米澤創一・著
プレジデント社・刊
かいつまんで言うと人間社会のコミュニケーションのあり様を分析して解説している本だ。コミュニケーションを噛み合うものにするためには、話の目的・全体を捉える「抽象的な視点」と、話の詳細を捉える「具体的な視点」の両面が必要だと説く。この「具体と抽象」をキーワードにコミュニケーションの本質に迫っていく。例えばこんな具合だ。
Aさん「ねえ、ちょっといい? 最近毎日夜中まで残業して正直かなりしんどいんだよね。先週なんて一度も日付が変わる前に帰れなかったし」
Bさん「そっか、夜中までかあ。夜ごはんとかどうしてるの?」
Aさん「うん、もう疲れが溜まりすぎているのか、昨日なんてコンビニのおにぎり1個しか食べれなくて」
Bさん「おにぎり? そういえばね、この前すっごく美味しいおにぎり屋さんを見つけたんだ! 具が鮭とか梅とかいろいろ選べるし、海苔もめっちゃパリパリ。最近ハマっちゃって、しょっちゅう行っているんだよね!」
Aさん「・・・へえ、そうなんだ」
Bさん「とにかくそのお店、本当に美味しいから、今度絶対行こうよ! お店のおばあちゃんがすっごく優しくて、なんか昭和の雰囲気を感じるのがまたよくてさ・・・」
◇
Aさんは、「いやいや、それが話したかったんじゃないんだけど」と思いながら、途中で話を遮るのも悪いし、と苦笑いをするしかなかった。この会話を読んで「なんだかBさんは空気が読めない人」「Aさんがかわいそう」という感想が浮かぶか、あるいは、「Bさんなりの気遣いが裏目に出ただけでは?」と感じる人もいるかもしれない。実はこんなふうに「噛み合わない会話」が起きるとき、それぞれの思考の過程にヒントが隠れているという。Aさんはおそらく誰かに共感や労いの言葉をかけてもらいたい、愚痴を聞いてもらいたいというそれだけだったのだろう。疲れていて食欲がないことの例としてたまたまおにぎりを出したのに、Bさんは「おにぎり」という言葉に食いついてしまったわけだ。Bさんを無邪気なキャラとして描いているので、AさんはBさんのことを不快になってないが、もし別の性格だったら「なんかあの人の反応、気に入らない」と険悪になってしまうかもしれない状況なわけだ。
本書では「具体的知識」と「抽象化能力」が引き起こす誤解やすれ違いについて深掘りしている。二つの要素は一見対立する概念に見えるが、どちらもコミュニケーションの本質を捉える上で欠かせない車の両輪のようなものだという。世の中にはいろんな人がいるが、その人と会話をする時に、相手とどの程度のレベル感で話せば通じやすいかを意識するだけで噛み合う度合いが変わってくると説く。本紙読者のように海外で日本人以外の人とコミュニケーションしていく場合にはもっと「相手の立場を重んじ、慎重にかつフレンドリー」になっていくことが国際コミュニケーションの要諦なのだとなんとなく理解できる本だ。 (三浦)