高市早苗新政権の性格を考える

 高市早苗氏が総理大臣に選出された。就任早々いきなりの首脳外交となったが、ベテラン政治家らしく日米、日中、日韓いずれの首脳会談も無難にこなしたことから、政権は高支持率とともにスタートを切ることができた。一部調査では支持率が80%を超えているというのであるが、事実であれば小泉純一郎政権以来のことである。高い支持を背景に本格政権へと階段を登ることができるか、今回はこの政権の性格を論じてみたい。

 まず明らかなのは、保守イメージを保つことで中道政策を進めるという安倍方式がフル稼働しているということだ。安倍方式というのは、亡くなった安倍総理の場合と同じく、保守票から絶大な支持を獲得することで、かえって保守「ではない」政策が進められるというマジックを指す。安倍氏の場合は、リベラルな経済政策をはじめ、上皇さまの意向を正面から受け止めて譲位改元を実現、更には国費を投入しての日韓合意、日米相互献花外交、大胆な移民推進などを実現した。いずれも中道左派政権であれば保守派の反対で立ち往生しかねない政策であるが、安倍氏は堂々と進めて成功させている。

 高市氏の場合だが、既にこのマジックを全開モードで活用している。総理に選出されるとともに、堂々と靖国参拝は封印、日韓外交では太極旗に一礼するなど、その行動は徹底している。こうした姿勢を貫いたことは、中道から中道左派の有権者にも安心感を与えたと思われ、これが80%という高い支持につながっている。そう考えると、安倍晋三氏の後継どころか、アメリカで言うならば、民主党支持者を取り込んだ2期目のレーガンのマジックにも比較可能と言えよう。

 問題は構造改革をどこまで進めるかだ。これは、第2次安倍政権の際の「3本の矢」構想において、必ずしも実現ができなかった分野になる。心配なのは、高市政権も安倍政権と同様に、支持層の中核を占めるのは、構造改革という意味では守旧派に属するグループということだ。そうとは言え、農政改革、雇用改革、デジタル改革の3点は日本という国の存続のためには、待ったなしの課題である。非常に楽観的な見通しをするのであれば、河野太郎氏や小泉進次郎氏などとは異なり、構造改革を声高には掲げず、また守旧派を掌握していることで、高市政権はこの難しい三大改革に実績を挙げることができるのではないか、そんな期待も全く不可能ではない。

 高市氏は折に触れて、英国の名宰相マーガレット・サッチャーへの尊敬を口にしてきた。表面的には強硬な保守の女性政治家として参考にしているような印象を与える。けれども、就任後には以前には想像もできなかった言動の安定を見せている高市氏である。もしかしたら本人として、相当な決意を込めて政権運営に当たっているのかもしれない。だとしたら、サッチャーをお手本にという文言の意味合いは俄然重くなってくる。仮に、80%という支持率が与えた「政治的資産」を使って、農政、雇用、デジタルの三大改革を進めることができたら、歴史に永遠にその名が刻まれるかもしれない。その場合だが、あえて声高に構造改革を叫ぶのではなく、気がついたら三大改革に成果が上がっていたというようなステルス作戦を取るのではないか。

 ちなみに、改革の中でもエネルギーに関しては、原発再稼働だけでなく新型小型炉の導入も考慮しているのが注目される。何かと問題が多くなってきた太陽光や風力ではなく、原子力を含めたエネルギーミックスで、電力コスト引き下げによる国民生活の改善と、排出ガス削減ができれば、これも政権として大きな成果となろう。

 最大の問題は、財政規律問題である。政権の成立に当たっては、高齢者医療費問題などを含めた財政規律を強く意識した麻生グループ、小さな政府論を掲げて官公労と対決してきた維新の会との連携で組閣に至った経緯がある。その一方で、総裁選の前から高市氏は景気浮揚のための積極財政論者ともみなされていた。いわば全く矛盾した二つの性格を持つ政権ということもできるが、国家における最大の課題において、単純な二分法ではなく、もしかしたら国として進むべき「存続可能な狭いゾーン」を歩く覚悟をしているのかもしれない。この点に関しては、まだ判断材料が出ていないが、高市政権が本格政権として多くの成果を上げることができるかは、この点にかかっているのは間違いないであろう。

(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)

