ゴーン被告世界を手玉

(左)国外逃亡したゴーン被告 
(右) ゴーン被告が入っていたとされるボックス。トルコの捜査当局が指紋採取を行ったため白く汚れている。

米有力紙が報じた逃亡劇一部始終

 金融商品取引法違反などの罪で起訴され、保釈中だった日産自動車元会長のゴーン被告(65)が12月31日、「私はレバノンにいる。不公正と政治的迫害から逃れた」と米国の代理人を通じ声明を発表。海外渡航禁止の保釈条件を破って逃亡していたことが明らかになり、世界中を驚かせた。合計15億円もの保釈保証金を納付し、被告の住居の入り口はカメラで24時間監視され、妻のキャロルさんとの接触禁止、パスポートも弁護士が預かっているにも関わらず、日本を出国した方法は各国のメディアに様々に報道され、まるで「映画のよう」とされている。

監視解除後、制限住居から一人で抜け出す

 日産は民間の会社に依頼して、ゴーン被告の行動を24時間に近い形で監視していたが、12月27日に弁護団による刑事告訴を受けて29日に監視を解除。この日の昼ごろ一人で都内の制限住居を出たところを監視カメラが捉えていた。監視解除を被告が事前に把握していたかは不明。ゴーン被告は協力者と落ち合い、JR品川駅から新幹線で新大阪駅に移動。新大阪駅からはタクシーで関西空港近くのホテルに立ち寄り、深夜午後11時ごろにプライベートジェットに搭乗し出国した。ゴーン被告の出国記録はなく、音響機器の運搬に使う大型の黒いケースの中に隠れてプライベートジェット機まで運ばれた。
 通常は保安検査を通って出国審査の手続きが行われるが、ケースはエックス線検査を受けていなかった。ウォールストリート・ジャーナルによると、ゴーン被告の支援チームは20回以上も日本を訪問し少なくとも10カ所の空港を調査し、関西国際空港のプライベートジェット施設がエックス線検査機が大きな荷物に対応していないことを事前に把握していたと見られる。

民間警備会社が手配 

 このプライベートジェットの大阪・イスタンブール間の乗客名簿にゴーン被告の名前はなく、従って出国記録もなく、あるのは民間警備会社の2人。ウォールストリートジャーナルによれば、一人は元米国陸軍の特殊部隊員(グリーンベレー)で、退役後は警備会社を営むマイケル・テイラー氏。アフガニスタンでの特殊部隊訓練などの仕事で米国防総省の仕事を請け負うなどしていたが、2010年に通信詐欺などの罪で禁錮2年の刑が言い渡されている。もう一人のジョルジュアントワーヌ・ザイェクはテイラー氏の会社での勤務経験があった。
 トルコの捜査当局は非合法にトルコに入出国ゴーン被告の逃亡を手助けしたなどの疑いで、プライベートジェット操縦士4人と、プライベートジェットの運航会社の社員1人を逮捕した。しかし操縦士もゴーン被告を運んでいることを知らなかったという。また使われた大型ケースの写真を公開した。運航会社幹部は事情聴取に対して、レバノンの知り合いから「国際的な重要な仕事だ」と言われ頼まれたが搭乗者が誰かは知らなかった。また、遂行しなければ「家族に被害が及ぶと脅され、怖くなり手配した」と説明しているが、かなりの報酬を受けている可能性があり信用性は低いとの見方もある。
 英紙フィナンシャル・タイムズは計画に詳しい人物の話として、この民間警備会社は数カ月前から逃亡計画を進め、日本国内の支援者の協力も含め複数のチームに分かれて異なる国々で準備を行っていたという。ダウ・ジョーンズ通信は、匿名の関係者の話を基に、脱出計画には日本人も含む国籍の異なる10〜15人のチームが関わったと報じた。

レバノン政府が関与か 

 レバノン政府が逃走に関与した疑いが各メディアが報じている。英紙インディペンデントのアラビア語版は政府関係筋の話として、ゴーン被告の脱出計画について「レバノンの治安、政治関係者が少なくとも(実行される)数週間前には把握していた」と報じた。地元テレビのアルナシェラによれば、ゴーン被告がベイルートの空港に到着した際、被告に「近い友人ら」が出迎えた。レバノン政府関係者も出迎えたとの報道もある。
 レバノン外務省の政治問題担当のガディ・フーリー氏は、ゴーン被告がフランスの旅券とレバノンの身分証明書(ID)を使って合法的に同国に入国したと述べている。フィナンシャル・タイムズは鈴木馨祐外務副大臣が12月20日、レバノンのアウン大統領を表敬訪問した際、ゴーン元会長の送還を要請されたと報じた。日本外務省幹部は「やり取りは今回の逃亡を予期させる内容ではなかった」としている。会見と脱出が近い時期になったのは偶然としている。
 レバノン到着後、ゴーン被告は大統領と非公式に面会、「レバノン市民としての保護」を約束したと報道されたが、大統領府高官は2日、「ゴーン氏は大統領府に来ていないし、大統領に会ってもいない」と改めて強調した。
 ゴーン被告の妻キャロルさんはベイルート生まれで、この逃亡計画に深く関与しているとほとんどのメディアが報じたが、ゴーン氏側は「家族は関与していない」と2日、発表した。 ゴーン被告は現在、ベイルートにあるキャロルさんの家族の家に滞在。レバノン政府から厳重な護衛を受けていると伝えられている。ウォールストリート・ジャーナルによれば、ゴーン被告の日本からの渡航先は、レバノン以外にフランスやブラジル、アメリカなども検討されたという。フランスのパニエリュナシェ経済・財務副大臣は2日、仮に被告がフランスに入国したとしても日本には送還しないと語っている。

映画化もちかける

 二ューヨークタイムズによると、ゴーン被告は米アカデミー賞作品賞などを受賞した「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」のプロデューサーを務めたジョン・レッシャー氏と東京で12月に会い、自分の物語を映画にできないか打診したという。ゴーン被告は過去にライブドア事件で有罪判決を受けた堀江貴文氏にも連絡を取っており、堀江氏によれば1月に会う予定だったという。