使うことのできる木彫り芸術を追求  松田卓士さん

 ニューヨーク州在住の木工作家、松田卓士さん(53)の作品は、使うことのできる木彫芸術であると同時に存在そのものがアートだ。現在、マンハッタンの高級額縁店ミナガワ・アートラインズ木工所の管理者として勤務しながら、自身のアップステートにある木工所「卓庵NY」を主宰している。「卓」の意味は卓越を意味し、「庵」は部屋、小さなスペースを意味している。ここで吟味された素材で造られた木工芸品の制作に励んでいる。

 素材はニューヨークもしくはニュージャージーの物で、ローカルの製材所(saw mill) から購入している。なぜローカルにこだわり、ランバーヤードではなくソウミルなのか。殆どの材木は輸送の際に殺虫剤等を散布されるが、ローカルのソウミルから購入する事で、それをさける事が出来る。更にソウミルにもこだわり、年に春と秋に伐採しきちんと乾燥させたもの、もしくは自然乾燥させた物のみを扱っているところから購入している。

 黒胡桃の根材 ボール(ブラックウォールナット)=写真=は自然乾燥で30年程立っている。木目や成りを目で楽しめる角度で斬新にデザインした作品だ。

 松田さんは、ブルックリンのプラット・インスティチュートを彫刻専攻で卒業。「日本を離れてから強く日本や日本人としての自分の文化的背景を意識するようになった」という。彫刻から木工アートに転向するきっかけとなったのはイサム・ノグチと1950年代から一緒に仕事をしていた児玉という彫刻家であり木工職人との出会いだった。自然素材の扱い方を多く学んだ。さらに、一時帰国した後年、日本で全国的に評価されている木工職人の藤崎一正と出会ったことで、日本の「禅」の思想が宿る木工に感銘を受けた。それが現在の作風にも受け継がれている。「素材を選ぶときは、その感触や性格を見るようにしています。それはまるで人の個性を感じ取るかのようです」と話す。

  松田さんは、当初日本的なイメージを大切に作品を作っていたが、アメリカでの生活が長くなるにつれて、パーティーの多いアメリカのライフスタイルに合わせるためにはサイズ感やデザイン感を新しくしないといけないと思うようになったという。手頃な価格で親しんでもらえるようなトレイや器も手がけている。アートと工芸品との境目のない木工作品をこれからも作り続けていくという。

(三浦良一記者、写真は本人提供)