潜水艇沈没の悲劇

艇長夫人の祖先が乗船

タイタニック号の映画にも

 1912年に北大西洋に沈没した豪華客船タイタニック号の見学に向かったまま連絡が途絶えた潜水艇「タイタン号」について、米沿岸警備隊は6月22日、タイタニック号の残骸から500メートルほど離れた水深3800メートルほどの海底でタイタン号の破片が見つかったと発表した。水圧で船体がつぶれたとみられ、タイタン号を運営するオーシャンゲート・エクスペディションズは乗っていた5人は死亡したと発表した。(写真上:沈没した探査潜水艇タイタン号(上)とタイタニック号(下))

 タイタン号に乗っていたのは、オーシャンゲート・エクスペディションズのストックトン・ラッシュCEO(最高経営責任者。61)、英国人富豪ハミッシュ・ハーディング氏(58)、フランス人探検家ポール・ヘンリー・ナルジオレット氏(77)、パキスタン財閥のシャザダ・ダーウッド氏(48)と息子スライマン氏(19)の5人。ニューヨークタイムズ紙によると、ラッシュCEOの妻ウェンディ・ラッシュさん(61)は、タイタニック号沈没で亡くなった乗客の「玄孫(やしゃご=ひ孫の子ども)」に当たるという。

遭難したストラウス夫妻(写真左)は、映画で共に船に残った老夫婦(写真上)のモデルとみられる

 タイタニック号の事故当時、一等客室にメイシーズ百貨店の共同経営者のイジドー・ストラウス(当時67歳)と妻のアイダ・ストラウス(当時63歳)が乗船していた。船が氷山にぶつかる事故が発生し沈没しかかるなか、夫妻は救命ボートに乗れることになった。しかしボートが足りないため女性と子供が優先して乗せられているのを知ったイジドーはボート乗船を拒否、妻のアイダも40年間連れ添った夫のイジドーと運命を共にすることにした。イジドーの遺体は沈没して2週間後に海で発見されたが、アイダの遺体は見つからなかった。メーシーズ百貨店ニューヨーク店には夫妻の刻板が飾られている。ウェンディ・ラッシュさんはこの夫妻の玄孫にあたる。

 ジェームズ・キャメロンが監督し世界的大ヒットとなった映画「タイタニック」(1997年公開)では、沈んでいく船の中で老夫婦がベッドで抱き合うシーンがあるが、この夫妻がモデルとみられている。

 33回にわたって15年以上潜水艇でタイタニック号を調査したジェームズ・キャメロン監督はテレビのインタビューで、「タイタニック号とタイタン号の事故の類似性に衝撃を受けた。警告が無視された同じ場所で、非常によく似た悲劇が起きたことは驚くべきことだと思う」などと語った。

 タイタニック号には日本人としては唯一、鉄道官僚の細野正文が乗船していた。救命ボートに乗ることができて一命を取り留めている。ミュージシャンの細野晴臣さんの祖父にあたる。