トランプ大統領は、ハーバード大学の留学生受け入れ認可の取り消しなどを決定しました。パレスチナを支持する活動や多様性・公平性・包摂性(DEI)の排除、“Woke”( 社会的不平等への警鐘語=ことばの解説参照)の否定は、政府機関や全米の大学にまで拡大しています。
こうした政策を、ハーバード大学卒の博士で文化大革命世代の丁学良氏や北京の張千帆教授は、中国の毛沢東による『文化大革命』と類似していると指摘しています。また、中国人が、トランプ大統領の「祖国を救うものはいかなる法も犯さない」という発言は、毛沢東の「造反有理」とつながるとブログに書き込みました。
ケネディ、ブッシュ(父)、オバマ大統領等を輩出し、米国で最も裕福な大学でも、大統領に翻弄される姿が不可解に見えます。政府は多額の研究助成金等を凍結しましたが、収入の多くを政府に依存していることが弱みのようです。
私が現在在籍する英国オックスフォード大学はかなり異なります。6人の国王や30人の首相を輩出したほか、日本の天皇、皇后両陛下を初め多くの皇族も留学しています。
それ以上に、この大学は45のカレッジ(学寮)などの独自財源をもつ自治団体の連合体であることが特徴です。市の中心地の大半や、オックスフォード市からバーミンガム市に至る約92キロの沿道は、カレッジ所有の土地で繋がると言われます。映画ハリー・ポッターのロケ地となったことも資産価値を高めました。他方、1981年度は52%であった政府補助金を2016年度には15%まで引き下げた自助努力もあります。政府介入の余地がない体制になっているのです。
この両大学は、毎年世界大学ランキングのトップを争い、自国の指導者ばかりか世界中の指導者を輩出し、知性、国際性、政策への影響力等で世界に貢献しています。さまざまな分断が加速している今、これら世界をリードする各国の大学を守ることが重要です。
他方、明治以来世界から学び発展した日本からの留学生、採用論文などが激減しているのが深刻です。日本全体の学校教育、社会教育、家庭教育も含め、「国家百年の大計は教育」を政府の最優先課題として取り組むべきです。「失われた30年」が今以上に悪化しないためにも。
ふじた・ゆきひさ=オックスフォード大政治国際問題学部客員研究フェロー(英国在)。慶大卒。国際MRA(現IC)や難民を助ける会等の和解・人道援助活動を経て国会議員、財務副大臣、民主党国際局長、等を歴任。現在、国際IC日本協会長、岐阜女子大特別客員教授も兼任。