ニューヨーク市長選(11月4日投開票)は、6月に行われた民主党予備選で民主社会主義者のゾーラン・マムダニ氏(33、ニューヨーク州議会議員)が得票率56・4%を獲得、アンドリュー・クオモ氏(67、元NY州知事)の得票率43・6%を破り正式に民主党候補になるという大番狂せがあった。
クオモ氏は敗北宣言をしたものの、市長選自体の立候補は取り止めず、ファイト・アンド・デリバー党から立候補している。過去には大統領候補の声すらあったクオモ氏だが2021年にセクハラ疑惑で知事辞任に追い込まれた。市長になることで政治家としての起死回生を狙っている。
また現職のエリック・アダムス市長(64、民主党)は2021年の市長選で民主党予備選では僅差で勝利したものの本選では共和党候補のカーティス・スリワ氏(71、ガーディアン・エンジェルズ創設者)に圧勝した。しかし就任後は住宅危機への対応の遅さの一方でホームレスや移民に対する厳しい措置などで支持率は低下。トランプ大統領との親密さなども問題視された。連邦収賄罪などで起訴されたことで不人気を決定づけた。なお、連邦司法省により起訴は却下されている。
共和党候補は前党の指名争いで、前回に続きカーティス・スリワ氏が無投票で出馬を決めている。このほかにジム・ウォルデン氏(59、元連邦検事補、弁護士)が無所属で立候補している。
データ・フォー・プログレスが7月初めに実施した世論調査によれば、支持率は、若年層や進歩派から支持されているマムダニ氏が40%でトップ、2位は24%でクオモ氏となっている。3位は15%アダムス市長、共和党候補のカーティス・スリワは14%で4位。無所属候補のジム・ウォルデン氏は1%で5位となっている。
民主党系は票の分散が予想されており、クオモ氏とアダムス氏はともに中間層と経営者層の票取りを狙う構図となっている。クオモ氏を支持するデイビッド・パターソン元州知事は「クオモ氏かアダムス氏のいずれかが撤退しないと進歩系候補(マムダニ氏)を利する」と発言。クオモ氏はアダムス候補を「スプーラ」(票割れの原因)と非難、アダムス候補もクオモ氏を同様に非難しており、独立候補同士の分裂が深刻化している。
NY市長選挙民主党候補のマムダニ氏
有権者の多数が支持もウォール街や富裕層は反発
6月の民主党予備選前に発表されたエマーソン大学の世論調査では、経済と住宅価格の高騰が有権者にとって最大の関心事であることが示された。マムダニ氏はこれをうまくすくい上げ予備選に圧勝した。本選でも住宅価格の高騰を選挙戦の中心課題に据えている。
しかし、「社会主義者」が市政を担うことに関し金融業界や大企業などからはマムダニ市長誕生阻止の動きが活発化している。クオモ氏とトランプ大統領を支持していた富豪のビル・アックマン氏は現職のエリック・アダムス氏を本選挙で支持すると表明。金融大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は「社会主義者というより、マルクス主義者だ。イデオロギー的な混乱であり、現実世界では何の意味もない」とした。ニューヨークの富裕層の一部や金融関係者らは「ニューヨーカーズ・フォー・ア・ベター・フューチャー25」と呼ばれる独立グループを立ち上げ、マムダニ氏に反対する運動を開始した。約2000万ドル(約29億円)の資金調達を計画しているという。
社会主義者に懸念
ユダヤ系有権者の動向では、GQRとユダヤ人擁護団体ニューヨーク・ソリダリティー・ネットワーク(NYSN)が7月に実施したユダヤ人有権者に対する世論調査でもマムダニ氏支持が37%でトップ(他はアダムス氏25%、クオモ氏21%、スリワ氏14%)だった。しかし、マムダニ氏が市長に選出された場合、58%がNY市はユダヤ人にとってより安全ではなくなると懸念していることが分かった。マムダニ氏はガザ侵攻のさなかにイスラエルを批判した。調査では半数以上となる51%がマムダニ氏は反ユダヤ主義者だと考えていると回答した。市の登録有権者のうちユダヤ人は最大で全有権者の約20%〜25%と見積もられており、有力者も多い。パレスチナ情勢への対応によって投票が動く可能性がある。
このほか、治安問題も浮上している。ウォールストリート・ジャーナル7月30日付はマンハッタンのミッドタウンで7月28日に4人が殺害される銃乱射事件が起きたことで、「市長選では公共の安全が最重要課題となり、有力候補のマムダニ氏にとって潜在的な弱点が浮き彫りになった」と報じた。マムダニ氏は警察予算の削減を訴え、ニューヨーク市警を人種差別主義者だと述べたことがある。公共の安全が市長選の焦点の一つとなる可能性があり、マムダニ氏が対応に失敗すれば失速も考えられる。

