「NYの富士山」50周年祝う

「モテル・オン・ザ・マウンテン」
1956年に建造。78年に買い取る

 日本人建築家・吉村順三が設計した建物を特集した『ライフ』誌1957年8月号。マウント・フジの原型を見ることができる。

 藤田氏が後にレストラン、マウント・フジとして改築して開業することになるこの飲食店を兼ねた宿泊施設は、1956年、マンハッタンから車で1時間ほど走った山の上に、戦後日本を代表する日本人建築家、吉村順三によって建築された。山頂の人工池を中心に等高線に沿って弧を描くように配置されている。この吉村の作品は、礎石に座って空を見上げる彼本人の写真と男女が立っているバルコニーの写真のみが長らく一般に知られていたが、多田さんが「こんな本があるんですよ」と持ってきたのは、義父の藤田さんから譲り受けたという1957年8月12日号のライフ誌。
 そこには、宿泊施設や当時のレストランの様子が写真で克明に紹介されていて、吉村順三の日本建築の情熱が5ページのグラビア写真で特集されていた。レストラン棟は最も眺望の開けた一角に張り出し、清水寺のような懸造りになっていて、屋根の形が入母屋造になっており、きわめて「日本的」な意匠を採用している。吉村順三の作品には入母屋の屋根はめずらしく、現存しているのは「松風荘(1954)」「新宮殿(1968)」「神慈秀明会神苑祭事棟(1986)」の三棟のみ。この入母屋の屋根は、ニューヨーク近代美術館に展示された「松風荘」に感銘を受けた建主が、急きょ設計を依頼したといわれている。吉村の設計した建築物で、米国で残っているのはマンハッタンのジャパンソサエティー、同ホテル北野(1976年)、ニューヨークのMoMAから移築されたフィラデルフィアの松風荘、ニューヨーク郊外のロックフェラー別邸などで、このほか彼が手掛けた日本航空ニューヨーク事務所(1956年)、高島屋ニューヨーク店(1958年)は既に取り壊されている。

 ミッド・センチュリーまたはハーフ・センチュリーと呼ばれるデザインは1950年代を象徴するスタイルで、ライフ誌はこの山荘を当時の米国で流行したモダンな木彫の和洋折衷の美の代表的存在として絶賛している。多田さんは、昨年5月、新しいコンセプトで創作料理を楽しめる「Ysラウンジ」180席を待ち合いロビーだったエリアを改装して、ヒバチ・ステーキ部門とは異なる高級路線のモダン・ジャパニーズ・キュイジーヌレストランを展開して連日大好評だが、その一方で、長年店に通っている地元のファンや家族からは「ノスタルジックさは残してくれるよね」と懇願にも似たお願いをされたという。「創業以来のヒバチ・ステーキは、家族連れや誕生日、友人同士のお祝いなどで楽しく食事ができるエンターテインメントの要素もいれた親しみやすい鉄板料理としてしっかりと残していきます。室内のインテリアも光りが少し黄色い採光で大正レトロっぽい雰囲気を出しているんですよ」と話す。
 マンハッタンから車で北に40分ほど走ると87号線左手の山頂に大きな日本家屋が見える。ウッドベリーコモンのアウトレットへ行く途中に必ず見える山頂の巨大な日本家屋といえば「ああ、あれか」と心当たりのある日本人は少なくないはずだ。それほど目立つ建物だが、まさかレストランだと知っている人は案外少ない。地元では知られていても、ニューヨークの日本人にはまだ知る人ぞ知る存在で一般にはあまり知られていないのだ。
 自動車道出口15Aを出て進むと巨大な赤い鳥居に出迎えられる。そこが山頂にあるレストランへと続く入口だ。「よく神社と間違えられるんですよ」と多田さんは笑う。そう間違えても不思議のないほど立派な大鳥居だ。多田さんの次の目標はこのレストランの敷地内に焼き物の窯を作って、自分で作った皿でヒバチステーキを食べるなど「いろいろな形で日米文化交流が生まれる場にしたい」ということだ。
 そして「お客様からは、宿泊施設があれば最高との声もあるので、将来は部屋数は少なくても構わないので純和風のおもてなしができる旅館、『マウント・フジ・旅館』をぜひ作りたいですね」と夢を膨らませる。吉村順三が作った山頂の山荘が、日本食と日米文化交流の場として再びよみがえるかもしれない。(三浦良一記者) 

NY日系人会で表彰

 藤田氏は、ニューヨーク日系人会(JAA)の1994年12月2日に開催された年末ディナー・パーティーで、大坪賢次氏(大坪不動産社長)と大根田勝美氏(マチダインク社長)と共に会の活動のために功績のあった人を表彰する功労賞(パースン・オブ・ザ・イヤー1994)に選ばれている。藤田氏の功績理由には「過去3年間、150人以上を招待して大敬老会を催したことに対して」とある。写真はOCSニュース同年12月9日号に掲載された時のもので、写っているのは、左から藤田氏、稲垣JAA会長、ニューヨーク総領事の瀬木大使、大坪氏。