祖母の思い出 田村麻子のカーテンコール

 日本時間10月27日(月)午前3時3分に、私の最愛の祖母が他界した。1923年大正12年生まれの彼女は、戦前、戦中、戦後を生き抜いてきた愛情溢れる優しい女性だった。私は彼女が47歳の時の初孫だったこともあり、それはそれは可愛がってもらった。厳しい母とは対照的に、いつもニコニコ優しい祖母から怒られた事はただの一度も無く、彼女の元で私はいつも伸び伸びして、癒されていた。幼い頃は週末に、しょっちゅう祖母の家に行っていたが、祖母の料理は美味しく、ねだればいつでも買ってもらえた本や漫画も嬉しく、寝る時は添い寝しながら聞かせてくれる昔話は、何よりも楽しみだった。

 祖母は愛知県常滑市で生まれ海の近くで育った。裕福な金物屋の末っ子として生まれ、朝は女中さんに三つ編みを編んでもらい、美味しいお弁当を作ってもらって近所の友人と学校に通った話は、何の変哲もないのに何度聞いても飽きなかった。彼女は女学校を卒業した後、ある商社の英文タイピストとして働く様になった。上司にも可愛がられ、仕事もやり甲斐があり楽しかったらしいが、一年後に戦争が始まった。OLの服はたちまちモンペとなり、また沢山持っていた着物やアクセサリーは根こそぎ憲兵に取られたらしい。そして赤紙が来て祖母の3人の兄達が順番に兵隊に取られていく様子、出来が良く将来を嘱望されていた優秀な兄が亡くなった時に、曽祖母が 「XXが死んでしまったーっ!!」と号泣して泣き崩れたという話などは何度聞いても胸が痛く、戦中の一般的な国民とは、どこもこんな感じだったのだろうな、、と祖母の話から想像を巡らせていた。

 祖母は祖父と結婚後、京都で家庭を持ち、家族経営をしていた美容院で働いていたので、私は幼い頃よく、祖母に美容院のシャンプー台で髪を洗ってもらっていた。その後、旧式の大きなヘアドライヤーに入り、ガーッと髪を乾かすのも楽しみだったが、それより好きだったのは、鏡の張り巡らされたヘアサロンで、その場にいるお客さん達の前で歌う事だった。

 まだ小さかったので、皆聴いてくれたのだとも思うが、終わった後みんな笑顔で拍手をして喜んでくれる事が、本当に楽しく嬉しかった。歌手になりたいと言う思いは、おぼろげながらもあの頃に芽生えたものだったような気もする。私が歌手として舞台に立つようになってからは、関西に限らず、東京でのコンサートにもよく来てくれて、終わった後に必ず「麻子ちゃんキレイやったよー」と、歌ではなく舞台姿を褒めてくれるのもなんだか可笑しいやら嬉しいやらだった。私が芸大の試験に落ちて傷心だった時に、祖母の家を訪ね、朝から晩まで歌っている姿を見て、ぼそっと小さな声で、「こんなに上手なのになんで落ちたんやろか・・・」と言ってくれた言葉に涙した事もあった。

 祖母は晩年になっても、身なりに気を遣う人だった。90歳を超えても化粧セットを常に手元に置き、いつも髪や爪を美しく整え、薄く紅を差していた。祖母の為に、百歳のバースデーコンサートを行った時には、皆の前で歳を言ってくれるな、もっと若いと思ってる人もいるからと言われた。最後に会ったのは、ついニ週間ほど前のことだ。関西での仕事のため、たまたま日本に帰国していた私は本当に幸運だった。近年は少しずつ弱っていたけれど、それでも頭はしっかりしていて、最後に極上の笑顔を私に見せてくれた。あの笑顔はまるで最期の贈り物のように胸に残っている。

 10月27日午前3時3分。知らせを受けた時、遠く離れた空の下で、夜の闇が更に静まり返るのを感じた瞬間、不思議と涙ではなく深い感謝の気持ちが込み上げてきた。祖母が生きた102年の歳月は、日本の激動の時代そのものだった。戦争の痛みを知り、平和の尊さを味わいながら、いつも周りに優しさを分け与え続けた彼女。今の人は感謝が足りないとよく言っていた。その人生は派手ではなかったけれど、その穏やかな強さと愛情は、確かに私の中に息づいている。

