佐藤涼の即興芸術 JAPANISM 2025 

ピアノとのコラボ

 アートで世界平和を実現するニューヨークの団体JCAT主催によるグループ展JAPANISM 2025がチェルシーの「ノーホーM 55」ギャラリー(西28丁目548番地634号室)で開催中だ。気鋭の日本人アーティスト73人による120点が出展。3期に分けて8月2日まで展示が続くが、7月17日に開かれた第1期のオープニングには観客200人近くが詰めかけ創造力の競演にため息を漏らした。イベントには、国内外から駆け付けた作家の姿もあり、祝宴をさらに盛り上げた。

 JCAT会員で青森県在住のアーティスト佐藤涼さんもその一人。重度の脳性まひで四肢の自由が全くきかず、発声にも苦労するが、筆を唇にくわえる独特な手法で、人間味あふれるドローイングを手がけている。昨年末には青森県立美術館で個展も披露した。

 NYにおける展示は3回目。今回は、ニュージャージー在住のピアニスト、アリアナ・デローサさんとのコラボレーションによる公開制作を披露した。2人の出会いは昨年のNY訪問時。米国行きの飛行機内でサービスを受けられずに困っていた佐藤さんに同乗していたアリアナさんが救いの手を差し伸べたところから友情が芽生えた。芸術家同士で意気投合した2人は、インターネットでさらに交流を深め、昨春にはアリアナさんが教鞭をとる小学校の生徒に向けての配信授業も実現した。そのために、血の出るような英会話の特訓もしたという。

 JAPANISM展では、持ち時間15分でアリアナさんが流麗なピアノ曲を演奏する間、佐藤さんが口にくわえた筆ペンを一心不乱に走らせた。何が起こるかわからない緊張した空気の中、観客は2人の芸術に目と耳をとがらせた。「私たちは一緒にリハーサルをしていません。涼は絵の内容を私にも秘密にしていました。私は演奏の練習こそしていましたが、私たちがリアルタイムでシンクロできたのはまさしく2人の即興的な直感に負うものです」とアリアナさん。実演開始から約13分後。スケッチブックに絵の全貌が浮かび上がってくると、それに合わせてピアノ演奏も頂点に向かう。「涼がピアノを弾く私を描いていることに気づいた時、私は涙を禁じ得ませんでした。私たちは途方もないエネルギーと信頼関係でコミュニケーションを取っていたと思います。観客の方々にもきっと、2人の親愛と尊敬を、目に見えるもの、耳に聞こえるものとして感じていただけたのではないでしょうか」

 終演後、割れんばかりの拍手に満面の笑顔で応えた佐藤さん。観客からの「クールだよ!」の掛け声に「そりゃそうだ、僕の名前はクール(涼)だからね!」と英語のジョークで切り返し、堂々としたNYアーティストぶりをみせた。(中村英雄)