高市政権は、自民圧勝の民意を見誤るな 冷泉彰彦

 それにしても鮮やかな勝利であった。西高東低の冬型の気圧配置でありながら関東まで雪が吹き出す、そんな過酷な気象条件となったが、有権者は期日前投票を含めて高い関心を寄せた。多少失礼ではあるが、厳寒ということで当日投票の年齢構成が「シルバー民主主義」とは逆に作用したという要素もあるかもしれない。

 しかしながら、ここまでの勝利は誰も予想しなかったわけで、この結果を受けるのであれば当面の政権運営は想定したものとは変わってくる。誤解を恐れずに言うのであれば、今回下された民意というのは、個々の有権者の想いを超えた大きな歴史の意思のようなものであり、高市総理としてはこれを見誤らないことが肝要である。3点指摘したい。

 まずは、総理自身が開票を見ながら語ったように、経済財政の問題である。高市自民党は今回の選挙公約にあたって「消費減税」をするとは一言も言っていない。あくまで「検討を加速する」という表現にとどめている。これによって、実質の購買力が低下しているという国民の苦しみは理解しているが、財政を考えると「できない」というメッセージを伝えようとした。仮に選挙結果が辛勝であれば、国民の減税要望と危機的な財政の間で立ち往生する危険もあった。けれども、結果は大勝であった。民意を無視することはできないが、政策の自由度は増すわけで、これで財政の観点から最善手を打つことは可能になったと言えるだろう。

 その最善手とは、ほかでもない「高市トレード」と言われる円安圧力、そして気がつくと崖っぷちに立たされていた長期金利を沈静化することだ。結果的に、選挙直後の市場動向としては、超円安は起きず債券も安定する中、日本株が成長戦略への期待で上がっただけで済んでいる。勿論、「減税の検討を加速」という公約は「減税しない」という意味だなどという面倒なことを国際金融市場が理解するはずはないのであって、高市=麻生=片山のラインが米国の財務省と連銀のウォーシュ次期議長などと緻密なコミュニケーションを行った結果であると考えられる。

 2点目は、そのアメリカを含む外交だ。日本の有権者は、トランプ氏の気難しい政策を警戒し、国益を守る存在としては高市氏の手腕に期待して投票したのは間違いない。そして、前述のように日米間では金融政策をめぐる緻密な意思疎通がされていると推察できる。加えて、来る3月19日の高市訪米は、他でもない4月のトランプ訪中へ向けての日米の準備会議という意味合いを持つ。その4月の米中首脳会談に関しては、恐らくは通商政策に関する相当程度の合意がされる可能性がある。

 その場合に、3月の総理訪米は、その米中合意への準備あるいは根回しという性格のものとなる。仮に、今回の選挙結果が辛勝であったならば、高市氏としてはそう簡単に対中国の妥協はできない。けれども、今回の結果は大勝であった。民意は高市氏にほぼ白紙の委任状を与えたわけで、政治的には日中関係を改善する条件が整ったとも言える。4月の米中合意と整合性を取るという意味でも、高市氏が神格化してやまない故安倍晋三氏の功績を継承するという意味でも、日中の首脳外交へと進む姿勢を見せることが可能となった。

 3点目は、国内政策だ。手取りだ減税だというのは、直近の問題であり、大局的には産業構造を改革して、少なくともDXを軸に日本の生産性を回復することが必要だ。けれども、自他ともに保守派を看板に掲げてきた高市氏には、河野太郎氏のように構造改革を打ち出すのは難しかった。反対に、選挙区事情などもあり、保守イデオロギーを掲げて存在感を示すしかなかったのである。

 安倍晋三氏にしても、アベノミクスの「3つの矢」のうち構造改革については未達成に終わった。保守イデオロギーを求心力に使う中では、社会構造や産業構造改革は難しくなるからだ。しかし、高市氏は今回歴史的勝利を手にした。穏健派や中道無党派に支えられての勝利だともいえるが、支持層の中核である保守派からの雑音もピシャリと止めるだけの大勝であった。この好機を逸することなく、国内の改革に取り組んでいただきたい。

(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)