 これからも舞台に立つたび、スポットライトの向こうに祖母の「麻子ちゃん、きれいだったよ」と、言う声を聴くのだろう。あーちゃん、ありがとう。

 田村麻子=ソプラノ歌手。ニューヨークを拠点にカーネギーホール、リンカーンセンター、ロイヤルアルバートホール主役を歌う声楽家。ニューヨーク在住。

レストラン日本 62周年を祝う

 今年創業62周年を迎えたNYの老舗日本食レストラン「レストラン日本」は、3日夜、創業62周年特別記念イベントを開催した。

(写真左上)倉岡さんのビデオの前で挨拶するテニス選手のバージニア・ウエイドさん、(写真右上)思い出を語るジャズピアニストの秋吉敏子さん、(写真右下)現オーナーの古屋昭代さん(右)と馬越さん。「62年の氷の彫刻」(岡本慎太郎・作)の前で

元総支配人の馬越さん来米

39回目のNYマラソン出場

 NYにおける純和食店の先駆者として同店を築き上げた創業者の倉岡伸欣夫妻の功績を称え、同店に45年間勤めた元総支配人でマラソンランナーとしても知られる馬越恭弘さん(73)が来米し、同店の歩みと自身の体験談について来場者に話した。通算で39回目のニューヨークマラソンに参加した馬越さんは、同氏の新著『虎フグとマラソンのニューヨーク喰い物語』も紹介した。当日は100人近い来場者で賑わった。同店のファンの一人、サクラ商事社長の満仲恒子さんは「ニューヨークでちゃんとした日本食を食べられる店はもうここだけになってしまったわよ」と話し、日系団体の幹部を務めるビジネスマンの竹田勝男さんは「ニューヨークの日本食の歴史を作った店」と話す。店内改装を手がけた高崎康裕さんは「レストラン日本は日本人の心のよりどころですね」と話す。歴代の日本の現役首相が来米時には必ず来店することでも有名。1971年から店に通っているという医師のミンデルさんは「今も同じ味を楽しんでいてハッピーだ」と大勢の家族づれで来店した。

 倉岡さんの口癖は「ニューヨークでレストランビジネスを長くやっていこうとするなら、オーセンティシティー(本物志向)、ファイン・クオリティー(品質)、リーズナブル・プライスが大切だ」だった。1963年にニューヨーク・タイムズ紙の料理評論家、クレイグ・クレボーン氏がくれたアドバイスだという。  

 会場では1977年にウィンブルドン女子シングルスで優勝したイギリス・テニス界の象徴として敬愛されるバージニア・ウエイドさんがお祝いに駆けつけ、創業者の倉岡さん夫妻がおにぎり弁当を届けて選手たちを激励してくれたことに感謝の言葉を述べたほか、ジャズピアニストの秋吉敏子さんルー・タバキンさん夫妻も祝辞を述べた。当日来店した客は、ブルックリンのブッシュウィック地区にあるクラフト酒蔵「Kato Sake Works」の日本酒をはじめ、レストラン日本の料理と飲み物を堪能して歓談した。

世界のどこでも地域盛り上げ隊 林 里奈さん

Mamas’ Space NY主宰

 会場は、小さな怪獣やカボチャに扮した生後2か月から3歳くらいの幼児とお母さんたちでごった返していた。10月24日ニューヨーク日系人会で開催されたハロウィンの幼児向けイベントでのこと。主催したのは、ニューヨークすくすく会。同会は、2004年に小児科医で現米国日本人医師会会長の加納麻紀さんによって創設され、産婦人科医、小児科医、ソーシャルサービス関係の看護士、助産婦、 ソーシャルワーカーや先輩お母さんが、NY近辺で妊娠・出産、育児中の日本人家族を支援するボランティアグループとして活動している。

 「みなさーん、今日はお集まりいただいてありがとうござまーす」と第一声で元気なアナウンスをしたのが、同会の運営メンバーとして活動する林里奈さんだ。「年間を通して1〜2か月に一度のペースでイベントを企画しています。年4回の季節ごとのお茶会イベントをはじめ、医療関係者や講師によるCPR(心肺蘇生法)講座を年2回、オンライン講座も年に数回行っています。対面イベントの『お茶会』では、参加者同士が気軽に語り合える温かな交流の場を大切にしています」と話す。

