老後は帰国して日本で暮らす

 長い年月を米国で生きて、仕事の仕上げも見えてきて、将来は日本に帰国して老後を過ごしたいと考えている日本人が少なからずいる。米国は、医療費や保険代を個人で負担するにはあまりにも高額なことも背景にあるようだ。幸い、米国で長年働いて米国政府に収めた社会保障年金、ソーシャル・セキュリティーの蓄えは、定額で死亡するまで受け取れ、日本に帰国、在住していても支給されるため、米国からの帰国者は経済的に生活力を維持しやすい。一方で、米国では、医療保険、健康保健代が非常に高額なため、年金のメリットを十分に活かせないという悩みを抱えている。

 ニューヨーク日系人会(JAA)がこのほどまとめた『在ニューヨークの日本人・日系人の高齢化に関する意識調査〜訪問介護の在り方を探る〜」では、日本で老後を過ごすことを選択肢として残している者が、アンケートに答えた者の51・4%と半数以上に上った。

 帰国して自分の故郷に戻って暮らすのもよし、今まで住んだことのない日本の地方都市で生活を始めるのもよし。問題は住む場所と将来の介護ケアの安心材料をどこまで米国にいながら入手できるかだろう。

 帰国後も元気なうちは高齢者向けレジデンスの食事付サービスや施設の充実したところで暮らしたいと考えている人が多いようだ。海外にいても、インターネットでなんでも調べることができる時代だが、自己流で調べても限界がある。本紙新年号では、そんな人達に向けた日本での老後について、各分野の専門家にアドバイスしてもらった。

日系高齢者の半数が帰国を希望
在ニューヨークの日本人・日系人の高齢化に関する意識調査まとまる

言葉と食事が安心
帰国決断の分岐点は80歳


JAA野田事務局長

 在ニューヨークの日本人・日系人の高齢化に関する意識調査(訪問介護の在り方を探る)と題した調査結果がこのほどまとまり、ニューヨーク日系人会(JAA、西45丁目49番地11階)で1冊の小冊子を作成した。桃山学院大学(大阪府和泉市)の金本伊津子研究室が、JAAの邦人・日系人高齢者問題協議会と協力して統計調査した。

 2006年にJAAが実施した高齢者問題に対する意識調査と 12年後の2018年の調査によって、共時的比較分析が可能となり、高齢化の進み具合や社会情勢の変化による意識の変化などについても踏み込んでいる。

 同調査では、老いの問題は、他人任せになりがちで、おざなりになったり、後回しにされたりしがちな問題として位置付け、特に海外で老いを迎える日本人、日系人は、老いのモデルが欠如していることから、自主的な関わりが特に必要な状況にあるとしている。


パンデミック以前は毎月2回開催されていたNY日系人会の敬老会

 同研究は(1)ニューヨーク近郊に在住する日本人、日系人の高齢化の現状を把握すること(2)高齢者がどのようなサービスを求めているのかその優先順位を明らかにすることを目的に2018年9月上旬から10月7日までで2057人にアンケートを配布し611人から回収した(回収率29・7%)。回答者の居住地はマンハッタンが32・6%、クイーンズが15・7%、ウエストチェスター8・4%、ロングアイランド3・1%、ニュージャージー州20・7%。女性が69・3%、男性27・2%。平均年齢は66・4歳。最小が40歳、最高齢が100歳。70代の回答が25・7%と最も多い。米国でのステイタスは、永住者が59・2%と最も多く、ついで米国市民が36・2%だった。

 「もし将来日本に永住帰国する場合、いつごろの帰国を考えていますか」という問いに対して「考えていない」と回答した者が42%で、これは米国で老後を過ごすと決めている37・5%とほぼ同数であると考えられる。具体的に日本への帰国を検討している者は「1年以内」が2・1%、5年以内が7・7%、「10年以内」が8・7%、「15年以内」が4・8%、「20年以内」が2・6%、「20年以上」が1・5%の計27%おり、「考えているが時期は未定」(24・4%)と合わせて考えると日本で老後を過ごすことを選択肢として残している者が51・4%と半数以上に上ることが分かった。

 日本帰国の理由は「日本の方が安心した老後が送れるから(言葉、食事、ケアの質など)」と回答した者が40・2%で最も多く、米国より日本での老後に安心感を持つ者が多い。「日本に家族(子供)・親戚がいるから」(11・3%)、「日本に親がいるから(介護を含む)」(6・2%)と親族が日本にいる場合であることも日本への永住帰国の要因となっている。

 JAAの野田美知代事務局長は「日本に帰るかどうかの年齢的な目安は、エネルギーのまだある80歳くらい。特に身寄りのないひとり暮らしの高齢者が自宅で転んだりして入院した場合、リハビリセンター、ナーシングホームと辿るコースができていて自宅に戻れないことが多い。米国に残るなら社会福祉のメディケイドを利用でき、医療費を安く抑えられるが、手続き移行中の2、3か月中に多額の費用負担が生じる。元気なうちに情報を集めて早めに自分の老後と向き合って欲しい」と話している。