源氏物語と京都を日英両語で
梶山寿子・著
プレジデント社・刊
この本は、11世紀の宮廷文学の傑作である源氏物語を軸に、京都という実際の歴史的都市を舞台として「物語の世界」と「旅の世界」を英語・日本語の対訳形式で紹介するというユニークな構成で書かれている。
著者の梶山寿子さんが、観光ガイドとしての視点、文学作品・歴史的背景を読み解く視点、そしてバイリンガル(日本語/英語)対応という学びやすさという視点を組み合わせており、「京都を訪れる外国人旅行者」「文学・文化に興味のある日本語学習者」「そして日本人が改めて京都/源氏物語の背景を楽しむための旅のお供」という三層の読者を視野に入れているところがこの本の特色だ。
ページをめくっていくと、単なる観光ガイドではなく、源氏物語の物語背景・登場人物・舞台と、京都に現存/イメージされる場所を結びつけて紹介している。これにより、「ただ観る」旅から「物語を感じる」旅へと昇華している。
例えば京都御所と光源氏の関係は、光源氏の誕生・恋・出世の物語の中心舞台であり、光源氏の母・桐壺、更衣藤壺との恋愛など、多くの重要なシーンがここで描かれる。現代の京都御所を訪れると、平安貴族の生活や物語の情景を五感で追体験できる。ただし、ご存じの通り光源氏は実在の人物ではなく紫式部が描いた架空の貴公子なので、直接的な史実上の関係ではなく、物語の舞台としての象徴的・文化的な関係になる。
光源氏は皇子としてこの御所で生まれ、若くして政治的・恋愛的な波乱に巻き込まれていく。その出発点として「京都御所」は彼の栄光と悲劇が始まる場所として特筆される場所。「禁断の恋」の舞台であり、権力と栄華の象徴とも言える。光源氏が出世して太政大臣にまで昇り詰めると、御所での彼の立場は非常に高くなり、御所はまさに「政治と愛の舞台」「栄華と孤独の象徴」として、物語の中心をなす場所になる。
また、次に出てくる「平安神宮」との関係は、直接的な史実上の関係はないが、象徴的・文化的なつながりがいくつかある。 平安神宮は、1895年(明治28年)に平安遷都1100年を記念して創建された神社で、平安京の初代天皇・桓武天皇(かんむてんのう)を祭神としている。日本全国から高校生が修学旅行でも訪れる名所なので、京都に住んでいなくても日本人なら誰もが聞いたことのある有名な神社だ。とは言っても京都を訪れる海外からの旅行者には、ガイドブックの説明を受けただけではあまりインパクトのある記憶には残らないだろう。そこで光源氏との「時代的つながり」を絡ませることで旅はぐっと奥深いものになる。光源氏が生きたとされる世界は、まさに「平安神宮が再現している世界」と重なり京都を訪れる外国人も親しみが持てるに違いないからだ。
美しいガイドブックの写真を手に、目の前に広がる本物の京都を見れば、源氏物語の世界を身近に感じることができるだろう。著者の梶山さんは、かつてニューヨークで新聞記者としても活躍していただけに、日本文化と海外との接点の見つけ方や着想に海外からの視点を感じた。 (三浦)