 林さんはニューヨークに住み始めて4年目。総合商社勤務の夫の転勤でこれまでイギリスやブラジルに駐在経験があり、イギリスで資格を取得したベビー&キッズマッサージのインストラクターとして日本で児童館や公民館でキッズマッサージを教えていた。イーストチェスターではMamas’ Space NY(ママズ・スペース・ニューヨーク)を主宰し、地域のママさんたちが安心して集い、学び、楽しめる空間として、同じ地域のママを講師として招いての学びの講座や、みんなで作る料理ワークショップなどを定期的に開催している。また毎月地元のシニアハウスで折り紙のワークショップも開催している。

 「それぞれの分野で力を持つママたちが、自分の技術や経験を最大限に発揮できる場の提供になり、また地域のママさん同士の交流にもつながる場となっています」と話す。林さん自身も3人の男の子を育てる現役のママさんだ。

 日本では一般社団法人エンデマール(En de Maru/みんなご縁でまるくなる)という交流グループの代表を務めているほか音楽家のサポート、プロデュース、地域で活躍する人の紹介と人と関わること、お世話することが大好きで、これまでの人生経験を活かして少しでも海外在住の日本人がハッピーになれることが自身最大の目標だ。日本の金融機関、外資系企業社長秘書、在日ブルネイ大使館職員などを経て、夫と共に滞在したイギリスでは、現地のジャパン・ソサエティーでイベントの企画、運営に携わり、留学生サポートだけでなく、専門学校に行き英国ビューティスペシャリストの資格を取得するなど、なんでもこなすスーパーウーマンだ。

 「優しい気持ちをもって地域に関わる人が少しずつ増えていくと嬉しい。出来る人が出来るだけの精神で自分の近くにいる人を幸せにする、そんな未来を信じてこれからも『地域盛り上げ隊』の一人として世界のどこにいても活動を続けていきたいと思います」と笑顔で語った。 

 (三浦良一記者、写真も)

THE TALE OF GENJI AND KYOTO

源氏物語と京都を日英両語で

梶山寿子・著
プレジデント社・刊

 この本は、11世紀の宮廷文学の傑作である源氏物語を軸に、京都という実際の歴史的都市を舞台として「物語の世界」と「旅の世界」を英語・日本語の対訳形式で紹介するというユニークな構成で書かれている。

 著者の梶山寿子さんが、観光ガイドとしての視点、文学作品・歴史的背景を読み解く視点、そしてバイリンガル(日本語/英語)対応という学びやすさという視点を組み合わせており、「京都を訪れる外国人旅行者」「文学・文化に興味のある日本語学習者」「そして日本人が改めて京都/源氏物語の背景を楽しむための旅のお供」という三層の読者を視野に入れているところがこの本の特色だ。

 ページをめくっていくと、単なる観光ガイドではなく、源氏物語の物語背景・登場人物・舞台と、京都に現存/イメージされる場所を結びつけて紹介している。これにより、「ただ観る」旅から「物語を感じる」旅へと昇華している。

 例えば京都御所と光源氏の関係は、光源氏の誕生・恋・出世の物語の中心舞台であり、光源氏の母・桐壺、更衣藤壺との恋愛など、多くの重要なシーンがここで描かれる。現代の京都御所を訪れると、平安貴族の生活や物語の情景を五感で追体験できる。ただし、ご存じの通り光源氏は実在の人物ではなく紫式部が描いた架空の貴公子なので、直接的な史実上の関係ではなく、物語の舞台としての象徴的・文化的な関係になる。

 光源氏は皇子としてこの御所で生まれ、若くして政治的・恋愛的な波乱に巻き込まれていく。その出発点として「京都御所」は彼の栄光と悲劇が始まる場所として特筆される場所。「禁断の恋」の舞台であり、権力と栄華の象徴とも言える。光源氏が出世して太政大臣にまで昇り詰めると、御所での彼の立場は非常に高くなり、御所はまさに「政治と愛の舞台」「栄華と孤独の象徴」として、物語の中心をなす場所になる。

