日本の安全保障のために枢軸の名誉を断念する時

 日本を取り巻く安全保障の環境は厳しさを増している。ここ数年の動きの中でも、まずウクライナへ侵攻したロシアは北朝鮮との軍事同盟を強固にしたし、中国は台湾統一の姿勢を強めている。これに今回のイラン情勢が重なってきた。ベネズエラでの一件も含めて、国際法は事実上これで機能停止となっている。ここ数日のアメリカの姿勢は、紛争の長期化を望むかのようであり、原油価格は高騰を始めた。そんな中で、19日より訪米する高市総理には、自衛隊によるホルムズ海峡におけるタンカー護衛活動などが要請される可能性もある。

 この点に関しては、高騰した原油価格を前提として日本はアメリカ産出のシェール・オイルなどの購入を申し出るとか原発再稼働を進めるという代替案はあるにはある。それでもLNGの需給が逼迫する中では、海峡依存のゼロ化は非現実的、となれば自衛隊の派遣要請を断ることは難しい。

 一方で、高市政権は武器輸出の拡大に積極的である。これは斜陽化した製造業が、世界の消費者を相手としたマーケティングができなくなり、究極の官需である軍需に依存する構図だとも言える。けれども、巨大な事務部門の維持費を捻出しなくてはならない財界としては、避けて通れない道という覚悟が見られる。

 こうした動きの全体は、近隣諸国、特に中国を刺激する。このことについては、日本の世論は理解しているのは間違いない。ただ、ここ数か月の動向を考えると、尖閣や台湾の問題で敵対しているとか、東西両陣営の冷戦の延長としての対立では済まされない状況となっている。

 1つは、法の支配、自由と民主という西側の共通理念が崩れたという問題だ。これによって、中国を批判する根拠となっていた理念が使えなくなっている。日本から見れば、自由のない権威主義的体制が与那国の先まで迫るのだとしたら、これは大変な恐怖である。けれども、これに対する同盟自体が理念的結束を喪失したということの恐ろしさは、より深刻だ。

 2つ目は、台湾侵攻準備を完了するという国家目標が、どうやら2028年のトップ人事に絡んでいるという問題だ。外交官による総理に対する暴言や、様々な交流停止が詭弁に近い形で繰り出されるのには、この問題があると考えられる。習近平氏はポスト習近平の候補かもしれないが、「4期目」に進めるかは権力闘争次第であり、その権力闘争では台湾問題における強硬さが競われるという不幸な状態に陥っていると考えられる。ということは、当面、現在の強硬姿勢が緩和される可能性は少ないであろう。

 この2つの問題が動かせない中では、ある意味で高市政権は台湾海峡における対立エネルギーを、相当な圧力で受け止め続ける必要が出てきた。2月の総選挙ではこれを政治的求心力にすることに成功した高市氏であるが、この緊張状態を続けるのは得策ではない。

 4月にはトランプ大統領が訪中し、習近平氏との首脳会談がある。中国がイラン情勢に関して沈黙を守っているのは、この4月における米中会談を意識しているからだが、そこでは恐らく暫定的な通商合意が成される可能性がある。そうでなくては、厳しい中国の国内経済を安定させることはできないし、米国の物価高も国民の許容範囲を超えてしまう。仮に米中合意が成立するのであれば、日本だけが孤立するのは何としても避けねばならない。

 そこで高市氏には、師として崇める安倍晋三氏のように、日中の首脳外交を復活させていただきたい。その際に支障となるのが、長年の高市氏の言動である。奈良という難しい選挙区で苦労した中で、いわゆる保守票の心情に残る「枢軸日本の名誉」へのこだわりに理解を示してきた氏だが、この点については断念していただきたい。そうでなくては「日本軍国主義は日中人民の共通敵」だという周恩来ドクトリンが崩壊し、福田赳夫の結んだ日中条約の理念も壊れてしまうからだ。そのことは、決して戦没者の名誉を汚すことにはならないことは、昭和の官民が一体となって体現していたはずである。

 西側同盟の優等生として自由と民主という理念を守り、欧州やカナダ、豪州との連携を強化して安全を確保するにも、この問題は避けて通れない。2月の総選挙における大勝には、そうした期待も込められていると信じる。

(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)