この連載は、日本語を勉強している人を読者対象としたコーナーです。日本文化やマナー、タイムリーな日本に関する話題などを簡単な日本語で毎月第3週号に掲載します。アメリカ人の友人などにご案内ください。また、漢字をまだ習っていないお子様にとっても社会を知り、漢字に接するよい機会になります。

新年は「はじめて」を大切に
日本では、新しい年に「はじめてのこと」を大切にします。これを「初(はつ)〜」と言います。たとえば、新年に、はじめて神社やお寺に行くことを初詣(はつもうで) と言います。多くの人は、お願いごとだけでなく「去年もありがとうございました」と感謝の気持ちを伝えます。ほかにも、新しい年にはじめて見る夢を 初夢、年が明けてから、元旦に見る日の出のことを初日の出と言います。初カラオケ、初スキーなど新年はじめての行動には「初」をつけて楽しみます。また、お正月はいつもより予定を入れずに家でゆっくり過ごしたい人も多くいます。新しい年に気持ちを整える時間を持ちたいと考える日本らしい文化です。
年末の大掃除
日本では、新しい年をむかえる前に、家や職場をきれいにする習慣があります。これを 大掃除(おおそうじ) と言います。年末になると、家庭だけでなく学校や会社、店などでも大掃除をします。一年のよごれを落とし、新年を気持ちよくむかえるためです。大掃除は、そうじをすることだけが目的ではありません。日本では、大掃除は、新しい年に、よい縁をむかえるための縁起のよい行動 と考えられています。また、場所や物を大切にあつかうことは、家庭でも職場でも、一緒に過ごす人への思いやりにつながります。大掃除は、新年を大切にむかえるための、日本らしい生活のマナーです。
「おもち」と「おもちつき」
日本では、お正月に おもち を食べます。おもちは、新しい年の幸せや健康を願う、縁起のよい食べもの と考えられています。白色は、新しい始まりを表します。おもちはよく伸びることから、幸せが長く続くように、という意味もあります。年末やお正月に、おもちつき をする家庭や地域もあります。臼 に入れた、むしたもち米を杵でつくと、やわらかく伸びるおもちができます。皆で声をかけ合い協力し合うことも縁起のよい行動と考えられています。また、おもちは、あんこや醤油をつけたりと食べ方もさまざま。お雑煮はおもちが入った 汁もの で、野菜や、地域によってはぶりなどの魚 を入れます。地域によって味付けが違うのも興味深いポイントです。(長久保美奈、マナー講師)
正月でつながる日本の心のルーツ
新しい年を迎えて、おめでたく賑やかな日本のお正月。今年の干支は午(馬のこと)であり、前向きなエネルギーが加速するといわれています。本年がみなさまにとって、躍動と前進の1年になりますように。
(絵と文/平田恵子)
米は日本文化や日本人らしさのもと
お正月の伝統的な汁ものが、餅入りの雑煮です。餅の材料となる米は、昔から神へのお供え物とされ、雑煮は餅を食べることで神の力をいただくという意味があります。さて、米が日本に伝わったのは約3000年前。その後、稲作(米づくりのこと)を通して「和」を大切にする民族性が生まれました。稲を育てるには、村人との共同作業が欠かせなかったからです。また、稲の成長は天候に左右されやすく、人々は春に豊作を祈り、秋には収穫を感謝する祀りを行うようになり、神道文化や信仰心とも結びつきました。米は日本人の主食であり伝統的な行事食や祝膳には欠かせません。また、餅・酒・菓子など多彩な加工食品がつくられています。米食に箸を使うことで、日本人の手先の器用さが養われたともいわれています。
縁起物や縁起担ぎは、幸せへの願い
お正月にはさまざまな縁起物が登場します。縁起物とは、幸運や金運、成功など福を呼び込むと信じられているもの。例えば、門松はお正月の神さまの出迎え、お節料理はお正月に食べると縁起のよい料理です。ほかに鶴や亀は長生きの象徴、だるまは幾度倒れても起き上がる強さ、招き猫は商売繁盛を表しています。日本では昔から、こうした縁起物に願いを託し、飾ったり食べたりすることで、幸せを祈ってきました。また、縁起担ぎは、「福を呼び込むための行動」です。例えば、初物を食べる(強い生命力をもらうことで75日長生きできる)試験の前日にカツどんを食べる(カツ=勝つに通じて合格する)などのアクションです。これらの背景には日本的な信仰心や言霊という言葉の力にあやかる安心感などがからみあっています。
日本が誇る武士道とは、強く正しくやさしい心
お正月と武士道は日本の伝統的な価値観と精神性において、いくつかの共通点があります。武士道とは「強く、正しく、やさしい心」を持つ生き方です。武士は平安時代中期(10世紀)に登場し、戦いがなくなった江戸時代(18〜19世紀)に武士の道徳として完成しました。その道徳は明治時代(19世紀末)に新渡戸稲造が英語で執筆した解説書「武士道」で「義・勇・仁・礼・誠・名誉・忠義」という七つの徳目で紹介されています。義は正しい判断(正月を折り目正しく迎え、正しく生きる決意を新たにする)、勇は正義を行動に移す力、仁は弱き者や困っている人へのやさしさ、礼は相手への敬意(正月行事では挨拶や儀式など礼儀が重視される)、誠は嘘をつかない誠実さ、名誉は誇りある生き方、忠義は私利私欲より社会の利益や公平を大切にする心です。これらは善悪や正邪などの判断基準を示すもので、次第に日本人の道徳観の基盤に。武士道は形をかえて現在の日本人の心に息づいています。