 また、次に出てくる「平安神宮」との関係は、直接的な史実上の関係はないが、象徴的・文化的なつながりがいくつかある。 平安神宮は、1895年(明治28年)に平安遷都1100年を記念して創建された神社で、平安京の初代天皇・桓武天皇(かんむてんのう)を祭神としている。日本全国から高校生が修学旅行でも訪れる名所なので、京都に住んでいなくても日本人なら誰もが聞いたことのある有名な神社だ。とは言っても京都を訪れる海外からの旅行者には、ガイドブックの説明を受けただけではあまりインパクトのある記憶には残らないだろう。そこで光源氏との「時代的つながり」を絡ませることで旅はぐっと奥深いものになる。光源氏が生きたとされる世界は、まさに「平安神宮が再現している世界」と重なり京都を訪れる外国人も親しみが持てるに違いないからだ。

 美しいガイドブックの写真を手に、目の前に広がる本物の京都を見れば、源氏物語の世界を身近に感じることができるだろう。著者の梶山さんは、かつてニューヨークで新聞記者としても活躍していただけに、日本文化と海外との接点の見つけ方や着想に海外からの視点を感じた。  (三浦)  

Totto-chan The Sequel     翻訳者のサイン会などNYで開催

『窓ぎわのトットちゃん 続編』 英語版

作:黒柳徹子 絵:いわさきちひろ
講談社USA 2025年

 講談社USAは黒柳徹子のベストセラー『窓ぎわのトットちゃん続編』の英語版発行に合わせニューヨークで記念イベントを開催する。まず今月22日(土)には翻訳者・手嶋優紀氏によるトークイベント(ニューヨーク公共図書館53丁目分館・53丁目西18番地)で午前11時30分〜午後12時30分まで。入場料:無料。続いて24日(月)には、紀伊國屋書店NY本店にて翻訳者サイン会が午後6時〜8時まで。25日(火)午後6時からはジャパン・ソサエティー(東47丁目333番地)でアニメ映画『窓ぎわのトットちゃん』上映、パネルディスカッションとサイン会。出席は手嶋氏、アレクサンドラ・マカロー=ガルシア氏(編集者)、ネイサン・ショッキー氏(バード大学日本語学科准教授)。上映開始午後7時。入場料はジャパン・ソサエティーのホームページを参照:https://japansociety.org/events/totto-chan-the-little-girl-at-the-window

ブレない者への賛歌 シネマ試写室

Bugonia

   「La La Land」のヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンがコンビを組む4作目。新作を出すたびに話題をさらう今回は韓国映画「地球を守れ!」(2003年)のハリウッド・リメイク版だ。SF、スリラー、ホラー混合のブラックコメディというところ。主人公に扮するエマ・ストーンが坊主刈りになり注目度はさらにアップ。共演はジェシー・プレモン、エイダン・デルビスら。

 アトランタ郊外に本拠を置く製薬会社CEOのミシェル・フラー(ストーン)は経営手腕に長けているだけでなく、健康、スポーツ、ファッションと全てにおいてハイレベルを保ち、TIME誌やForbes誌の表紙にもなるスーパーレディ。そのミシェルが忽然と姿を消した。明らかに拉致されたものと当局は行方を追うが身代金の要求もなければ犯人の手掛かりもない。

 ミシェルを誘拐したのは同じ地域に住むテディ(プレモンス)と彼の従弟のドン(デルビス)。テディによればミシェルはアンドロメダ惑星から送られてきた宇宙人で地球抹殺を企んでいるという。彼女を人質に取りアンドロメダの侵略を阻止するつもりだ。

 キックボクシングもこなすミシェルを拉致するのは思ったよりてこずったがなんとか成功し家の地下室に監禁した。彼らはアンドロメダの通信媒体が髪の毛だということを突き止め、まずはミシェルの頭を剃り、抗ヒスタミンクリームを塗って遮断。目覚めたミシェルはきょとんしていったい何が起きているのか分からない。

 しかしミシェルはかなり冷静だ。テディが言う宇宙人侵略の話を聞きながら自身の潔白を訴える。見どころはミシェルのテディへの巧みな話術だ。ある時は怒りながら、ある時は同情を誘うようにあらゆる角度からアプローチする。  

 しかし物語が妄想気味のSFマニアと、とんだとばっちりの有名人との勘違い誘拐で終わるわけはない。もっともっと深い宇宙戦略の幕が切って落とされる。1時間58分。R。(明)

