NYで半世紀 野田正明が未発表作品で個展
10月2日から11日までNY日系人会(JAA)で
版画家、画家、彫刻家への葛藤の変遷を示す
ニューヨーク在住のアーティスト、野田正明が10月2日(木)から11日(土)まで「過去が未来になる Past Becoming Future」と題する個展をニューヨーク日系人会ホール(西45丁目49丁目)で開催する。未発表作品の大作16点あまりを出品する。
野田は1972年大阪芸術大学を卒業後、新進作家として精力的に発表活動を続け、76年には最も活躍する現代アーティストとして「アート・ナウ76」(兵庫近代美術館)に選抜され、翌77年に来米した。当地ニューヨークのアート・スチューデンツ・リーグに入学し、NYでの芸術家としての新たなキャリアの第一歩をスタートさせた。
その後、野田は、ニューヨーク滞在48年の間に絶え間なく続くアメリカのアートシーンの変貌を間近で体験しながら、野田自身もまた自己確立のため、具象と抽象の境界線の検証、メディアの枠を超えるためのさざまな実験を繰り返しながら作品を作り続けてきた。
今回の展示は時代の波の中で、新たな境地へと向かうための実験的作品が主体で大半が未発表作だが、発表をしてきた主軸となるこれまでの作品とは別に、野田が現在に至るまでの葛藤と模索の軌跡として、版画家、画家から彫刻家に至るまでの経緯を理解する手がかりとなる展示となる。
分かり易く説明すると、野田はアメリカに来て版画作品を作り続けるうちに、ある時、米国におけるアートの世界のヒエラルキーというものを知ることになる。生活の中で実際に使うことを想定して作られる工芸品が、アートクラフトなどと呼ばれて純粋芸術のファインアートよりも一段低く見られるのと同様、刷り増しすることのできる版画は、米国では1点ものの油絵を売るためのいわば「付録」に近い存在だというシビアな現実を知らされ愕然とする。しかし、版画家としての誇りを曲げてまでジャンルの違う世界に飛び出すことを野田は恐れた。つまり、一貫性を失ったブレた作家は、アート界からだけでなく、自分自身にも自分はいったい何をやっているんだという自己嫌悪にも似た観念に見舞われることは明白で、それを人に見られたくなかったし、知られたくもなかったからだ。
だから、版画と異なる大きな作品を何枚も何枚もペインティングで描いたが、人に見せることなく自らを封印してしまった。そして、芸術の世界では彫刻、しかもパブリックアートの彫刻が欧米では芸術の高見にあるということも知り、向上心のある野田は2次元の世界の呪縛から解き放たれたというべきか、3次元の彫刻の世界に鞍替えしたというべきか、いずれにしても彫刻家としての姿で世に飛び出し成功という名を手にすることになる。現在、野田のパブリックアートはアメリカ、ギリシャ、中国、モンゴル、日本を含め世界31か所にある。そのうちの25か所が日本で、その15か所が故郷福山市にある。
今回のニューヨーク日系人会での展示には、前述したような理由で、これまで本人としてはあまり見せたくはなかった版画以外の絵画などが出展される。具象と抽象の境目のような実験的なものも出される。創作の歴史50年を俯瞰しながら現在位置を検証し、未来へと繋がる見応えのある展覧会となる。(三浦良一記者、写真も)

