アルトサックス奏者
作編曲家、歌人
ニューヨークを拠点に活動するアルトサックス奏者・作編曲家、バンドリーダー、歌人の及川陽菜(おいかわ・ひな)さんは8月にファーストアルバム『Short Songs』をリリースする。音楽監修にはライアン・ケバリー氏、編曲・共同制作にジャズトランペッター、小倉直也氏を迎え、現代NYジャズシーンを担う若手実力派ミュージシャンたちと共に制作した。ラージ・アンサンブルと短歌を結びつけるプロジェクトから生まれたユニークな作品。タイトル「ショート・ソングス」は及川のもうひとつの表現である「短歌」の直訳だ。
及川さんは埼玉県朝霞市出身。中学の時に吹奏楽部に入り、子供心ながらカッコいいと思っていたアルトサックスに配属されたのがきっかけだった。高校時代にジャズに惹かれジャズ科があった尚美学園大学に全額特待生として進学、2020年卒業と同時に留学予定だったが、コロナ禍で1年延期、その期間に自分の時間の中で出会ったのが短歌だった。
ジャズ学科のあるニューヨーク市立大学クイーンズ校修士課程へ進み、そこで同大学院ジャズ作曲科を首席で修了したジャズトランペッターの小倉直也氏と出会い、結婚した。現在夫婦揃ってNYで音楽活動を続けている。プロポーズの際には及川が作った短歌連作「湯葉の国」に小倉が曲をつけて贈った。今回のアルバムにも収録されている。
海外に目を向けるきっかけとなったのは、大学時代に参加したセイコー・サマー・ジャズ・キャンプだった。4日間の体験ではあったが、人生転換の重要な体験だった。同キャンプでも優秀な成績を残した及川は、10周年記念スペシャルライヴにキャンプ出身ゲストとして招かれ、ジャズ・アット・リンカーン・センター内ディジーズクラブ(7月30日)やブルーノート東京(8月9日)などへの出演が決まっている。
リリースされる新作では、伝統的ラージ・アンサンブルの編成をベースに、短歌の言葉を歌詞として用いるだけでなく、短歌自体から着想を得た楽曲や、「五・七・五・七・七」という三十一音の構造そのものを、楽曲と即興演奏の設計へ取り込んでいる。冒頭曲「Introduction」では短歌の音数を拍子として再構築し、最終曲「Thirty-One Syllables」では三十一文字をメロディの骨格へと反映。「定型という制約の内側にこそ自由がある」という確信が、アルバム全体を貫いている。ヴォーカルにはベトナム系アメリカ人のミータム。日本語を母語としない彼女の、透明感あふれるフラットな歌声が言葉を音楽のなかへ自然に溶け込ませる。及川自身もアルトサックスで全編に参加し、タイトル・トラック「ショート・ソングス」などで印象的なソロも聴かせている。
現代短歌は日常の風景を拾い上げ、新たな光を差し込む表現でもある。短歌アドバイザーには、「塔短歌会」を主宰する現代短歌を代表する歌人、吉川宏志氏を迎えている。ジャズと日本の短歌というクロスカルチャーな演奏が米国でどう評価されるのか注目される。
(三浦良一記者、写真も)

