英国の庶民院(下院)議員は、選挙区での相談業務を最優先します。Caseworkと呼ばれる医療、教育、年金など有権者が要望する相談を予約制で受付ます。Surgery(診療所)と呼ばれる定期相談会も開催します。
英国の議員にメールを送ると「選挙区内の方ですか?確認のため住所を教えて下さい。選挙区外の人は、自分の選挙区の議員に連絡して下さい」との応答メールがきます。Caseworkの解決率やメールへの返信速度が次の選挙に直結します。一人あたり平均で年間2000〜5000件の相談やメール数万件が来ると言われます。
選挙区内の世論が重要なことは党首選びにも直結します。7月にスターマー首相からバーナム首相へと交代したのは、補欠選挙で圧勝したバーナム氏が「支持率の高い改革党に勝てる首相」と選挙区で認知され、労働党議員の8割が彼に乗り換えたためです。
米国の下院議員は、個別相談に対応するCaseworkに加えて、earmarkからCommunity Project Fundingと名前を変えた予算獲得活動を行います。かつてpork barrel(利益誘導)とも批判された活動の透明性や利益相反規制を強化したもので、他にも予算獲得のスキームがあります。大統領は政党の党首でもなく、議員は政党からかなり独立して活動できることが米国の特徴です。
米国と英国の議員にとって、予備選挙を含めた選挙区での支持が再選を決定付ける点は共通です。両国の議会は政策や予算の決定権限や政府予算や政策に対する強い監査権限を有しています。しかし、英国の議員は、政府への働きかけはできても、予算獲得の権限はなく、個人相談が中心になります。
この2か国と比べ、日本の衆議院議員の地元活動は大きく異なります。日本では公認権、政党交付金の額、比例順位の決定権を党の執行部が持ちます。また企業や宗教団体、労働組合などの支援団体の支援が不可欠です。これら団体の会合や新年会などの地域行事、冠婚葬祭などへの出席が日程の多くを占めます。地元予算を獲得したければ、関係省庁や与党執行部などへの働きかけが必要です。本来は政府を監視するはずの議員が、地元利益のために政府に依存するという関係です。これが、米英と比べて政策決定権限や政府予算や政策に対する監査権限が弱い日本の国会議員となっています。
有権者の民意を反映した予算や政策の決定や、政府の監査をしっかり行える本来の国会議員の役割を果たすことが望まれます。
ふじた・ゆきひさ=オックスフォード大政治国際問題学部客員研究フェロー。慶大卒。国際ICや難民を助ける会等の民間外交活動を経て国会議員、民主党国際局長、財務副大臣等を歴任。現在、国際IC日本協会理事、岐阜女子大特別客員教授、東アジア共同体研究所特別研究員。英国在。

