日本ホラー映画の金字塔NYで
日本のホラー映画ブームの火付け役ともなった映画「リング」(1998年公開、鈴木光司原作、中田秀夫監督)の上映会が4月28日、ニューヨークのジャパン・ソサエティーで行われ、会場は米国人ファンの会員で満席となった。当日は日本から原作者の鈴木光司氏が来米してステージで司会者の質問に答え、映画制作当時のことや私生活について語った。講演後は新作書籍『ユビキタス』のサイン会も行った(関連記事10面に)。

「私の映画でお化けが出てくるのは貞子だけです。どのホラー映画でも、血やグロテスクな映像や暴力シーンは出てこない。極めてロジカルな理由でお化けが存在しているのです。私は学生時代、22歳の時に小説家に憧れ、小説家になるなら絶対ニューヨークに行かなくてはならないと思い、ロサンゼルスまで飛んでそこからグレイハウンドバスで米国大陸を横断してニューヨークのグリニッチビレッジの安宿にたどりついた。そこは恐ろしく狭くて小さなゴキブリがいっぱいいるような部屋だった。日本に戻ったある日、ひらめきが天から降ってきてリングの構想ができ3か月で小説は完成したんです。それがスマッシュヒットして、ゴキブリにはおさらばした訳です。リングはVHSという現代の亡霊と言えるビデオテープがストーリーの主軸にいるが、もし2025年に作るとしたらスマホだろう。が、私はスマホは持っていない。ホラー映画を作る理由は、恐怖に囚われているとよい判断ができないから論理的なホラー映画を若者にはどんどん見てもらって若者を元気づけたいという気持ちがあるから」などと語った。私生活では1600CCのヤマハのオートバイに乗ったり、ヨットを楽しんだり、柔道、キックボクシングなどもするバイクと旅行を愛するプライベートライフも壇上で披露した。 (三浦)

次の恐怖は植物
鈴木 光司・著
KADOKAWA・刊
原作者の作家・鈴木光司氏を迎えて5月28日午後、ジャパン・ソサエティーで全世界で大ヒットした映画『リング』が上映され(関連記事は8面)、翌日夕方から紀伊國屋書店NY本店でQ&Aとサイン会が開催された。用意された30席は開始前早々に埋まり、立ち見の参加者も大勢いて会場は熱気に包まれていた。
参加者は本も映画も大ヒットした90年代当時からのファンかと思えば、ほぼ若者のアメリカ人。ビデオカセットは子供の頃、親が使っていたから知っているというミレニアル世代やビデオカセットを手に取ったことのないであろうZ世代で、『リング』の恐怖と貞子の強烈イメージは若い世代にも受け入れられている、リング風に言えば伝染していると実感。
イベントでは英語で鈴木氏が語ってくれた。量子論からアイデアを得ること、インスピレーションはいつも日の出に頭に降りてきて、3か月で500枚書けるという啓示があって、その通り完成した『リング』、今は若い時と違って3年で500枚だという。

また、3月25日に発売された16年ぶりの新作ということでも話題の『ユビキタス』についても語った。新作の恐怖は植物。地球生命全重量の99・7%を占める植物に対して、動物の重量はわずか0・3%に過ぎず、植物は一瞬で動物も人間も終わりにできる力を持つと鈴木氏。『ユビキタス』は4部作を予定していて、第2部はアメリカが舞台で、第3部は大航海時代の物語。第4部では人類の宇宙進出を描く。壮大な構想だ。ハリウッド映画的な隕石や宇宙人襲来では終わらず、必ず明るい展望で希望のあるエンディングだという。
物語はこう始まる。南極観測船しらせが研究素材を積んで日本に帰船。その中に南極の水もあった。探偵の前沢恵子は人探しの依頼を受ける。その人物が所属している新興宗教は過去に謎の集団変死事件を起こしていた。世間では謎の怪死事件が相次ぎ、その2つには関係性があることを発見する。
当時からの読者として本書を早速購入し、読み終えていた。描かれる恐怖にはサイエンス的な裏付けがあって、現実感を失わないのは『リング』と共通するまさに鈴木光司のワールドであった。(山河藍、写真も)