2月に入ってすぐマンハッタン・ダウンタウンはちょっとした騒ぎに見舞われました。ウエストビレッジにあるストーンウォール記念史跡の公園からレインボーフラッグが一斉に撤去されたのです。トランプ政権による執行でした。1月21日に発出された内務省メモランダム(行政覚書)で、「国立公園サービス(NPS)が管理する施設では原則としてアメリカ国旗や内務省旗などのみが掲揚可能で、それ以外はダメ」ということになったからです。
この「ストーンウォール記念史跡」が何のことかご存知ない読者もいると思います。
現代アメリカには3種の人権運動がありました。黒人、女性、ゲイ(性的少数者)の解放運動です。1950年代に黒人差別撤廃のために公民権運動が始まり、女性解放は60年代後半から性差別や男性への従属からの解放と社会参加を進めました。そして最後にゲイ(今で言うLGBTQ+の人たち)の人権運動が起こりました。このゲイ解放運動の嚆矢とされるのが69年6月末にストーンウォール・インというゲイバーへの警察摘発で起きた暴動事件でした。このゲイバーは主を何度か代えて今もその公園の隣で(かなり観光化していますが)営業しています。レインボーフラッグはその性的少数者たちの運動のシンボル。そしてこの3つの人権運動はそれぞれに関連し影響を与え合っています。
つまりレインボーフラッグ撤去は、トランプ政権による「DEI(多様性、公平性、包摂性)」と「WOKE(意識高い系)」へのシンボル的な攻撃であり、「文化戦争」の一環なのです。レインボーフラッグは先週12日にリベラルなニューヨークらしく再掲揚されましたが、連邦政府が再攻撃してくるのは目に見えています。ストーンウォールは再び権力との攻防の象徴になるでしょう。なぜなら、政権の目的が簡単に言えば「キリスト教」に基づく「男性」が中心の「伝統的白人家族」の「復権」だからです。その世界観にはトランスジェンダーの人々など存在しないし同性愛者も余計者です。女性は家庭内にとどまり、黒人などの異人種はコミュニティから排除されます。
そんな極端な逆行が、と信じられないかもしれませんが、キリスト教右派福音派の教えをトランプ式にドロドロになるまで煮詰めるとそうなる。ICEは力尽くのノルマ制で正規/非正規お構いなしの移民排除を強行し、学校ではジェンダー教育を制限し、軍隊からは黒人幹部を「DEI昇進だ」として排除し、トランスジェンダーは全ての公的空間や活動から追放され、図書館ではDEI関連本が廃棄されています。
これらの背後には第1次トランプ政権の時からMAGA政策の立案者で「トランプの頭脳」といわれる次席補佐官スティーブン・ミラーがいます。現在40才。高校時代から強硬なリバタリアン思想の持ち主で、当時の若者たちの「WOKE」な風潮にかなりの疎外感を味わった人物です。
もう1人、このミラーのデザインの執行者が行政管理予算局長ラッセル・ヴォートです。こちらは3月で50歳の自称キリスト教ナショナリスト。ヘリテージ財団がまとめた政策提言書「プロジェクト2025」の重要メンバーで、これまでの「WOKE」な行政機構を解体しアメリカを「神の下の国家」として再編することを目指しています。
トランプ政権発足の1年1カ月であまりにも多くのことが起き、その1つ1つに振り回されて全体像がよく見えていないかもしれませんが、そのすべては周到に計画され、密接につながっています。トランプは実はそのエンジンでしかありません。
そしてそのエンジンを動かしているもう1人は、「選ばれた者だけが神の国に行ける」という「終末」に向けて加速する天才テックビリオネアのピーター・ティールです。ヨハネの黙示録にはハルマゲドン(世界の終末の善悪の戦争と世界の破滅)が登場しますが、ティールは「平和と安全」こそが反キリストのスローガンだとして、「自由と民主主義は両立しない」と断言しているのです。
平等や再配分や規制など、政府権力の介入を徹底して排除する「自由」。それがトランプ政権の行動原理です。(武藤芳治、ジャーナリスト)

