ゆるめて整う、母の時間 山並絵美さん

ニューヨーク州理学療法士

 産前産後の女性たちに人気のエクササイズ教室がある。講師は、理学療法士の山並絵美さん。ニューヨークで11年間、治療に携わってきた。自身の出産を機に、母親たちが自分の体に目を向けてほしい思いが強まり、去年の夏から無料で開いている。

 参加者は、妊娠初期から産後1年過ぎの女性まで幅広く、毎回会話や笑い声が絶えない。4月の回では、足のむくみに悩む妊娠中期の女性が、「心も軽くなった」と安堵の表情で教室を後にした。

 アメリカでは出産後の入院期間が短いうえ、家族のサポートを受けにくく、早い段階から自力で育児と家事を担うケースも少なくない。山並さんは理学療法の観点で、心身への負担を少しでも和らげる方法を多くの人たちに伝えている。

ーなぜ始めたのですか?

山並:「私自身も産後の不調を経験する中で、より患者さま一人一人の背景や気持ちに寄り添いながらサポートしたい思いが強くなりました。運動したいけど何から始めたらいいかわからない人たちのきっかけとなったり、自分の体と向き合う時間を作ることで、今後の不調の気づきや予防になったりしたらいいなと思って開催しています」

ー意識していることは?

山並:「一番は『安全性』と『その方の今の状態に合っているか』です。体の状態、回復の過程や感じ方は人それぞれだと改めて感じたので、基本の流れは作りつつも、強度やポジションは個別に調整できるようにしています。体の重心やコントロールを整えること、また、育児に必要な機能的な動きも取り入れています。育児からちょっと離れる時間とか他の人と出会える場になってほしいです」

 山並さんはミシガン州育ち。学生時代スポーツに打ち込み怪我をした際、リハビリに助けられ、理学療法士を志すようになった。多様な患者との出会いや学びの機会を求めてニューヨークへ移り、ファンクフィジオに就職。月経や閉経、産前産後、更年期などに悩む多くの患者を診る中で、ウィメンズヘルスの専門性を極めるようになった。

ー改めて、産前産後はどのようなケアが最も重要?

山並:「骨盤のケアの重要性は広く認識されていますが、妊娠による変化は、ホルモンの影響で目に見えない早い段階から筋肉や関節、内臓やメンタルも含めて全身に影響が及びます。産後も分娩や育児、生活の変化の影響を受けるため、特定の部位だけでなく、全身を統合的にみて、多方面からアプローチすることが大切です」

ーご自身も育児に励まれる中、母の日を前に頑張るお母さんたちへ贈る言葉は?

山並:「どうしても自分のことは後回しになりがちですが、体は思っている以上に日々の積み重ねの影響を受けます。ほんの少しでもいいので、呼吸を意識したり、体を動かしたりするだけで楽になることもあります。『今日はこれでいいか、よくやった!』くらいの気持ちでそれぞれのペースでいいのかなと思います。気軽に相談してほしいです」

 産前産後の状態は人それぞれと語る山並さん。理学療法士と母の経験が生みだす温かい教室は、忙しい母たちの心身がのびのびできる憩いの場となっている。

(川﨑理加、写真も。元NHKアナウンサー。報道番組や国際放送、インタビューなどを担当。米国出身)