観客の視線で撮影する

撮影監督 清川 耕史さん

 映画の撮影監督、清川 耕史さん(49)が撮影した映画「The Garden Left Behind」が、現在アメリカで公開されている。SXSWなどで賞を取っている注目作品だ。清川さんは日本で数々のコマーシャルやミュージックビデオなどを手がけた後、2013年に当時5歳と1歳の娘と妻を伴って来米、以来さまざまな映画に撮影監督として参加し、現在は、日本とニューヨーク、ロサンゼルスの3拠点で仕事をしている。来米当初はエージェントがいても仕事を思うようにとれず、日本でコマーシャルでの経験は豊富だが映画ドラマの経験があまりなかったことや、日本から海外ロケには何度も来ていても、いざこちらに住んで仕事となると、米国の仕事の進め方などに戸惑い、ニューヨークでのキャリアを学生映画への参画から始めた。

 今回の映画はビザがなく不法滞在をしているメキシコ移民のトランスジェンダーの話。役者経験のない本当のトランスジェンダーが主演で、監督はブラジル人、プロデューサーはトルコ人、撮影部は日本人、ロシア人、イタリア人、フランス人、カメラ後ろも移民多数。「国際混成チームで、撮影が終われば解散。国境のない感じが自分に合っているかな。どんな仕事でも観客の視線で撮影することが一貫した自分のスタイルなんです」という。

 日本大学芸術学部映画学科を卒業後、バンクーバーで撮影助手のキャリアを始めた。帰国後、CXドキュメンタリー番組「ザ・ノンフィクション」 でカメラマンデビュー。多くのミュージックビデオやCMに携わったのち、どうしても映画の撮影をしたくて2013年に拠点をNYに移した。日本では大手企業のCMや大物歌手たちのビデオ撮影をこなし、仕事にも経済的にも何不自由ない。だが大学を卒業後、カナダから帰国後、稼げる仕事を選んだ自分と、あるべき自分が追い求める姿との乖離の溝を埋めることに時間を費やしてきた。

 撮影の技術と感性と日本での経歴は申し分ない。その自分がどこまで実力だけで海外で通用するのか。7年目の答えが出ようとしている。(三浦良一記者、写真も)