メキシコ最東端の島 イスラ・ムヘーレス

忘れられない美しい島へ再び


4年前、メキシコのユカタン半島にあるリゾート地カンクンへ主人と行った際、そこから船で30分ほどの島、イスラ・ムヘーレスへ日帰りで遊びに行った。まぶしい太陽の下、ゴルフカートでドライブした島の様子が忘れられなくて必ずまた来ようと思った。4年経ち、わずか2泊3日の旅だがやっとその時が来た。

島の最北端のホテル

 イスラ・ムヘーレスは、カンクンの東に位置する人口1万2千人ほどの小さな島。「イスラ」はスペイン語で「島」を、「ムヘーレス」は「女性たち」を意味する。南北に8キロ、東西に1キロにも満たない細長い島で、ここに行くにはまず飛行機でカンクンまで、そこからフェリー乗り場があるプエルト・フアレスに移動する。実は我々は前回カンクン空港で、タクシー業者を装った者からぼったくりにあっている。今回は絶対に同じ間違いを犯してはならない。
 入国審査を終えて空港の出口付近に行く。大勢の人間が「タクシー」と呼びかけてくるのを無視、そのまま真っすぐ突き進むと、予約していたUSA Transferという会社の看板を持つユニフォーム姿の男性2人が立っていてホッとした。この会社は予約時に「タクシー会社に電話をかけてあげると近寄ってくる人物に注意」という警告と、スタッフがどんな服装でどこで待っているかが分かるビデオを送ってくれていた。ぼったくり被害にあっている人が、それだけ多いということだろう。

ホテルのあちこちにフリーダ・カーロの顔が

 無事イスラ・ムヘーレス行きのフェリーに乗った。午後4時でも気温は26度。心地よい海風を感じていると、ギターの弾き語りが始まった。奏でられるラテンのリズムに思わず体が動き、ようやく自分がメキシコにいると実感する。
 フェリーを下り、歩いて15分ほどにある島の最北端のホテルに到着。エメラルドグリーンの海の中に立つそのホテルは細い橋で島とつながっていて、まるでもう一つの島のようだ。気もそぞろにチェックインした後、人気のない夕暮れの海にドボンと飛び込んだ。観光客で賑わうカンクンより、素朴でどこか寂し気なこの海が、私達にはちょうどいい。
オール・インクルーシブなので、ホテルでは飲み放題、食べ放題だ。前回カンクンで私は、セビッチェを食べてお腹を壊している。今回は海産物は避け、体調に万全を期さねば。
2日目、イルカと遊べる「ドルフィン・ディスカバリー」へゴルフカートで向かった。胸ビレにつかまると、引っ張って一緒に泳いでくれるイルカが可愛くてしょうがない。クライマックスは、ボードにつかまった状態で浮いている私の足を2頭のイルカが押して運んでくれるというものだったが、この日は強風で潮の流れも速く、泳ぎの下手な私はどんどん流された。あたふたする私の足を押せないと判断したイルカは、インストラクターのところに戻ってしまった。「ごめんねイルカさん。私が不甲斐ないばっかりに…」と詫びながら、今度は決して足を動かさないと覚悟した私の足を、イルカは2度目の挑戦でものすごいスピードで押してくれた。
 そこからカートでさらに南へ進み、マヤ遺跡が望めるプンタ・スールに到着。「プンタ」は「端」、「スール」は「南」、島の最南端だ。遺跡の上のカフェで一休み中に、主人が「ここ来たことがある気がする」と言うので、「前世で来たんじゃないの」と茶化しているうちに、確かに4年前の日帰り旅行の際に立ち寄ったことを思い出し、二人で苦笑。遺跡を見下ろしながら、前回より少しだけ贅沢な、ゆったりとした時間を過ごした。
 ホテルに戻った私達は、シュノーケルを手に桟橋から海に飛び込んだ。透明な海の中のたくさんの魚に夢中になっていると、いたずら好きの主人が何やら合図をしている。その手の先に海藻のようなものがあり、触ると紫色の液体が出てきた。後でネットで調べると、「アメフラシ」という生き物であることが判明。触らずにじっくり観察すればよかったと、後悔した。
 夕食で、ステーキの横についていた唐辛子を食べて絶句した。辛いのが大好きな私が一瞬凍るほどの辛さだ! 皿を下げに来たウエイターが、半分だけ残る唐辛子を見て、「それはメキシコ人でも食べないよ!」と目を覆った。案の定、その晩からお腹を壊した。セビッチェの次は唐辛子か。メキシコ、恐るべし。
 最終日は、この旅一番の晴天で一番きれいな海だったが、体調不良の私は海に入れずただ見つめるだけだった。別にいい。また来ればいい。こんな美しい島にもう来ないなどという選択肢は、始めから無いのだ。(櫻井真美、写真も)