(写真)拉致されたミシェル(ストーン)Photo : Focus Features


■上映館■

Regal Times Square

247 W. 42nd St.

AMC Empire 25

234 West 42nd St.

AMC 34th Street 14

312 W. 34th St.

編集後記

編集後記

  みなさん、こんにちは。ニューヨーク日本人学校(コネチカット州グリニッチ、森本恵作校長)で10月17日、小学5年生の国語の「新聞を読もう」という学習の一環として授業の講師に招かれ、新聞の役割や編集の仕事について話す機会がありました。その目的は、予め紙面の構成や制作についての一般的な内容を教科書で学んだ後、実際に新聞編集に関わっている実社会の人から話を聞いてみるというものでした。

 新聞の仕事の一番大事なことは「実際に起こったことを正確に早く伝えること」だけれども、起こった事実を伝える際に、報告する者の見た角度、報告の仕方によっては情報が全く変わってしまうことを小学校5年生にも分かりやすいように伝えました。具体的には次のような例で説明しました。

 コーヒーカップをまだ見たことのない子供に「コーヒーカップというものはどんな形をしているか調べてきてください」と言って、調べて戻ってきた生徒のAさんは「見て来ました。正方形ですね」と報告。Bさんは「いや、私が見たのは丸でした」と全く違った報告をしました。Aさんはコーヒーカップを真横から見て、Bさんは真上から見たままを報告したからです。どちらも見た現実は事実でも、実際のコーヒーカップは、コンピュータグラフィックの立体CGで回転するように観察するとみなさんの知っているようなカップとして認識できるわけです。事実が異なって伝わってしまわないようにさまざまなな角度から物事を見る必要性があることを話しました。

 そして取材は、見てきたことをそのまま伝えるのではなくて、例えばコーヒーカップに入っていた半分のコーヒーが、いつからあるのか、誰がいれたのか、新しいのか古いのか、それは自分で考えても答えは出ないのでそのコーヒーカップの近くにいた人を探し出して話を聞くことで真実が浮かび上がってくると。

 さらに新聞は、これから確実に起こることが分かっていて、それをまだ知らない人に教える、告知する、という仕事もありますが、これから起こるかどうか分からないことは載せません。なので、新聞には科学的に分析された「天気予報」は載っていても、週刊誌や雑誌にあるような「星座占い」や「恋占い」は載せませんと。

 また、主見出しや袖見出しのおよその文字数やレイアウトの工夫、新聞が編集・校閲・校正を経て発行されるまでの流れなどについても紹介し、その後、実際の新聞を使って見出しを付けるワークショップも行いました。子ども達は編集員になった気分で限られた時間の中、見出し作りに挑戦しました。見出しの文字数や構成のポイントを意識しながら、それぞれの記事に合った見出しを考えてくれました。授業の最後には「新聞を作ることの難しさだけでなく、楽しさも分かった」「実際にやってみると、見出しを付けることは本文を書くよりも難しいと思った」と感想を話す子どももいました。人がまだ知らないことを伝えることの面白さが少しでも伝わればいいなと思った次第です。今週号の14面で掲載しています。それでは、みなさんよい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】(2025年11月1日号)

(1)NY市長選挙4日投開票 マムダニ氏優位動かず

(2)黄金の秋 セントラルパーク

(3)歌舞伎音楽の実演(無料) スカンジナビアハウスで13日

(4)長野県産品をPR   NY総領事公邸で

(5)グレート・ジョーンズ通り バスキア通りに

(6)JPモルガン・チェース 本社ビルが完成

(7)斬新な「芸者ブーツ」を考案 Asatoさん

(8)恩返しの壁画描く 久徳裕子さん

(9)すくすく会ハロウィン JAAで

(10)和菓子と北村製茶 源吉兆庵でペアリング

NY市長選挙4日投開票 マムダニ氏優位動かず

 11月4日の投開票を前に、ニューヨーク市長選が最終局面を迎えている。10月25日に期日前投票が始まったが、初日のこの日は7万9409人が投票した。期日前投票が導入された2021年は1万5418人だったことから今回その約5倍となった。高い関心の背景には、家賃高騰、治安、教育格差など、市民生活に直結する課題があるとみられる。

 各種世論調査では民主党のゾーラン・マムダニ候補が依然として他候補をリードしている。AARPとゴッサム・ポーリングによる最新の世論調査(10月20日付)によると、民主党のゾーラン・マムダニ候補が43・2%で首位を維持している。無所属候補のアンドリュー・クオモ候補は28・9%で2位、共和党のカーティス・スリワ候補は19・4%で3位となっている。

