
ICE拘束リスク回避も
外務省では、テロ、誘拐、一般犯罪対策等で豊富な経験を有する危機管理専門家を日本から講師として派遣し、在留邦人向けに安全対策に関するセミナーを実施しているが、2月3日、ジャパン・ソサエティーで「ニューヨーク安全対策セミナー」が開題された。同セミナーでは、第一部としてコントロール・リスク・グループ株式会社(本社・東京都)のコンサルタント、星村聡史氏が一般犯罪やヘイトクライムを含む突発的な暴力・傷害事案、テロ対策や無差別攻撃事案に対する主に企業・団体向けのリスク管理を学ぶ座学形式の講義を行い、第二部では、同社コンサルタントの川満雄起氏が、実際に発生し得る緊急事態を想定し、その際の適切な対処行動を実践的に習得する実技訓練を行なった。
(写真上)銃の乱射から身を守る最善の方法は伏せること
星村氏は、米国には3億9000万丁以上の銃器が出回っている「銃社会であること」の認識が必要だと述べた。平均すると100人あたり約120丁が出回っているという。多くは拳銃だがAR15など小銃も出回っているという。企業にとっての課題は、極右活動家や扇動家による標的となること。さらには「不法移民を雇っている」などのデマや誤った情報を流されたり「米国人の職を奪っている」といった扇動的なバッシングを受ける危険にも晒されているとした。
第二部では、銃の乱射、狙撃から身を守る方法について実技訓練が行われた。近くで銃声が聞こえたらすぐしゃがむ。さらに地面に身を伏せることで被弾する確率が激減する。足の踵は開いて地面にぺったりとつける。自分を狙ったものではないことが分かった場合は、逃げてその場からすぐさま離れる。車の陰に身を隠しても、銃弾が貫通するのを防ぐことができるのはエンジンブロックだけ。銃で後から狙われながら逃げる場合は、首の後ろと頭部を両手で押さえてジグザグに走って4秒ごとに伏せる。これを繰り返して逃げることで被弾を回避することができると陸上自衛隊仕込みのテクニックを紹介し、実際に参加者も実践した。参加した学校関係者からは「学校でも避難訓練はやっているが、実際に今ここで訓練したことをどこまで子供たちにやれるかは分からないが、少なくとも持ち帰って教師たちとは共有したい」と話していた。
会場からは米移民関税執行局(ICE)の拘束リスクからの回避方法などについて質問が出た。これに対し「合法的な身分証明証を持つことでリスクは回避できる」と説明した。別の聴講者から「グリーンカードのオリジナルを持ち歩いていて紛失したら再発行が大変だ。コピーやデジタル情報でもいいと聞いたが本当か」との質問も出た。この点については共催したニューヨーク日本総領事館の松永直樹領事部長が解説に立ち「弁護士の中には確かにコピーで良いという人もいるが、自動車を運転する時に、免許証のコピーでは運転できないのと同じ考え方でいいのではないか」と述べた。「グリーンカードのオリジナルを常時所持していないと拘束されるのか否か」について星村氏は「これば現場の捜査官の裁量次第で、答えは出ないと思う」と答えるにとどめた。

海外安全対策マニュアル
さいとうたかを・著
外務省・刊
外務省が制作した『ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル』は、一見すると意外な組み合わせに映る。国民的ハードボイルド漫画『ゴルゴ13』と、日本政府による海外安全対策——。だがページを繰るにつれ、その必然性が静かに立ち上がってくる。
主人公デューク東郷は、感情を排し、最悪の事態を常に想定して行動する「プロフェッショナル」として描かれてきた存在だ。本書ではそのキャラクター性が、海外での危機管理を考える上での象徴として巧みに活用されている。テロや誘拐といった極端な事例だけでなく、日常に潜む油断や判断ミスが、いかに深刻な結果を招くかが、漫画ならではの臨場感で示される。
本マニュアルの主な対象は中堅・中小企業の海外進出関係者だが、その内容は海外に暮らす在外邦人全般にとっても示唆に富む。とりわけニューヨークをはじめとする北米都市では、治安状況の地域差や社会情勢の変化が生活に直結しやすく、「慣れ」が判断を鈍らせる場面も少なくない。そうした現実を踏まえると、本書が繰り返し説く事前準備と情報更新の重要性は、当地の在外邦人にとって決して他人事ではない。
特筆すべきは、単なる注意喚起にとどまらず、「最悪を想定し、準備する思考」を読者に促している点だ。危険を過度に煽るのではなく、冷静に状況を把握し、選択肢を複数持つことの大切さが、繰り返し強調される。これは長期滞在者ほど「自分は大丈夫」と考えがちな海外生活に、あらためてブレーキをかける視点とも言える。
一方で、漫画という形式上、描写がやや劇画的である点や、国・地域ごとの細かな事情までは踏み込まない点には留意が必要だ。とはいえ、それらを補って余りある読みやすさと到達力を備えていることは確かで、さいとうたかをならではの世界を十分に楽しめることも、今は亡き本人の名誉のためファンの一人として記しておきたい。
海外生活が「日常」になったときこそ、安全意識は風化しやすい。本書は、そんな読者に静かな警鐘を鳴らす一冊だ。娯楽性を入り口にしながら、現実的な備えへと導くその構成は、ニューヨークを含む北米に暮らす在外邦人にとっても、改めて手に取る価値のある安全読本と言える。
ニューヨークでは2月3日、テロ、誘拐、一般犯罪対策等で豊富な経験を有する危機管理専門家を日本から講師として外務省が派遣し、当地在留邦人向けに安全対策に関するセミナーをジャパン・ソサエティーで開催した=記事7面・経済面に=。同セミナーでは、第一部としてコントロール・リスク・グループ株式会社(本社・東京都)のコンサルタント、星村聡史氏が一般犯罪やヘイトクライムを含む突発的な暴力・傷害事案、テロ対策や無差別攻撃事案に対する主に企業・団体向けのリスク管理を学ぶ座学形式の講義を行い、第二部では、同社コンサルタントの川満雄起氏が、実際に発生し得る緊急事態を想定し、その際の適切な対処行動を実践的に習得する実技訓練を行なった。会場で、本書が来場者に配布されている。(三浦)

