今欧州は「トランプ劇場」の最前線です。ウクライナやガザに関税劇場も加わりました。
私は彼の改革の一部は支援してきました。軍産複合体の影響が強く、戦争を始めた大統領も多い民主党に対して、停戦させるという公約自体は正論です。行政の無駄を省く国民生活向上の政策も賛成です。しかし、米国の味方であるカナダ、メキシコや侵略されたウクライナまでにも喧嘩ごしです。結果を出すためのディールとの理屈ですが、関税は局面を一変しました。全ての貿易相手国が反発しただけでなく、米国の信頼が下落しました。
大統領の支援者であるケン・グリフィン氏は、4月23日の会議で述べました。「(貿易戦争は)米国の地位とブランドを損ねた。世界最高の安全資産である米国債とドルも。世界経済以上に米国経済や米国の信頼を傷つけた」
さらに、欧州での反米感情の高まりが深刻です。欧州が尊重する民主主義、国際取り決め、法などが否定されたとの反発です。米国が導入した関税が、保護主義、世界経済の停滞、ひいては第二次大戦の遠因になった歴史も指摘されています。
しかし、この大統領に対峙できる指導者がいないのが深刻です。今世界の畏敬を集めているのが、4月21日に昇天したフランシスコ・ローマ教皇です。初の米大陸出身の「貧しい人のための教皇」です。カトリック教会内の過ちを大改革する一方、米国とキューバの国交回復やイスラム教との和解なども担いました。
4月26日の葬儀には約160か国の代表に加えて、教皇が支援してきた移民や囚人など弱い立場の人々も招かれました。メキシコ国境に壁を築いた際「橋ではなく、壁を築くことを考える人はクリスチャンではない」と教皇に批判されたトランプ大統領も。不仲と見られたトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領も会談しました。
世界最強国の米国大統領の「遠心力」が世界を分断しています。他方フランシスコ教皇は、対立する者同士も含めた「求心力」を発揮し、世界中の一般市民が望む平和の砦のように見えます。日本も含む世界の指導者達がこの教皇の生き様に学び、ともに歩むことを望みます。大統領をも包み込むように。そして世界最悪の事態を回避するために。
ふじた・ゆきひさ=オックスフォード大政治国際問題学部客員研究フェロー(英国在)。慶大卒。国際MRA(現IC)や難民を助ける会等の和解・人道援助活動を経て国会議員、財務副大臣、民主党国際局長、等を歴任。現在、国際IC日本協会長、岐阜女子大特別客員教授も兼任。
ことば解説
「ローマ法王」「ローマ教皇」という二つの呼称について=以前は日本のカトリック教会の中でも混用されていたが日本の司教団は、1981年2月のヨハネ・パウロ二世の来日を機会に、「ローマ教皇」に統一することにした。「教える」という字のほうが、教皇の職務をよく表わすからというのが変更の理由だった。2019年11月20日、日本政府は、11月の教皇フランシスコ訪日に合わせて「教皇」という呼称を政府として使用すると発表した。