ハリスの旋風吹くか

リベラル派
犯罪には厳しい

 ハリス氏は、60年代の公民権運動で知り合ったというジャマイカ出身の経済学者のドナルド・ハリス氏(スタンフォード大学名誉教授)とインド出身の内分泌学研究者シャマラ・ゴパラン・ハリス博士の間に1964年、カリフォルニア州オークランドで生まれた。7歳の時に両親が離婚し、母親のもとで育てられた。黒人コミュニティーを知る一方、母親に連れられインドを度々訪れている。また母親がカナダのマギル大学で教鞭を執っていた5年間はモントリオールに住むなど多様な文化の中で育った。

 黒人が通う名門校とされるハワード大学(ワシントンDC)に進学し、卒業するとカリフォルニア大学ヘイスティングス・ロースクールへ。弁護士資格取得後はカリフォルニア州アラミーダ郡地方検察局に入り、サンフランシスコ市検察局などを経て、2003年に第27代サンフランシスコ地方検事に当選し就任した。

 2011年にはカリフォルニア州で初の黒人で女性の司法長官(検事総長)に就任。サブプライム住宅ローン危機では、バイデン氏の長男で当時デラウェア州司法長官だったボー・バイデン氏(2015年死去)と共闘し住宅を抑えられた住民の救済に務めた。死刑制度に批判的で同性婚容認などでリベラル。刑事司法制度改革にも取り組み、特別捜査官へのボディカメラの着用義務や犯罪統計データベースの公開などが知られる。

 政界から注目され、2017年にはカリフォルニア州選出の連邦上院議員になった。 アフリカ系アメリカ人女性としては2人目、南アジア系アメリカ人としては初の連邦上院議員となる。

 上院議員としては大麻の脱法化、不法移民の市民権獲得への道、暴行武器禁止などを支持。トランプ大統領が指名したブレッド・カバーノー連邦最高裁判事候補らを司法委員会の指名公聴会で鋭く追及し全国的に知られるようになり、2019年1月に大統領選出馬を表明。当初は支持率が2位とまでなったが、出馬理由や政策目標を明示することができず、医療改革などでは主張のブレが目立ち支持は低迷、12月に撤退した。

 検事時代の比較的軽い罪でも厳刑を求めるなど容疑者に厳しい姿勢は一部のリベラルや黒人などマイノリティー層から批判されていたが、大統領選では中道や浮動票獲得で有利に働くとの見方もある。

民主党の副大統領候補

 民主党候補になるジョー・バイデン前副大統領は11日に副大統領候補として、カマラ・ハリス上院議員(55、カリフォルニア州選出)を選んだ。ハリス氏はアフリカ系とインド系のルーツをもっており、米国で初の黒人の副大統領候補となった。女性の副大統領候補としては1984年にジェラルディーン・フェラーロ氏(民主党)が、2008年にサラ・ペイリン氏(共和党)が選ばれているが、ともに本選で大統領候補が落選している。 

 昨年6月の民主党指名争いの討論会でカマラ氏はバイデン氏を「人種差別主義者」と非難するなどしており、また「野心家過ぎて信用できない」との声が一部の民主党関係者からあった。しかし今年5月、ミネアポリスで黒人男性が白人警官によって暴行死したことをきっかけに、全米を揺るがす「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事だ」運動が巻き起こり、副大統領候補には黒人女性をとの声は強かった。黒人票や女性票を得るためにも黒人女性をバイデン氏は選ぶだろうと見られていたため驚きの声はそれほど出ていない。ニューヨーク・タイムズは12日、「民主党討論会で対立したライバル同士が力を合わせた」と好意的に報じた。一方、トランプ大統領は「討論会でのバイデン氏に対する態度は本当にひどいものだった」とツイッターで皮肉った。

トランプ対ハリスに

 ニューヨーク・ポストは11日、「こうなったら争いはトランプ大統領対ハリス氏になる」と報じた。というのも77歳のバイデン氏は、今回当選すれば二期目の再選には出馬しないと周辺に語っており、いつでも大統領職を譲れる人物にしたいと考えているとされるためだ。CNNも12日、「バイデン氏は、トランプ氏に対する国民投票となる可能性を最大化する選択をした」と評価しつつ、「バイデン氏が辞任した場合には代わりを務めることができる経歴の持ち主にした」とツイッターに投稿した。

 こうしたことからインフォウォーなど一部の保守系メディアでは、バイデン氏が当選後、ハリス氏に大統領職を譲るのではとの憶測が広がった。バイデン氏が大統領となった場合、健康上の理由などから途中で辞任しハリス氏が大統領になることは十分あり得る。またハリス氏が副大統領としての実績を積めば、2024年の大統領選に出馬し当選する可能性は高いと見込まれる。近い将来の、初の黒人で女性の大統領誕生の現実味が高まっている。11月の大統領選が「トランプ大統領かハリス氏か」の選挙と見る向きがあるのはこのためだ。

 バイデン氏を脇役にして不利にさせようとしていると見る向きもあるが、いずれにせよハリス氏の思想信条がより注目されるのは間違いない。

(写真)ハリス氏の指名を大きく1面で報じる8月12日付NYタイムズ紙