入国審査厳しくなる可能性

第二次トランプ政権下での移民法の規則2

 先月お伝えしましたが、トランプ氏の第二次政権が2025年1月20日の大統領就任式から始まります。トランプ氏が選挙演説で、不法移民によりアメリカの犯罪が増加した、彼らがアメリカ経済を圧迫したと繰り返し主張していました。大統領就任後即座に不法移民の強制退去が始まります。不法移民とは、すでに

なんらかの条件で移民の滞在資格が与えられている人たち、つまり永住権を持つ

人たちのことではありません。ビザや滞在資格が切れてもそのままアメリカに滞

在している人たちや、アメリカとの国境を超えて滞在資格がないままアメリカに

滞在している人たちを指します。その方法としては次の方法を取るようです。

(1)建設途中だったメキシコとの壁の建設を完成させること。

 メキシコとの壁は、第一次トランプ政権下で建設され、バイデン政権下では取

り壊されることもなく放置されていました。その建設途中の壁を完成させ、メキ

シコから地続きでアメリカに来る人たちを排除する方法です。

(2)アメリカ合衆国国土安全保障省内のImmigration Custom Enforcement (関税執行局、略してICE)で不法移民を国外退去させる。地続きでもなく何らかの方法でアメリカに入国して、正規の滞在資格のないままアメリカで暮らしている人たちを強制出国させるためにICEの費用を増額して職員を増員する予定です。ICEの不法移民退去部では、職員が不法滞在移民の存在を調査し、発見とともに出国させるようです。

(3)滞在資格のないままアメリカで子供を産んで、アメリカ市民になった子供たちと離ればなれになって収容施設にいる人たちを強制出国させる。その際にアメリカ市民の未成年の子供達も親と一緒にアメリカから出国させる。

(4)今後、子供の両親のうち片方がアメリカ市民または永住権を持ちアメリカで生まれた子供のみアメリカ市民権を与える。ただし、これはどちらかの親が不法

滞在者の場合の措置。どちらもなんらかのビザ資格がある場合は該当しない。

 先月号の本誌でも記載しました(4)のアメリカで生まれた子供たちに市民権

を与えないというのはアメリカ合衆国憲法の修正第14条(アメリカで生まれた子供は自動的にアメリカ市民権が与えられる)に反することになります。ゆえに憲法改正をしない限り、この規則は施行できません。それゆえに、民主党議員および弁護士会からすでに反対意見が多くでています。最高裁で許可されるのは難しいでしょう。

 通常の移民法の規則に関しての変更はおそらくないと思いますが、非移民ビザ

の申請条件を厳しくするという噂はでています。

 なお、アメリカ全土の大学で、現在F-1ビザの留学生たちに今月本国またはアメリカ外に旅行する場合は、1月20日以降入国審査が厳しくなるので、必ずアメリカに1月20日までに戻るようにという勧告をだしているようです。生徒の国籍や出身国によっては、そのまま卒業するまでアメリカに滞在した方が良いともアドバイスしているようです。

 どちらにせよ1月20日以降、詳細な移民法の規則が発表されます。規則が発表されてから、また皆様にお知らせいたします。

(加藤恵子、ニューヨーク州弁護士)

日本人の英語力 世界92位の衝撃 

 国際語学教育機関Education First(本部・スイス)の2024年版英語能力指数で日本人の英語力は92位です。英語が母国語でない116か国・地域の調査で、韓国の50位などよりはるかに低く、「英語力が低い国・地域(62〜92位)」で最下位です。一人当たりGDP32位、国際競争力ランキング35位、メディアの自由度71位、男女平等125位、国会議員女性率148位など今の日本を示す数字の中で、私は英語力92位が最も深刻だと思います。

 それは、資源に乏しい日本が、第二次大戦後貿易立国として台頭できた産業技術力や生産性が衰退し、勤勉性や協調性に優れた国民が貧乏になり、その人口が急激に減少している日本の未来の姿を象徴しているからです。

 しかも初回の2011年の40か国中の14位、昨年の87位から本年の92位への凋落は深刻です。英語が母国語の米国や英国ではない国々の中でのこの順位ですから、なおさらです。「失われた30年」と言われる上記のさまざまな数字の中でも下落の速度が最速です。

