その7:ヴィールフランシュのダラダラ生活

ジャズピアニスト浅井岳史の2019南仏旅日記

さて、エズ最初の朝、すっかり寝坊してしまったが、昨日の移動の疲れも残っていることと、来週始まるエジプトツアーのマーケティングの仕事があったので、午前中はアパートで仕事。ベランダにMacBookProをセットしてオフィスにした。目の前には山沿いに這うように作られた中世の石の街エズ、向こうには山が連なる。下には地中海の海が太陽の光を反射してキラキラ輝く。大小のクルーザーが停泊する。海の向こうにはキャップ・フェラの半島がくっきり見える。そこには美しいビーチとロスチャイルドの別荘、キャッツやオペラ座の怪人の作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバーの別荘もある。こんな素晴らしい環境で仕事をする、これは究極の贅沢だ。
 昼に今年初めてのビーチに出る。私たちはビーチが好きだ。日本にもアメリカにもイタリアにも出かけて行ったが、地中海ほど素晴らしい海は無い! と思っている。水の温度が究極に良くて、いつもざぶんと入って長い事浸かっていられるのだ。この辺りのビーチにもほとんど出かけているので、お気に入りのビーチがもう決まっている。Villefranche sur merである。VilleはVillage、FrancheはFree。こんな良いところは、アフリカ大陸からアラブ人、西隣からカルロス5世率いるスペイン人、東隣からはイタリア人が攻めて来る。そんな危険な場所には誰も住みたくない。が、誰も住んでいなければ簡単に奪われてしまう。そこで、フランス国王フランソワ1世が税金を免除して人を住まわせたことから、この名前がある。古いビーチ沿いの壁に、フランソワ1世とカルロス5世の講和条約の締結地の碑を見つけた。
 ビーチで火照った体をカフェに入って落ち着かせる。ビーチに行きかう人を見ながらのドリンクが上手い。海沿いにはおしゃれなレストランが並び、その横には漁船が停めてある。漁村であったのは一昔だとガイドブックには載っていたが、実際には漁に使う網が干してあったりするので、今でも魚を漁っているようだ。となると、ますますこの辺のレストランに入りたくなるが、お洒落な海沿いのテーブルに乗せられたテンコ盛りのムール貝を横目に家に帰る。
 夕方はエズのカジノで買い物。なんと数年前と同じ女性が働いていた。声をかけたら、5年前からずっと働いているそうだ。でステーキを買ってアパートで焼く。安い肉を選んで買ったが、うまく焼けた。ステーキは安い肉の方が美味いと思うのは私だけだろうか。それをバルコニーのテーブルに並べて、9時を過ぎてもサンサンと輝く太陽の下で食べるのは天国である。何だか、仕事のことも全てのこともどうでもよくなってきた(笑)。
 翌日。昨日はビーチを満喫したビーチデーで、今日はChapelle du Rosairに出かけることにしていた。が、昨日から出てきたダラダラ感を克服出来なくなって、今日もビーチデーにすることにした。それでいいのだ!
 ただし、実は昨日行った私たちの「お気に入りのビーチ」のほかに、私たちが「秘密のビーチ」と呼んでいるビーチがある。その名の通り小さな入江の小さなビーチで非常にプライベートであるのだ。が、小さなビーチなのに駐車場が一杯で入ることが出来なかった。仕方ない。「秘密のビーチ」は諦めて昨日の「お気に入りのビーチ」に戻る。確かにここは駐車場もいつでも入れるし、シャワーもトイレもカフェもある。来ている人はイタリア、ドイツ、イギリス、ロシアなどかなり国際的である。コート・ダジュールらしくトップレスの女性もいる。
 水にじゃぼんと飛び込み、泳いで、潜って、魚を見て、ビーチに戻って寝そべって、今日はこのビーチにこれでもかと思うくらい長い時間いた。お腹が空いたので、カフェでスナック。ここにはカフェが2軒並んでいて、片方は綺麗でメニューが豊富でいつも混んでいる。もうひとつは殺風景でいつもガラガラ。そのガラガラなカフェに入る。とても優しいお姉さんがお母さんのような女性と2人でやっていた。ふと、この母娘は冬の間何をしているのかが気になった(笑)。
 少しほとぼりが冷めた頃に、Villefrancheの街を散策。海岸沿いの階段を登ると、中世の石の街にレストラン、ベーカリー、お土産やさんが並ぶだけの小さな街であるが、歴史は14世紀まで遡り、水汲み場から回廊までいたるところにそれを感じさせる。石段の上に教会がある。中に入ると広くはないがあまりも立派でびっくりする。この小さな街にとってやはり教会は人々の生活の中心であったのだろう。14世紀の回廊をくぐって再び海へ。
 今夜の夕飯は昨夜のステーキの残りを温める。このダラダラ生活、本当に良いなぁ。(続く)
(浅井岳史、ピアニスト&作曲家)
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