しかしそれが心と体と頭との不協和音になって後々ストレスとなっていくことに触れる。果たして言い訳は本当に見苦しいのか。確かに言い訳は責任回避、自己防衛に聞こえ、些細なことでも被害を被った側にとっては何の解決にもならない。潔く自分の非を認めて謝ってもらった方がどれだけ気持ちが晴れるか。確かに謝ってもらう方の理論はそうだが、理由のある間違いやミスについて「それを語らずして」謝る方は、どんどんとネガティブなスパイラルへと陥っていく。著者は言う。「極端な根性論や精神論のような古い習慣はもう捨ててもいいのではないか。それらは戦国時代には有効であっても今はかえってストレスの原因になる」と。

 リスクマネジメントは、日本で「危機管理」と訳されているが、これは想定できるリスクが起きないように危険の原因になることへの対策を立てることを指す。英語で危機管理は「クライシス・マネジメント」と表記され、こちらは、意図せずに起きた危機的状況に適切に対応することを指す。著者が働いていた機内の客室乗務は想定外の意図しない突発的な問題も起こることが多く、問題解決は待った無しだが、時間をかけて困った問題に直面していかなくてはならない時、人は時に心が病み、折れる。「逃げるは恥だが役に立つ」とアドバイスする。困った時に一旦問題から離れることも賢い選択だと筆者は言う。ストレスが溜まっている時は、心の視野も狭くなって正しい判断ができない。アンガーマネジメントとして、腹がたったら90秒我慢して深呼吸をすると怒りが消える。心をストレスのない状態にしておいて行動をすることで未来が開けると説く。うまくいっていることは変えない、もし一度やってうまくいったら、またそれをやる。もしうまくいかなかったら違うことをする。ベストを探すよりベターならすぐに挑戦。諦めないで何かをやり続ける。失敗したらやり直せばいい。凹んでもすぐに復活するゲームキャラクターと同じで逞しく、明るく楽しくチャレンジするのがCA流のストレス管理術だと説く。世の中がパンデミックになり、多くの人がストレスを抱えている。苦しむ心の闇に差し込む一筋の光になればいい。(三浦)

パリの老舗モンブランの名店アンジェリーナNYに

 パリ1区に本店を構える1903年創業の老舗ティールーム「アンジェリーナ」が、米国1号店をブライアントパーク近くにオープンした。この界隈にはレディMやロイズチョコレート、再オープンしたLe Pain Quotidienなど、スイーツやベーカリーカフェが立ち並ぶ激選区となった。

 パリの本店はココ・シャネルも通ったフランスのデザイナーたちの社交場として愛された名店。アンジェリーナといえばモンブランとホットチョコレートが有名で、モンブランは濃厚なマロンクリームと生クリーム、メレンゲの三層が絶妙に調和した逸品。人気メニューは、ガーナ、ニジェール、コートジボワールの3か国のココアで作ったホットチョコレート「ショコラ・アフリカン」とモンブランのセット「ディスカバー・アンジェリーナ」(19ドル)。ホットチョコレートは量が少し多めなのでカップをもう一つもらって友人とシェアすることも可能。NY店では現在収容人数の25%で朝食、ブランチをダイニングルームで提供している。色鮮やかなマカロンやエクレアなどのケーキ類、クロワッサンなどのベーカリーにクッキー缶など手土産に喜ばれそうな品も充実。米国撤退したメゾンカイザーに代わる洗練されたパリの味を楽しめる場所だ。


Angelina

1050 Sixth Avenue New York, N.Y. 10018

TEL 585-438-5347

月〜金曜8am – 8pm、

土日9am – 7pm

www.angelina-paris.fr/angelina-New-York