 語学としての英語であればChatGPTや自動翻訳で対応できる時代ですが、この「英語力92位」が示しているのは、自らの理念を持ち、異なる理念や文化を持つ人と本音のコミュニケーションが取れ、多様でグローバルな思考ができる国民とリーダーを生み出す場を自ら閉ざしている日本の姿です。

 英語力1位は食料輸出世界2位のオランダ、2位はノーベル平和賞を選考する人道大国ノルウェー、3位は一人当たりGDPがアジア1位のシンガポールです。独自の特徴を生かして世界とともに歩んでいる特徴が見えます。

 日本の低さは、奨学金ローン返済の負担も含めて外国に留学する学生が減り、国際的に引用される学者の文献が減り、円安での海外訪問の手控えも含め、内向き志向の拡大が背景にあると思います。

 それ以上に、国民が自分で考え、行動し、国家が長期的、戦略的な舵取りを担うStatecraftの欠如が根底にあると思います。

 日本被団協がノーベル平和賞を受賞しましたが、被爆国としての経験をいかした核なき世界や分断の増す世界における仲介外交を目指すなどの日本らしい貢献の時でもあります。

 そうした世界との深い信頼と連携による真の民主主義国としての日本の再生こそが、英語力指数を高める道と思われます。

 ふじた・ゆきひさ=慶大卒。世界的な道徳平和活動MRAや難民を助ける会で活動した初の国際NGO出身政治家。衆議院・参議院議員各二期。財務副大臣、民主党国際局長、民進党ネクスト外務大臣、横浜国立大講師等歴任。アメリカ元捕虜(POW)の訪日事業を主導。現在国際IC(旧MRA)日本協会会長。岐阜女子大特別客員教授。

21世紀のニュー・ディール政策

麻生雍一郎

(ジャーナリスト、読売アメリカ社元社長・熱海市民大学講師

 「案の定」というか、「やはり」というか、「言わんこっちゃない」という声も聞こえそうだ。今月、大統領に就任するドナルド・トランプ氏が日本製鉄によるUSスチールの買収に「全面的に反対する」とSNSに投稿した。日鉄はなぜ、米国鉄鋼産業の象徴ともいえるUSスチール買収計画を2023年の年末に発表したのだろうか。

 1980年代までバブル景気に沸いていた日本は米国の企業や不動産を次々に買っていった。マンハッタンの五番街やシカゴの“魅惑の一マイル”通りではロックフェラー・センターなど多くのビルが日本企業の所有に変わったが、敢えて買収を控えたビルがある。マンハッタンのエンパイアステートビルやシカゴのシアーズタワーだ。これらは米国資本主義の繁栄と伝統を象徴するシンボルであり、おカネの力に物言わせて買い取ることは、取引の

原理を超えて、日米関係そのものを悪化させかねないとの判断があった。

 日鉄がこうした過去を知らなかったとは思えない。しかも、2023年12月といえば、大統領選が始まる直前だ。なぜ最悪のタイミングでUSスチール買収を公表したのか?「USスチールを本当に再建できるのか?」「2兆円もつぎこめば日鉄の屋台骨が揺らぎかねない」「米国の国民感情を逆なでする」「全米鉄鋼労組の反発を押し切れるのか?」などさまざまに指摘され、大統領選の論議の対象になることはわかっていた。計画の失敗はほぼ明らかになったが、880億円の違約金や経営陣の責任ぐらいではすまないだろう。

 大統領選を振り返ると、メディアの予測は民主党の代表がバイデン氏からハリス氏に変わると「ハリス優位」の記事が多くなり、世論調査では「5ポイントリード」の結果も出た。投票日が迫るにつれ「トランプ氏が追い上げ」に論調が変わったが、最後まで「接戦」

を報じたメディアが多かった。日本では開票が始まってからも「大接戦か、開票進む」(TBS)、「大接戦、激戦州」(テレビ朝日)など“大接戦”一本やり。米国の世論調査などを丸呑みにしたのだろうが結果は接戦州も含めてトランプ氏の勝利、結果が出るまで数日かかるとした報道もあったが、1日で決着がついた。

 大統領選でも、議会議員選でもハリス氏と民主党の敗北ということになったが、もっと大きな敗北者はメディアだったのかもしれない。もう国民はメディアの予想や世論調査を信用しなくなるだろう。今になってトランプ氏勝利やハリス氏敗北について書いているが、メディア自体がなぜ敗北したのか、についての徹底的な検証記事を私はまだ、目にしていない。