 この調査によれば、スリワ氏が撤退した場合、マムダニ氏44・6%、クオモ氏40・7%と4ポイント差で接戦となる見込みだ。クオモ氏は「スリワ氏が残ればマムダニ氏に勝つことは非常に難しくなる」と述べていたが、10月20日に「関係ない」とこの発言を事実上撤回した。スリワ氏は選挙戦からは「撤退はしない」と明言している。

    (関連記事5面に)

 マムダニ氏はクイーンズ選出の進歩派政治家で、家賃凍結、公共住宅の拡充、警察予算の再配分といった政策を掲げ、若年層や低所得層を中心に支持を広げている。一方、ビジネス界や保守的な労働組合は、経済への影響を懸念し、対抗候補のクオモ氏やスリワ氏を支援する構図となっている。

 市長選では宗教・民族コミュニティーの動向も焦点となっている。マムダニ氏がパレスチナ系住民の声を代弁してきた経緯から、一部のユダヤ系有権者との間で緊張が生じていることが報じられている。

 政治経験や実行力、党内外の抵抗といった課題も指摘されている。しかしマムダニ氏は、選挙戦の争点としては「家賃・生活コストの抑制」「公共交通・保育の無料化」「進歩派政策」を提示。若年層・低所得層の支持を背景に現在の市政への不満から「変革」を求める声は強い。トランプ大統領はマムダニ氏を「共産主義者」などと批判し、連邦資金差し止めの可能性をちらつかせるなどしたが、側近に「マムダニ氏には勝てない」と漏らしたとウォールストリート・ジャーナル10月22日付は報じている。11月4日の本選でどうなるか全米的にも注目が集まっている。 

NY市長選フロントランナー

マムダニ氏の強み
変革求める声反映

 マムダニ氏はクイーンズ選出の進歩派政治家で、家賃凍結、公共住宅の拡充、警察予算の再配分といった政策を掲げ、若年層や低所得層を中心に支持を広げている。一方、ビジネス界や保守的な労働組合は、経済への影響を懸念し、対抗候補のクオモ氏やスリワ氏を支援する構図となっている。(1面に記事、写真:wikipedia.org)

 市長選では宗教・民族コミュニティーの動向も焦点となっている。マムダニ氏がパレスチナ系住民の声を代弁してきた経緯から、一部のユダヤ系有権者との間で緊張が生じていることが報じられている。

 政治経験や実行力、党内外の抵抗といった課題も指摘されている。しかしマムダニ氏は、選挙戦の争点としては「家賃・生活コストの抑制」「公共交通・保育の無料化」「進歩派政策」を提示。若年層・低所得層の支持を背景に現在の市政への不満から「変革」を求める声は強い。トランプ大統領はマムダニ氏を「共産主義者」などと批判し、連邦資金差し止めの可能性をちらつかせるなどしたが、側近に「マムダニ氏には勝てない」と漏らしたとウォールストリート・ジャーナル10月22日付は報じている。11月4日の本選でどうなるか全米的にも注目が集まっている。 

黄金の秋 セントラルパーク

 セントラルパークの紅葉は今が一番。

郊外のカラフルな景色とはまた一味違う

「黄金の秋」を楽しめる。

     (10月25日、写真・植山慎太郎) 

歌舞伎音楽の実演(無料) スカンジナビアハウスで13日

国際交流基金とNY総領事館共催


 国際交流基金ニューヨーク日本文化センターと在ニューヨーク日本総領事館は共催(協力DーT株式会社、マークリエーション)で、13日(木)午後3時からスカンジナビアハウスのVictor Borge Hall(パーク街58番地)において、歌舞伎音楽のデモンストレーションとワークショップを開催する。本イベントは、囃子方の田中傅左衛門と田中傅次郎、歌舞伎俳優の中村隼人らが歌舞伎の歴史や音楽、楽器について解説しながら実演する貴重な公演となる。また、太鼓の体験なども予定されている。イベントは無料だが、Eventbriteより事前の参加登録が必要。詳しくは、国際交流基金のホームページhttps://ny.jpf.go.jp/を参照する。問合せは、Eメール [email protected]