あの時代みんなアイビーだった
小学館スクウェア・刊
日本は、1960年代初頭から日本人男性の服装について大きな転換期を迎えた。今と違い、当時の東京オリンピックが開催された1964年あたりには、すでに日本全国にアイビールックというファッションが席巻していた。小学生から大学生、サラリーマンまで、髪は、もみあげがやけに短い七三のアイビーカットが大流行り、ボタンダウンシャツやスリッポンのローファーやウイングチップの日本では「おかめ」と呼ばれた革靴も大流行。どのシャツとセーター、スラックス、ジャケットをどう合わせるのかなど、当時の紳士服店は時代の移り変わりの速さに目を丸くしたに違いない。今でも当時の床屋の壁に貼られていたヘアスタイルモデルの中のアイビーカットの写真が目に浮かぶ。小学生だった私は頭を刈ってもらいながらその写真をじっと見ていた記憶がある。
その男子服飾新時代の幕開けを担っていた何人かの日本人男性たちがいる。VANジャケットの創業者である石津謙介氏、その長男の石津祥介氏、男性服飾雑誌『メンズクラブ』の初代編集長だった西田豊穂氏、イラストレータの穂積和夫氏、そしてVANジャケットの社員としてさまざまなワードローブを日本に紹介したこの本の著者、くろす・としゆき氏だ。そして忘れてはならないのはアイビーファッションのバイブルとも呼べる写真集『TAKE IVY』をくろす氏らと共に来米して撮影したカメラマンの林田昭慶氏だ。くろす氏以外全員他界している。
服装のマナーやルールについて系統だった説明や着こなしの見本がなかった時代、高度経済成長期の幕開けを担う日本の男子青少年たちにその着こなしの背後にあるライフスタイルまでをアドバイスしてくれたVANジャケットの存在は、昭和という恵まれた日本の時代を象徴するメンズファッションの王道と言えた。
本書は、そんなアイビールックの生き証人であるくろす氏が、自身のアイビー・リーグ・モデルを実践した半生を語り、くろす流「IVY10のキーワード」、春夏秋冬着こなしの「エッセンシャル版・トラッド歳時記」の3章からなっている。穂積和夫氏と綿谷寛氏の両盟友のイラストで綴られている超豪華版だ。
時代を現代のニューヨークに移すと、私が生活する郊外のウエストチェスターからマンハッタンに通勤する電車の中で、ボタンダウンの襟のロールを見事に出してネクタイを締めた初老の企業エグゼクティブと思しき男性をごく稀だが見かけることがある。襟に形状記憶の芯の入っていないボタンダウンシャツを米国で買えるのは、もはや日本製の鎌倉シャツ(オンライン)とオンワード樫山傘下のJプレスくらいだろう。本家本元のブルックス・ブラザースも最近同様のシャツを作ったが、目玉が飛び出すほど高価になっていた。『アメトラ』の著者のW・デービット・マークス氏は「アイビーファッションは、日本人によって保護され生き延びることができた」と著書で書いている。本書は、ミスター・アイビーのくろす氏がエッセイとともに書き記した男子服飾のバイブル的歴史書だ。 (三浦)