 選挙戦を通してのトランプ氏の話し方はシンプルで、わかりやすかった。新聞でいえば、見出しと前文だけで締めてしまうやり方で、本記は省略。どんな場所で、何をテーマに話しても「米国を再び偉大に(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)」を繰り返し、それを実現する手段は、①米国製造業の復活 ②移民の制限と不法移民の排除 ③外交は多国間での同盟より2国間で、の3点に要約できるのではないか。そしてこの語り口の簡潔さも、有権者の心をつかむ要因になったのではないかと思う。

 2国間で外交を行う際のやり方もわかりやすい。一言でいえばDeal(取り引き)だろう。日本のメディアでは、Dealについても外交の伝統と常道から外れた異端、といった論調を見かける。そうだろうか?私は米国の主な大統領の演説などを読み返し、外交上の重要な決断について調べてみた。私の結論は“Deal外交”は米国外交の伝統無視でも異端でもなく、逆に米国外交の本質なのではないか、というものだ。

 米国は1776年の独立宣言から来年で250年になる。独立宣言からわずか2世紀半という短い期間に世界最強の国を作り上げてしまったわけだ。米国で初の国勢調査が行われたのは1790年で、その時の人口は392万9214人だったと記録にある。当時の日本の人口(推定)のざっと4分の1だ。国土を構成したのは東海岸寄りの13州だった。現在の国土面積は

日本の26倍で、世界でもロシア、カナダに次ぐ第3位だ。これだけの国土拡張をなぜ実現できたのか。一言でいえば、Dealで実現したのだと私は思う。

 米国は1803年に214万4510平方キロのルイジアナをフランスから1500万ドルで購入した。現在の価値で3億4000万ドル(約510億円)。アーカンソー、コロラド、アイオワ、カンザスなど今日の15州にまたがる。ジェファーソン大統領はニューオーリンズだけを買い取るつもりで後に大統領となるジェームズ・モンローを特使として派遣したが、フランスの統領ナポレオンはルイジアナ領全部を売却すると申し出たのだった。

 続いて1819年には500万ドル、現在の価値では1億100万ドル(約151億円)をスペインに払って当時の西フロリダと東フロリダを買い取った。現在のアラバマ、ルイジアナ、ミシシッピとフロリダ北西部を占める地域だ。

 1848年にはカリフォルニア、ネバダ、ユタ州とアリゾナ、コロラド、ニューメキシコ、ワイオミング州にまたがる135万9744平方キロを1500万ドルの一括払いでメキシコから買った。現在の価値で4億8700万ドル(約730億円)。米国の国土はとうとう太平洋をのぞむ大陸の西海岸まで広がったのだ。

 1867年には今日の地政学に大きな影響を与えるビッグパーチェスをしている。日本の総面積の4倍、155万3993平方キロのアラスカをロシアから720万ドルで買ったのだ。現在の価値で約1億2500万ドル(約187億円)。ロシアのピョートル大帝はこれより50年も前にアラスカ探検に乗り出したが、永住植民者は400人以下にとどまった。植民を進める資金が不足したうえ1853〜56年のクリミア戦争で戦費がかさみ、アラスカ売却を申し出た。米国も1861年から65年まで南北戦争が続き、買収交渉は遅れたが、1867年にアンドリュー・ジョンソン大統領が条約に調印した。

 石油や天然ガスなどの鉱物資源、森林資源、水産資源に恵まれた広大な土地を格安のDealで買い取ったのだ。ロシアのプーチン大統領はウクライナに向けて射程900キロの中距離弾道ミサイルを撃ち込んだ。EU各国は射程に入るが、米国の主な州へは届かない。ジョンソン大統領がアラスカをDealで買わず、ロシアの領土のまま今日まできていたら、米国の国民は安心して眠ることのできない夜を過ごすことになっただろう。

 1898年のフィリピン買収は米西の戦争の結果だが、ここでも米国はDealの形式を取り、スペインに2000万ドル、現在価値で6億1800万ドル(927億円)を払っている。米国のDealは20世紀になっても続く。1917年にはカリブ海のバージン諸島に星条旗が掲げられた。デンマークに2500万ドル、現在価値で5億100万ドル(約751億円)を払ってセントクロイ島、セントジョン島、セントトーマス島など豊かな観光資源を持つ島々を米国領に組み込んだ。

