それにしても異例である。昨年中は気配すらなかったのが、年明けになると読売のスクープから始まって、アッという間に「風」を吹かせ、気づいたら解散が既成事実となっていた。この内閣の評価はまだまだ未知数ではあるが、現時点では決断と実行の力を見せることには成功している。では、高市総理はどうして、このタイミングで解散したのか、5点ほど理由を挙げることができる。
1点目は、これが最大の理由だが、やはり多くの世論調査が78%前後という高い支持率を叩き出しているということだ。これは千載一遇のチャンスであり、この支持率を背景に解散し、仮に勝利すれば党内外における権力基盤が固まる。こうしたチャンスは二度と巡ってこないと考えれば、伝家の宝刀を抜くのに躊躇はなかったのであろう。
2点目は、これは非常に大事な点だが、予算審議を中断して通常国会の冒頭に解散する、この内閣にはこの手法が絶対に必要だったということだ。理由は簡単で、高市氏の政治姿勢は積極財政と財政規律という水と油、炎と氷を両立させるという矛盾に満ちたものだからだ。現時点では積極財政の姿勢だけが目立ち、円も下げている。だが、政権を支える麻生太郎、片山さつきの両氏は、それでも日本という国家が存続するための最低限の財政規律を守る決死の姿勢で内閣に協力しており、総理もこれを理解していると見る。
その場合に、予算審議が進めば給付や減税の「財源」がどうしても出てくることになる。だが、予算審議前の現時点なら、そのような「複雑な数合わせ」は話題にしないことが可能だ。給付のたびにバカ正直なまでに財源として増税を示してきた岸田文雄氏が、「増税メガネ」と言われて世論に憎まれたミスを繰り返さないという、固い決意がそこにはありそうだ。勿論、政治手法としては邪道だが、このタイミングであれば、辛うじて成立する話であり、選挙に勝った後にもっと有利に予算審議を進めるための手段の問題とも言える。
3番目は、これは憶測だが、立憲と公明の提携ということは、昨年内に気配として察知しており、先手を打ったことが考えられる。時事通信社が数字を公開して話題になったが、前回総選挙における公明票が自民から立憲に動いた場合の議席数に与えるインパクトは意外と大きそうだ。高市氏は、これに対する策として相手の準備不足を突くという判断をしたのだろう。
4番目は、これに対して与党の一角を占める維新の会が、社保スキャンダルで炎上中ということだ。一見すると、そんな時に選挙なんてという判断になりそうだが、維新は大阪のダブル選に命運をかけつつ、スキャンダルを選挙で強行突破する構えである。早晩維新が崩壊するのであれば、ここで勝手にさせつつ、政策面では大きなことを言わせないということで、手を打ったのだろう。結果的に副首都の話も、定数削減の話も曖昧にできている。
最後の5番目は、参政党との関係だ。昨年の参院選では、自民党から参政党が「保守票」を奪ったことが結果を大きく左右した。けれども、高市氏については、対中外交などを含めて、現時点では「保守票が満足する」ような言動をしており、参政から票を奪還できそうという見通しが立ったのであろう。
この問題も賞味期限の短い話であり、総理として実現可能な政策を続けていけば、いずれ中道実務路線であることが露見して「保守票」が離れるかもしれない。その前に選挙をして勝って政権基盤を固めたいということであれば、そこには合理性はある。
では、選挙戦の行方はどうなるか。こちらは、国民民主の動き、立憲と公明が財政規律を主張するのか、それとも、全政党が財源抜きの政策論議に陥るのか、論戦の可能性は様々なことが考えられる。旧清和会の「裏金議員」に対して総理が厚遇することの得失も未知数だ。そうした点は、展開を見ながら別途議論することとして、現時点では少なくとも高市氏の側から見た場合には、解散には一定程度の合理性は認められると考える。(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)

