トランプ政権のハーバード大学攻撃が止まりません。ハーバードだけじゃない。コロンビア大もコーネル、ブラウン、プリンストン、ノースウエスタン大なども軒並み助成金を凍結され、国立衛生研究所(NIH)や米国科学財団(NSF)など、主要な学術・研究機関も大幅な予算カットや人員削減の危機に直面しています。
NIHは1800億ドルの助成金が打ち切られ、700件の研究プロジェクトが終了しました。打ち切られた研究はHIV/AIDS、がん、アルツハイマー病、トランスジェンダーの健康、コロナ関連のプロジェクトが含まれ、計2500人の人員削減も行われました。エイズやコロナで活躍したあのアンソニー・ファウチ博士への中傷や、博士に近い人物の解雇や左遷もあからさまです。
NSF関連では気候変動やグリーンエネルギー関連の研究は「不要」として切り捨てられました。人員削減のほか、助成金の支払いシステムが一時停止されてポスドク研究者が家賃も払えないという異常事態に陥りました。
とにかく知的なもの、知識人に関係するもの、知的エリート界隈は全て「左翼」「反ユダヤ主義」という定型句で排除する。それでMAGA支持者層が喝采する。積年の知的劣等感が自分にとって大きな政治的エネルギーになる。
副大統領のJDバンスは「大学こそ敵」と発言し、大学や研究機関に限らず、学術界全体の自由を制限する方向に進めています。これにより米国の科学技術やソフトパワーが弱体化するリスクや、国際的な研究者や留学生の米国離れが進む──まさにトランプによるアメリカ自身の自傷行為、自損行為に他なりません。
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こんなことを、なぜ「アメリカ・ファースト」の大統領が率先遂行するのか? アメリカは衰退するばかりではないのか?
いや、そうでもないかもしれないと思われる節のニュースが流れてきました。
元OpenAIの先見的研究者だったダニエル・ココタイロらが、3年後の2027年には人類の知能をあらゆる面で超越するASI(人工超知能)が誕生する可能性を、具体的なシナリオとともに提示する論文「AI2027」を発表したというニュースです。
ココタイロはASIの手前のAGI(人工汎用知能)の開発における安全性への懸念から昨年OpenAIを退職し、非営利組織「AI Futures Project」を設立して多くの専門家とAIの具体的な未来像に警告を発しています。
それによると今年後半には初期のAIエージェントが普及し、限定的ながらも広範に実用化され、企業や政府によるAIインフラへの大規模投資が加速します(その兆しはすでに実現しています)。
26年初めにはAIが初級ソフトウエア・エンジニアリングを自動化するまでに進化し、27年初頭にはAIが超人的なコーディング能力を獲得して研究開発(R&D)の速度を劇的に向上させます。
同年7月にはAIがAGIに発展して科学研究自体を完全に自動化し、自律的なAIとして人間の介入なしに新たな発見や技術革新を推進します。
そして27年末〜28年初めにはASIが登場します。AIが自身を改良する「再帰的自己改善(RSI)」により、知能爆発=シンギュラリティが発生。これにより、AIが人間の全知能領域で優位に立つ──というのです。
なるほど、28年はまだトランプの在任期間。文学や芸術など人文科学の領域はわかりませんが、トランプが今攻撃している医学や物理学などの自然科学あるいは応用科学の領域では、スーパーなAIがあっという間に解析予測を計算できるようになる──。
誰かそれを見越して、トランプに「科学者は潰しても大丈夫」と入れ知恵してるんじゃないか?──というのが妄想系SFの話だといいのですが。
(武藤芳治/ジャーナリスト)