 初代大統領のワシントンは退任に当たって国民宛てに「告別の辞」を書いたが、恒久的同盟は避け、孤立した立場の長所を選ぶよう勧めている。後のモンロー大統領などにも受け継がれた。同盟を避ける外交はワシントン以来の伝統で、トランプ氏の専売特許ではな

い。トランプ氏は1期目の大統領を務めていた時、「グリーンランドを買いたい」と発言したことがある。保有するデンマークは取り合わなかったが、実業界で長い経験を積んだだけに2期目でも同盟には重きをおかず、2国間では予想もしないDealが飛び出す可能性がある。ウクライナ戦争もDealで決着させようとするのではないか。日本も米国外交のやり方を独立宣言の源(みなもと)から研究しておくことが大切だ。

注:米国がDealで買い取った領土の当時の価格および現在の価値はニューヨークタイムズの「世界の話題」(2019.10.07)を参照しました。また、日本円表記は1USドル=150円で換算しました。


プロフィール:1942年東京都出身。早稲田大学第一政経学部政治学科卒、65年読売新聞社入社。78年シドニー支局長、87年シカゴ支局長。92‐97年読売アメリカ社社長。99年読売香港社社長。2006年読売新聞社退社、2012年まで法政大学、上智大学兼任講師ほか日刊マニラ新聞セブ支局長、南日本新聞客員論説委員などを兼務。第一回サザンクロス賞(日豪交流ジャーナリズム賞)受賞。著書に『オーストラリア未知未来の大陸』『オーストラリア歴史・地理紀行』など。

NYが生んだ奇才 依田洋一朗

DANCING IN THE NEW YEAR

 依田洋一朗(52)は香川県で生まれ、生後3か月で両親と共にニューヨークに移住した。タイラー・アート・スクール(学士号)とクイーンズ・カレッジ(修士号)を卒業し、ニューヨークを拠点に創作活動を続けているアーティストだ。

 フレッド・アステアの絵は「1992年ごろNYのフィルムフォーラムで見た映画『トップ・ハット』(1935年作)がきっかけでした。笑い転げるほど面白いコメディで素晴らしいフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースのダンスを見て夢中になりました。絵を描く時、表面だけでは描けなくてアメリカン・タップダンス・ファウンデーションに通って3か月ほどタップダンスのレッスンを受けたんですが、とても難しくて、クラスの女の子がクスクス笑っていたので、腹が立ってやめました」と話す。

 ハンバーガーを食べている情景は「大草原の小さな家」にインスピレーションを得たもので、原作者ローラ・インガルス・ワイルダーが幼いころ育ったミネソタ州ウォルナットグローブにまで実際に今年夏に行って、現地で開催されていた地元のダンス祭りの参加者とジューシー・ルーシーという現地独特のチーズを指でつぶして食べるバーガーの光景を描いたものだという。依田の作品に描かれる人物や動物たちの表情はどれも一種独特な屈折した不思議な雰囲気を醸し出している。パブリック・コレクションとしてセゾン現代美術館、高松市美術館、三鷹市美術ギャラリーに作品が所蔵され、2020年に香川県文化芸術選奨受賞している。今年は第6回瀬戸内国際芸術祭に参加する。

 父親、依田寿久と母親、順子もまたニューヨークを拠点に活動するアーティストで、共に武蔵野美術大学を卒業後、60年代に来米した。マンハッタンのソーホーにある巨大なロフトで3人で暮らすアーティスト一家だ。(三浦良一、写真も)

左から洋一朗、母・順子、父・寿久

「米語Watch」で振り返る2024年

旦  英夫(ニューヨーク州弁護士)


 本誌に米語Watchが連載されて10年。そのコラムはPHP社から、5年前に「日本からは見えないアメリカの真実」として、そして昨年「米語 ウォッチ・アメリカの今を読み解くキーワード131」として出版された。著者の旦英夫さんに、新著が目指す意図とともに、2024年を振り返ってもらった。

*  *  *

 前書では、アメリカ人が会話で使う米語表現を説明することに重点を置きましたが、新著では、アメリカの「今」を反映するキーワードの説明に注力しました。この国は間断なく政治的、社会的変貌を遂げています。パンデミックが社会へ与えた影響は、人々の生活や働き方に大きな変化をもたらしました。「分断」は形を変えながらアメリカ社会・人間関係に大きな影を落としています。新年には、政治の変容がまた新しい米語を生み出すでしょう。

