イスラエルとイランの攻防
〈イラン攻撃と米国の論調〉
唐突な軍事行動
トランプ大統領は23日午後6時すぎ、イスラエルとイランの間で「完全かつ全面的な停戦が合意された」とSNSに投稿した。急転直下沈静化に向かうかに見えるが、停戦の条件とした双方の攻撃が、発表後もイランからイスラエルへのミサイル発射があったとイスラエルが非難、イラン側は数時間発射はしていないと反論するなど余談を許さない状況が続いている。
トランプ氏は最初の投稿で、まずイランが攻撃を停止し、その後、イスラエルも停止すると説明。24時間後に交戦を終わらせるとした。「12日間戦争の正式な終結」を迎えることになると主張し、「この戦争は何年も続き、中東全体を滅ぼす可能性もあったが、そうはならなかった。これからも決してならない!」と強調した。24日午前1時すぎには「おめでとう。いま停戦が発効した。どうか違反しないでくれ!」と再び投稿した。米軍が「ミッドナイト・ハマー(夜中の鉄槌)」と題してB2爆撃機でイランの核施設を攻撃して4日後の停戦に世界は大きく振り回されている。
米攻撃直後の主要メディアの反応
イスラエルとイランの交戦が10日目に入る中、米軍は21日、イランにある3か所の核施設を空爆した。トランプ大統領は自身のSNSトゥルース・ソーシャルで「我々は、フォルド、ナタンズ、イスファハンを含むイランの核施設3か所に対する攻撃を成功させ、完了した」と投稿、その後の記者会見で「イランの主要な核濃縮施設は、完全かつ徹底的に抹消された」と述べた。攻撃の目的は「世界最大のテロ支援国家がもたらす核の脅威を阻止することだった」と述べ、「中東で周囲を威圧するイランは今や、和平を受け入れなくてはならない」と強調した。
作戦は「ミッドナイト・ハンマー」と名付けられ、7機のスティルス爆撃機B2からの地中貫通弾(バンカーバスター)14発のほか、トマホーク巡航ミサイル20発以上、また軍用機125機余りが投入された。
CBSニュースによると、米側はイラン政府に対し、核施設の破壊のみが目的で「体制転換の取り組みは計画していない」と伝えていたという。イラン国営テレビなどによれば、イラン側は攻撃された核施設3カ所から濃縮ウランや機材、職員などを退避させていたと発言。国際原子力機関(IAEA)は「周辺地域の放射線レベル上昇は報告されていない」との声明を発表した。
共和党内でも分断
トランプ大統領は米国第一主義を掲げ、米軍を外国の紛争に関与させないことを標榜してきた。ところが今回はイランとの交渉も続けていた中での唐突な軍事行動となった。共和党にはリンジー・グラハム上院議員(サウスカロライナ州選出)やテッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出)のように強固なイスラエル支持者で、軍事介入に積極的な議員もいるが、今回の作戦を否定はしないもののさらなる介入には慎重な議員が多い。上院外交委員会のジム・リッシュ委員長(アイダホ州選出、共和党)は
「この戦争はイスラエルの戦争であり、われわれの戦争ではない。イスラエルは同盟国だが、イランの国土に米国の軍隊が入ることはない」と語った。マイク・ジョンソン下院議長(ルイジアナ州選出、共和党)は「世界最大のテロ支援国家が、地球上で最も致命的な兵器を手に入れることを阻止するものだ」とイランの核兵器開発阻止に絞った発言に留めている。
自身の支持基盤であるMAGA(米国を再び偉大に)派は、イラクやアフガンでの長年にわたる軍事関与に有権者が不満を募られる中で拡大してきた経過がある。マージョリー・テイラー・グリーン下院議員(ジョージア州選出、共和党)やトーマス・マッシー下院議員(ケンタッキー州選出、共和党)らからは「憲法違反」「泥沼化する海外介入」などとの批判の声が上がっている。マッシー議員は民主党のロー・カンナ下院議員(カルフォルニア選出)と組み、トランプ大統領が議会承認なしに軍事介入することを阻止するため、超党派で戦争権限の決議案を17日に議会に提出していた。これには民主党のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員(ニューヨーク州選出)なども賛同した。
政治家ではないが、トランプ支持者とされる元フォックスニュース・キャスターで政治評論家のタッカー・カールソン氏や第1次トランプ政権で首席戦略官を務めたスティーブ・バノン氏らも軍事介入には作戦実行前から強く反対していた。
なお、同じく軍事介入に否定的だったバンス副大統領は一転して支持に回り、「核放棄を促すリセット」「地上戦ではなく抑止のための空爆」と強調、イランが反撃をすれば「愚かな行為」と断じた。
民主党では議会の承認なしの攻撃に反発する声が広がった。ハキーム・ジェフリーズ下院少数党院内総務(ニューヨーク州選出)やタミー・ダックワース上院議員(イリノイ州選出)らから「戦争権限法の軽視」「地域不安定化」「適切な議会承認がない」との批判が出ている。パレスチナ移民の娘であるラシダ・トライブ下院議員(ミシガン州選出、民主党)は「私たちは、何十年にもわたる中東での終わりのない戦争が何をもたらすかを見てきた。全て『大量破壊兵器』という嘘に基づいていた」と激しく非難した。今回の空爆前から、上院ではティム・ケイン上院議員(バージニア州選出)やリス・マーフィー上院議員(コネティカット州選出)が大統領だけで戦争を始める権限はないと批判しており、バーニー・サンダース上院議員(バーモント州選出)が厳格な戦争権限の決議案を提出していた。
マスメディアの論調では、ニューヨーク・ポストが「世界に対し米国の本気度を示した」と評価し、「米国の抑止力と信頼回復につながった」と評価する論説を掲載した。一方、ワシントン・ポストはベトナム戦争などの過去の教訓から、「イラン国内の強硬派を助長する恐れがあり、軍事力による解決は恒久的解決策ではない」と批判、法的整合性や合法性も問う論説を掲載した。ニューヨーク・タイムズはトランプ政権が発表する「成功」「壊滅的損害」という言葉を鵜呑みにせず、冷静な分析が必要との慎重な姿勢を示した。
岩屋外務大臣が米攻撃について談話
米国によるイラン核施設に対する攻撃について6月23日岩屋外務大臣の談話は次の通り(抜粋)。
日本時間6月22日朝、米国は、イランにおけるフォルド、ナタンズ、イスファハンの3か所の核関連施設に対する攻撃を実施したと発表しました。我が国として引き続き重大な関心を持って状況の推移を注視しています。6月13日のイスラエルによるイランに対する攻撃、及びその後のイランによるイスラエルに対する攻撃以降、報復の応酬に至っていることは極めて遺憾です。 中東地域の平和と安定は、我が国にとっても極めて重要であり、国際社会とも連携し、我が国として必要なあらゆる外交的努力を引き続き行っていきます。政府としては、今回の事態を受け、イラン及びイスラエルを始め、地域全体の邦人の安全確保に引き続き万全を期していきます。(外務省)