アート通じて社会貢献

継続は人のためなり

特別対談
CHIE IMAIグループ代表 リードデザイナー 今井 千恵さん
ブルース美術館理事 ダグラスエリマン・トップエージェント 幸子グッドマンさん

脊椎損傷治療の研究と患者の支援を行うクリストファー&ダナ・リーヴ財団に15年間以上継続して寄付し続けるただ一人の日本人女性、ファーデザイナーの今井千恵さんと今年メトロポリタン美術館に幕末-明治の日本画家岸竹堂の屏風絵(竹堂が得意とした虎の絵)を寄付した幸子グッドマンさん(コネティカット州グリニッチ在住)が16日、メトロポリタン美術館で「アートと社会貢献」というテーマで対談した。         (聞き手・写真・本紙 三浦良一)

 

世の中のためになること  今井

今井 「祖父がアメリカの西海岸で大成功した人(カリフォルニア米の父と言われる宮田武二)だったこともあり、まだ男尊女卑の風土が残る鹿児島にありながら、私は小さい時から男の子に負けない女性として育てられました。外で泣かされて帰ってきても父が『男と同じように勝って帰って来い』と言って家に入れてくれないようなそんな厳しい家でした。小さい時からずっと言われ続けたのは『世の中のためになることをしなさい』ということでした。そのおかげで、起業したあとも現在までさまざまなチャリティーをしてきています」

グッドマン「自分が死んでも残るものがあるというのはいいですね。私も絵を描くのが子供の頃から好きでしたが、それでは食べて行けないからと、大学を出たあとビジネスの世界に入りました。社会人になりたての頃は印象派の絵などはとても手が届かなかったので数百ドルのコンテンポラリー作品から収集しました」

今井「私も絵を描くのが大好きで、社会人になってからはヨーロッパのほとんどの美術館を2度巡ってスペインにあったサラガス・パールという画廊で毎年ピカソの作品を買っていました。あの時に世界の名画に触れて身に付けて帰ってきたものが、デザイナーとしてスタートする上で大きく役立ち、あのモザイク・ドゥ・チエのデザインが生まれたのです。私にとってファーのデザインはアートなんです」

自分が死んでも残るもの        グッドマン

グッドマン「リキテンシュタインや、ジャコメティ、ハンス・ホフマン、ジャクソン・ポロックなどの作品をコレクションしているなかでアンディー・ウオーホルとも出会いました。私の30歳の誕生日のお祝いにと何百枚も写真を撮ってくれて、どの顔がいいかって聞くので、私は当時は自分の顔を見るのがあまり好きじゃなかったので、お任せしたんです。そしたら4枚選んで絵を描いてくれました。今回のホイットニー美術館の回顧展には出ていませんが、最新のカタログには載っています。自宅に飾っていますが、昨年はグリニッチ美術館で開催されたウォーホル展にも貸出しました」

今井「ドネーションはお金がないとできませんが、アメリカは、ある時はドーンと出しても、景気が悪くなるいとピタっと出さなくなってしまうところがあります。15年間ずっと、クリストファー&ダナ・リーヴ財団に日本人としてひとり、サポートし続けているのは、脊椎損傷治療の研究と患者の支援を日本にも繋げたいとの思いがあってです。今回、財団のピーター・ウィルダロッター会長とニュージャージーの本部で対談もしてその思いも伝えてきました」

グッドマン「日本人は、やっていることをうまく表現したりPRしたりすることが下手ですね。いつかは分かるだろうという思い込みもあって、私も含めてそういうのは得意じゃないけれど、自分が死んでもあとに残るものがあるというのはいいことです。今回、メトロポリタン美術館から幕末-明治の日本画家岸竹堂の屏風絵(竹堂が得意とした虎の絵)を購入したいので寄付してもらえないかとのリクエストがあり、そんな思いのタイミングもあって思いきって購入し、寄贈しました」

クリストファー・リーヴ
ピーター・ウィルダロッター会長

今井「クリストファー&ダナ・リーヴ財団のピーター会長が『我々のモットーは、 Today’s care, Tomorrow’s cure(今日のケア、明日の治療)を1日も早く Yesterday’s care, Yes-terday’s cure (昨日のケア、昨日の治療)とすることだ』とおっしゃってました。その言葉がとても印象的でした。20年前にクリストファー・リーヴは、日本の脊椎損傷患者のために励ましの手紙を送っていたのです。その言葉は『all of you in Japan with spinal cord injuries and dear family, I say ” Don’t give up. Think what you can do to help fund reserch because now we know that repairing damaged spinal cord is no longer dream』でした。これからも日本とアメリカの脊椎損傷患者と家族のために支援を続けていきたいです」

グッドマン「これからも、お互いの信頼とリスペクトを大切に仲良くしていきましょうね」

今井「ええもちろん、ぜひ。今日はありがとうございました」