 昨年2024年は大統領選挙の報道で忙殺された1年でした。両陣営が、政策の違いよりもName-calling(個人的攻撃)をぶつけ合った印象があります。トランプ陣営が使った例が、ハリス氏をDEI Hire (“多様性” 採用)と呼ぶものでした。Diversity, Equity and Inclusion( 多様性、公平性、包括性)は様々な個性を尊重することを意味します。つまり、DEI Hireと呼ぶことでハリス氏が実力ではなく、女性で人種少数派であるゆえに大統領候補になったと、彼女を侮辱したのです。最終盤にはハリス氏に対し、Crazy Radicalや Low IQなどとんでもない悪口を投げつけました。それに対してハリス陣営はConvicted Felon (重罪犯)、Just Plain Weird  (奇妙そのもの)などとトランプ氏を形容して対抗しましたが、かないませんでした。 

 経済問題が最終の結果をもたらしたと言われるこの選挙で、トランプ陣営は、同氏を大学卒業という学歴を持たない人々が支持する現象 (Diploma  Divideとも呼ばれる)に焦点を合わせ奏功しました。 トランプ氏が主張した論点(移民制限、犯罪対策、外国製品への関税、国内増産によるエネルギー・コストの低下)が、物価高、失業などの影響をもっとも受けやすい、大卒ではない白人、黒人、ヒスパニック男性の票(Bro Vote)に繋がったのです。彼らはまた、女性が国の指導者、とりわけ軍の最高執行官になることに大きな不安を感じたとも言われています。対抗して、ハリス氏がGender Gap(男女差)に訴えた女性の中絶の権利Reproductive Rights の主張は、多数票を獲得するには力強さを欠きました。

 新しいトランプ政権の下、アメリカは大きな変貌を遂げるでしょう。すでに、トランプ氏は不法移民(Undocumented Immigrants)を大量に国外追放する方針(Mass Deportation)を大統領就任と同時に行うと宣言しています。そのためには国家非常事態を宣言し、軍隊の力を使うとまで言っています。また、トランプ氏はこれまで自分を訴追してきた司法省の役人や政敵に対して報復(Retribution)を目的とする刑事訴追を試みるのではと、懸念が広がっています。    

 実際、あらゆる物価の高騰が国民の生活を苦しめています。所得格差は前にも増して広がっています。住宅事情についても、高いローン金利と高い家賃の中で国民の多くが適切な家に住めず、それはホームレスの人々の増加につながっています。 株価や黄金の価値の上昇により資産の多い人がますます豊かになり、貧富の差が増大するのがこの国の現実です。一般庶民にとっての住宅事情の悪化は Tiny House Movement(狭小家屋推進運動)、Boommate(シニア世代ルームメイト)、House Poor (家にお金がかかり、生活は貧しい・・・)という言葉を生み出しました。アメリカでは、普通の家賃の支払いが困難だとする人たちは、一千万人に上るという最近の報告もあります。低家賃の住宅を供給するため、Tiny House Movementは、狭小家屋の建設を妨げていた制度を見直し、Micro-apartmentなどの建造を促進する動きです。 Boommateは家賃を節約するために家や部屋を共有するシニアの人々を指します。これは、Babyboomer(ベビーブーマー)とRoommateを組み合わせた言葉です。実際、アメリカでは老後の貯蓄も年金も十分でない人々が多く、百万人にものぼるシニアがBoommateとして他人と一緒に暮らしているそうです。 

 国民の経済の悪化は、Retail Apocalypse(小売店が陥っている大困難 )の原因のベースになっています。アメリカでは、Shoplifting (万引き)や  Flash Mob Robbery (突発的集団強盗)が横行し、多くの小売店が店じまいする事態となっています。州によっては、一定金額以内の万引きを重罪として訴追しないこともこの問題を大きくしています。加えて、Refund Fraud (返品詐欺) が小売業界に大きい損害をもたらしていることも無視できません。その手口は様々ですが、新しく買った商品の代わりに盗品や中古品を返し、代金を払い戻してもらうのが典型です。業界団体の調査によると、2023年に返品されたもののうち13%以上が詐欺的行為だと言われます。金額にして一千億ドル(15兆円) を越すというのですから、天文学的な数字です。

