NYに日本歴史博物館、19世紀以降の記録公開

評議会設立

 19世紀以来のニューヨークにおける日本コミュニティの発展を振り返り、歴史的価値のある資料を収集、保存し、世界に向けて発信すると共に、将来の世代に語り継いでいくための「ニューヨーク日本歴史評議会」が11日、ニューヨーク総領事の山野内勘二大使の呼びかけで設立された。まずデジタル・アーカイブを設立し、将来的には「ニューヨーク日本歴史博物館」を設立することを目的にしている。評議会の発起人として日系社会各界から選ばれた15人が同日、総領事館で設立文書に署名した。

 2020年は日本初の公式米国訪問団となった徳川幕府外国奉行新見豊前守率いる万延元年遣米使節が1860年6月にニューヨークを訪問してから160年となる記念すべき年だ。その使節団訪米が日本とニューヨーク、ひいては日米関係の嚆矢となった。ニューヨークには1872(明治5)年3月2日、日本政府が富田鉄之助を領事心得に任命し、在米公館第1号となるニューヨーク日本総領事館が設置されている。日系移民が多かった西海岸には全米日系人博物館(ロサンゼルス)があるが、東海岸には1か所にまとまった形で資料を保管、一般公開展示している場所がない。東海岸には津田塾大を創設した津田梅子やラトガース大学に留学して川崎造船初代社長となった松方幸次郎ら、米国から帰国後、日本の近代化の夜明けに大きく貢献した日本人、野口英世や日本クラブ、ジャパン・ソサエティー創設に寄与した化学者で実業家の高峰譲吉ら当地で業績を残した偉人も少なくない。

 数多くの日本人がニューヨークの地を踏み、数えきれない個人が公務、ビジネス、文化など多様な分野で活躍した。また、米国国籍を得て、日系米国人として生き、日米の架け橋となった多くの人々がいる。さらに多くの日本企業がニューヨークに古くから拠点を設立して世界との交易に従事し、経済関係を強化して日米関係の発展に寄与しているのもニューヨークの特徴だ。そして日米関係の深化に大きく貢献した多数の米国人がいる。一方で、そういったニューヨークで活躍して功績をあげ、後世に名を残した人物もいれば、歳月を経て現在では広く知られていない人や見果てぬ夢と共に去っていった日本人もいる。有名、無名を問わず、それぞれの人生があり歴史がある。

 新型コロナウイルスでパンデミックとなった2020年は、散逸してばらばらになっているニューヨークにおける近代日本人の足跡をまとめて後世に伝える「NY近郊日本人史開封元年」の年ともなりそうだ。

日米交流の原点探る
まずデジタルアーカイブ

 ニューヨークでこのほどニューヨーク日本総領事館の発案で設立されたニューヨーク歴史評議会の目的は、ニューヨーク周辺地域での日本コミュニティの歴史を取集、保存、公開及び発信し、将来の世代に語り継いでいくことを目的としている。

 組織事務局は日本クラブが務める。 事務局は各事業の実施に関わる作業を担当・調整する。事務局には事務局長を置く。ニューヨーク日本総領事館が事務局の活動を支援する。活動は非営利。

 事業内容は、(1)デジタル・アーカイブの設立と(2)発信、(3)将来的にNY日本歴史博物館を設立を目指すことの3本柱。

 デジタルアーカイブは1860年代以降現在までの日本コミュニティの活動を保存し、それを周知するためのプラットフォームとして専用のウェブサイトを新規に設置する。デジタルアーカイブには、年代、分野(政治、外交、経済、医療、文化、教育、学術、芸術、音楽、日本食など)、地域に分類され、検索機能を設け、インタビューなどによるオーラルヒストリーも含む。

 集約された情報を世界各地の一般市民に対してさまざまな機会を活用して積極的に発信する。

 将来的にニューヨークに「ニューヨーク日本歴史博物館」を設立し、一般市民に公開する。散逸された日本コミュニティーの歴史的物品を収集のうえ、分類、保存を行い、将来的な展示を目指す。

発起人は15人
日本クラブに事務局設置

 発起人は次の通り。山野内勘二大使(ニューヨーク総領事)、秋吉敏子さん(作曲家・ピアニスト)、キャロル・グラックさん(コロンビア大学教授)、ダニエル・イノウエさん(ニューヨーク大学客員教授)、前田正明さん(日本クラブ事務局長)、古本武司さん(退役軍人)、本間俊一さん(コロンビア大学教授、JAMSNET代表)、河野憲治さん(NHKアメリカ総局長)、村瀬悟さん(弁護士)、岡本徹さん(ニューヨーク育英学園学園長・理事長)、高岡英則さん(北米三菱商事会社社長)、ボン八木さん(ニューヨーク日本食レストラン協会会長)、スーザン大沼さん(ニューヨーク日系人会会長)、ジョシュア・ウォーカーさん(ジャパン・ソサエティー理事長)、柳澤ロバート貴裕さん(米国日本人医師会会長)。

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