激動の時代を生きる

在米ロシア系、ウクライナ系市民の証言

 ブルックリンの南端、コニーアイランド遊園地からジョン・F・ケネディ国際空港方面へ2駅行った海岸沿いの町、ブライトンビーチには、ロシアや東欧からの移民が多く住んでいる。繁華街の地下鉄駅を降りると、ロシア語の看板がかかっていたり、ロシアやウクライナ独特のものが売っている露店やスーパー、衣料品店、レストランが軒を並べている。ここではロシア系移民とウクライナ系移民とが互いに共生社会を築いているようだ。

 薬局から出てきた70代の男性は「この通りはみんな、ウクライナ語放送のテレビばかり見ているね。ウクライナ人もロシア人もいっぱい暮らしている。ロシアは嫌いだけど、ここで暮らしているロシア人は嫌いじゃない。ロシアのルールが嫌いなんだ」と話した。

 21歳という青年は、半年前にロシアから来たという。「この20年間でロシアはすっかり変わった。科学も学術も無くなった。金さえ払えば大学の学位だって手に入る。両親は、モスクワで生まれて今は、ウクライナに住んでいる。親戚は両方の国にいるよ」。

 店先でロシア人形などを並べていた男性は「ロシアは世界で孤立しているよ。ここに暮らしているのはユダヤ系の人が多い。もう市民権を取ったから俺はアメリカ人さ」と威勢よく答えてくれた。ロシアとウクライナはルーツを辿れば同根。アメリカに暮らす彼らの「二つの祖国」に揺れる思いを聞き、NY日系社会の支援の1年を取材した。

侵攻からまもなく1年

東欧の食品が多く売られているスーパー(ブルックリンのブライトンビーチ)

「終息見えない」

デミトリー・トルゴヴィツキーさん(52)

 ロシア人男性のデミトリー・トルゴヴィツキー(52)さんに聞いた。

本紙:率直に言って、今回のロシアのウクライナへの侵攻について、ロシア政府がロシア国内の国民に伝えている内容と、欧米、日本で報道されている内容とは大きな隔たりがあります。どちらの政府の主張していることが真実なのか、わかり兼ねることが多いですが、立ち位置が異なることでどちらを信じていいのかわからなくなることはありませんか。

:質問を読ませていただき、私は最適なインタービューイーではないと思います。アメリカに30年住んでいますし、ロシアとのコネクションもそんなにありません。ロシア国内で発表されているニュースの意図は明確に分かりますが、ロシア語のニュースは読みませんので、どちらを信じていいか分からなくなることはありません。

本紙:ロシア国内に住んでいる親戚や知り合いの人たちとの現状理解について、ギャップを感じることはありませんか。ロシアの国民の多くは、どう思っているのでしょうか。

:私の親戚や知人はウクライナを支持しています。アメリカに移住したロシア人はこの戦争についてさまざまな意見を持っています。ソーシャルメディアで見ることができます。一概にロシア人はこう思っているとは言えないと思います。また、公ではウクライナを支持していると言うでしょう。それはそう発言することがアメリカで期待されているからで、個人的には別の意見を持っているかもしれません。ロシアの国民(ロシアに住んでいる人)もさまざまな意見を持っているのはプロテストの映像が報道されているので分かると思います。オーストラリアに移住した大学時代の友人がいます。彼の父親はロシアに住んでいてプーチン派です。友人はウクライナを支持しているので、連絡を取る時はいつも口論になると言っていました。

本紙:あなたは、この事態について、どう思っていますか。この戦争状態を終わらせるためには、どうしたらいいかアイデアがあったら教えてください。

:私自身、この紛争において100%親ウクライナです。ロシアやウクライナに長く住んでいないのでわかりませんが、ウクライナのロシア人およびロシア語話者に対してある種の差別があったというロシア政府の主張にどれだけの真実があったのでしょうか。

 アメリカや西側のテレビでインタビューを受けているウクライナ人の兵士や難民の多くは、その約半分がウクライナ語でなく、ロシア語を話しています。したがって、もしロシア政府が言っていることが真実ならば、それらの人々はロシアの侵攻と占領について大喜びするはずです。しかしそれどころか、私の知る限りでは、彼らはロシア軍に対して激しく戦っています。差別はあったかもしれませんが、今はもう関係ないことになってしまいました。ひとつの過ちを、別のもっと大きな過ちを犯して元に戻すことはできないと思います。

 私はこの戦争の良い結末を予見していません。終戦は皮肉なことにキーウではなく、ワシントンDCとブリュッセル(EU)が決めることになると思います。共和党が下院の多数派になり、ウクライナへの兵器援助の予算は削られ、エネルギー施設の大半を破壊されて、厳しい冬を迎えるウクライナの状況は過酷です。したがって、ウクライナはロシアとの間で最悪な和平協定を受け入れることになるかもしれません。この戦争状態を終わらせるためのアイデア…、全く分かりません。

最大のロシア系地区ブライトンビーチの市街

本紙:ニューヨークに、日系社会があるように、ロシア人コミュニティもあるかと思いますが、どこに行けば、ロシア系市民に会って、話を聞けるでしょうか。ブルックリンのグリーンポイントとか、コニーアイランドの方に、ロシアンコミュニティがあるように思ったのですが、ご存知でしたら教えてください。

:ニューヨークには約60万人のロシア語を話す人が住んでおり、トライステートエリアには 160万人が住んでいます。最大かつ最古のコミュニティは、 ブライトンビーチとその周辺です。それほど大きくはありませんが、他にも多くの場所があります。 ワシントンハイツ、レゴパーク、ベンソンハーストです。ロシア語メディア(新聞、ラジオ、テレビ局)もあります。

新聞:Novoe russkoe slovo (New Russian Word)、Russian Bazaar(ほとんどがクラシファイド)、Vecherniy New York (“Evening New York”という別名もある)

ラジオ局:RUSA Radio

テレビ局:RUSSIAN TELEVISION NETWORK OF AMERICA(RTN)

本紙:似たような質問をできるロシア系の友人はNYにいますか。

:私はニューヨークにいるロシア人をあまり知りませんし、私が知っている何人かのロシア人がインタビューを受けることにオープンになるとは思いません。 特にロシアを支持する人は公に答えたくないかもしれません。