   アメリカにおける結婚や男女の関係にも大きな変化が見られます。男女の関係をその場しのぎで考える若者が増え、 結婚や家族の在り方にも影響を与えています。アメリカの若者たちが使う Situationshipは、 付き合ってはいるものの将来への約束はしていないという、「とりあえず」の関係を意味します。Relationship(人間関係)ではなく、Situation(その時々の状況)に任せる関係だというニュアンスです。Breadcrumbingという言葉もよく耳にします。直訳するとパンくずをまくことですが、流行語としては、男が相手の女性に意味ありげに気を持たせておくだけで、明確な態度を示さないことです。

 若者たちの結婚観も変わってきたのでしょう。DINKWADという言葉が流行りました。これはDouble Income、 No Kids With a Dogの頭文字です。 長く使われてきたDINKSに「犬と共に」の意を追加して作られた言葉で、現在の多くの若者の心を捉えています。DINKWADを選択する夫婦は、子供の養育の苦労と費用という現実的負担を考えると、ペットと過ごす人生が自分たちに合っていると考えます。実際、各種の調査によると、ミレニアル世代やZ世代の半数に近い人たちは、子育ては経済的に不可能と判断しているのです。関連して、アメリカの若い人の間で注目されている言葉がAnti-bride Weddingです。これは伝統的な結婚式・披露宴の様式から離れて、自分たち流の結婚式を行うということです。準備と緊張とお金がかかる結婚式を避けて、簡素でも個性的な祝典にしたいのでしょう。

 技術の観点でアメリカを見渡すと、 Chat GPT というGenerative AI(生成AI)が2年前に出現して以来、 工業、財務・経済、教育、医療そしてエネルギーなどあらゆる産業界に革命的な変革をもたらしました。AIによるDeep  Learning(深層学習という自己学習能力)   やScraping (ネット上から情報を自動的に集める技術) は、近い将来年$8 trillion にものぼる経済価値を生み出すと言われます。しかし、AIは既に職場に衝撃を与えています。法律界では、過去の判例の調査や分析という仕事がAIに奪われ、職を失った若い弁護士が多くいます。また、会計、医療、翻訳など多くの専門的分野の一部だけでなく、画面クリエーターの仕事でさえもAIに置き換えられています。その一方、AIは未だ初期発達状態であり、Hallucinate(AIが嘘をばら撒くという)という言葉が、AIへの頼り過ぎに警鐘を鳴らしていることは特記されるべきです。そしてその延長上に、AIの進歩は本当に人間を幸せにするのかという根源的疑問が、人々の頭を掠めているのです。

 新年2025年はアメリカそして世界が大いに揺れ動くことになるでしょう。皆様のご多幸を祈るのみです。


ニューヨーク紀伊國屋書店ベストセラー!

第2弾が発売


 本紙に連載中のコラム「米語Watch」の単行本第2弾。著者旦氏は、40年以上に渡り在米し、ニューヨーク州弁護士として活動。本書では、「文化・生活」「社会」「経済・ビジネス・技術」「政治・法律」の4つの分野から、アメリカの旬の言葉を紹介している。現地で生活する筆者が見つめるアメリカの「今」を解説。超大国アメリカで飛び交う「米語」から米社会を見直し、再発見できる一冊だ。全編カラー版でキーワードの解説と例文を見開きにし、とても読みやすくできている。米国紀伊國屋書店NY本店(アベニュー・オブ・ジ・アメリカス1073番地)で発売中。本体価格19ドル99セント。 

北海道から直送 雲丹の最高峰

Hokkaido Uni Shop

全米の一般家庭に配達開始
稚内出身の熊谷忠久さんNYで

出荷作業に追われる熊谷さん

 北海道稚内出身の熊谷忠久氏(46)が2024年7月、世界のグルメ市場に北海道産の最高級雲丹を届けるため、北海道雲丹ショップ(Hokkaido Uni Shop,本社ニューヨーク市ロングアイランドシティー)を設立した。同社は、ニューヨークに加え北海道札幌とスイス・ジュネーブに拠点を構え、日米欧の3地域を中心に活動を展開している。

 北海道産地直送の最高級の雲丹をオンラインで直接、米国の一般家庭に届けている。写真の通り、ひと目見て高品質なのは一目瞭然。顧客の9割が自宅購入でリピーター率は40%に上り、米国だけでなく、カナダ、フランス、イギリス、中東、台湾、シンガポールからも多くの問い合わせが寄せられている。

 同社は、「北海道=新鮮・高級品」というブランドイメージを武器に、世界の消費者にオンラインを通して直接販売を行っている。創業者の熊谷さんは「米国内の富裕層を中心に、カリフォルニア州、ニューヨーク州、ワシントン州、フロリダ州、テキサス州、マサチューセッツ州で広く支持されており、特にアジア系個人客の間で人気が高まっている」という。

