人間の感情を色で表現して社会を見つめる

画家 中北紘子さん

 人間の感情をテーマに、花とシャンデリアをモチーフに絵を描く画家だ。花は地面から水分を吸収して太陽に向かっていく。人間も憧れとか美しさを求めて花を愛おしく思う生き物。人間の感情のせめぎあいのようなものは得意ではないが、またそういうものを持たなくては生きて行けないのが人間社会。そのはかなさをパーティー会場の天井から客観視しているシャンデリアに託し見つめる。
 アクリル絵の具でキャンバスに大きな凹凸を作りその乾いた上から油絵の具を垂らしていく。重力に吸い込まれるように凹凸をよけながらばらばらに流れていくさまざまな色。毎年、7、8月の夏にはカリフォルニア州ロサンゼルス南郊のニューポートビーチのアトリエに滞在して絵を描く。色、食べ物の味、自然の色など、アメリカと日本では同じものを持ち帰っても違って見えるし、違う味に思えるのが不思議でならない。
 絵は3歳の時に家の近所にいた女流画家が主宰していたお絵描き教室から。ピアノ、水泳、乗馬などいろいろなお稽古事で唯一続いたのが絵だった。小学校の時に紅葉を描いていて、たまたま全然予想していない絵の具が画用紙の上に落ちてしまった。その時「どうして紘子ちゃん、そんな色を置けるの」と背後から友人に驚かれて誉められた。予想しない決められた色ではない色を置くことで全く別の新しい世界が広がることをその時知った。
 小学校から大学まで一貫教育の聖心女子学院に在籍し、中学から造形専門学校にも通ってデッサンを勉強した。近畿大学に進んだが、東京藝大を諦め切れずに大学院受験して合格。東京藝大で知り合った多くの友人たちは「皆さん高い目標で活動しているのでその姿を見ていて刺激になる」という。11月27日から12月1日まで、藝大の先輩後輩という縁も手伝ってニューヨーク・ソーホーのマックス・ギャラリーで初のNY個展を開催した。オープニングには日米アーティストや招待客150人余りが詰め掛けた。「コンテンポラリーなホワイト・キューブのギャラリーだけでなく、病院や公共の場でふと目に触れたアートで人の心の中にも色を置けたら」と言う。想像性と社会への視線。多趣味で1930年代に大型客船やタンカーのエンジンのバルブを発明した中北製作所(大阪市)の創業者、曾祖父、中北辨造の血と感性をアートの世界でいま受け継いでいる。
 (三浦良一記者、写真も)