「アメリカ・ファースト」という内政重視の公約を転換したかのようにトランプ政権がイスラエルとともにイランへの大規模攻撃を始めました。さてその攻撃は「4、5日で終わる」から「4、5週間」に変わり、さらには「永遠に続けることができる」とも豪語されていますが、いや逆に、今後の見通しや出口戦略に関してホワイトハウスと国務省と戦争省(国防総省)の言い分が互いに齟齬をきたすなど、どうもよくわからない。
イスラエルと米国による昨年6月のイラン核施設攻撃の時から、イランへの大規模軍事行動は湾岸全域からトルコにまで展開する米軍駐留拠点がイランの報復攻撃の対象になると警告されていました。現在の報復状況にたじろぐふうなトランプ政権に関して、サウジアラビアの元情報長官が「トランプが驚いているということに私の方が驚いている」とPBSに語っています。
ところで政権の公式の演説や会見では出てきませんが、英紙ガーディアンなどによると30以上の米軍基地の指揮官らが、この対イラン攻撃は「神の計画」であり「ハルマゲドン(最終戦争)」につながるものだとして部隊を鼓舞しているようです。「トランプはキリストによって聖油塗り(選任)され、キリストの再臨を招く狼煙に火をつけた」と、まるで「宗教戦争」であるかのように焚きつけているのです。
ヨハネの黙示録では、ハルマゲドンで悪が滅ぼされ、サタンの千年幽閉と共に千年王国が始まるのだそうです。トランプ支持の福音派にとってはそのハルマゲドンの契機となるキリスト再臨に「イスラエルの地」が必要なので、「だからそこを攻撃するイランは破壊する」という論理らしい。
いやいや、今回の開戦はネタニヤフにとってはガザの後でも戦争を継続しないと自分の刑事訴追が待っているし、トランプにしてもエプスティン文書から目を逸らさせなければという両者ともの国内事情も重なったもの。ここ数週間続いていたイランとの核協議も、国務長官のルビオは昨年の空爆以降でイラン側にウラン濃縮の痕跡もないと発言していて、単に見せかけの開戦回避努力のアリバイ作りでした。
攻撃が既定路線だったことは、年初からのエイブラハム・リンカーン空母打撃群に加え世界最大級のジェラルド・フォード空母打撃群をも追加配備したことからも明らかです。これほどの大規模展開で何もせずに通常任務に帰還させるなんてことはかつてほぼ例がないからです。何せ展開するだけで1日で数十億円もの税金が費やされるのですから。
さてそこでトランプの国内事情です。「アメリカ・ファースト」派が割れています。「最終戦争」を持ち出した冒頭の指揮官の「訓示」は戦闘に大義を持たせ部隊の士気を高めるいつものスピーチかもしれませんが、これは前回の本欄で触れたピーター・ティールの終末論的加速主義と重なり、MAGA福音派の根本的なトランプ支持心理を大いに刺激するのです。
彼らには作戦名の「壮大な怒り」も黙示録の「神の怒り」に重なるし、イスラエル軍の「咆哮する獅子」作戦の「獅子」は聖書ではまさに救世主のこと。開戦の生臭い政治的目的も、宗教的文脈を忍ばせれば士気も支持も増すという、これも実にアメリカ的な一面でしょう。もっとも、今のところこの対イラン戦は当初の思惑に外れて不支持が圧倒しているのですが。
ちなみに黙示録にはキリスト再臨前に「偽の預言者」も登場してきます。彼はキリストを真似るのですが実際はサタンの言葉を語り、嘘と欺瞞に満ちていて、外面はキリスト然としていても中身はサタン、と真逆なのだそうです。
ま、どうとでも解釈できるのが宗教の言葉──ちなみにそいつは自分の像を作らせ自分の徴(しるし)を刻印させ、天から火を降らせるとか。
ミサイルやドローンの降り注ぐ地域が中東全域に広がっています。
(武藤芳治/ジャーナリスト)