 北海道の雲丹の品質は、多くの日本食レストランでも特別な位置を占めている。米国のみならず、イギリス、カナダ、台湾、シンガポールにも雲丹を提供し、北海道から食卓や五つ星ホテルへその魅力を最大限に活かしている。

 熊谷さんは「北海道の魅力を世界に発信し続けるため、将来的には北海道からの直送便を確保し、地元である北海道に利益を還元できるモデルを確立したい」という。

 今後の成長計画は「北海道産地のブランディングと流通網を広げ、原産者と地元北海道に利益を還元する基盤を構築することを目標に向こう10年間での海外市場への進出と、北海道からの直送便の確保を実現し、地域社会とのつながりをさらに強化すること」だという。

 写真(上)の雲丹は1箱(250グラム) 特選199ドル、極上289ドル。NY市内と郊外は注文の翌日には配達するため、NYのお正月の食卓にもまだ間に合う。雲丹のほか北海道数の子、温州みかん、富有柿、静岡うなぎなど色々揃えている。

     ◇

 販売サイト https://hokkaidouni.com/

10%割引になるクーポンコード:NewYork2025

ダコタハウスの大晦日  ニューヨークの魔法

 2000年のニュー・イヤーズ・イブ(大晦日)を、私は知り合いの夫婦の「ダコタ」のアパートで過ごした。ジョン・レノンがヨーコ・オノとともに住み、その前で撃たれた、最高級アパートだ。10人ほどのパーティだった。

 1884年に完成したこの優美な館は、ゴシックやフレンチルネッサンス様式を取り入れ、黄褐色のレンガに、切妻屋根、出窓などで装飾されている。広い中庭があり、当時はそこを馬車がひと回りできるようになっていた。エレベーターは、つい最近まで水力で作動していた。

 天井まで届きそうな重々しいオークの木のドアが開き、知り合いの家に招き入れられると、そこはまるで美術館のようだ。各部屋はオークションで落札して入手した肖像画やアンティークの家具に囲まれ、目の前にはセントラルパークが一面に広がる。

 零時近くなると、アメリカ人のホストが人数分のグラスを取り出し、シャンペンを注ぎ始めた。テレビでタイムズスクエアの中継を見ながら、10、9、8‥‥とカウントダウンを始める。

 2000年0時。

 ハッピーニューイヤー! と乾杯し、みんなで窓辺に駆けつける。真正面の空に、大きな花火の輪が次々と浮かび上がっては、消えていく。

 いつか震えながらセントラルパークで見た恒例の花火だ。音や寒さも体験したい私は、窓を開け、身を乗り出した。人々が歓声をあげている。セントラルパークではミッドナイト・マラソンが始まったようだ。小さな人の群れが一斉に同じ方向に動き始めた。

 It’s so far from anything. It might be in the Dakotas.

 こんな離れたところなら、ダコタにあっても同じだ。

 伝説によれば、「ダコタ」が建てられた当時、人々がそううわさしたため、この名がつけられたという。ダコタはアメリカ中西部の地だ。マンハッタン島は南から開けていったため、この辺りは何もなかったからだ。一方で、当時、ニューヨークの実業家が盛んに西部で鉱山を開拓していたため、これを建てたシンガー・ミシンの社長が、領土征服の象徴として、そう呼ぶことにしたとの説もある。

 It’s so far from anything.

 あらゆるものから、こんなに離れている。

 ミッドタウンの摩天楼や街の明かりを遠くに眺め、うごめく豆粒のような人々を真下に見下ろし、ここは今でも、ほかの世界からはるか遠くにある気がした。

 このエッセイは、「ニューヨークの魔法」シリーズ第1弾『ニューヨークのとけない魔法』に収録されています。

https://www.amazon.co.jp/dp/4167717220

自分の世界取り戻す時間NYで

俳優
フォトグラファー

岩田 華怜さん

 東日本大震災で引き裂かれた父と娘の絆を描いた映画「最後の乗客」で主役の遠藤みずき役を演じた。ニューヨーク在住で宮城県出身の映画監督、堀江貴氏の作品で、これまでサンディエゴ芸術映画祭、カンヌ世界映画祭、スウェーデン国際映画祭、モントリオール映画祭など数々の映画賞に輝き、グローバル・ノンバイオレント・フェスティバルでは主演女優賞を獲得した。日本国内での劇場上映も始まり、今年の日本アカデミー賞選考対象作品にもリストアップされるなど、岩田さんにとっては、同時期に日本初演オリジナルキャストとして舞台出演した「ハリー・ポッターと呪いの子」と共に、女優としての出世作となった。

