芸術と健康の融合を目指すギャラリー HACO オーナー 末次庸子さん

 ニューヨークのブルックリンでアートギャラリー兼セレクトショップHACOを経営するアーティストの末次庸子さんは、1998年に、芸術家を目指して来米し、ニューヨークのラガーディア・コミュニティー・カレッジ(CUNY)に編入した。当時、学費が格安だったCUNYは移民の集積地の様相を呈しており、学生の大半が英語を話せなかったという。しかも、育児を終えてから復学する道を選んだ親子ほども年齢の離れたクラスメイトたちがクラスの半数以上を占めていた。学生のF1ビザでの就労には制限があったが、同級生の誰もが放課後になると食べていくために仕事に向かい、そのために友達ができず、英語を話す相手も見つからずに途方に暮れる毎日だった。

 しかし、振り返れば「この学生時代の3年間にニューヨークから受けた洗礼は、何物にも代え難い貴重な人生の経験になりました」と明るい店内のギャラリースペースで笑顔で語る。

 大学では主に白黒写真を学んだ。卒業後に進学したアートスクールでは、鉄の彫刻に出会い、思いがけずに彫刻家としての道を歩み始めることになる。ニューヨークの移民として、あらゆるアルバイトをして作品制作と発表を続けながらサウス・ブロンクスの避難民高校生のためのアートプロジェクトに教師として加わり、収集したゴミのリサイクルによるコミュニティーガーデンの作品を指揮してCUNYで写実的ドローイングの講師を務めるなど幅広い経験を積んだ。その努力が報われ2010年にヨーロッパ研修の奨学金を受けてパリやベルリンに滞在し、これを機にニューヨークを活動拠点とすることを決意した。

 ニューヨークでは、アーティストとして活動しながら、美術館、ギャラリー、アートフェアなどに展示設営を行うアートテクニシャンとして働く。その傍らで、製紙用機械の工場で溶接工のバイトをしながら彫刻作品の制作を続けた。

 しかし、2017年10月、アートテクニシャンとして関わった美術館やギャラリーの商業主義的なあり方にアーティストとして疑問を持ち、誰もが気軽に芸術と触れ合う場を目指してHACO(Human Art Core Odysesey )ギャラリーを日本在住の兄とともにブルックリンに設立、2024年にリニューアルオープンした。

 同ギャラリーでは、美しいものに触れるための心の豊かさと健康をテーマに芸術家や音楽家による展示パフォーマンスイベントを企画している。今年春には日本で活動するアーティスト、坂口恭平&家族展を企画開催して好評を得た。

 現在は、オーガニック食品や無農薬の有機栽培茶、自然発酵のプロバイオティクス飲料、味噌や出汁の販売も行うセレクトショップとしての機能に重点を置いている。陶芸や版画、コラージュなどアートワークショップや健康に関するクラスも開催。

 「健康な体と美しいものに触れる健やかな心があれば、幸せは無限に広がる」をコンセプトにこの多文化環境のNYで芸術と健康の融合を実現するのが夢だ。福島県出身。

 (三浦良一記者、写真も)