シャクシュカ

NYで食彩 世界味のめぐり

51 イスラエル&モロッコ

 ブルックリンのグランド・アーミー・プラザがみえるアパート最上階に住むユダヤ人のエトワールさんが、モロッコからイスラエルに伝わったと言う「母国」の味を披露してくれた。
 辞書には「シャクシュカ」は、チュニジアなまりのアラビア語で「混ぜる」という意味だとある。ヘルシーフードとして近年世界で人気上昇中のこの一品は、「トマトソースの卵料理」と紹介されることもあるが、エトワールさんは「温かいサラダのこと」とし、「私は好きじゃないけれど、卵を入れてもいいのよ」と、この日は私のために卵を加えてくれた。
 基本の味はトマト。エトワールさん流は、トマトだけでなく「彩りがいいから」とクマト(スペイン発トマト新品種)を加える。皮を剥いたトマトやクマトを左の手のひらに乗せて、右手にもった包丁でクイッと小さく切って油をしいたフライパンに落とす手さばきは、料理上手というのが一目瞭然。細切りしたグリーンベルペッパーとニンニクを混ぜて出来上がり。ゆっくり直火で薄皮を焦がしたグリーンベルペッパーは「水で洗うと味が落ちる」と言いながら、丁寧に焦げめを手で剥がす。味付けは塩・胡椒のほかパプリカ(粉末)2種。イスラエル産の「ハンガリアンパプリカ」は辛い味、身近で手に入る「パプリカ」は甘酸っぱい味。そもそも「パプリカ」とはハンガリア語だと今回初めて知った。「分量は?」と尋ねると、「モロッコでは、スプーン1杯とかカップ1杯じゃなくて目で見てって言うのよ」と笑う。

 フライパンのまま食べる。辛さ控えめにしてくれた「シャクシュカ」は、温かくてお腹にやさしい味だった。通常はパンなどと一緒に食べるという。
 この日は、たっぷりレモン汁を加えたキノワサラダも用意された。「イスラエルの気候がオレンジやレモンに適しているの」と言いながら、イスラエルが開発した海水を農業水に変える技術や灌漑システム(点滴灌漑)が世界に普及していることを自慢げに話してくれる。木製のレモン絞り器具はこの台所に欠かせない道具のひとつ。料理は自己流というエトワールさん。「母の料理はフレンチスタイルのモロッコ料理。母から料理は習わなかった。とてもきれい好きで、台所では子供たちに料理を触らせなかったから」。
 エトワールさんは、モロッコで生まれ育ち、10代後半で家族でイスラエルに移住。外交官の米国人との結婚後は、スリランカ、パキスタン、日本に住んだ。特に通算9年住んだ日本が大好きで、包丁や食器は日本で買い求めたものを好んで使う。英語、フランス語、スペイン語、ヘブライ語、そして日本語も堪能で、感謝祭にはターキーとクスクスを家族に振る舞う一方で、ユダヤの祝祭には必ず特別な料理を作る。エキゾチックな顔立ちの美しい人なのに、ご本人は「老けてしまったから」と、残念ながら写真なし。
(小味かおる、写真も)


<材料と作り方>

トマト、クマト、グリーンべルペッパー(日本でいうピーマン)、ニンニク、卵、オリーブ油、パプリカ(粉末)2種、塩、胡椒

①ニンニクは薄切り、は直火で薄皮を焦がしておき、少しさめたら指で焦げ目を取って細長く切っておく。
②トマトとクマトは湯剥き、少し冷めてから小さく切る。
③油をしいたフライパンに、トマトとクマトを入れ、5分ぐらい弱火にかける。(水分が出るので水などは足さない)
④パプリカ、細切りしたピーマンとニンニクを加えて、できあがり。
⑤卵を入れる場合は、④に卵を割り入れ、蓋をして数分蒸す。