 実は仙台市出身の岩田さん自身、まだ小学6年生だった時に東日本大震災で被災して家族と避難所生活を送っている。それだけに、堀江監督が、ニューヨークに戻る当日の朝、空港へ向かう前にぎりぎりで岩田さんに会いに来て、出演を依頼した時には二つ返事で快諾。「脚本を読ませていただいた時に、こちらの方からオーディションを受けさせてもらいたいと思ったほどでした」と話す。

 岩田さんは13歳でAKB48に当時最年少メンバーとして加入後、18歳でグループを卒業、本来の夢であった俳優に転身した。日本大学藝術学部写真学科を卒業後、25歳でNYへの渡米を決意、一昨年末に来米した。現在、写真家や脚本家としても感性を磨いている。

 「NYでの生活は、本当に一難去ってまた一難といった感じでかなりドタバタ、サバイバルしていますが、その分楽しいこともたくさんあり、毎日挑戦できる喜びを感じています。私が行きたかった演劇の大学がロサンゼルスにあったのですが、アーティストビザが取れたので、だったら働きながら舞台を学べるNYにしようと思ったんです。ニューヨークで開催された映画祭の際には、ニューヨークにお住まいのたくさんの方に足を運んでいただきました。あれが私にとっての人生初NYだったわけですが、あの訪米がなければ今こうしてNYにいなかったかもしれないと思うと、『最後の乗客』が、私の人生に与えてくれたものは本当に大きいなと感じます」と笑顔で答えた。

 将来については「まだわかりませんね。日本にいたときは、色々な目標がありましたが、NYに来てから、良い意味で形に囚われなくなりました。焦らずに、自分の人生と向き合って、『どういう人間になりたいか』をまず考えたいと思います」と話す。が、実は一つだけ実現したいことがあるという。来米前に東京と宮城で上演した舞台「10年後の君へ」のNY上演だ。自身が脚本、演出、主演、制作、プロデュースをした朗読劇。東日本大震災で被災した子供が都会に出て人生に向き合う話だ。2年前の来米時に「また、必ず女優としてしっかりと実力をつけてこういった場所に戻ってこれたらなと、もっともっと高みを目指していけたらなと思っております」と語った言葉がいま現実のものとなっている。

 (三浦良一記者、写真も)
衣装・田中恵介

【今週の紙面の主なニュース】(2024年12月14日号)

(1)核兵器廃絶を NY日本総領事館前で平和集会

(2)聖夜氷上のプロポーズ

(3)暮らしのテーブル 大石育子

(4)福岡県の八女茶NYでPR

(5)相槌(あいづち) 百聞は一見に如かず

(6)藤田さんに旭日重光章 国内外で人道的活動

(7)NY日系人会で晩餐会開催 117周年記念

(8)十割そばをスタート 蕎麦屋で16日から

(9)帰国するカイロプラクター 石谷三佳さん 

(10)戦う男がローマの未来を決める

核兵器廃絶を NY日本総領事館前で平和集会

日本被団協ノーベル平和賞受賞


 日本の被爆者団体「日本被団協」が2024年のノーベル平和賞を受けた9日、ニューヨーク日本総領事館前で日米平和活動家団体が平和集会を開いた。主催したのは「核のない世界のためのマンハッタン・プロジェクト」。共同代表の弁護士、井上まりさんは「原爆は1945年末までに21万人の命を奪ったと推定されており、長年にわたり、多くの被爆者の健康を損なってきた。被爆者の平均年齢は現在85・5歳であり、多くの方が今もなお健康問題に苦しんでいる。原爆で命を落とした人々を追悼し、被爆者の数十年にわたるたゆまぬ努力を称えるため、人々と平和活動家連合が集まった」と話す。

聖夜氷上のプロポーズ

聖この夜 ツリーの星は輝き 

凍てつく夜に 氷上のプロポーズ

氷も溶けてしまいそうなアツアツの二人に

祝福のエールと拍手が沸き起こった。

(5日午後6時、写真・三浦良一)