伝道師タミーを演じきるジェシカ・チャステイン

 「ゼロ・ダーク・サーテイー」(2013年)ではアルカイダのオサマ・ビン ラーデンを追う勇敢なCIA調査官を激演してオスカー候補になり、「モリーズ ゲーム」(17年)では五輪スキー選手転じて最高レベルの賭博施設の経営者などなど、鋭い知性と恐れを知らない女性の役をオハコとするジェシカ・チャステインが今回は何と、毛虫のような付け睫毛と濃いメークで一世を風靡したテレビ宣教師のタミー・フェイ・バッカーの役に挑戦。題名も「ジ・アイズ・オブ・タミー・フェイ」とあのヤバイ「目」を強調した新作である。70年、80年代に夫のジムと共に豪華絢爛の暮らしぶりを披露しつつ「お金を稼ぐ程に神はさらに愛してくれる」と唄って独自のミニ王国を築いたものの、スキャンダルに巻き込まれ、葬られてしまったアメリカの歴史の一コマを覚えて居られる方も多いはず。

Jessica_Chastain; XMen_Dark_Phoenix, Photo: Armando Gallo

 ジェシカは今年44歳、サクラメントに生まれ、幼い頃からダンスに励み、有名なビーガン・レストランを経営するシングルマザーの母親に育てられ、名門ジュリアード学院を優秀な成績で卒業、おまけにボッティチェリの女神のような彫りの深いチャステインの古典的なルックスもプラスになって、今やハリウッドでもひときわ格調を漂わせる中堅の存在になっている。

 その彼女がなぜ、崇高とは言い難い、厚化粧の宣教師の役を演じたくなったのか、その辺りを質問してみた。

 「ドキュメンタリー映画を見て伝説の裏に潜むタミー、例えば彼女はウオータープルーフのマスカラを塗っているから泣いても流れないのに、マスコミは目の下に黒いマスカラが垂れたグロテスクな顔にして嘲笑したり、夫の失敗のために罪を咎められ、全米で最初にエイズに注目して、助けの手を差し伸べるなど数々の有意義な行動をしにもかかわらず、歪曲されて報道されるなどに憤慨してしまったから、とでも言おうかしら。本当のタミーの姿を見せたいとすぐに映画の権利権の5000ドルを払ったのです。

 タミーの子供達は全面的に協力してくれましたが、まだ存命中の夫には連絡しませんでした。

Andrew Garfield が、夫のジム ベイカーを演じてます。右が実物のカップル。

 役作りはまず彼女のビデオを朝から晩まで見て、タミーの声を自然に出せるように練習、メークには苦労したのよ。最初は8時間かけて試行錯誤を重ね、慣れてきて4時間、その間、24枚ものアルバムを出したタミーの歌を覚えて、映画の中では全て私が歌ったのですよ! 座りっぱなしで足が浮腫んでしまい、血行を良くするストッキングを履いたりと色々あったわね。毎日、数ポンドにも思えるメークの量を塗っていたために、肌が異常に荒れて、半永久的なダメージを負ってしまったりと女優になって初めての厳しいメークのプロセスでした。

 何はともあれ、タミーの愛することにかけての包容力、差別すること無く誰もが愛される価値を持っていると信じている姿を映画から受け取って欲しいと思います」

 ジェシカはイタリーの貴族にして、モンクレアと言うファッションブランドの重役と17年に結婚、代理母を使って2人の子供を授かり、現在家族はニューヨーク在住。社会意識が強く、犬が大好きでペットのレスキュー活動を情熱的に支持、映画界の性差別問題とも積極的に取り組み、男優と女優のギャラの差にも批判の声を投げかけている。

来年は「ジョージ・アンド タミー」と言う作品で、再びタミー役、今回はカントリー歌手のタミー・ワイネットを演じるそうで、ご自慢の歌唱力を発揮、楽しめそうだ。(写真上:実物のタミー フェイ とメークしたジェシカ(右)1970、80年代の宗教カルト)