求められる帰国生像

コロナ時代の帰国受験 第5回 田畑康 

 海外生・帰国生入試の受験指導者として、「コロナ時代だからこそ求められる帰国生像」について深く考えるようになりました。

 まずは高校の一般入試の話です。今年6月、東京都教育委員会は来春の都立高校の入試について、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中学校の休校が長期化したことを受け、出題範囲から除外する内容を公表しました。除外されるのは、中3の教科書で学習する漢字(国語)、三平方の定理(数学)、関係代名詞(英語)などです。休校の影響に配慮しての措置だということです。その後、国立大学の附属高校(東京学芸大学附属・筑波大学附属・筑波大学附属駒場)や他の多くの道府県立高校が同様の措置をとることにしています。しかし、トップレベルの国公立高校ならば、単元が限定されても出題される問題のレベルが下がるわけではないですし、もともと高校学習単元を出題してきている難関私立高校には出題範囲を限定する動きはほとんど見られません。

 続いて中学の一般入試の話です。9月、男子最難関中学である筑波大学附属駒場中学が、右記の国公立高校と同じように「小6の学習単元」の一部を出題範囲から除外することを発表しました。しかし、難関中学を目指す生徒は小5の段階で小6までの学習単元を終えていますし、学習塾の方も授業内容を軽減したりはしないので合格ラインが下がることは考えられません。また、このように出題範囲を限定する措置をとる難関中学はとても少ないのです。

 以上の点から、難関中学と高校の一般入試においては、コロナ禍のせいで合格ラインや「難度」が下がることはないといえるでしょう。国内の早稲田アカデミーでも、一時期はオンライン授業しか提供できなかった時期もありましたが(現在はオンラインと対面授業が選べます)、しっかり努力をした受験生が順当に合格を手にするのです。

 では、帰国生入試はどうでしょうか。帰国生入試の場合も、学科試験がベースの入試であれば、基本的には「合格ラインが下がる」ことはないと考えていいでしょう。むしろ、昨年度までは求められなかったレベルの「新しい学力」が必要になってきているかもしれません。

 一つの例が、ZOOMなどのオンライン面接試験です。面接を重視する中学や高校はコミュニケーション能力を重視しますが、対面式ならばうまく自己表現ができる受験生が、ZOOMだとうまく出来ないケースもあるのです。

 奇しくも、文部科学省が提唱する「新しい学力」の柱の一つである「表現力」が、「オンライン教育」がキーワードになってきたこのコロナ時代に試されようとしているのです。

田畑康(たばたやすし)

早稲田アカデミーニューヨーク校校長。海外生・帰国生指導歴15年。自らも帰国生(オーストラリア、マレーシア)であった経験を生かし、「合格のその先」を見据えた指導を心掛けている。