日米の政局、いずれも複雑で一寸先は闇

 まず日本の政局だが、迷走がどんどん深まっている。一連の政治資金問題では、立件された政治家は少ない一方、安倍派、二階派、岸田派が解散するという意外な展開となった。岸田総理の人気は依然として低いが、率先して派閥解散を行ったことと、能登半島地震の被災地訪問が「早すぎなかった」ことで支持率はほぼ下げ止まった。。

 政治資金問題における世論の自民党への怒りは大きいが、かといって野党に政権担当能力があるのかというと、極めて心細い。共産党は委員長が交代したが党員の除名が続いており、イメージアップには程遠い。立憲民主党は野党結集の軸にはなっていないし、一時は人気のあった維新も、大阪万博の準備に苦しむ中で限界を露呈している。

 そんなわけで、自民党はほぼ自壊に近い状態であるにもかかわらず、その「敵失」を野党が生かせる状況にはない。こうした力学を受けて、現在取り沙汰されているのは、6月解散総選挙という説である。具体的には、東京都知事選とのダブル選挙を仕掛けようというのだ。現職の都知事である小池百合子氏は、再選へのやる気は満々であると同時に、国政復帰への野心も見え隠れする。だが、コロナ禍対策で都財政を大きく傾けたことで、再選への体制は盤石ではない。国政に復帰するにしても、二階派や安倍派が消滅した現在では、小池氏が派閥ジャックをして総裁候補にというシナリオは崩れた。一方、自民党としては小池氏の強さの前では対立候補を用意する状況でもない。

 そこで「ダブル選挙」を行うメリットが出てくる。上川外相などの「リリーフ登板」は見送り、岸田総理のままで、小池氏と連携して総選挙と都知事選のダブル選挙を行うと、まず、小池氏としては存在感を高めつつ国政復帰への準備もできる。岸田氏の方は「脱派閥」を訴えつつ、小池氏と連携することで中道保守の都市票を敵に回さず、ダメージを最少にできるという読みがありそうだ。

 自民党が脱派閥をするというのは期間限定の話であり、額面通り信用はできない。ただ、岸田氏とすれば、今回の三派閥の解散により敵対派閥を「亡き者」としつつ、「脱派閥というムード」が残るうちに6月総選挙に勝てば、9月の総裁選における無風再選の展望が出てくるというわけだ。ただ、岸田氏はそれでも心配のようで、憲法改正を打ち出し始めた。安倍派を消滅に追い込んだことで、今度は保守票に憎まれるのが怖くなったのであろうが、憲法改正を主張すれば総選挙も怖くないということのようだ。そこまで手を打っておけば、国賓待遇で招待されている4月のワシントン訪問も胸を張って行けると考えているのであろう。

 一方で、そのワシントンの政局も混沌としてきた。まず共和党では予備選の序盤で、ドナルド・トランプ候補の優位が見えてきた。予想外に早い展開だ。その結果として、自分の議席が気になる共和党議員団は一斉にトランプ支持に回っている。そんな中でこれから起きる可能性があるのが「トランプ毒の中和」である。本来は極右の超孤立主義をコアとした運動であった「2期目のトランプ」がこのままでは、共和党の党内穏健派なども取り込んだ相乗り政権になるかもしれない。

 やや楽観的な予測になるが、もしかしたらNATO解体とか、日米同盟破棄といった極論にストップを掛ける存在は、真正面からトランプと対決するニッキー・ヘイリー氏ではないかもしれない。トランプ応援団が拡大して、共和党の左右両派がトランプ与党になることで、トランプに乱暴な判断を止めさせるという構図になる可能性が出てきた。鍵を握るのは、トランプ候補がやがて指名することになる副大統領候補の名前だ。一時は、自分に忠誠を誓う人材で政府を固めると言っていたトランプだが、ここへ来て無党派層の離反を怖がっているという説もあり、副大統領候補に「常識人」を指名する可能性も出てきた。仮に実務の分かる副大統領候補が指名されれば、そこを突破口としてトランプ政権を「普通の共和党政権」レベルまで「中和」することは可能になってくるかもしれない。

 そう考えると、日々苦境に立ちつつあるのはバイデン候補の方かもしれない。イラン系のテロ集団とは、事実上の交戦状態に陥ってしまった。ここでは泥沼化するような戦闘が継続するかもしれない。バイデン氏は、対応が弱ければ「弱腰だ」として保守系の中間層から叩かれるし、仮に戦闘をエスカレートさせてしまうと、反戦的な党内左派から更なる批判を浴びる可能性がある。

 石油価格を含めて確かにインフレは沈静化した。だが、物価上昇率の抑制には成功していても、上がってしまった物価が下がるわけではない。この点において、バイデン政権は、世論の不満には鈍感だ。イスラエル=ガザ問題も、米国南部国境の問題も「まともな説明」をしない中で、ズルズルと世論の離反を招いている。現時点では、民主共和両党の戦いに加えて、トランプ陣営の「中和」が進むかどうかが、アメリカ政局の事実上の焦点かもしれない。

(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)